また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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小さな恋人

 ヒロトとコアガンダムなら必ずイヴを連れて帰って来る。

 星の海ディメンションでヒロト達を見送った三人は確信していた。

 

 帰りを待つ最中、ネプテイトガンダムの反応が完全に消えたとトーリから情報が来た時はすこし面を食らったものの、三人のヒロトへの信頼は揺らぎが無く、少し経てばメイの頭痛が収まった。

 ネプテイトガンダムの反応が再度出現し、ダイバーの反応が二つに増えている。その情報が舞い込んだのはしばらく後の事であった。

 

 イヴ復活は成し遂げる事が出来たと、三人は喜びの声を上げ、カザミはすぐさま通信を繋げそうになるも彼自身の意思でグッと堪え切った。

 

 ネプテイトガンダムが三機の望遠カメラで捉えられるようになるまで通信はしない。

 ヒロトが一世一代の大勝負をしているかもしれない瞬間をぶち壊しにするわけにはいかない、三人で取り決めた事だった。

 トーリも今回の計画を聞いたときに事情はあらかた察した様で、最初から通信を飛ばす事はなくネプテイトガンダムの状態を万全に戻し、加速を少し後押しするだけに努めた。

 

 そんな四人の様子にGMはため息をつきながら、星の海と各ディメンションの切り離し作業やダイバー達の想いの籠ったGN粒子の残滓の処理に集中ししばらくは見逃す事に決めた。

 

 そして仲間たちが待ちに待った瞬間はついに訪れた。

 

◆◆◆

 

「ヒロト!おかえり!」

「ああ、ただいま。……ネプテイトを止めるから少し待ってくれ」

 

 カザミの歓喜の出迎えの言葉にヒロトは冷静に応じながら、ネプテイトガンダムを反転させる。

 星の海を泳いでいる内に徐々に加速していったネプテイトはGBNのそれなりに長い歴史から見てもトップクラスの速度を誇っていた。

 ヴォワチュールリュミエールはしばらく前に停止して慣性飛行に移っており、後は進行方向と逆にスラスターをかけて速度を落としていくだけとはいえ、流石にこれほどの速度になると仲間と話しながら片手間にはできない。

 気を抜けば仲間たちを置き去りにして遥か彼方まで進んでしまいそうだ。そうヒロトが思いながら操作を開始する直前、イヴが機体状況が表示されたモニターを見ながら彼に声をかけた。

 

「ヒロト、スラスターの出力、少し変えるね」

「ん、任せる」

 

 ヒロトが操縦桿から片手を離すと、操作パネルと彼の身体との間にイヴが素早く体を滑り込ませる。

 彼女はヒロトの視界を塞がない様にネプテイトガンダムの各部のスラスターを調整して姿勢バランスの補助を行い、ヒロトは操作のみに集中する。

 二人三脚の操作は完全にかみ合って、ネプテイトガンダムは寸分狂わずイージスナイトの横でピタリと停止した。

 

 完璧な機体制御に、パルは言葉も出せずに感嘆の息を呑んだ。

 

「お帰り、ヒロト、姉さん」

「ただいま、メイ」

「……貴方は?」

 

 メイの出迎えの言葉にヒロトが返事をして、イヴはメイに不思議な感覚を覚えて首をかしげる。

 ヒロトはともかく仲間の紹介を済ませる為に話そうとする直前、トーリの声が割り込んできた。

 

「ミスター・ヒロト、聞こえてますか?」

「トーリさん、聞こえてます」

「はい。……私としては貴方たちにもう少し時間を与えたいのですがそろそろ限界みたいです、ELバースセンターと繋がっている場所へイヴと貴方たちBUILD DiVERSを転送します」

「分かりました」

 

 星の海ディメンションという広大な場所は今回のELダイバー復活計画の目的に沿う理由を持ちながら、同時に計画上意味のないクオリティを誇っている。それについて文句を言わずに、イヴの復活という目的を終えてもしばらく好きに使わせてくれたのは運営側からの譲歩・彼女に対する報酬だ。

 特設ディメンションの貸し出しのタイムリミットは、ヒロトとイヴが帰って来たとBUILD DiVERSの誰かが確認するまで。それがBUILD DiVERS三人とトーリの様子を見てGMが決めた条件だった。

