また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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夏のある日・後編

 クアドルンの偽翼の取り外し、エルドラで心地よく泳げそうな場所をカザミが中心となって探して周り、彼の眼にかなう場所を見つける事が出来た。

 その合間にイヴとメイが水着を準備する為にマギーと出かけて、三人と別ルートでヒロトとパルも水着を手に入れた。

 

 エルドラで遊ぶので勿論フレディに声をかけ、その場に同席していたマイヤも一緒に湖に向かう事となる。

 山の民に水泳の文化は浸透していない、当然二人は泳げないがフレディは水泳にかなり乗り気で彼の水着の調達もGBNから持ってくるだけで済む。

 同時に彼とイヴは挨拶を済ませ、お互い友好的な姿勢ですぐに打ち解けた。

 

 当初はお弁当を持って行って向こうで食べる計画だったが、カザミが凄い物を見つけたから俺に任せろと声を大にした事で食事の準備は彼に一任する事となった。

 それ以降彼は何度もエルドラに向かってはマイヤと何かを作り、その成果が上がるまで更に時間を要した。

 

 そして偽翼の取り外しを行った数日後、エルドラでの日帰り旅行の日がやってきた。

 

 合流してすぐにイヴとメイが自身の髪の長さをある程度短くしていたり、獣耳や尻尾が泳ぐときに邪魔になるだろうと判断したパルがその部分を消す等特有の準備を行う。他にも全員がエルドラにいった後着替えやすい恰好になっていた。

 水着関連や身体を拭くものをハンドバックに入れて路地裏で準備を完了させる。

 食材の準備があるカザミは先にエルドラへと向かって、この場に居るのは彼を抜いた四人。

 装いと場所が完全にミスマッチで、客観的に見れば明らかにおかしなダイバーの集団ではあったがこんな所にはヒロト達以外は誰も来ない。

 

 この時点でイヴの服装が切り替わっていつものドレスから涼し気な白のワンピースと少し厚底のサンダルになっていた。

 イヴの普段のドレスは肌の露出が少ない。そんな彼女が着替えた事で白い腕や艶やかな鎖骨周りと細い足がヒロトの目に飛び込んできて、彼の思考は一瞬止まった。

 その時ヒロトは仲間に気付かれればすぐさま揶揄われそうな顔をしていたが、メイの一声のお陰で全員の視線がすぐに一か所に集中し、運よく誰にも気づかれることはなかった。

 

「では、いくぞ」

「行きましょう!」

 

 パルもいつもより元気に返事をし、メイがウィンドウを触ると転送が始まる。

 普段と装いの違う四人をクアドルンは一瞥するがそのまま何も言わずに目を閉じて眠ってしまった。

 四人はなるべく静かにガンプラへと移動して予定ポイントまで飛翔する。

 

「泳ぐって初めてだから楽しみ」

「……」

「ヒロト?」

「あ、ああ、そうだな」

 

 移動する最中にイヴの水着を見るときに視線が泳がないようにしないと、とヒロトが意志を固くする。傍から見ればずいぶん牧歌的な決意ではあったが本人としては戦場に出る前並みの緊張を感じていた。

 

 そうして目標ポイントにたどり着くと、湖の畔でイージスナイトが膝立ちになって大きな日陰を一つ作っていた。

 少し離れたところにコアガンダムとエクスバルキランダーの二機で更衣室代わりの空間を作り、男性陣はそこで着替える事にした。エルドラの湖には人気がまるでなく、貸し切り状態ではあったが流石に野晒しで着替える気にはなれなかった。女性陣はコックピットの中で着替えて出れば誰にも見られる余地が無く更に安全が考慮されている。

 

 男二人の着替えは五分とかからない、イヴとメイよりはるかに早くカザミと合流する。

 彼はフレディと話しながら浮き輪を膨らませている様だった。

 バーベキューコンロと思わしき物の近くでマイヤが火の調子を見ていて、カザミが見つけた凄い物とはこれの事だったのか、とヒロトとパルが感心する。異星人で根本から違う文化を持つが、娯楽や食事の行きつくところは似たような物なのだろう。

 

「こんにちは、マイヤさん」

「こんにちは、あら、もう二人は?」

「まだ着替えてます、マイヤさんは泳がなくて良かったんですか?」

「うーん、私は遠慮しとくわ。やっぱり怖いし」

 

 パルとマイヤの会話を聞きながらヒロトは近くに会ったクーラーボックスを開けてみる。

 GBNでは野外キャンプをモチーフにしたフォースネストに置かれるイミテーションに過ぎない物だが、中にしっかりとエルドラ産の肉と野菜が詰まり保冷もされてその務めを果たしている。

 そうしている内にフレディがヒロトとパルの方に気が付いて手を振ってきた。

 

「ヒロトさん、パルさん!」

「こんにちは、フレディ」

「わー、ホントに耳も尻尾もないんですね!」

 

