「こんばんは、キョウヤさん」
「やぁ、来てもらって済まないな、ヒロト」
やる事全部やるオフ会からしばらく経った日の夕方。AVALONフォースネストにある隊長執務室にヒロトはキョウヤから呼び出しを受けて来ていた。
ヒロトの面持ちは固い、今から行う話し合いによってイヴ復活の計画は大きな進歩を得るかもしれず、また大きな変更を余儀なくされるかもしれない。
エルドラを救うためのプレッシャーとはまた別種のものがヒロトの肩に重く圧し掛かっていた。
キョウヤはそんなヒロトの様子を見て気を軽くさせるために笑いかける。
「一度やると決めたら彼は協力を惜しむ人ではない。大丈夫さ、気楽にしてると良い」
「……はい、お願いします」
「じゃあ、始めようか」
キョウヤはヒロトの肩に手を置くと、はっきりとした声でシステムに対する音声コマンドを起動する。
「クローズドモードに切り替える!ゲートオープン!」
キョウヤとヒロトのアバターの色調が変化し、執務室から余計なものがほぼ無い黒い空間へとワープする。
装いは宇宙空間に見えるが重力があり、透明な床を踏んで彼らの身体は立っている。
一般ダイバーでしかないヒロトは勿論この空間に足を踏み入れた試しはない、少しだけ辺りを見渡すと目の前にガンダイバーが現れた。その外見で来ることはキョウヤから事前に聞かされていた、彼がこのGBNのGMだ。
彼と同時にトーリも現れた。彼女は全員と視線をある程度合わせる為空中で羽ばたくことなく静止している、止まり木が無いので不自然ではあるが、足場の設定を操作しているのだろうと容易に想像はついた。
「予定時刻通りだな。……細かい挨拶に意味はないな、早速始めよう」
GMは淡々と今回の話し合いの開始を宣言する。GMはヒロトに対してあまり注目している様な事はなかった。
「事前に通達していた通り、近くGBN内で確認された詳細不明のデータ群を切除する為に君たちへ協力を要請する。……なお当計画を遂行する中でELダイバーを確認した場合こちらの通常規定に従って対応・保護しよう」
「分かった、運営に協力させてもらおう」
私たちの要望に対しそのまま力を貸してくれることはないだろう、キョウヤはこの場を迎える為に何度かヒロト達と相談する中でそう予想していた。
彼の予想通りGMは名目をすり替え、飽くまで運営はGBN管理の目的の為に動くと言っているが、ヒロト達からすると今回重要なのは発言の後半、ELダイバーを確認したら保護をするという部分だ。それさえ前提条件に含まれていれば、ヒロト達の話し合いの目的は半分成功しているといっても過言ではない。
「事前の通達から、今回の計画に対して我々なりに草案を纏めてみた、参照してほしい」
「確認しよう」
キョウヤから受け渡されたデータをGMとトーリがざっと目を通す。
トーリの方はすでに内容を知っているので、実質GMが読み切るまでの時間を待つだけだ。
「ミスター・ヒロト、星の海というのはこういった物でよろしいでしょうか?」
トーリが指摘した箇所は、ELダイバー・イヴの復活がヒロト達の実際の目的だと理解した上でなおも不可解なポイントだった。彼女はそのこだわりがどういう意味を持つのかも事前に認識していたが、このまま放っておけばGMから厳しい言及が入る、その前に話を進めるためのヒロトへの援護だ。
トーリが視線を空中にやると、空間が切り取られてクリエイトミッションを作る時の様にディメンションが作成されていく。彼女が作り出した星の海は一般ダイバーが作成できる空間リソースの限界をやすやすと超えて広がって、しばらく時間をかけて完成される。
「そうですね、星の位置取りはそちらのやり易い様に操作してもらえれば」
「……なるほど。GBN内にある数多くのディメンションにデータが散らばっている、という事も書かれていますが、この件は私たちの方でも確認済みです。各ディメンションから切り離されてきたデータの収束がどう起こるかわからない以上、大きく空間を取っておいて損は無いかと、GMはどう思いますか?」
自分より先にトーリに話を進められ、GMはどうやら今回の件も彼女はELダイバー救出に全力を注ぐことに決めたらしい、と察して内心ため息をついた。
トーリのGBN内での行動はGMでもそう簡単に捉える事はできない。捉えたところでGBNのメインプログラムを作り上げたのは他でもないトーリであるという、運営に対しての何よりの強みがある。
本当に敵対して彼女にGBNから去られてしまえば運営側が被る損害は莫大だ。そうした事情もあってトーリの行動はGMですらほとんど文句がつけられない。
彼女は自分のこだわりを貫き通す性格をしていて良くも悪くも曲者だが、そのこだわりの一部がGBNを守ろうという意思に繋がっている事がせめてもの救いだ。
「……空間を捻出する事はそう難しくはないな。GBNのテスト空間をいくつかつなげて宇宙を作る程度ならすぐに出来るだろう。ただそれぞれの星の重力圏や軌道、当たり判定などは無視させてもらう。GBNサーバーの処理能力は余裕を持っておきたい」