 

 ダイバーたちの想いが籠ったGN粒子はまだ余っている、不確定要素はすこしでも早くサーバーから切り離したい。

 意を汲んだ計らいをしてくれたGMからの切実な頼みをトーリは聞き入れる他になく、迅速にヒロト達を転送する事にした。

 

 ヒロトたちとしても、今まで力強くバックアップしてくれたトーリから指示が来れば速やかに従う他にない。

 転送される間際、ヒロトの手を状況を飲み込めずにいるイヴが少し不安げに握る、ヒロトは優しくその手を握り返し彼女を安心させるように微笑みかけた。

 

 転送されたヒロトが目を開けて辺りを見渡すが、ここにはELダイバーをGBNサーバーから切り離してリアルに移動させる際に使うと思わしき装置以外に何もない様だった。

 イヴと顔を見合わせる時間もなく、周囲に続々と仲間たちが転送されてきた。

 

「わぁ、びっくりした」

 

 BUILD DiVERSの中で現状況が伝わってなかったヒナタは、急に目の前の景色が切り替わった事に驚きの声を上げる。

 彼女が目を白黒させている内に、ヒロトが声をかける。

 

「ヒナタ」

「ヒロト?ここは――――あっ」

 

 ここはどこ?とヒナタはヒロトに尋ねるつもりだったが、彼と手を繋いで立っているイヴが目に入り思わず口を塞いだ。

 ヒロトがヒナタの様子に首をかしげるが、ヒナタは気丈に微笑む。

 

「うまく行ったんだ、良かった」

「ああ、ありがとう、ヒナタ」

 

 ヒロトが心を込めてお礼を言うと同時に、トーリが転移してきた。

 彼女は早速作業に取り掛かる為、最低限の説明だけを行う。

 

「私はトーリ、早速ですが今から行う事の説明をしますね。ここはELダイバー、イヴ、貴方と同じ電子生命体をGBNの外、現実へと移すための場所です」

 

 トーリの説明に、イヴは目を丸くする。

 

「外の世界、ヒロトが普段過ごしている場所へ行けるの?」

「――――!はい、そうです。……ミスター・ヒロト、彼女をそこへ」

「はい」

 

 トーリはイヴの感動を含ませた疑問を聞いて、彼女は普通のELダイバーとは違うのではないか?という疑念を更に深めた。聞きたい事は山ほど思い浮かぶが、今はそんな場合ではない。

 トーリの指示に従いヒロトはイヴの手を引いて転送装置へと向かう。彼に手を引かれたイヴは素直に足を進め、BUILD DiVERSのメンバーは口を挟める状況ではないので見守る他にない。

 

 イヴの素直な行動をトーリはありがたく思った。

 現実・リアルと言っても生まれたばかりのサラは理解できていなかった、彼女の後に生まれてきたELダイバーもその点は変わらず外の世界をすでに知っていた者・説明されてすぐに理解出来た者は居ない。彼らにとっては何よりこのGBNが現実で、それは当然の話でもあった。

 知らない世界に飛ばされることを拒んだELダイバーも数多くいる。運営がELダイバー発見してからELバースシステムに送るまでの時間は今回が史上最短で間違いはない。

 

 ヒロトとつないだ手を離して転送装置の中に入ったイヴは、彼の目を少しだけ不安そうに見た。

 彼女の視線に彼は微笑んで頷く。

 

「俺は向こうで待ってるから、すぐ会えるよ」

「――――!うん!」

 

 トーリはELバースシステムの状況を確認して、BUILD DiVERSに残された時間を伝える。

 

「……一分ほどシステムが起動するまで猶予があります、それまではご自由に」

「あと一分だけ!?あー、全員最短で自己紹介!俺から!」

 

 トーリから言い渡された短い時間に、カザミが面食らうもできる事をすることにした。

 

「俺はカザミだ!俺たち、フォースBUILD DiVERSのリーダー!これからよろしくな!ハイ、次パル!」

「えっ、あ、はい!パルヴィーズです、パルって呼んでください!メイさん!」

「私か。私はメイ、姉、イヴと私の関係性は複雑だ、今は割愛する。ヒナタ」

「ヒナタです。よろしく、イヴさん」

 

