また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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大切で、楽しい記憶達

 マギーから発破を貰い、ヒロトがイヴを救うためにもう一度あがいてみると決意した2日後。

 BUILD DiVERS全員の予定が空いたのでGBNで集合することになった、いつもならば気楽にミッションにでも向かうところだが本日は事情がまるで違う。

 

「よっしゃあ!全員揃ったな!ではこれより、イヴさん、を救うミッション開始だ!やるぞ、おー!」

「おー!」

「おー」

 

 カザミがぐっと拳を突き上げて宣言すると、パルとメイがそれに同調して拳を突き上げる。

 メイは声が平坦ではあったが、拳を突き上げているあたりやる気は満ちているようだ。

 今回の目標は言わばヒロトの願望を叶える為であり、そんな仲間たちの想いに彼はありがたい気持ちを抱きながら、同時に先日マギーから聞いた心配をかけていたという事実からくる少し申し訳ない気持ちがせめぎ合って流れに乗れなかった。

 思わず、頭が下がる。

 

「よろしく頼む、皆」

「おうよ」

「頑張りましょう!」

「任せておけ」

 

 現在四人がいる場所はフォースで使えるブリーフィングルーム。

 4人の小規模フォースという事もあってルームに大きな空間はないが、眼前にモニター兼ボードがあり図に示しながら作戦会議を行う事ができる。

 カザミはボードの前に出てペンをとった。

 

「で、何すればいいんだ?」

 

 まず何をする、をカザミはボードのど真ん中に書く。

 そんなともかく行動する事を地で行くカザミの様子に仲間が少し笑う。

 

「あ、一番初めにいいでしょうか」

 

 パルが声を上げた。

 

「どうぞ、パルヴィーズ君?」

「えっと、今回のイヴさんを救出する話なんですけど、ヒロトさん以外の僕たちってイヴさんの事詳しく知らないんですよね」

 

 ヒロト以外の三人が(あの時はフレディもいたがこの場に居ない)イヴの事を知った時はヒロト自身話しにくい過去を話し、加えて感情が荒れている面もあり中々要領を得ていなかった。

 すごく大事で悲しい思い出があった事と、その顛末がヒロトに深く傷を残しているということを察するまでが精々だった。

 

「……そうか、すまない」

 

 ヒロトはあまり仲間には伝わっていなかっただろうと、当時の状況を振り返り思う。

 当時のヒロトの様子を思い出し、思わずパルはへにょりと耳をしおれさせる。

 

「いえ。……そういう事なので、その、すごく話しにくいとは思うんですけど。まずどういう人でどんな事を一緒にやったのか教えてもらえませんか?」

 

 パルは慎重に言葉を選びながら意見を出す。

 話したくない過去を誰でも持っていることを彼はすでに知っている、現実で足が動かなくなった当時の状況を説明しろと言われたら自分だって嫌な気分がするからだ。例え、今の状況が飲み込めていても、それとこれとは別問題に決まっている。

 

「口に出すのはいいかもしれない」

 

 そんなパルにメイが同調する。

 

「頭の中で思い出すのと声に出して確認しながら考えるのは、後者の方が効果的だとママも言っていたぞ。インプットばかりではなくアウトプットしていこう」

「よし、その中で使えそうな事は俺が書きだすぜ」

「……わかった、でも長くなると思うぞ」

「おうよ、どんとこいだ!」

 

 仲間たちの真摯な意見に後押しされ、ヒロトはまず出会いから説明することにした。

 

「俺は元々GPDをやってたんだ、そこから移行してGBNを始める直前にちょっとした出来事があって、そこから着想を得る形でコアガンダムを作ってダイブしたんだ」

「……フルスクラッチだろ、コアガンダムって。当時としてもすげぇな」

 

 SDとは言えないくらいにリアル寄りでありつつ、他のMSと比べると変わった風貌をしているコアガンダムに当然基になる機体などない。

 各アーマーもそうだが、コアガンダム単体でもどんだけ手間と時間かかったんだろう、と今にしてカザミは思う。

 