 フレディは耳も尻尾もないパルにいたく感心している。

 カザミはヒロトを手で呼ぶと凹んだ浮き輪を渡してくる。

 

「膨らませるアレがないってのに嵩張るからって下手に空気抜くんじゃなかったぜ……」

「ああ、アレか。まぁ、やってしまったものは仕方ないな、交代でやっていこう」

 

 足で踏むと空気が送れるアレを思い出しながら、ヒロトは思いっきり息を吹き込んだ。

 一回やっただけでもそこそこな負担を感じるが分かってはいたがあまり膨らんでいない。周囲にあるすでに膨らんだ浮き輪達からカザミとフレディの苦労が滲み出ていた。

 

「パル、お前浮き輪なしで行けそうなら先に軽く泳いでみ」

「え、僕も膨らませますよ!」

「いやいいから、感覚取り戻してこいって。危なそうならすぐ戻って来いよ」

「……じゃあ、お先に」

 

 パルはカザミの言葉に従って泳いでみる事にした。

 話を聞いていたフレディの目が輝く、僕も行きたい!と言わずとも身体が話していた。そんな微笑ましい様子にヒロトは微笑んで手近にある膨らみ切った浮き輪をフレディに渡す。

 

「フレディ、浮き輪を絶対離しちゃだめだぞ」

「はい!パルさん待ってくださーい!」

 

 フレディがびゅーんと走っていくのを見送り、ヒロトとカザミは遊ぶ前の一仕事に取り掛かり始めた。

 

 浮き輪は残り一つしかなく、二人で交代しつつに息を吹き込んでいけば膨らみ切るまでそう時間は掛からなかった。

 仕事をやり切った時にヒロト達の後ろから軽い足音がした。

 

「ねぇ、メイ、私、変なところない?」

「……もうその質問は三度目だ、答えも変わらん」

 

 その二人の声に、思わずヒロトとカザミが同時に振り替える。

 

 メイが着ていたのは黒を基本にして緑のラインが入ったスポーティーなワンピースタイプの水着で、彼女のシュッとしたスタイルとかなり大きめの二つの『山』が目立つ。カザミは思わずおおうと感動しかけたが、遠目からマイヤが睨んでいる気配がしたので湖の方に素早く退散した。気の利いた発言は無かったが、余計な波風も立てなかった。

 メイもカザミの感想などに興味がある訳もない、彼女は『処理落ちしているヒロト』の横をスタスタと通り抜けともかく一度泳いでみる事にした。

 

 イヴの水着は白いゆったりとしたビキニで腰には少し短めのパレオを巻いている。彼女はその水着とセットと思わしき白くつばの広いピクチャーハットをかぶっていて、まるで何処かのお嬢様が屋敷からはるばる避暑地にやってきたようにヒロトは感じた。

 細い腰や普段なら見える訳もない小さな臍が目に付いて視線のやりどころに困ったヒロトはともかくイヴの顔に集中するしかない。

 

「似合ってる、奇麗だ」

「――――!」

 

 気恥ずかしいし歯の浮くセリフだと感じながらも、それを堪えてヒロトは率直に感想を述べる。どこがどう似合う、とは流石に表現できなかったが彼はこれで精いっぱいだった。

 『かわいい』ではなかったものの、彼の心底からの感想にイヴは目を輝かせ胸いっぱいの喜びを感じた。

 

「ありがとう、ヒロト」

 

 えへへ、と笑う恋人に強い動悸を感じたヒロトは我慢できずに思いっきり目を逸らした。

 

 

 ヒロトとイヴが自分達だけの空間を作っている間に、少し泳いだパルが手ごろな岩の上で座って休んでいるとGBNでの水泳との誤差を早くも埋めたメイがやってきた。

 

「素敵な水着ですね、格好良くて奇麗ですよ、メイさん」

「そうか、ありがとう。パルは大丈夫か?」

「久しぶりでもう少し疲れましたけど、溺れる事はなさそうです」

「ならいい」

 

 畔にいるヒロトとは比べ物にならないほどすんなりと賛辞を贈るパルにメイは淡々と頷いて、やり取りをしていると急にフレディが大声を上げた。

 

「ほわー!?」

 

 バシャーンと大きな音がと水しぶきが上がる。

 どうやらカザミが勢いよくフレディを押し上げて彼の身体を打ち上げたようだ、対して高く飛び上がる事は無かったがすぐ浮き輪に戻ってきたフレディは明るく笑っていた。

 

「あははは!今の楽しいですね!」

「だろ?どうだ!もっかいやるか?」

「やってくださーい!」

「よっしゃ、任せろ!――――おらぁ!」

「ほわー!!」

 

 ぎゃーぎゃーと湖の中で騒いでいる二人を眺めながら、元気だなぁとパルが微笑んだ。

 

「……私が打ち上げてやろうか?」

「へ!?いえ、見てるだけでいいんで!」

 