 カザミは朗らかに、己の胸を親指で突きながら。

 パルは与えられた時間の少なさに驚きつつも、一つの感謝と親しみを込めて。

 メイは淡々と、イヴと自身の関係性を説明する機会を後回しに。

 ヒナタは複雑な感情を抑え込んで、二人を笑顔で迎え入れる。

 ヒロトは全員の短い自己紹介が終わった後にイヴに笑いかける。

 

「あともう一人いるけど、今は呼べない。――――俺の大事な仲間たちだ」

 

 イヴはヒロトの笑顔を見て彼は信頼できる仲間たちと出会えたのだと、今度こそ無上の喜びを得る事が出来た。

 沢山の人に応援をしてもらい、自分を救い出す事が出来たと彼は言っていた。

 なら答えよう、彼ともう一度会わせてもらった事への精一杯の感謝と、これから自分が変わっていくと強い決意を込めて。

 

「私はイヴ!今日は本当にありがとう!これからよろしく!」

 

 ELバースシステムが起動したのは彼女からの返事が皆に届いた直後の事であった。

 

「ELダイバーをモビルドールに定着させる工程はすでに安定しています、かかる時間は平均三時間程ですね」

 

 場合によって伸びますが、とトーリは話す。

 彼女の話を受けたヒロトは、今日まで応援してくれたAVALONを始めとするフォースやダイバーに報告をしなければいけないと当然考えた。

 言うまでもなく仲間たちも同じ意志を持っており、早くもカザミが意見を述べる。

 

「フレディの所に行ってくるわ、あいつ絶対まだ祈ってる」

「ですよね、じゃあ僕はAVALONとか他のフォースに報告しますね」

「ELダイバーたちには私から声をかけて置こう、マ……シドや各個人にもそれぞれ」

 

 最初から決まっていたかのように、パルとメイが自分の仕事を決めていく。

 その早さはヒロトに口を挟む暇も与えず、彼がやらないといけないと思っている仕事を全て奪い取った。

 事後確認がまだ残っているな、と彼が思い出してトーリに問いかける。

 

「反動はどうでした?」

「……イヴの再構築に伴うデータ移動においては大きな問題は何も起きてません、各ディメンションのオブジェクトの構成データがすこし削れましたがその程度は自動で修復される些末な事です。他の問題としてはダイバーたちの想いが籠ったGN粒子の残滓をどう処理するかで運営は悩んでいますが、それは私たちの仕事です」

 

 トーリの答えは貴方たちに気にすることはないと示す気遣いと、素人が口出しできる問題ではないという突き放しの二つの意味が込められていた。

 答えは明確で、彼女が言わんとするところをヒロトはすぐに理解した。

 これ以上時間を取らせるわけにはいかない、そう判断した彼は深く頭を下げる。

 

「今回の事、本当にありがとうございました」

「どういたしまして、彼女が帰って来れて本当に良かった。……報酬はそのうち頂きます、では」

 

 トーリが消え去ると同時にヒロトたち全員がミッションカウンター付近にワープさせられた。

 ヒロトは一番仕事量の多いメイに声をかける。

 

「メイ、俺も報告していくから分担を――――」

「いや、ヒロト、お前はもうリアルに戻っておけ」

 

 メイはヒロトの提案を最後まで聞かず、彼のやるべき事を告げた。

 カザミとパルもうんうんと頷く。

 

「メイの言う通りだな、戻っとけ」

「僕も同意見です」

「礼は後で纏めて受け取ろう、今はいらん」

 

 畳みかけるように言われてしまえば、ヒロトも頷かざる得ない。

 

「すまない、皆本当にありがとう」

「だから後でいいって。じゃあ、またな」

 

 カザミがひらひらと手を振ると、ヒロトは素早くログアウトした。

 その後すぐにヒナタがおずおずと意見を出した。

 

「ごめんなさい、私も抜ける」

「おう、お疲れー。今日は来てくれてありがとうな!」

「……お疲れ様です」

「ではまたな」

 

