打ち上げ
イヴに仲間たちからの自己紹介を含めここ2年間で起きた事を説明する間、ゆっくりと話していくと早くも2週間が経過した。そしてイヴの不安を根源から解消していく為、ヒロトがある種羞恥心を捨てた決断をして早一週間。
BUILD DIVERSへのイヴの紹介を兼ね、今回のイヴ復活計画に関わった主なフォースとの合同打ち上げがAVALONの野外会場にて行われることになった。
そんな都合から3週間ほど遅れての打ち上げになりヒロト達としても心苦しい気持ちがあったが、どのフォースからも『まずはイヴのケアが第一』と温かい言葉を貰っている。
そうしてついに合同打ち上げ会が開催となった日、AVALON上空でアースアーマーに乗ったコアガンダムの中にヒロトとイヴの二人が居た。
夜空の下の野外会場ではBUILD DiVERSのガンプラ三機がモニュメント代わりに三か所にそれぞれ配置されていた。
「そろそろかな」
ヒロトが見るに野外会場ではフォース同士の壁がすでに無くなり、場は暖まりつつある様だった。
イヴも同じように会場を上空から見てニコニコとほほ笑む。
「皆楽しそう」
「そうだな」
その時、バン!と大きな音と共に空に花火が一斉に上がった。
会場に立っているイージスナイトが持つピーコックスマッシャーを改造した花火砲が火を噴き上がった物だ。
着陸しろと言う合図が来た、と確認したヒロトはアースアーマーを操作して会場の中央に設置されたステージの後ろへと着陸させる。
「行こうか、イヴ」
「うん!」
ヒロトがイヴに手を差し出すと、彼女はその手をギュッと握る。
二人がステージの中心に降り立ち、息をそろえて頭を下げると大きな歓声が一斉に響いた。
盛大な拍手と数人のダイバーが吹いた高い口笛が鳴り響く。
ヒロトとイヴは会場が合図の後降りてこいとカルナから言われてはいたが、その後ステージの上で何かを話せとまでは言われていない。
大勢の人が注目する中、ステージに備え付けられた階段を下っていくと同時に群集が誰かを通すために自然と道を開けていく。
道を開けられヒロトとイヴの目の前に出てきたのはリクとサラだった。
ヒロトとリクが万感の思いを込めて目を合わせている間に、サラが目に涙をあふれさせながらイヴに向かって駆け出して飛びつくように姉を抱きしめた。
「姉さん!」
「サラ」
自分より背が高い妹をイヴは精一杯受け止め、優しく名前を呼ぶ。
サラは小さい姉にしがみ付く様に身を縮こまらせていた。
「姉さん、ねえさん、ねえさん……!」
サラの声は感情と共に震え、その内に込めた感情がイヴにしっかりと伝わった。
「ごめんね、もう大丈夫、ごめんね、サラ」
次第にイヴの声が妹と同じように震え、泣いてる事がヒロトに伝わって来た。
その周囲では感受性豊かなモモに加え普段クールなアヤメも理性が限界を迎えて泣き始め、お互いに抱き合っていた。
他にも少なからずこの場に居る女性ダイバーや涙もろい男性ダイバーが次々に涙腺を決壊させて、その仲間が肩を叩いていた。
多くの人たちが二人の再会を一緒に喜んでいる事にヒロトが純粋に喜びを覚えている最中、リクが明るく声をかけてきた。
「おかえり、やったね」
「ああ、待たせてごめん」
イヴが復活した後自分達は彼女に会えることが分かっている中ほんの一月にも満たない日を耐えただけで、もう会えることはないと絶望に瀕した筈のヒロトに『待たせた』なんて謝られてもリクは首を振るしかない。
「ううん、いいんだ」
ヒロトが目を向けた時にはリクの目の端にも少し涙が浮かんでいたが、彼はすぐに拭い取ってしまった。
リクは泣いて抱き合う姉妹二人を見て、心の底から感じる。
「ヒロトは凄いなぁ」
「俺だけの力じゃないよ」
ヒロトも姉妹を見て微笑んだ。
「いや、ホント、すご――――」
唐突に言葉が途切れたリクに再度ヒロトが目を向けると、彼の目からぼたぼたと涙が零れて来ていた。
「大丈夫か?」
自分と同じような立場のリクは今回の件で思う所が沢山あったのだろうと、ヒロトは思う。
顔を抑えて首を振るリクに、ヒロトはどうしたものかと苦笑した。
情緒に富むとはいえ男としてのプライドがあり、加えてヒロトが戸惑うと思って泣くのは必死にこらえていたリクであったが恋人の感情に誘発されるとどうしても涙が止まらなかった。
