また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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想い、託して

 ヒロトがGMと出会い、更に一か月後。

 彼は夕方から夜にかけてGBN内でイヴ復活計画の準備をAVALON・運営と連携して行い、その後は家に帰って遅くまでモビルドール・イヴの制作をする日々を忙しく過ごした。

 

 計画は着実に進み、イヴ復活の日は今日より二週間後の週末正午過ぎと決定された。

 

 そして遂に完成したモビルドール・イヴの確認をヒロトは自室で行っていた。

 イヴをこの身体に移す準備として彼の現状持っている道具・知識ではどうしてもできない部分があり、その最終工程をコーイチが行うための引き渡しの日が今日だった。

 コーイチは今かなり忙しい立場にある、イヴ復活の為に必要な奇跡の『的』になるELダイバーの素体データの作成をする為に一役担っている為だ。

 元々、イヴのこちら側での身体を郵送する気にどうしてもなれないヒロトは自分の手でELバースセンターに向かいコーイチに引き渡す算段であったが、彼の家にまで取りに行くとコーイチから連絡があった。

 

 とは言われたが引き取りに来るのはコーイチ自身ではない、ヒロトの家に来るのはリクだ。

 現実での名前は『ミカミ・リク』、彼は『クガ・ヒロト』とは会った事はない。

 

 どこかで待ち合わせしようかという提案は当然したのだが、リクがヒロトの家に向かう姿勢を見せたためヒロトは早々にその提案をひっこめた。ヒロトが半端に案を出すよりはリクの希望を叶えた方が、彼が喜ぶだろうと判断した為だ。

 彼と一緒にサラも来るだろうと予想はつくが、二人共良く知った相手で家に迎え入れる事に関して否やは有ろう筈もない。

 

 もう家の近くまでたどり着いたというリクからのメッセージは来ている。

 モビルドールをすぐに渡し碌に話もせずに帰す様なつもりはないが、一応は初対面である事に間違いはない。再三の確認を終えたヒロトは少し落ち着かない気分でチャイムが鳴るのを待っていた。

 

 やがてその時は来て、家のチャイムが鳴る。

 ヒロトが受話器に向かうと、仕事をしている筈のヒロトの父親、オサムが部屋から出てすでに受け答えをしていた。

 

「――――ヒロトの友達?分かった、伝えておくよ。どうぞ入ってきて」

「父さん」

 

 ロビーの自動ドアのロックを解除し、通話を切ったオサムにヒロトが声をかけると彼は勢いよくヒロトの両肩を掴んだ。

 

「友達の肩の上に小さい女の子がいた!あの子がELダイバーか!すごいな!」

「先週来るって話したじゃないか」

 

 通話カメラ越しにこの部屋から玄関ロビーは見える、どうやら更はリクの肩の上に居る様だ。

 ぐわんぐわんとオサムに肩を揺らされながらヒロトが答えると、彼はハッとして肩から手を離した。

 

「いや、聞いてたけどつい目の前にすると興奮して、いやー、ぜひ話をしてみたいなぁ!……まぁでも、あの子じゃないんだったな」

「まだ先」

「じゃあその時まで我慢するしかないな。……父さん仕事戻るから、気にしないでいいぞ」

 

 オサムは興奮からすぐに冷め、自室へと戻っていく。

 先週、ヒロトは両親にイヴの事を出来る限り話した。彼女がどういう存在で、これからどう接していきたいのか。

 エルドラの事を分かってくれた両親は、イヴに対する理解も素早かった。

 

 ヒロトのやりたい様にやればいい、自分達はそれを応援する。

 両親からの言葉は温かい物だった、ヒロトは生まれた時から変わらない両親を改めて尊敬した。

 

 オサムが部屋に戻ってからすぐにリク達が来た。

 玄関を開けて、迎え入れる。

 

「ミカミ・リクです、初めまして」

「サラです、初めまして」

 

 リクは肩にサラを乗せている事もあって頭を下げる事ができない。代わりにサラがぺこりと頭を下げた。

 

