また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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記憶を希望にする為に

「お邪魔します」

「今日はお世話になります」

「ただいま」

「あら、いらっしゃーい。と、おかえりー」

 

 店に入ってきたのはメイ、パル、カザミの三人だった。

 マギーは彼女たち三人を笑顔で迎え入れると、店内の設定を操作して入口に貸し切り札を掛けた。

 と言っても、実際入場制限は掛かってない。マギーのバーは様々なダイバーの駆け込み寺の様な場所なので、切迫した相談をしている状況でもなければ入店できる様配慮されていた。

 

 事前に三人には今回は相談の場所貸しとオーディエンスの様な立ち位置をお願いされている。なので、マギー自身はあまり気を張らずに構える事に決めていた。

 

 三人が席に着き、マギーが飲み物を配ると少し離れた椅子に座った。

 メイは二人の様子を確認し、ともかく最初の一手を決める。

 

「とりあえず、全員で読み返して気になる所を言っていこう」

「頭の方にある、星の導きっていうのも気になるんだが、昨日言った新しい身体を作るっていうこの部分は解決できそうだな」

 

 カザミが文章内の『GBNに定着できない身体になってしまった』、という部分を指で刺して言う。

 

「ああ。イヴ姉さんはバグによって身体の崩壊が始まり、それがブレという形で表に出ていたのかもしれん。モビルドールという枠を作って保護をすれば同じような目にあう可能性はほぼ無くなる筈だ」

「あ、そういや、モビルドールの話はどうなったんだ?」

「手配はした。今、返答を待ってる」

「なら、とりあえずそこは順調か。よぉし、一歩前進」

 

 カザミは共有ウィンドウを一つ増やすと、モビルドールの件は順調、と書き入れる。

 その間にメイは文章に目をやり、一つ気が付いた

 

「ここは解釈が変更できるかもしれない、彼女はバグに侵されつつあった、とあるが……」

 

 メイが少し言葉が淀む様子に、二人は少し身構えた。

 

「GBNを守るためイヴ姉さんは消えたと、ヒロトは言ってた。という事はつまり、自分が何のために消えるか理解してる様子があったと言う事だ、なら」

「……守るために、自分を捨てた、か」

「犠牲になりつつあった、に変更だな」

 

 カザミとパルは沈痛な面持ちで頷く。

 メイは文章を書き替える、同時にパルが手を挙げた。

 

「さっきカザミさんも指摘していましたが、星の導きっていうのはエルドラの古代文明人が使った、身体を電子生命体に変える装置でしょうか?」

「恐らくそうだろう。それを使ってデータの身体になって、偶然GBNに入り込んだ」

「今の状況はともかく、そうやってヒロトに会ったって言うのはすげぇ奇跡だな。あ、運命的?……いや、どっちでもいいか」

 

 カザミは改めて異星人に巡り合うという事実に、言葉では言い表せないような壮大さを感じ取った。

 パルはそんなカザミの言葉にうんうんと力強くうなずいた。

 

「奇跡、か」

 

 メイも自分の産まれた経緯もそう言い表すことができるのだと実感を覚えた。

 そうしてふと思いつく。

 

「ママ」

「あら、どうしたの?」

 

 呼びかけられたマギーは、首をかしげる。

 他の二人もこのタイミングでマギーに話を振る意図がわからなかったが、とりあえず成り行きを見守る。

 

「例えば、魂になって世界を漂っている人の意思を集めるなら、ママはどうする?」

「あら、またすごい質問ね」

 

 壮大でかなりフワッとした質問内容にマギーは少し笑った。

 他の二人は同時にイヴ復活に関して言うとその表現であながち間違いじゃないにしろ、状況説明まったく足りていないんじゃ?と考えたが、口を挟む前に会話が進んだ。

 

「私ならサイコフレームとか、GN粒子を使うかしら」

「なるほど、確かに人の意思を集めるものに違いはないな、ありがとう」

「おーい、メイ。この会話どういう意図だ」

 