ヒロトが涙を流さない分も含めているかのようにリクが声を漏らさずに泣いていると、いつの間にか周囲に大勢いた人影がそれぞれ適当に散らばっていた。しかも誰が用意してくれたのか衝立が周囲に置かれて、ダイバーたちからの視線を遮ってくれている。
唯一近くに立っているキョウヤが気を効かせ身振り手振りで群集を散らせてくれたのだろう。そうヒロトは考えると、キョウヤに頭を下げる。
「キョウヤさん、色々お世話になりました、すいません気を使ってもらって」
「いや、こっちこそ見世物みたいにして申し訳ない」
イヴが戻ってきたことを分かり易く示す為に劇的な登場を演出してみたが、あまり良くなかった様だ。キョウヤはそんな気まずさを覚えながら頭を掻いた。
「ともかく三人共落ち着いたら戻ってくるといい、私たちは適当に楽しんでるから気にしなくていい」
「また後で向かいます」
「うん、待ってるよ」
キョウヤは明るく笑い、会場の方へと戻っていった。
リクはそんな話をしている間に何とか普段通りに感情を戻して、サラの肩に手を置く。
「サラ、そろそろ、おっと」
彼女は顔を上げてリクの方を見ると、そのまま彼の胸に縋りついてしまった。
どうしたものかとリクが戸惑いながらもサラの背中に手を回している間に、ヒロトがイヴに声をかける。
「イヴ?」
「……私は大丈夫」
彼女は気丈に振舞い、少し残った涙を自分で拭う。
イヴはヒロトの手を握ると、リクに優しく笑いかけた。
「妹の事、どうかよろしく」
「っはい!また後で!」
「じゃあ、先に出てる」
ヒロトはリクに軽く手を振って、衝立の隙間から二人で外側に出ていった。
外に出てみると場の空気が覚めている様な事はなく、どのダイバーも好き勝手にいろんな場所で話し合っている様だった。
一番近い集団の中からエミリアが二人の前に抜け出てくる。
「もう大丈夫かしら?」
「いえ、中にリクとサラさんが」
「ああ、じゃあもう少し待ってるわね」
衝立を配置してくれたのはエミリアで彼女はどのタイミングで衝立を片付けるか測りかねていた。
片手間でその事について、エミリアはイヴに笑いかける。
「初めまして、フォースAVALONの副隊長エミリアです」
「イヴです、初めまして。色々お世話になりました」
「あ、エミリアさん、少しお願いがあるんですが」
「あら、何かしら?」
「実は――――」
ヒロトとイヴは二人で考えた事をエミリアに説明する。
全てを聞き終えてエミリアは迷いなく二人の頼みを快諾する。
「いいわね!もちろん協力するわ!」
「じゃあ、お願いします」
「まだ時間は掛かるでしょうけど、日取りが決まったら教えてね」
「はい」
「じゃあ、楽しんで」
「またよろしくお願いします」
エミリアは二人に笑いかけると元居た集団へと戻っていった。
彼女を見送りながら次はどこに行こうかとヒロトが考えていると、視界の端で手を振っているカザミを捉えた。
その集団の中にはカルナとパル、他にAVALONのフォースメンバーが数人いる。
ヒロトとイヴがその集団へと向かい、一通り挨拶を終えた後カルナはニヤリと笑ってヒロトの顔を見る。
直前にイヴと手を繋いでいる事を見ていたのでその辺りの弄りが来るな、とヒロトは何食わぬ態度で予測する。
そんなヒロトの考えを見越してかカルナはカザミに問いかける。
「ここ三週間でお二人さんの仲良しエピソードとかあった?」
「そりゃまぁ、いろいろ」
心なしかカザミはげんなりした様子で含みを持たせて返事をすると、当然カルナが深く掘り込んでいく。
「ほぉほぉ、例えば?」
「んーそうだなぁ」
カザミはある時の事を思い出しながら、身振り手振りを加えた演技をしながら語り始める。
◆◆◆
とあるミッションが終わった後、BUILD DiVERSの新規メンバーとして加入したイヴを加えた五人はテーブルを囲んでのんびりと話をしていた。
意気揚々と自分の戦果について語っていたカザミも落ち着きを見せて彼が椅子に座ったまま背筋を伸ばした後、話題は次の物へと移る。
「そういや、イヴに聞いてみたいんだが」
「うん、なに?」