 フレディを羨んでいると勘違いしたメイに気を使われてパルは焦って断った。

 ああいった事はされたことが無いし、その点は羨んでいると百歩譲っても認めてもいい。だがそれならカザミに打ち上げてもらうのが絶対条件、今の彼女に触れられると自分がおかしくなりそうだ、とパルは思わざる得ない。

 

「皆楽しそう」

「だな」

 

 騒がしい湖を見ながら、イヴは微笑んで湖へと寄っていく。

 ここはそこまで大きな湖ではない、今日は風もほとんど無くて波もなかった。少し近寄っただけで溺れるなんて言う理不尽は起きるはずもないので、ヒロトは彼女の行動を見守るつもりだったがそれがまずかった。

 

 溺れる危険性と言う話ではなく、通り過ぎたイヴを目で追ってしまった事だ。

 背中は彼女の金の髪が目隠しになってくれたが、パレオからすこし出ているお尻はそうもいかない。

 イヴ本人の視線も周囲の仲間の視線もない環境、健全な男子高校生のヒロトが注目しない訳がなかった。

 

「冷たい、ふふっ」

「――――」

 

 小さなそれをたっぷり十五秒は見つめた後に、ヒロトは何とか気を持ち直してイヴの隣に移動する。

 イヴが湖に足をつけて、ゆったりと遊んでいると何かを踏んで驚いたのか急に片足を上げてそのままバランスを崩しかけた。

 

「ひゃ!」

「イヴ!」

 

 すかさずイヴの肩をパッと掴んでヒロトが支える。

 

「ありがとう」

「いや、いい気を付けて」

 

 イヴの肩はヒロトの身体に完全にくっ付いていた。

 咄嗟に支えたのは良かったが、小さい肩と腕が自分の肌に吸い付いてきて彼の心臓が急に早くなる。

 このまま今の感情任せに抱きしめてしまってもイヴは嫌がらないだろうな、と少し考えはしたがこんな所でこれ以上くっ付いていたら流石に仲間からの目が向くだろう。

 

「イヴ、一緒に浅瀬で歩いてみよう」

「うん!」

 

 改めてイヴの水着を見ると泳ぐより水遊びを重視している様に感じられ、もしかするとマギーは自分が水泳のレクチャーをする余裕がなくなる事を見越していたのではないか?とヒロトは思う。そうとしか思えない水着のチョイスに彼は苦笑するしかなかった。

 

 マイヤが頃合いを見て調理を開始し始めると、カザミが肩を息で上がらせながら湖から上がってきた。

 彼女は遠めに見ていただけだが、どうやらメイと競争をしていた様だ。

 

「ハァッ、あいつ、泳ぎ、初心者って、マジかよ、速過ぎだろ」

「なんか楽しそうだったわねー?」

「何怒ってんだよ……?」

「べっつにー?」

 

 メイの水着を見た時にカザミの鼻の下が伸びた事を本能的に察知したマイヤは、彼がメイと競争して遊んでいる事が何となく気に食わなかった。

 カザミとしては競争した事は意図があっての事なのでその点に関してのみ弁明する事にした。

 

「次ここにきて、その時村のチビ共も連れてくるってなるかもしれねぇんだから、俺らの内の誰がどれだけ泳げるか見といたほうが良いだろ?」

「あ、意外に考えてたんだ」

「ひでぇ」

 

 マイヤはカザミの言い訳を話半分で聞きながらコンロの上に薄めに切った肉や野菜を並べていく。

 彼女が湖を眺めている時に目についていた事はもう一つあった。

 

「イヴさんって彼と恋人なの?」

「そりゃ見ればわかるだろ」

「まぁね」

 

 マイヤからするとヒロトは表情をあまり変えず淡々と物事を解決する印象であったが、彼女に対しては随分感情が豊かに見えた。

 

「まぁ、あいつらはいろいろあったんだよ。ホントに、いろいろな」

「――――そう、でも今楽しそうだしいいんじゃない」

 

 カザミの言葉に途轍もなく重い物を感じ取ったが、自分には殆ど関係のない話だろうと判断し彼女は深く聞かなかった。

 マイヤの感想は適当な物であったがカザミは不思議ととても嬉しい気持ちが湧いてくる。

 

「だよな、確かに今楽しんでるに越した事ねぇや」

 

 ヒロトとイヴがいちゃいちゃしてて気まずいだの、バーベキューに合うタレがエルドラでなかなか作れなかっただの、最近はどうでもいい悩み事の方がずっと多い。今もこうやってマイヤと肉と野菜焼いて、仲間たちが近寄ってくるのを待っている。マイヤと一緒に作ったタレは絶対に皆に受ける筈だとカザミは確信している。

 

「平和だなぁ」

 

 誰に聞かせるまでもなく、彼は呟く。

 

 エルドラの空は今日も高く、青く澄み渡っていた。

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