 案の定頓珍漢な答えが出てきてしまったではないか、とカザミは呆れる。

 同時に一人のガンダムファンとして、その解答には同意する所は有る。

 

「意図も何も、イヴ姉さんを救うために決まってるだろう」

 

 メイは何を言ってるんだ、と言わんばかりにカザミに言う。

 

「……いや、その為のどこにサイコフレームとかGN粒子が関係あるんだよ?」

 

 じろりと見られたカザミは一瞬仰け反るが、やはり意味が分からなかった。

 パルも困惑して黙り込んでいる。

 

「そういう物なんだろう?サイコフレームやGN粒子は」

「ガンダムの世界の設定の話だからな、それ!フィクションだ、フィクション!」

「ここはGBNだろう?実際あるじゃないか」

 

 伝わらねぇ!とカザミは頭を抱えた。パルも困惑したままだ。

 メイもカザミに意図が伝わってないらしいと察して、言葉を探す。

 

 三人の状況が固まったのを見て、マギーは手を一回叩く。

 全員の意識がこちらに向いたのを確認して、マギーはまず分かり切った質問をすることにした。

 

「まず目標はイヴちゃんの復活よね?」

「そうだ」

 

 三人とも頷く。

 

「で、今は復活方法の模索をしているわけね?」

「そうっすね」

 

 ここまでは三人の共通意識だ。

 マギーは、今目の前で起こったすれ違いを加味して次の質問を考える。

 今の三人は、イヴの復活方法を模索するという共通の答えを見出そうとする中でカザミ・パルはメイの突飛な発言に困惑している、という状況にある。

 ではなぜ、メイはあの変わった質問をするに至ったのか?

 

「うーん、メイちゃん」

「何だ」

「あなた、復活の手段思いついたの?」

 

 マギーの質問にカザミとパルは、え、と小声でつぶやいた。

 

「そうだ」

「いや、ちょっとまってくれよ、メイは───」

 

 カザミは先ほどの良く分からない話がまた繰り返されるだけだと考え、さらに口を挟む。

 その瞬間、マギーがカザミを視線で黙らせた。

 

「カザミ君、まず、全部、聞きなさい。それから、案を出す。誰かが話してる最中にいちいち口を挟んでたら、考えは伝わらないわ。メイちゃん、貴方も自分の意見を口にするときは、私が意見を言うから聞いてくださいって一言最初に言いなさい、区切りを入れれば貴方のペースについてきてくれる人はぐっと増えるわ。パル君は今回の事覚えておくといいわよ、大人になってもできない人すごく多いんだから」

「「「……はい」」」

「あら、いい子達ね、いいのよ、若さゆえの過ちってやつ、どんどんしなさい。次に活かせたら、もう大人よ。」

 

 そんな事を赤い人が言ってたわ、とマギーが〆てまた見守り体制に戻った。

 そんなマギーを見送って三人は一瞬沈黙したが、さっきの話の発端であったメイが軽く手を挙げた。

 

「とりあえず、私の考えを話すが良いだろうか」

「ああ、さっきは口挟んで悪かった」

「どうぞ」

 

 二人の返答に、メイは頷くと

 

「イヴ姉さんの復活には障害が多くある、まず姉さん自身の身体が今はなく、データは四散してサーバーの中の何処にあるのかわからない」

 

 彼女がここまではいいか、と二人に視線を送ると、真剣な頷きが返ってくる。

 合の手までしちゃいけないとは言ってないんだけど、と他二人の様子を見てマギーは苦笑する。

 

「その上運営の力を借りられるかは正直今は望み薄だろう、そんな状況下で助けるとなれば奇跡の一つも必要だろう?だからその助けになってくれそうな物を探した方がいいと考えたんだ」

「……なるほどな」

「……考えは伝わりました」

 

 メイの話は、二人からすると最後の一手が些か飛躍した手段とはいえ、問題の捉え方は合っていると感じられる内容だった。

 形が成せなくなったものを再度形にして個人を蘇らせようというのだ、考えてみればそれは奇跡以外何といえばいいのか。

 