カザミがイヴを呼び捨てにするようになったのはつい最近、彼女の方から仲間になるのだから敬称はいらないと言われたのがきっかけで、それでも根っから物腰丁寧なパルは敬称をつけたまま、メイは姉さんと呼ぶ事から、イヴへの呼び方が変わったのはカザミ一人だけであった。
メイ以外の仲間内でのイヴへの好感や評価は最初はヒロトありきの物であった。
しかし自己紹介ついでに各々がガンプラをイヴへ見せた時に、彼女はガンプラの声を伝えるという方法でカザミとパルの心を早くも掴んだ。
「ヒロトってなんかミスしたことないの?すげーしょぼい奴とか」
「小さいミス?うーん」
ヒロトとそれなりに時間を共にしたカザミでも彼が小さい明らかなミスを犯した瞬間を見た事は無かった。
イヴが顎に手を当てて思い出している間に、ヒロトが肩をすくめてカザミに尋ねる。
「何でそんなこと聞くんだ?」
「んなもん思い付いたからに決まってんだろ」
「確かコアガンダムの着替えを間違えた事あったと思う。……そう、アースとマーズで、ほら」
「あー……」
イヴが言った事をヒロトはぼんやりと思い出し始めた。
その時二人で行っていたミッションは比較的簡単な物で、ミッションの合間に銀河の向こうまで行く方法を考えて油断している間に敵がレーダーに引っ掛かった。それで咄嗟にコアチェンジするとアーマーを間違えていたのだったなとヒロトは振り返る。
「あったな」
「懐かしいね。ヒロトあの時自分でビックリしてたから、珍しいなぁとは思ってたの」
「今では起こりえないミスだな」
メイが感心しているとカザミはケラケラと笑う。
「やっぱヒロトでもしょぼいミスはするんだな」
パルはこの会話を楽しそうに聞いていたが、ふと時間を確認して仲間に声をかける。
「あと一回くらいなら短いミッションはこなせそうですけど、行きます?」
「おー今日はそれで最後にするか」
ヒロトが時刻を確認すると日頃の解散時間にはまだ少し時間があった。
彼がカザミに同調しようとした時、テーブルの影でヒロトのポンチョがくいっくいっと軽く引かれる。
隣にイヴが座っていたので誰がやったのかは考えるまでもなく、とりあえず彼が目を向けてみると彼女はチラリと目線を合わせてすぐに逸らせてしまう。
彼女のある種あざとさを感じさせるいじらしい仕草で一瞬彼の頬が緩みそうになるも、ヒロトはすぐに表情を引き締めて先ほどまで持っていた意見をひっくり返した。
「悪いけどもう俺達は抜ける」
「そうですか、じゃあ解散ですね」
パルは少し残念そうであったものの、また明日もあるかと特に気にした風ではない。
カザミの座っている角度からは彼自身の背が高い事もあってその二人の無言のやり取りが絶妙に見えており、ヒロトをからかってやろうと思ったがあえてグッと堪えた。彼なりに引き離されてた二人を慮っての事だった。
「じゃあ解散だなぁ、また明日な」
「お疲れ、姉さん、ヒロト」
「うん、またねメイ、二人共」
ヒロトとなんだか機嫌よさげなイヴの二人が立ち去っていくと、カザミは思わずハァ~とため息をついた。
そんな彼にメイが眉を上げる。
「どうかしたのか」
「なんでもねぇよ、んじゃあまた明日なー」
マイヤに会いに行くにしても許された残り時間が微妙で、カザミはすごすごと一人でログアウトするのであった。
◆◆◆
「――――ってな感じだった」
「キャー!ヒロト君素敵ぃ!」
カルナは裏声で甲高く声を上げるとヒロトの背中をバシバシと叩いた。
仮にここがエルドラならそれなりに痛みを感じそうな勢いであったが、GBNでは痛覚遮断のセーフティが働いているのでそんな心配はない。
だがヒロトはその判断を下したことについては特に後悔をしておらず、イヴはその辺りの行動についてからかいを受けて動揺するような性格でもない。その結果二人の反応は少し周りの期待するものとは逸れていく。
「何か問題あったか?」
普段通りの表情のヒロトに、カザミはある種感心したように笑う。
「お前変わったよなぁ」
とカザミは呟いてしまうが、その後に元々こんな感じだったのかもな、と心の中で呟いた。
今まで感情を押し殺して行動する事の多かったヒロトが多少我儘をやり始めている事を喜んだほうが良いのだろうと、カザミはそう感じたのだ。だがそれはそれとして見えないところでやってほしいと彼は同時に思っていた。
