また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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デート

「今日はどうしよっか?」

 

 GBNにダイブしてすぐ、イヴはヒロトの意見を伺った。

 BUILD DiVERSのフォースリーダーであるカザミとメンバーのパル、二人は今日ダイブできない事情があるらしくGBNに来ていない。メイは前日に明日はモモとアヤメと行動すると予定を立てていたらしく、今日はヒロトとイヴの二人きりで行動する事になった。

 ヒロトがミッションカウンター上方のモニターを見てみると、救難信号が発生しているミッションやイベントミッションの情報が表示されている。

 

「イヴは何かやりたい事ある?」

 

 どれか適当にミッションをこなすのもいいかもしれないと考えつつ、彼が質問を返すとイヴはにっこりと笑顔になってすぐに答える。

 

「ヒロトとデートしたい」

「っ、そうか、じゃあ――――」

 

 イヴからストレートに可愛らしい希望を伝えられて、ヒロトの頬が俄かに赤くなった。

 恋人の愛らしい行動に胸を打たれて彼は一瞬言葉に詰まったが、二人で向かえばまず間違いなく楽しめる場所が脳裏によぎった。

 

「ペリシアに行こうか」

「うん!行こう!」

 

 二人で行き先を決めている内にヒロトはふと周囲から視線を感じる。

 彼がそれとなく周りを伺ってみると、イヴに視線が集まっている様に見受けられた。件の動画の影響はまだ収まりきっておらず、このままここでジッとしていると誰かが声をかけてきそうだ。

 そう判断したヒロトは、イヴを促して早速移動する事にした。

 

 ペリシアディメンションの端までワープするとイヴがヒロトに一つ提案する。

 

「ヒロト、街まで車で行かない?」

「車?」

 

 固有のフォースネストを所持していないBUILD DiVERSでは直接ワープする事はできない。

 それを前提にしてペリシアの中心街に移動する事の出来る手段は二つ。ガンプラを使って移動するか、車など乗り物を使って移動するかのどちらかだ。

 地図を碌に確認せず徒歩で向かうというのは初心者がやりがちな物で、ディメンションで途方に暮れているダイバーが稀にいる。

 ペリシアは中立地帯でガンプラでの移動がダイバーのランクによって制限されており、地形への対策を怠っていると砂でガンプラが固まってしまう事もある。尤もヒロトにとってその程度は問題なく対処できる。

 

「うん、せっかくだし懐かしい手段で向かいたいなって」

 

 ダメ?とイヴに視線で問うが、ヒロトには首を振る理由が無い。

 

「ん、わかった」

 

 彼が頷いて砂漠に適応できる乗り物を自身のアイテムインベントリから実体化させる。

 ヒロトがまだGBN を始めて間もない頃は当然ゲーム内の資金がなく自分では車を入手できず、余り他人と深く関りを持たないプレイスタイルだったので誰かに乗せてもらうという事もなく、ペリシアには行く手段が無かった。

 始めてペリシアに向かったのはGBNを始めて少し経ってからの事で、その頃にはヒロトとイヴはそれなりに打ち解けていた。

 

 ヒロトが乗り物を出している内に、以前エルドラに泳ぎに行くときにも来ていた涼し気なワンピースに着替えたイヴは実体化した乗り物を見て首をかしげた。

 彼がインベントリから出した乗り物は車ではなく、ホバークラフトだった。

 

「こういうの前から持ってたの?」

「いや、以前のGBNには無かった」

 

 アップデートを重ねるうちに実装されたこのホバークラフトは全地形に対応できる便利な移動アイテムで動力は無害化された疑似GN粒子を使用している、と言う設定になっている。

 自身の服装や外見にGBN内の資金を使わずにいる分他のダイバーよりお金が余る、その余剰で購入した乗り物がこのホバークラフトだった。乗員は四人まで、操作性や速度は良好でしかもごく短時間であるがトランザムを発動させることのできる高性能マシンになっている。

 性能についてヒロトはわざわざ語らず、イヴを促してホバークラフトに乗り込んだ。

 