「クガ・ヒロトです、初めまして」

 

 お互いに堅苦しい自己紹介をして、三人で少し笑う。

 ヒロトはリク達を家の中に招き入れる、リクはヒョイと部屋中の奥を見ようとする。

 

「さっき答えてくれた人は?」

「ああ、父さんだ。仕事してるから挨拶とか気にしないでいいよ」

「ああ、じゃあちょっと静かにしなきゃだめだね」

 

 リクが気持ち小声になり、サラは黙ってこくこくと頷く。

 ヒロトはその様子にまた少し笑ってしまう。

 

「集中し始めると父さんは仕事のこと以外に構わなくなるから、本当にそんな気にしないでいいよ」

「それでも一応ね、一応。お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

「俺の部屋はこっち」

 

 リクとサラの二人はヒロトの部屋まで黙ってついてきた。

 ここでヒロトは過ごしているのか、と感心の雰囲気は纏っていたがわざわざ騒ぐ性格ではない。

 

 ヒロトの部屋の中に入ると、作業机に立っているモビルドール・イヴを一目見てサラが感嘆の声を上げる。

 

「凄い!凄い!ヒロト凄い!」

 

 サラは目を輝かせてヒロトが作ったイヴの身体に見入っていた。

 この身体にどれ程の想いを詰め込んだのか、彼女にはその温かさが伝わっていた。

 

「ありがとう」

 

 ヒロトがくすぐったさを覚えながらサラの称賛にお礼を言っている間に、リクの方もイヴに近づいて、うわぁ、と感嘆していた。

 サラはリクの手を借りて机の上にサッと移動すると、イヴの周りをぐるりと回りながら観察し始める。

 彼女の機嫌の良さと可愛らしい仕草にリクは微笑みながら、ヒロトに話しかける。

 

「すごい手間をかけて作ったんだって、一目見たらわかるよ。あ、武装は無し……かな?」

 

 リクが見るにモビルドール・イヴには一つの武装も施されていない。

 あのヒロトが作ったモビルドールなので実はとんでもない特殊ギミックを備えている可能性はあるが、その点に関してはリクも見ただけでは流石にわからない。

 ヒロトはリクの疑問に対して頷いて答える。

 

「飽くまでこっちでの生活の為に可動域と丈夫さを目的にして作ったんだ、だからそれ以外は省いた。まぁ、作るまでにはいろいろ案はあったんだけど……イヴには自分でやりたい事を決めて欲しいから」

「そっか。……そうだね、その方がいいね」

「うん!姉さん、きっとすっごく喜ぶと思う!」

 

 イヴの希望を優先するというヒロトの考えにリクは強く頷く。

 サラは興奮が冷めないのか、ヒロトの意見を肯定しながらモビルドールの方に視線をちらちらとむけていた。

 ふと思いついた可能性に好奇心が沸いてリクはヒロトに質問する。

 

「イヴさんがバトルしたいって言ったらどうするの?」

「ん、まぁそうなったら、その時一緒に考えて、それ用のガンプラを別に作ると思う」

 

 リクはヒロトのその答えにワクワクと興奮が沸きあがってきた。

 

「いいね、やっぱりコアガンダムみたいにするの?」

「イヴ次第だけど、多分。でも実際考えたら変わるかもしれない」

「ヒロトとずっと一緒に居たなら、きっと姉さんはガンプラの操縦上手だと思う」

「……どうだろう、少なくともバトルを避けはしないだろうけど」

 

 ヒロトがコアガンダムで戦っていた時、操作分担まではしていなかったが同乗していたイヴに攻め時を示して貰ったり、回避運動を助けて貰ったりする事は日常茶飯事だった。特にイヴの手助けがある時は、彼女の警戒を促す声に応じて最小の動きでの回避し反撃に転じる事が多く、それがいつの間にか咄嗟の時にはコアガンダムの身を逸らす形で攻撃を避けるというヒロトの癖になった。その癖を以前カルナとエミリアに見抜かれて痛い目を見たな、とヒロトは思い出す。