カルナもヒロトの変化を面白半分ではあったが確かに喜んでいた。
「そういえば、カルナさんに少しお願いがあるんですけど」
「お?なんだ?」
「実は――――」
エミリアに頼んだことと同様の事をカルナが聞くと、見る見るうちにやる気をみなぎらせて力強く頷いた。
「勿論いいぜ!準備できたらいつでも言って来いよ!」
「ありがとうございます」
「……でもそんな秘密めいたやり方する必要あるのか?」
「考えている事があって」
ヒロトは衝立から出てきてキョウヤと話しているリクとサラに少しだけ視線を飛ばす。
すると彼の視線からカルナは全てを察して、テンション高く頷いた。
「おお!なるほどそう言う事か!いいねぇ、俄然燃えてくるじゃん!」
「一発かましてくるぜ!」
ドンっと胸を叩くカザミにカルナはうむ、と頷く。
「気合も十分だな!当日が楽しみだ」
今度は激励の意味でヒロトの背中を叩いたカルナと機嫌良く分かれて二人が会場をまた歩き始める。
しばらくするとメイがアヤメとモモの二人と話をしている様だった。
「そっかー。じゃあ、お姉ちゃんとはうまく行きそうなんだ、良かったぁ!」
「喧嘩するような動機が無いぞ」
「どーかなぁ、男女のあれやこれやとか」
「こら、モモ」
モモがすこし意地の悪い笑みを見せるとアヤメがすかさずその額をはじいた。
そのタイミングでメイがヒロトを見つけて、軽く手を振る。
「ヒロト、姉さん」
「ごめんなさい、この子が妙な事メイに吹き込もうとしてて」
アヤメは少しため息をついて二人に謝る。
イヴはすぐに首を振ると、アヤメに笑いかける。
「イヴです、初めまして。メイの好きなようにすればいいと思うので、私がとやかく言う気はないわ」
「そう?ならいいけど……いや良くないわ。ともかく、アヤメよ、リクの仲間。よろしくね」
「同じく、モモでーす!」
三人が挨拶をした後メイが少し呆れた表情をする。
「まず姉さんが好きにするという事を覚えるべきだろう」
「あら」
「メイ」
言葉尻が強いと感じたヒロトがメイを諫めると、彼女は少しムッとする。
「なんだ、私が間違っているのか?」
「ううん、メイが正しいわ。でもそれなりに好きに動いてるのよ?」
「分かりにくい」
ズバッとメイは断じ、イヴは困ったように笑う。
メイなりに姉の事を心配して話している事で、その気持ちはイヴに伝わっていた。
「じゃあもっと頑張る、ありがとうメイ」
「うむ」
メイがどっしりと重く頷く姿に、モモはどっちが姉なのか良く分からないなぁ、と感じながら場を盛り上げる為ここは一つどうでもいい話をすることにした。
「ヒロトとメイってなんだか似てるよねー」
「あ、それ私も思う」
モモの話題にアヤメが食いつく。
「クールでちょっとわかりにくいけど優しいし」
「うんうん、私よくお世話になるから感謝してる」
モモとアヤメがヒロト・メイと肩を並べて戦った回数は少ない。だがそんな少しの機会でも二人は無駄口を叩くことなく仲間に目を配り、必要があればフォローに回っていた。特に勢いがついてそのままミスをすることが割とあるモモは大層二人に世話になっている。
「「大した事はしていない」」
息をそろえたわけでもなく、同じタイミングでヒロトとメイは返事をする。
同調した二人の言葉がモモのツボをついて、彼女はキャッキャッと笑った。
「あはは!ほら、やっぱり似てる!」
「息ぴったり」
アヤメが感心すると、イヴはほんの少しだけムッとしてヒロトの手を強めに握った。
彼がイヴに目をやると、彼女はツーンとしてヒロトから目を逸らしていた。
そんなイヴの様子に、この子もやきもち焼く時もあるんだなぁ、とアヤメが感心しているとその耳に掛かったイヤリングが目に入った。
「そういえばそのイヤリング、メイが持ってたのよね?」
「そうだ、私が生まれた時からな」
「不思議だよねー」
「イヴのデータ片がメイに取り込まれたんだと思う」
ヒロトが解釈を述べると、モモがふーんと頷いてハッとする。
何やら彼女は凄い事に気が付いた様に少し興奮していた。
「イヴさんはメイのお母さんだった?」
「「「え?」」」
意表を突かれる意見に三人が声をそろえてポカーンと呆ける。