「分かりました。では、GMの意見も参考にしてディメンションの構築は私が行いましょう。星をそれぞれ各ディメンションに繋げて先にデータの通り道を多く作っておくという考えは良いですね、確かにデータ群が無理矢理道を作ればサーバーに対する負荷は避けられないでしょう。……私からは以上です」
トーリはヒロト達の意見の中で一番不可解な点を押し流すと、後は黙る事に決めたようだ。
GMはGBN内に漂うデータ片を誘導するための『的』について注目する。
「ELダイバーたちのデータを参照。彼らの構成要素の重なる部分を複製し、それにアバターという外枠を与え、データを呼び込む。これにはELダイバーたちの多くの協力が不可欠だ、協力者は何人いる?」
「76名です。BUILD DiVERSのメイがELダイバーの中心となっています、ELダイバーについて細かくは彼女と話してください」
「いいだろう」
ヒロト達に自分から協力を申し出てくれたELダイバーは半分より少し多い程度、メイを中心に説得して九割近くが今回のイヴ復活計画に協力すると頷いてくれた。『死』に対して恐怖心が無かったり、他人に対してまるで興味がないなどかなり個性が強いELダイバー達は頑として頷くことはなかった。
「ELダイバーのデータ参照、複製については運営で行おう」
「GM、アバターは私が用意しましょうか?」
「……では、アバターはミス・トーリに任せる事とする」
今からアバターを用意するとトーリは言っているが、実際はヒロト達と初めに顔を合わせた際にイヴのアバターを作り上げている。
GMは彼女がすかさず提案を挟み込んできたことで、恐らく以前からアバターを作成していたのだろうと察しながらも頷いた。運営としても仕事が一つ減る分、悪い話ではない。
次にGMが草案の中で目を付けたのはその『手段』だ。
「GBNのダイバーたちの意識を集中させて奇跡を起こす。その為に、ダイバーたちで日頃賑わっている都市などにGNドライブ搭載機、もしくは粒子拡散機を設置してGN粒子を散布し意識共有空間を模倣する。……言葉にしてみるとやはり馬鹿げているな」
「それでもやります」
文章を確認して少し呆れた反応をするGMにヒロトの返事は素早く強く返事をする。
キョウヤもヒロトの発言に頷くと、GMに問いかける。
「以前私がお話させてもらった事、GMはどう考えていますか」
「あの事か。……言われてみればそうかもしれない、とは私は思った。今更協力を取りやめたりすることはない」
ガンダイバーの姿では表情など読みようが無いが、GMはなんだか少ししょうがなさそうに笑って居るとヒロトは思えた。
GMはそのまま確認を続けていく。
「想いを吸ったGN粒子をGNアブソーバーを利用し当件で作成する特設ディメンション『星の海』に設置するELSの『花』を模したオブジェクトに収束させ、カプセルに向かって放出する、か。GNアブソーバーとカプセルはすでに用意してあるのか?」
「ああ、GNアブソーバーについてはすでにヒロトのハッチに用意してある、そちらでデータを複製して使ってくれ」
「カプセルは当日に必ず持ってきます」
「わかった、すぐにやっておこう」
奇跡の手段を模索していく中で大きくネックになった問題点の一つは想いを具象化したGN粒子をどう集めるか、という点だ。ヒロト達が四人で考える中、ガンダム作品の中で『相互理解』『共感』『希望』を分かり易く示す事の出来る、劇場版ガンダムOOのラストシーンでELSが作り出したあの巨大な『花』からダイバーたちで賑わう都市等に根の様にラインを伸ばし、自分達で作成したGNアブソーバー、つまり吸収装置でGN粒子を収束させるという案に至った。
この規模の話になってくると運営との協力は不可欠、パルが自分達で考えて置いてこの計画は滅茶苦茶だと評したのも当然だ。
今回のイヴ復活計画に関してはキョウヤたちからは賛同を得る事が出来た物の、GMから少しは反発があるとヒロトは予想していた。だがその予想は裏切られ、反発の言葉は最後までなかった。
GMはキョウヤの方に視線をやると
「ダイバーたちの意識を一つにできるかどうかはキョウヤ、君次第だ。分かっているな」
「大丈夫だ、私たちに任せてくれ」
「ふん、ではこれをもって今回の話し合いは終了、計画の遂行予定日については後日トーリを介して連絡を取る事にする、君たちからも何か伝えたい事があればトーリを通してくれ」
「お疲れさまでした。ミスター・ヒロト、後で連絡先送ります」
「はい、よろしくお願いします」
わざわざトーリを連絡の間に挟んだのは、その方がヒロト達は話しやすいだろうというGMなりの気遣いだった。
トーリの言葉にヒロトが固く頷くと、クローズドモードが解除されて元の執務室へとヒロト達は戻っていた。
キョウヤはヒロトに笑いかける。
「お疲れ様、ヒロト」