 申し訳なさそうに手を振った後、ヒナタはゆっくりとログアウトしていった。

 

「反動……」

「ん、パルなんか言ったか?」

「いえ、AVALONに報告するならエミリアさんが最初でしょうか?」

「そうだな、彼女から拡散してもらえば間違いはないだろう」

「じゃあ、一旦解散な。やる事終わったら各々フォローって事で」

 

 カザミは大雑把に行動の指針を決めると、エルドラへと移動していった。

 メイは早速近くにある適当な椅子に座って作業を開始する。

 

 GBNとは関係ない反動があるかもしれない、という疑念を浮かべていたのはメンバーの中でパルだけだった。

 彼はヒナタがヒロトに好意を向けているのではないか?とふとした瞬間に気づいていた。

 パルにその確証はなかった。仮にあってもイヴを助けたいというヒロトの意思を後押しする事に迷いはなかっただろう。

 

 もしかしたら、ヒナタとは二度と会えないかもしれない。

 少しだけ苦い思いを抱く自分を身勝手に感じながら、パルはやるべき事をやる為にメイの隣で作業を始めた。

 

◆◆◆

 

 ヒロトはGBNから戻ってくると早速ELバースセンターの作業室を探すために部屋から出る。

 すると前を通りかかったELバースセンターの職員であろう男性がヒロトをちらりと見て、不機嫌を隠さず注意してくる。

 

「お前に今やれる事は何もない、その部屋で待ってろ。うろちょろすんな、邪魔になる」

 

 彼の物言いは乱雑で、ヒロトは目を丸くして驚いた。

 だが言ってる事は正論で、頷く他にない。コウイチに話しかけても、今の注意と内容だけは同じ答えが返ってくるであろう事は読めていたし、彼の様子によっては声をかけるのを控えようと考えてたくらいだ。

 ヒロトが返事をする前に、その職員はさっさと別室に入ってしまった。

 

 トーリは三時間程度は作業に時間を要すると言っていたな、とヒロトは記憶を反芻する。

 

 身体が落ち着かない、気持ちもまだ騒めいている。

 人生で一番長い時間になりそうだ、そう感じながらヒロトは部屋に戻っていった。

 

 そうしてひたすらそわそわしながら三時間半を過ごし、窓から見える景色が夕焼けに染まる頃、ようやくドアが開かれた。

 ヒロトはコウイチの顔を見て、全てがうまく行ったことを確信した。

 

「ヒロト君、今まで声もかけないでごめんね。さぁ、着いてきて」

「はい、ありがとうございました!」

「いえいえ」

 

 コウイチは足取り軽く、ヒロトを別室へと導いた。

 彼は二回扉をノックすると、自分は壁に背を預けて、指でどうぞと示した。

 ヒロトが目線で再度感謝の意を伝えると、彼はクスクスと笑った。

 

 部屋の中は見た事もない機材やそれを操作するために必要なPCが置かれていて机は一つ椅子は二つしかないこじんまりとした印象だった。

 今の心境で部屋の中など気に留めれる訳がないヒロトは早速声をかける。

 

「イヴ?」

 

 彼女を目で探してみて一瞬居ないと思い、ヒヤリとしたがよく見ると液晶モニターの後ろからチラリとこちらを覗いていた。

 

「イヴ、なんで隠れてるんだ?」

「……ヒロト。あのね、うぅ、ちょっとこっち来ないで」

 

 イヴは心底困ったように返事をして、モニターの後ろに隠れてしまった。

 ヒロトが戸惑って足を止めて、再度彼女に声をかける。

 

「どうしたんだ?」

「ちょっと準備が」

「もしかして身体に何かおかしい所があった?」

 

 イヴの身体を作り上げる全ての工程で細心の注意を行い、完成した後何度も確認したはずだ。そう振り返りながらも、彼女の様子に不安になり、彼は少し声を震わせた。

 

「違う、問題ないの!」

「じゃあ何が――――」

「でもこの身体、すごい強い想いが籠ってて、ものすごく籠ってて!」

 

 モニターの陰からチラリとイヴは顔をのぞかせて、またすぐに引っ込んだ。

 彼女の仕草と発言を組み合わせて考える、答えを悟ったヒロトは自分の頬が緩むのを感じた。

 