 彼がアクセルを踏むと揺れもなく滑らかに加速していく。

 以前の車で移動したときは当然微振動やエンジン音がしていたが、今回は音すらほとんどない。

 イヴの服装が変わって咄嗟に反応できなかったヒロトは何か気の利いた事を言おうと考え、横目でチラリと彼女を見る。するとイヴは追加でリボンで飾られた麦わら帽子を被っていた。

 水着を見た時はヒロトの青少年の心に避けようの無い衝撃が走って落ち着かない気持ちになったが、水着を見るという事を経験できたお陰で普段より多少肌を露出している程度の服装になら彼の心に耐性が付いた。

 同様が余りないとはいえ誉め言葉という物が上手く思いつかず、ヒロトはともかく質問する。

 

「水着を買いに行ったときにその服や帽子も買ったのか?」

「うん、色んな服装持ってた方が便利だし、ヒロトも喜んでくれるって言われて」

 

 イヴは水着を入手しに行くときに付き添いをしていたマギーに勧めれらるがまま買ったようだった。

 マギーには何かと親切にしてもらっていて、何度感謝を伝えても足りそうにない。

 この服はどうかな、とちょっと不安そうにしているイヴはヒロトにとって水着姿よりは幾分か子供っぽく見えた。

 

「可愛い、と思うよ」

「――――!」

 

 パァッと周囲まで明るくなるような笑みを浮かべたイヴは嬉しい気持ちを全身で表す為にヒロトに飛びついた。

 

「ヒロト!」

「うわっと!」

 

 ハンドルを握っていたヒロトは横から思わぬ衝撃を食らってホバークラフトの軌道が荒ぶる。

 ペリシアまでの道は砂地で周囲には誰も居らず障害物も無い為、今のような無茶な軌道をしても周囲の迷惑にはならない。

 

「ふふっ」

 

 ここ最近で一番機嫌のいいイヴに引っ付かれながらもヒロトはホバークラフトの制御をすぐに取り戻す。

 彼は左腕の動きを制限されたまま、ペリシアの中心街までのんびりとホバークラフトを運転した。

 

◆◆◆

 

「アプサラス……?」

 

 ペルシアの中心街にたどり着き、展示スペースが多く置かれた広場に移動すると入り口に一番近い場所で展示されていたのは『アプサラスⅠ』だった。

 メイン武装であるメガ粒子砲の発射口が赤いハッチで閉じられていて『アプサラスⅡ』と見間違える余地が無い。とても良くできたガンプラではあるが武装に関しての改造は施されていないようだ。

 いきなり変わったMAが出て来たな、とヒロトとイヴがひとしきり感心してから広場の奥に目を向けると今日の展示テーマはどういう物か何となく理解する事が出来た。

 

「大きい子だけね」

「今日はMAの日か」

 

 MAビルダーの有志が示し合わせてこうなったのか、今日のペリシア広場はどの展示もMAだ。

 二人がざっと目を走らせた場所に展示されていたのは『ビグロ』『サイコガンダムⅡ(リフレクタービット付き)』『ラフレシア』『デンドロビウム』『ディープストライカー』『ヴェイガンギア・シド』『ハシュマル』等、些か宇宙世紀出のMAが多い。

 どの機体もその巨体からそのままのスケールでは展示されず縮小されている様だ。

 

「どの子も好きって気持ちが溢れてる」

「うん」

 

 MAはその巨体故パーツ数も必然的に多くなって組むだけでも非常に手間暇がかかり、プラモデルを買う時の費用も跳ね上がる。出来上がってからGBNに持っていくだけでも一苦労だ。

 今日は見ごたえがありそうだな、とヒロトが少し期待に胸を膨らませていると後ろから肩にポンと手を置かれた。目を向けると立っていたのは獣耳を生やした美青年だった。

 

「シャフリさん」

「やぁ、ヒロト君、イヴさん、こんにちは」

「こんにちは」

 