 

 危険察知の正確さを見るにイヴにパイロット適正は有るだろうな、とヒロトは考えるが結局やってみたいか彼女に聞くしかない。

 

 ヒロトがイヴの事を考えている間に、リクは屈託なく笑う。

 

「バトルも一緒にできたらいいね、楽しそうだ」

「そうだな」

 

 リクの笑みにつられてヒロトも笑う。

 イヴと肩を並べて戦うという事にヒロトが楽しみを見いだせない訳がなかった。

 サラの興奮も少し落ち着いてきたようにヒロトは感じ、そろそろモビルドールを梱包する事に決める。

 

「イヴの身体、包むから少し待ってくれ」

「わかった、サラ」

「うん」

 

 リクに声を掛けられて、サラが名残惜しそうに机の端に避けていく。

 

 ヒロトが丁寧にモビルドール・イヴを包んでいる間、リクは部屋中に視線を回した。

 

「ここでコアガンダムが作られたのかぁ」

「ああ、……アーマー見る?」

「見る!」

 

 感心しきりのリクに、ヒロトが提案すると、リクは一二もなく頷いた。

 コアガンダムは机の上で立っていたが、他のアーマーは今は戸棚の中だ。梱包をしっかり済ませてから、全てのアーマーを戸棚の中から出す。

 全八種類のアーマーをコアガンダムを中心に並べて、見やすいようにする。

 

 リクとサラは感心しきって、一つ一つに見入っていた。

 最後にネプチューンアーマーを見た時、サラがその手を自然と伸ばして、アーマーに触れた。

 

「夢がたくさん詰まってる、皆で作ったのね。他の子とは少し違う」

「ああ。……ネプチューンは特別なんだ、いろいろ」

「でも心は同じ、皆温かい」

「ありがとう」

 

 ネプチューンアーマーは以前のオフ会の時にさらに丈夫になる様にだけ調整してある。

 奇跡にGN粒子を利用する関係から、アーマーにGNドライブを取り付ける案は自然と出た。それに強く反論したのはヒロトではなくメイだった。

 例えイヴが自身を責めていようとも、ヒロトとコアガンダムの声を姉さんが聞かない訳がない、コアガンダムの警告はその点において絶対間違ってると強く主張したのだ、メイはイヴと出会った事は無いがそれでも確信している様子があった。

 粒子の手助けは飽くまでGBNのダイバーたちに必要な物であって、ヒロトとコアガンダムに必要な物ではない。そう断言するメイの前に、GNドライブを取り付ける案は無くなった。

 

 リクもイヴ復活の日取りが何時になるかすでに連絡は受けている、今日ヒロトの家にやって来たのは直接応援の言葉伝えたかったからだ。

 

「当日、俺達はキョウヤさん達が借りるスタジアムの上でメビウスと一緒にGN粒子を散布する役割になったよ」

「ああ、聞いてる」

 

 計画の実行日のみではあるが、ヒロト達に協力するダイバーの中でGNドライブをフル活用できるメンバーのみ安全地帯でガンプラの呼び出しと操縦を行う事ができる。

 リクが配置されるのはどこよりも人が集まると予想される、AVALON主催の大会におけるスタジアムの直上だ。

 

「俺、祈るから、イヴさんが帰ってこれるように」

「私も」

 

 リク達はそのくらいしかできないけど、と心苦しい気持ちであったが、ヒロトにはその言葉は今は何よりもうれしかった。

 

「ああ、俺もやり切ってみせるよ」

 

 ヒロトの声に一切の迷いはない、リクは思わずヒロトの手を取りグッと握る。

 

「頑張れ、ヒロト。絶対、絶対できるから!」

 

 ヒロトがイヴと別れてしまった時の気持ちは、リクは自身では計り知れない物だろうと考えてはいた。

 出会いと仲間に恵まれて全てが丸く収まった自分と、一度は何もかもを無くしてしまったヒロト。

 同情なんてしても、二人が喜ぶ事はない、それは分かっていた。

 

 しかし、考えてしまう二度とサラと会えなくなれば、自分はいったいどうなってしまうのかと。

 そんな状況が来れば自分は足掻くだろう、仲間と一緒に足掻いて足掻いて、それでもダメだったら?