「お疲れ様です、キョウヤさん、今日はありがとうございました」
「いやいや、大したことではないよ」
ヒロトは少し倦怠感を覚えたが、キョウヤの方は何食わぬ顔をしている。
GBNのチャンピオンは度量が違うな、とヒロトは感心しながら、先ほどの会話の中で気になった事を伝えてみる。
「そういえば、GMにキョウヤさんが話した事って?」
「ああ、それは。そうだな、当日はヒロト達は私の話を聞く処ではないだろうし、今話そうか。今回のGN粒子を使うだろう、その事について何だが」
キョウヤはヒロトの質問に微笑みながら、自信の考えを説明していく。
「――――という話だ。ヒロトはどう思う?」
「!……言われてみれば、って気がします。他人事みたいだけど、できるかもって」
キョウヤの考えにヒロトは目を丸くして頷いた。
そのヒロトの返事にキョウヤは一層笑みを深める。
「そうだろう!僕も自分で結構良い解釈だと思ってるんだ。……まぁ、出来はともかくとして色々根回しは必要だろうな」
「そうですね。……俺たちの方も、イヴについて話を聞きたいダイバーに声を掛けられたときは会うようにしてます」
「流石、準備がいいなぁ。……私たちはフォース単位で大きな根回しはできるが、個人単位になると君たちが動いた方が効果的だ、そのままお互い続けていこう」
「はい、これからもよろしくお願いします」
二人は固く頷き合い、ヒロトは仲間たちの元へと戻っていった。
◆◆◆
「ただいま」
「おかえり、ヒロト」
「おー、戻ったか。お疲れー」
「お疲れ様です、ヒロトさん」
ヒロトがブリーフィングルームに戻ってくると、三人がねぎらいの目を向けてきた。
彼はその視線を浴びながら、椅子に深く座り込んだ。
「話し合いは上手くいった。その時の様子は後で説明するから、先に少し休ませてくれ」
「そりゃ疲れるよなー、ごゆっくり」
ヒロトは仲間たちに迎え入れられて軽い倦怠感が急に重たい物へと変わり、少しぐったりとしながら休むことにした。
他の三人はヒロトがかなり疲れている様子を見て、報告を急かさない事にした。
そうしてしばらくヒロト以外の三人が雑談している中、カザミが声を上げる。
「キャプテン・ジオンの新作来てる!ちょっとボード借りるぜ!」
カザミの返事を待たない動画上映会が始まり、特に興味のない三人も何となく動画の方に目を向ける。
キャプテン・ジオンの動画は迷惑ダイバーの成敗が主題になってくるが、新作もその主題で違いは内容だ。
動画も山場に差し掛かり、迷惑ダイバーたちの罪を切る場面へ切り替わっていく。
「大体俺が何やったって言うんだよ!」
「ヒーロー気取りが!」
「ふざけんじゃねぇぞ!」
「迷惑行為を顧みぬ、その態度と開き直り、マナーと礼節を持って切らせてもらおう!キャプテン・ジオンの名のもとに!ジオニック・ジェネレイション!アナハイム・フュージョン!」
キャプテンジオンが見えを切ると、その体は光となってν-ジオンガンダムと一体化する。
カザミは興奮して拳を握って震えている、他の三人はそんな彼の様子にある種感心すら覚えていた。
「GM、ガンプラマフィアなどとふざけた名前のハッカー集団を名乗りながら」
ν-ジオンガンダムは力強く突進し、一番近くに居た迷惑ダイバーのジム・クゥエルに切りかかる。
「やっている事は動画投稿者に対する複数アカウントを利用した――――」
「「「近寄るなー!」」」
対してダイバーたちはビームライフルで応戦するが、突進してくる深紅の機体には傷一つも付けられていない。
「個人的粘着行為!コメント欄荒らし!全体的にセコイ所業!加えて名前がゲームマスターへの風評被害!」
瞬く間に迷惑ダイバーたちの戦線は崩壊して、武装を破壊されν-ジオンガンダムから特有のマーキングを受ける。
ν-ジオンガンダムがその剣を天に掲げ、ついに断罪の瞬間必殺技が繰り出される。
「動画投稿者の真摯な思いに対し、心無い罵声を浴びせるそのやり口!とても迷惑だ!」
「「「なんだそれー!?」」」
迷惑ダイバーたちが一様に空を見上げると、明らかに3人相手に使うような規模でない必殺技『アクシズ落とし』が迫っていた。
「マナー違反にアクシズ落とし! 抱け、心の南極条約!」
「「「うぎゃあああ!!!」」」
「守ろう、皆の!G!B!N!」
アクシズ落下に耐えきれるわけもなく、ド派手な爆発とともに勝負はついた。
動画はお決まりのチャンネル登録を進める宣伝で最後となる。
そんな動画を視聴しきるとカザミは震えて叫ぶ。
「うおおおぉぉお!キャプテン・ジオーン!」
「……カザミさんホントに好きですよね、キャプテン・ジオン」
「だってかっこいいじゃねぇか!パルもそう思うだろ!」
「あはは、そうですね……」
カザミの圧力にパルが軽く身を引いてる中、メイが手を上げて話す。
「今の迷惑ダイバーなんだが、もしかして」
「言わなくていいんじゃないか」
「そうか……」
ヒロトはカザミを生暖かく見守りながら、メイの言葉を遮るのだった。