そうして数秒が立つ間に、まぁそう言えなくもないか、とヒロトが他人事のように思っているとメイがイヴをじっと見て気持ちの赴くままに呼んだ。
「母さん」
「――――!なぁに、メイ?」
「……おぉ」
育てのママがメイには居る、だが当然産みの親に会えるとは思ってもいなかった。
メイは最近の一連の計画があっても、そういう解釈に至る事はなかったので目から鱗が落ちた気分だった。
返事をしたイヴは、ヒロトに似ていると言われたメイが自分の因子を少しでも持って生まれてきた事を改めて実感し、母と呼ばれて胸がギュッと掴まれた様な感動を覚えた。
モモはそんな二人を見守りながらなんだか感動した気分で頷いている。
「ならヒロトが父さんか」
「え!?」
最近恋人ができたばっかりなのに娘が出来たらしいヒロトは流石に表情を崩して戸惑いを見せる。
冗談よ、とモモが会話を切り上げようと動くより早くにイヴがヒロトの手を引いて少し悲しそうに首をかしげる。
「嫌?」
「嫌じゃないけど!」
イヴの悲しそうな顔に思わずヒロトは首を振る、すると狙ったかのようにメイが彼の精神状態をさらにかき乱す様な言葉を投げかけてきた。
「父さん」
「――――ちょっと待ってくれメイ!」
ヒロトの精神状態が安定して話の収拾がつくまでそのまましばらくの時間を要した。
◆◆◆
「キョウヤさん」
「やぁ二人共。――――どうしたんだ、ヒロト。なんだかすごく疲れてそうだが」
「まぁいろいろあって。……もう大丈夫です」
「そうか。……改めてAVALONのフォースリーダー、クジョウ・キョウヤだ。キョウヤでいい、よろしく」
「イヴです、初めまして。お世話になりました」
「いやいや、戻って来てくれてよかったよ」
イヴが感謝の気持ちを込めて頭を下げると、キョウヤは朗らかに返事をする。
キョウヤと一緒に居たリクはすかさず後に続いた。
「リクです、よろしくイヴさん。さっきは碌に挨拶できなくてごめんなさい」
「ふふっ、いいのよ、これからよろしく、リク。いろいろ、ありがとう」
二人が挨拶を交わしているとサラからヒロトに声がかかる。
「ヒロト、ありがとう」
「ああ、俺からもありがとう」
言葉はわずかであったが、二人の気持ちのやり取りはそれだけで済んだ。
ヒロトとサラは自分の大事な人に、また大切な縁が生まれた事が嬉しかった。
「リク達は何の話をしてたんだ?」
「うん、以前の大会のメインイベントについて話してたんだよ」
「ああ、それか」
イヴ復活計画のAVALONイベント大会では目玉イベントとして、スタジアムにいるダイバーを百人ランダムで選んで宇宙ディメンションに転送し、それをキョウヤが一人で相手に取るという彼がどうあがいても勝ち目がなさそうな内容の物が行われた。
キョウヤに勝てばその百人に商品がそれぞれ贈られるとあってダイバーたちの士気は高く、AVALON側も実際勝つつもりはなかっただろう。
「百人抜きしたんですよね、キョウヤさん」
「いやー、直前にエミリアから計画に成功を告げられて気持ちが高ぶってしまって、つい」
つい、で済むような事ではないだろう、その場にいる四人の気持ちはまったく同様の物だった。
後のGBN内のメディアフォースは大惨事メインイベントを高々と取り上げていて、チャンピオンはこれだからと笑いを誘っていた。
「最後の十人が特に手ごわくてね、危うく落とされるところだったよ」
「……片腕切られただけじゃないですか」
リクは苦笑いしながら呟くも、キョウヤはまるで聞こえていないかのように話を続ける。
「いやぁ、あのシドというダイバーは特に厄介だった、今度AVALONに勧誘してみようか。あの獰猛な動きは味方にすれば心強いと思うんだが、ヒロトはどう思う?」
「まぁ、確かに」
ヒロトは多分勧誘できないだろうな、と考えながらも割と適当に返事をした。
打ち上げは盛り上がりが覚めぬまま全ガンダムシリーズ〇×クイズが行われた。
後日、キョウヤがシドに勧誘をかけようとするも彼の独特な雰囲気に飲み込まれて、そしてなぜかそのまま一対一で勝負して固く握手をし、再戦を誓い合って別れたらしい。
やっぱり勧誘できなかったんだな、とヒロトはその無茶苦茶な顛末に笑うしかないのだった。