 シャフリヤールはヒロトたち二人に微笑んで挨拶してきた。

 彼はイヴ復活計画序盤から『奇跡』を起こす為の協力を積極的に申し入れてくれたダイバーでどうやらパルと何らかの繋がりがあるらしいという事が分かっている。

 

「今日は見ての通りMA祭り、どのガンプラも見ごたえがあって楽しい日だ。……君のコアガンダムとプラネッツアーマーもぜひここでじっくり見させて貰いたかったが、タイミングが悪かったね」

「また機会はあるでしょうから、その時はお互いに」

「いいね」

 

 世界的ビルダーであるシャフリヤール作のガンプラとなれば、当然ヒロトも一度はじっくり見てみたい。

 好感に満ちた表情で頷くシャフリヤールもヒロトが作ったコアガンダムと各アーマーに興味がある。あまり人目に付かない場所に居る筈の彼が広場に入ってきて間もないヒロト達にすかさず声をかけたのはその興味と期待の表れだ。

 

「そういえば、イヴさんのガンプラは別枠で考えているのかい?」

「――――はい」

 

 だとすればそれはそれで興味深いガンプラが見れそうだけど、とシャフリは期待を込めてヒロトに問いかける。

 ヒロトは一応周囲を見渡してから、こっそりと頷いた。

 そのヒロトの仕草にシャフリヤールはおや?と首をかしげる。

 

「聞かれたら困る事だったのかい?」

「実は――――」

 

 ヒロトはイヴのガンプラを作っている事を隠している理由をシャフリアールに説明した。

 それを聞いてシャフリヤールはなるほど、と納得した。

 

「当日は私も応援に向かわせてもらうよ」

「ええ、待ってます」

 

 シャフリヤールはヒロトとイヴが自然に手を繋いでいる事に気付いて、少しわざとらしく声を上げた。

 

「おっとこれはいけない。デートの邪魔をしてすまなかったね。ゆっくり楽しんでいくと良い」

 

 彼は微笑むとスタスタとどこかへと去っていった。

 ヒロトがイヴの顔を伺うが彼女はキョトンとしていて、不機嫌な様子は見受けられない。

 スマートに二人の意識を元に戻して立ち去っていたシャフリヤールからは、パルの紳士然とした行動と似たものが見受けられた。

 

「じゃあ、ちょっと見て回ろうか」

「うん」

 

 『アプサラスⅠ』に近いガンプラは『ビグロ』と『ヴェイガンギアシド』の二機でかなりコアなファーストファンのヒロトがまずビグロの方に足を進めたのはやむを得ない事だった。

 

◆◆◆

 

 MAビルダーとペリシアに観光に来たダイバーたちのやり取りをBGMに二人は気分の赴くままペリシアの展示広場を隅から隅まで楽しんだ。

 途中にイヴに視線を向けるダイバーもいたがペリシアに居る以上目的は展示されたガンプラで、イヴに気が付いたダイバーの視線が外れる時間はそう長くなかった。

 一周し終えた後に、イヴは何かに目を向けて立ち止まってヒロトの手を引く。

 

「あそこ、お店がある」

「ん?」

 

 広場の奥の路地裏と言っていいほど狭まった道の先に怪しげな看板が掛かっている店がある。

 看板は紫を地にして〇だけが描かれていた。

 

「確か、昔はあんなところに店は無かったな」

「どうする?行ってみる?」

 

 如何にも怪しげな店なのでイヴは一応ヒロトに伺いを立てたが、面白そうな場所を見つけた事でイヴの目は輝いていた。

 ここは中立地帯ペリシアの中心街、一つの店に入っただけで罠に引っ掛かるような展開はシステム上あり得ない。

 ヒロトも少し興味を覚え、一応安全面を考慮してからイヴの意見に賛成する事にした。

 

「よし、行ってみようか」

「うん」

 

 ヒロトがイヴの手を引いて進みだす。恋人になる前まではほとんどイヴがヒロトの手や腕を引いていたが、二人の関係性が変わってからリードする役割は反対になっていた。

 そんな自分達の変化も『変わる』事に含まれているのかな、とイヴは考える。彼の優しい手はグングンと彼女を違う所に連れ出した。

 