「ありがとう、でも最初はコアガンダムって名前も付けてなかったんだ。ともかく試運転で平原のディメンションを飛んでたんだけど、仕上がりをきっちり確認してなかったから落ちた」

「整備不良か、ヒロトもその手のミスをするのだな」

「もちろん。で、その時にイヴと会って」

「……フィールドに一人でいたのか?」

「ああ、変わった子だなとは俺も思ってたよ。それで、名前を聞かれて」

「なるほど、それでお互い自己紹介を」

 

 パルはそんな出会いだったのか、と少し興奮しながら続きを口にしてしまう。

 

「いや、俺の名前じゃなくて、ガンプラの方」

「そっちかよ!?」

「思い返せばイヴと話す時変な間が空いたりしたような気がするな」

 

 確か声をかけられたときに、ヒロトは先に君は?と返したが答えられた記憶はない。

 カザミはイヴさんは天然?とボードに書く。確かに今の話ではそうとしか思えない。

 

「……で、その後、急にガンプラの名前を聞かれたから、名付けしてなくてその場でコアガンダムって命名した」

「そんな思い出があったんだな」

 

 カザミは感心すると途端にザっと青ざめる。

 その、まるで何か途轍もない事に気が付いてしまったかのような表情に何事かと緊迫した雰囲気がフォース全体を襲った。

 

「ヒロト」

「どうした?」

「俺、初対面の時、変なガンプラとか言ったよな。二人に対しても碌な事言ってないよな。……本当にごめんなさい!」

 

 そんなカザミの心からの謝罪に、そういえばそんな事もあったなぁ、と他の三人は懐かしく思う。

 緊迫の雰囲気はどこかに吹き飛んだようだ。

 ヒロトは苦笑すると

 

「もう気にしてないよ」

 

 と、カザミに言う。他の二人もうんうんと頷いている。

 初対面の頃は正直問題児ではあったが、カザミは確かに成長した。そんな彼を見てきた仲間たちは責める事も弄る事もなかった。

 

「続けると、その後にコアガンダムを作った理由を聞かれて」

「作った理由?」

「そう、小さなガンプラでどんな事ができるのか確かめたいと思って作ったんだ。……あぁ、そうだ、どんな理由で作ったのか彼女に聞かれて、俺は強いガンプラにしたいとか適当に誤魔化したんだけど、イヴはそれを見透かして」

「……建前ではなく本質を見ていたという事か」

 

 メイはイヴの行動を分かりやすく表現する。

 すかさずカザミはガンプラに関して見る眼を持っている、とボードに書き入れた。

 

「それで、その。コアガンダムが、作ってくれてありがとうって思ってるってイヴは言って。その後も色々あったんだが、そういう事もあるのかなって、そう感じたんだ」

 

 ヒロトが少し恥ずかしそうにガンプラのへの想いを紡ぐ、それを聞いてパルはハッとする。

 

「ヒロトさん、じゃあ、あの時は」

「あ、ああ、そうだ。イヴの事があったから、何か助けになるんじゃないかって」

「なら僕も会って、ぜひお礼を言わないと」

「……そうしてくれたら、きっと喜ぶよ」

 

 メイとカザミは話についていけずポカンとするが、二人の会話は短く完結してしまう。

 良く分からないがヒロトとパルの間で意思疎通は取れている、何の話か興味はあるが深く突っ込めば趣旨の外れた話になりそうだ。同じような考えに至った二人はともかく続きを促す。

 

「で、次はどうなったんだ?」

「すまない。それで、お互い自己紹介して」

 

 名前を聞かれ、ヒロトと答えた。名前を聞いて、イヴと答えられた。

 何かおかしい、とヒロトは再度記憶を探る。

 

「ヒロト?」

「いや、今思い出したんだが、イヴが自分の名前を言う時も変に間があって、それが不思議なんだ」

「なるほど……、一般ダイバーならハンドルネームに慣れていないかもしれないが、姉さんはその時点で自分が常人では無いとわかって居た筈だ。……なら、その場で考えたんじゃないのか?」