「あー、嬉しくない?」

「嬉しいに決まってるよ!でも嬉しいから困ってるの!あー、ヒロト絶対分かってるのに聞いてる!」

 

 隠れていた時は何事かと驚いたが、蓋を開けてみれば恥ずかしがっているだけのようだ。

 ヒロトは余裕を取り戻すと、机の近くにある椅子に座り、彼女が隠れているモニターに手を出した。

 

「喜んでくれたらいいなって思って作った」

「そんな事もう知ってるもん」

「でも恥ずかしがるとは思わなかったな」

「……あんまり意地悪言うなら出て行ってあげない」

「困ったな。イヴは一緒に帰りたくない?」

「それも意地悪……」

 

 ムスッとしたイヴがヒロトの掌にヒョイと乗る。

 ちょっと怒ったイヴを見て久しぶりにむくれてる所を見たな、と小さく笑いながら自分の元に彼女を寄せる。

 居心地悪そうにもじもじしているイヴを見て、ついにヒロトは吹き出してしまった。

 

「自分だけ楽しそうにしないでよぅ」

「いや、ごめん、可愛くて、くっ」

「もぉー、ばか」

 

 イヴはヒロトの顔を見れずに俯いていたが、彼が可愛いと言ってくれたことですこし上機嫌になった。

 ヒロトにその言葉を言われた事は今までなかった、できればもう少し真面目に言ってほしかったが、それでもすごく嬉しい気持ちがイヴの中に沸き上がった。

 

「じゃあ、帰ろうか」

「うん」

 

 イヴを大事に手に乗せてヒロトは部屋を出る。

 前ではコウイチが半分笑いながら立っていた。

 

「お手数おかけしました」

「いえいえ、ELダイバーって皆恥ずかしがったりしないからいいもの見れたよ」

 

 二人はしばらく笑いをかみ殺せずにいたが、イヴがどんどんむくれていくのをみて真面目に振舞う事に決めた。

 コウイチは真剣な顔つきに戻ると、ヒロトに注意を促す。

 

「ヒロト君も分かってると思うけど、世の中面白がってとんでもない事する人間はそこら中に居る。彼女は君が守るんだ、いいね?」

「はい」

「まぁ、やり方は君に任せるよ。何かあったらすぐ連絡して、特にイヴさんはサラちゃんと同じで普通のELダイバーと少し違う、不調があったらすぐ僕にも連絡して欲しい」

「分かってます」

「後々、GBN運営からいろいろ連絡や書類が来るけど、親御さんとよく相談して返事をしてね」

「はい、今日はありがとうございました」

「上手く行って本当に良かった、二人共また向こうでね」

 

 コウイチは笑って軽く手を振ると作業室の方に入っていった。

 ヒロトはイヴを連れて、持ってきた物が入ったカバンを回収してELバースセンターの出入り口の前で止まった。

 

「このカバンじゃ窮屈か」

「そうかも。……じゃあ、ポケットに入れて欲しい」

「うん」

 

 ヒロトは自分が着ているパーカーのポケットにイヴを寄せる、彼女は自らポケットに身体を入れてしばらくもぞもぞと動いてから彼に声をかけた。

 

「ヒロト、もう大丈夫」

「苦しくない?」

「何も見えないだけだから大丈夫」

 

 ヒロトがイヴの入っているポケットに手を少し入れると、彼女はギュッとその手に引っ付いた。

 彼女の行動に微笑みながら、ヒロトはELバースセンターから出る。夕焼けが指している道は家に帰った頃には夜になっていることを示していた。

 リアルにもイヴが居てくれるなら、こちらの世界でも『色』を新しく見つけれそうだとヒロトは感じ、早めに彼女が世界を見れるように専用のポーチを用意しようと考える。

 

「明日にでもイヴが窮屈じゃないポーチ見つけてくるよ」

「うん、ありがとう。ヒロト、でもね――――」

「ん?」

「こうやってヒロトの手にくっついてるの、幸せ」

「俺も、幸せだよ」

 

 ポケットの中に入るくらいの小さな恋人は、とても大きな幸せをヒロトに齎していた。

 

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