 

 身体が震えた。

 目の前が真っ暗になった。

 

 少し想像しただけで、まるで自分が空ろな人形になってしまう気持ちだった。

 

 ヒロトはそれよりもずっと辛い状況から、もう一度立ち上がった。

 彼は強い、リクは紛れもなくそう信じる。必ずイヴを取り戻して帰ってくると信じている。

 

 ヒロトは包んだイヴの身体をリクに渡す。

 

「頼む」

「任せて」

 

 リクに受け取ってもらえた時、ヒロトは必ずコーイチの元に無事に届けられる事を確信する。

 その時ふと、サラが声を上げる。

 

「ぁ、ヒロト、コアガンダムが」

「え?」

「一緒に頑張ろうって、そう言ってる。俺達なら、絶対やれるって」

 

 コアガンダムの気持ちは分かっていた、それでもサラの言葉にヒロトはどうしようもなく嬉しい気持ちを覚えた。

 どんな困難な場面も、コアガンダムと一緒に乗り越えてきた。彼の言葉は、ヒロトに強く強く届いた。

 

「ああ、やるぞ、コアガンダム」

 

 ヒロトが声をかけるとコアガンダムが力強く頷いたように彼には見えた。

 

◆◆◆

 

 ヒロトがある程度の分かり易い道まで一緒に行こうかと提案してくれたが、リクはここまで来れた事もあって大丈夫だと断ってヒロトの家から出る事にした。

 家の扉が閉まって、サラは楽しそうに話す。

 

「四人でお茶しようね」

「あ、いいね。俺も二人の出会いとか興味ある」

 

 サラの提案に頷きながら、リクは廊下を歩いてエレベーターの方へと向かう。

 イヴが帰って来たら、きっとヒロトの恋人になるだろう。そうすれば自分とヒロトは兄弟のような関係という事になる。

 親友や仲間は居ても、兄弟は居ない。兄と姉が一度にできるという事は少しくすぐったいが、それはそれですごく楽しみだとリクは感じる。

 

 リクがしっかり前を見るとエレベーターの方から一人歩いてくる姿があった。

 その女性はちらりとサラの方を見て、一瞬佇むとリク達ににこりと笑いかけた。

 

「こんにちは」

「「こんにちは」」

 

 とりあえず二人で挨拶を返すと、彼女はそれ以上何も言わずにリク達の横を抜けていった。

 思わずリクは目で彼女を追う、ヒロトの隣の家に入っていったようだ。

 

 ELダイバーを見ると、大半の人間は驚くはずだが彼女にはそういった気配はなく、むしろ親しみの感情すらあったように見えた。

 もしかしたら自分達の事を知っているのかもしれない、と考えてリクは気づいた。

 

「あ!今のヒナタさんかな」

「うん、そうだと思う」

 

 サラもリクの思い当たった事に頷いた。

 もう少しきっちり挨拶しておけばよかったと、リクは後悔するが、今更追いかけたらそれはそれで変だろう。

 

 BUILD DiVERSのヒナタとはそう何回も会った事はないし、話した事もない。

 せいぜい一度か二度顔を合わせて、少し挨拶したくらいだ。そのやり取りの中でヒロトの幼馴染だという事が分かったくらいで関りはほぼ無い。サラという分かり易い存在が居たとはいえ、こちらの素性を素早く判断してにこやかに挨拶してくれたのだから、やはり良い人に間違いはないんだろうなとリクは感じた。

 

 まぁそれはともかく、とリクは彼女に対する所感を振り払いあえて大仰に言い表す。

 

「イヴさんをコーイチさんに送り届けるミッションスタートだ」

「うん!頑張ろう!」

 

 サラはリクの言葉に腕を突き上げてにこりと笑った。

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