「ああ、確かに。言われてみれば、そうかもしれない」

 

 コアガンダムの名前を聞かれたヒロトの様に、イヴはあの時点で自分の名前をはっきりとは持っていなかったように感じられる。

 パルは二人の会話とボードに書かれたことを見比べて、あ、と声を上げた。当然三人から視線が向かう。

 

「イヴさんは天然じゃなくて、答えにくい事を避けてたから間が空いたりするのでは?」

「───!言われてみれば、そうかもしれない」

 

 イヴは時折ヒロトの質問に対して答えたなかったり、まったく別の話題に強引に変えるような時があった。

 妙なテンポを持った女の子だな、とヒロトは当時感じていた。こうしてパルに言われて彼女の事情を加味した上で振り返ると、確かに答えを窮することを避けていただけに思える。

 ヒロトは無性に情けない気分になった。

 

「全然わかってなかったんだな、俺」

 

 マギーと会話した時に、荒立った感情のままアンタに何がわかる!などと偉そうに口にしたが、その割には誤解したままの記憶がすぐに出てきた。

 パルはそんなヒロトの様子を見て

 

「今はイヴさんの事情もなんとなく分かってますし、仕方ないですよ」

 

 と、柔らかい言葉をかける。

 続けてカザミ、メイが

 

「これから分かる努力をすればいいじゃねぇか、もう隠し事する理由はないんだからよ」

「アウトプットの成果は出ているぞ、現に解釈に余地が出てるじゃないか」

 

 過去に目を向けている中ではあるが、それは先を見る為に振り返っているだけの事。彼らは、ヒロトは進んでいると確信していた。

 

「……そうだな、これからが本番だ」

「おお、その意気だぜ」

 

 ヒロトの奮い立つ様子にカザミは合の手を入れる。

 

「ともかくいろんな事をやってみようって、イヴからの後押しもあって、その後は本当にいろんな事をやった」

「へぇ」

 

 それからも順調に過去の見直しは進む。

 

◆◆◆

 

「最初のアーマーとして、万能タイプと近接タイプ、重武装タイプのアーマーを作って───」

「アース、マーズ、ヴィーナスの事か?……最初は名前なかったんだな」

「そうだ、名付けはちょっと先の話になる」

 

 

「狙撃アーマーでザクからプチッガイ守ったりも───」

「あー、あのミッションな、やった事あるぜ、昔。……失敗したけど」

 

 

「水上にある街を一緒に巡ったりしたときもあったっけ、イヴはすごく楽しんで───」

「そんな事があったんですね!」

 

 

「氷像をつくるイベントがあったから、大きいドリルだけ作って掘ったり───」

「それもしかしてサタニクスのドリルか?」

「そう、あとで流用したんだ」

 

 

「剣を持って様になるポーズコンテストがあったから、それにも───」

「今やれば俺のイージスナイトが圧勝だな」

 

 

「月面都市の喫茶店のケーキが美味しくて、二人で何度も───」

「ぜひまた皆で行きましょう!」

 

 

「水中専用のアーマーで深海に潜ったりも───」

「メルクワンはそこで作られたんですね」

 

 

◆◆◆

 

 話が進む中、やはりイヴの立ち振る舞いには違和感が多く存在した。

 彼女の事情を加味すれば当たり前の事ではあるが、ヒロトに行動を促してついて行く事はあっても、自分がガンプラを持っていないので同乗するか遠くから見守っているかのどちらかだった。

 

 ヒロトは自分でガンプラを作ってみる気はないのか、とイヴに勧める事はあったがまともに答えを貰っていない。

 そんなイヴの様子からリアルについて深く話すことはなかった。

 

 そうやって記憶を振り返りながら情報を確かめていくと、話はプラネッツシステムの命名付近まで行き着いた。

 