「メイの考えはイヴさんの復活の為には、奇跡を起こす必要があるって要約して間違いはないか?」

「ああ、そうだ」

 

 カザミの確認にメイは頷いた。

 そうは言うが奇跡を意図的に起こす、その明確な手段がすぐに思い当たる訳はなかった。

 

「そもそも奇跡って起こせるものなのか?」

「私が居るだろう、奇跡で生まれているとしか思えない」

 

 メイは自分を指さしたが、そのメイの言葉にはパルが首を横に振る。

 

「メイさんの場合は奇跡を『起こした』というより、『起きた』と言った方がいいと思うんですよね。そう、偶然に近いという表現ですかね。意図して起こされたものではない、例えばイヴさんがGBNに来たことや、身近な事で言うと僕たちが出会ったのだって、偶然じゃないですか」

 

 受動と能動には大きな違いがある様にパルには見えてならなかった。

 カザミもその意見には確かに、と頷く他にない。

 

「奇跡は起こせないものなのか?」

 

 メイはそう疑問視する。

 カザミはうーんと深く唸ると

 

「方法がまるで思いつかない、っていうのがな。現実味が───」

「あ!」

 

 何かに気が付いたように、思いがけない方向から声を上げたのはマギーだった。

 三人は驚いてマギーの方に目をやった。

 

「……ごめんなさい、急に。ちょっといいかしら、私、奇跡を『起こした』瞬間見た事あるかも」

「え!?」

 

 カザミが驚きに声を上げた。

 マギーは記憶を探りながら話し始める。

 

「あなた達は多分よく知らないと思うんだけど。昔、第一次有志連合戦って大規模な戦闘があったのよ。その戦闘目的はとても簡単に言うとGBNを破壊しようと目論んでたクラッカーの拘束だったわ。相手は入念な仕込みをする人間で、チートツールを使ってやりたい放題やってたの。ものすごい大きなビグザムや無限に回復し続けるMSなんかで足止めしてきて戦況は敗色濃厚だったわ」

 

 マギーは一呼吸置くと

 

「そこで敵はさらにGBN自体を攻撃してきたの、バトルフィールド自体に大きな亀裂が入ってたわ。あとから聞いた話だと他のサーバーにまで同じような影響は出てたみたいね。そうやってバグはどんどん広がったんだけど、急にバグが収まったの」

「それが奇跡が起こした瞬間?」

「ええ、そう。その奇跡の中心点に居たのは、サラちゃんとリク君よ。機体から大きくて奇麗な翼が出てきて、それがバグをかき消した事を直で見たわ」

「そんな事があったんですね……」

「あの時どんな事があったのか、サラちゃんならきっと把握してると思うわ。詳しく聞く価値はあると思う」

「では、すぐ聞いてみよう」

「頼む!」

 

 カザミは両手を合わせた。

 メイはすぐにフレンドリストを開くが、軽くため息をついた。

 

「姉さん、来てないな」

「あらま、じゃあ彼も来てないわね」

 

 サラがログインしてないと聞いて、マギーが即座に断言する。

 

「……もはや確認するまでもねぇのな」

「明らかに恋人ですもんね、あの二人」

 

 マギーの断言にカザミとパルは笑うしかない。

 ロータスチャレンジverエルドラの後も何度かあったが、リクとサラの関係性はありありと見せつけられたくらいだ。本人たちにはそんなつもりはないのだろうが、もうすごく伝わってくるのだから仕方ない。

 

「ま、期待が持てるだけ進展したって事だな。順調順調」

「ですね!次の目的は決まりです!」

 

 パルの尻尾は機嫌よさそうにパタパタと揺れている。

 

「メイ、会う予定だけ立てて置いてくれ。今日は解散だ、連日話し込んで皆疲れてるしな、休もう」

「ああ、任せておけ」

「お疲れさまでした」

「みんな、お疲れ様。気を付けて帰るのよー」

 

 そうして解散した後、カザミはエルドラに向かった。

 休むにはエルドラに行くのが一番いい、それが理由だ。

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