 軒先に掛かった薄いカーテンを抜けた店中にはそこら中に小物が商品として陳列されていて、しかしごちゃごちゃとした印象はなくどこかさっぱりとした印象だった。

 

「やぁ、いらっしゃい」

 

 白髭をたっぷり蓄えターバンを巻いた姿の男性ダイバーが歓迎の言葉を二人にかけた。落ち着いた声色で、怪しい店の見た目とはまるで無縁の様に愛想よく微笑む。

 

「ここは……?」

「見ての通り雑貨とアクセサリーを売っておる」

 

 店主の答えにあの看板の〇はリングをかたどった物か、とヒロトは今になって理解した。

 その間にイヴはざっと商品を眺めてすぐに確信する。

 

「ほとんど手作りね」

「おや、分かるのかい?」

 

 ヒロトは手近にあった髪飾りを手に取って観察し、かなり細かい模様が描かれている事に気が付いた。

 商品棚に掛けられた値札の額が少し張るのも仕方ないと思えるくらいのクオリティだ。

 

「お嬢さんのイヤリングも手作りじゃな」

「分かるの?」

「勿論、その程度の目は持っておるよ、良くできておるな」

 

 店主はにっこりとほほ笑む、深く思い入れのあるイヤリングを褒められたイヴは嬉しそうに頷いた。

 そんな二人の手が固く繋がれているのを見て、店主は答えを薄々察しながらヒロトに質問する。

 

「坊主が作ったのか?」

「はい」

 

 ヒロトの答えに店主は内心であちゃーと声を上げる。この店の商品の半分は客の二人にとっては目に留まる物であっても買う事はほぼないだろう、と判断出来たからだ。

 

「ここではいつからこのお店を?」

「一年程前からじゃな、ガンプラを作るのもいいがこういった細々とした物を作るのが性にあっててな」

 

 店主は所詮ゲームの中の事なので売り上げなどあまり気にしてはいないが、売れたら楽しい遊びとしてこの店を構えていた。

 

「どれも素敵、貴方に作られて幸せだって言ってる」

「ほ?」

 

 小さなアクセサリーには微かではあるがそれぞれに意志が宿っている、イヴはそれを感じる事でほぼすべての商品が手作りである事を察していた。

 細工が細かいですね!等、客から称賛の言葉をいくつも貰った事がある店主だが商品の気持ちを代弁されたことは流石になかった。

 店主はここ最近有名になったイヴの件に関りを持たず彼女の事も勿論を知らないダイバーであったが、一風変わった称賛の言葉に目を丸くし頷いた。

 

「ありがとう、お嬢ちゃん。お礼に安く商品を譲りたいが、恋人からの手作りプレゼントにはどれも見劣りするじゃろうのう」

「ええ」

 

 悪びれ無く頷いてしまうイヴに店主はワハハ!と大笑いした。

 

 そうして結局冷やかしただけで店を出る事になったイヴはヒロトの手を引いて立ち止まる。

 

「ねぇ、ヒロト」

「ん?」

 

 イヴは自身の左耳につけられたイヤリングに触れる。

 このイヤリングは自分とヒロトをもう一度結び付けてくれた、大事な物だ。

 

「メイにお返しがしたいの」

「……うん、実は俺もその話しようかと考えてた」

 

 メイはあるべき物があるべき所に戻るだけ、と気にした風でもなかったが彼女の一部として再度生まれてきたイヤリングであることに間違いはない。

 イヤリングへの思い入れを二人が再度認識し、メイに何かお礼をしようと考えるのは自然な話だった。

 

「一緒に何か作ろうか」

「ね、だったら、三人で御揃いにしない?」

「……それはちょっと」

 

 イヴとメイが親子のような関係性を築く事に否やは無いが、三人で家族になる事はちょっとまだ受け入れる事がヒロトには出来なかった。

 メイの右耳にイヴのイヤリングと似たデザインの青いイヤリングがつけられるのはこれからしばらく後の事であった。

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