「そんな風にいろんな事をやって、少し二人でのんびりしてる時に、イヴが銀河の向こう側まで行きたいって言ってたんだ」

「……それであのアーマーを?」

「そう、間に合わなかったけど発想はそこからだった」

 

 ヒロトはずいぶん長く話したな、と一息つき、ネプテイトガンダムでエルドラの宇宙に上がった時を思い出す。

 

「そういえば、あの時」

「あの時って?」

「ああ、エルドラの大気圏離脱の時に、……幻覚かもしれないけど、イヴが助けてくれたような。……それ以前にもイヴの声を聴いた気がする。」

 

 ヒロトの言葉にカザミとパルはどう答えたものかと思い悩んだ。

 特に悩まず答えたのはメイだった。

 

「人の念か、すごいな」

「……そんな、ニュータイプみたいな能力俺にはないよ」

 

 身体が消滅し、実質死んだともとれる状況でそれでもなお力を借りる事ができるのは、それこそガンダムのニュータイプの様なものだとヒロトは考える。

 そんなヒロトの諦念にメイは小さく首をかしげて、自分を指さす。

 

「じゃあELダイバーとはなんだ、電子生命体など、それこそ今まであり得ない事だったんだろう?」

「……それはそうだが、俺は普通の人間だよ」

「異世界を救った人間が普通なのか?」

「それは」

 

 メイから寄せられる指摘にヒロトは言葉を詰まらせた。

 

「ヒロト、お前は特別だ。言わば異星人に想いをはせる一般人など私はお前の他に一人しか知らないぞ」

 

 ELダイバーを地球人に含めるのなら、ではあるがとメイは結んだ。

 ヒロトは自分の好意が筒抜けになる事に未だに慣れない気持ちなので、はっきり突き付けられるともごもごするしかない。マギーには文句を言いたい気分だ。

 

「マギーさんから聞いたのか?」

「何を?」

「俺が、その、イヴを好きだって」

「聞いてない」

 

 え、とヒロトは驚く。

 ふとボードのそばの椅子に座っているカザミがものすごいジト目でヒロトを見ていることに気が付いた。

 

「ヒロト、お前隠してるつもりあったのか」

「そ、そんなに分かり易かったか?」

「思い出話してる時、淀みがなかったぞ。波みたいに途切れねぇ」

 

 ほれ、とカザミはホワイトボードをペンで指し示す。

 カザミは途中から使える情報を分別するのが面倒になったのか、ともかくホワイトボードに書き出していた。

 あまり視線をやっていないうちに、かなり隙間なく文字で埋められている。

 

 使えない情報の代表格として、イヴはむくれ方がわかりやすい、などと書かれてある。

 

「内容は全部イヴさんについてだが、半分は『あの時のイヴ』は可愛かったなぁ、が透けて見えるくらいだったわ」

「異国情緒な町で遊んでたと話してたが、それはデートと言うのではないか?」

 

 仲間二人からの指摘に、ヒロトは頭を抱えた。

 

「俄然当人に会うのが楽しみになって来たぜ、イヴさんに聞いた方が面白い事聞けそうだ」

「姉さんが絡むと、どうやら表情が変わりやすいらしいな」

「お二人共、程々にしましょうよ」

「……ぅ、続けるぞ」

 

 止めにパルのフォローが刺さり、ヒロトはさらに呻きそうになってしまったが堪えて何とか続きを話す。

 続きを話そうとすると、自然と冷めた。

 

「その時だったかな、イヴの身体が変にブレたのは」

「───っ!」

 

 三人に緊張が走った、ヒロトの苦々しい口振りでヒロトとイヴの別れはこのブレの行きつく先だと強く伝わって来たからだ。

 

「……その後に、さっき言った銀河の向こうまでっていう話をそのまま使って、アーマーとシステムに命名をしたんだ」

「だから星の名前なんだな」

「ああ、無理矢理なネーミングもあるけど、そうだ。……少し休憩にしようか」

 

 これから先の話はヒロト自身嫌な記憶を思い出しながら話さなければならない。

 準備の時間が、欲しかった。

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