また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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知る事、そのリスク

「――――ああ、今日はダイブするつもりだ。――――体調は大丈夫、もう問題ない。――――心配かけてすまない。――――そうなのか、じゃあ期待しておく。――――うん、じゃあまた夕方に」

 

 ヒロトは学校に向かいながらしていた電話を切ってポケットに携帯を入れる。

 

「おはようヒロト」

 

 後ろから来た声は、ヒロトにとって馴染みのある声だった。

 ヒロトが振り返ると、ヒナタが手を小さく振りながら足早に追いついてきた。

 

「おはようヒナタ、今日は遅いんだな、朝練は無し?」

「今日は休みー、ヒロトは今日の夕方もGBN行くの?」

「うん、そのつもり」

 

 先ほどの電話の相手はパル、彼は例の件からヒロトの負担に対し強く心配しており、昨日の夜と今朝も連絡をしてきた。

 ダイブする意思を伝えた時はヒロトの容態を気にしながらも、同時にヒロトの気持ちも慮りダイブに対し拒絶する様子はなかった。

 パルの気遣いや配慮の姿勢に、ヒロトは尊敬の念を覚える他にない。年齢など関係なしにパルはメンバーの誰より大人びた行動をする時が度々ある。

 

「ちょっと前にすごい豪華な車がうちのマンションの前に止まってたって噂になってたよ」

「へぇ」

 

 ヒナタの話にヒロトは頷き、話を流そうと試みるがヒナタのこちらをのぞき込む目に、これは無理だなと素早く判断する。

 

「実はパルが、詳しくはわからないけどすごくいい所の子供らしい。GBNから帰る時、ついでだからって送ってもらったんだ、やっぱり目立つよな、あの車」

「……そうなんだ」

 

 半分嘘、半分本当のヒロトの答えにヒナタはとりあえず納得した様だった。

 過去を無理に引き出した反動でヒロトはしばらくの間思考が落ち着かず、上の空になっていることがどうしても多かった。

 その間もヒナタに接する機会はあった、詳細はともかくヒロト達が何かやっている事には気が付かれていてもおかしくない。

 

「今度は危ない事じゃないから、そう心配しないでいいよ」

「ふーん?」

 

 ヒナタに余計な心労を追わせないためにヒロトは伝えれることを伝えるが、それが逆にヒナタの疑心をくすぐった。

 危ない事ではないのは確かだろう、とヒナタはその点に関してヒロトの発言を信じるが、しかしつい数日のヒロトの上の空っぷりは尋常ではなかった。

 

 危険ではないが、ヒロトの悩みになりうる事。

 

 あの上の空っぷり、どこを見ているのか分からない様子。

 見るに堪えないほどの様子はなかったが、あの顔には覚えがある。

 

 ヒナタは答えを悟った。

 

「写真のあの子は見つかりそう?」

「――っ!」

 

 僅かな情報で殆ど正解までたどり着かれてヒロトは言葉に詰まってしまう。

 その様子を見てヒナタは少し笑う。

 

「なぁに、そんなびっくりしちゃって?」

「……いや、どうしてそこまでわかるんだ?」

 

 ヒロトの疑問にヒナタは彼の目をじっと見つめ質問で返す。

 

「どうしてだと思う?」

「……うーん」

 

 そう聞くが、ヒロトの返答は学校が見えてきても形にならなかった。

 話を切り上げるタイミングが来てしまい、ヒナタは思わずため息をつきそうになったが表には出さなかった。

 

「また会えたら、紹介してよね」

「……わかった、約束する」

 

 ヒロトの返事にヒナタは満足すると、足早に学校に向かった。

 あの写真の子と会って、その後に何がしたいのか、ヒナタ自身ですら分からない事だった。

 

◆◆◆

 

 夕方になって、早速G-CAFEに向かい店長との挨拶もそこそこにヒロトはGBNにダイブした。

 ロビーにたどり着いてフレンドリストを開いてみると、すでに三人ともダイブしてきている様だった。

 

 辺りを見渡して程なく、大柄で目立つアバターのカザミがキョロキョロ辺りを見渡しているのが見えた。

 

「カザミ」

「お!ヒロトか、調子はどうだ?」

「もう大丈夫だ、心配かけてすまない」

 

 ヒロトはカザミの質問に対しきっぱりと答える。

 またぼんやりしていると思われ、やっぱり帰れと言われると困る。ヒロトの返答は気持ち声色が強かった。

 

「元気ならいいんだが、一々謝んな」

「す、いや、ありがとう」

 

 返答として謝りかけたヒロトにカザミはチョップの構えを見せ、ヒロトは焦って返事を変えた。

 カザミはそんなヒロトに大様に頷く。

 

「ならよし」

「ヒロト、カザミ」

「こんばんは、皆揃いましたね」

 

 二人がそんな話をしているとパルとメイが近寄ってきた。

 メイもヒロトの容態が気にはなったが、同じ様な事を他の仲間がすでに聞いているだろうと判断して何も言わなかった。

 

 メイは合流するまでの間に、今日は少し人の入りが多い事に気が付いていた。

 

「とりあえず、ブリーフィングルームに移ろう」

「ああ、そうだな」

 

 ヒロトがいったん休んでいた時は合流時点で簡単な報告をしていたが、今回は彼との情報のすり合わせだけでもかなり時間がかかりそうだ。

 ヒロトもゆっくり話の出来る場所が欲しかったので、その意見に賛同する。

 

 4人は手早くブリーフィングルームに転移して、各々席に着いた。

 カザミは定位置であるボードの前に陣取っている。

 

「えーっと、どっから話したもんかな」

 

 カザミは腕を組むとメイが手を上げる。

 

「私がやろう、それでいいか?」

「お、そんじゃあ任せるわ」

「お任せします」

「……?よろしく頼む」

 

 メイの発言に二人が頷く。

 ヒロトとしては事のなり行きを見るしかない。それはともかく、メイが手を上げてから発言した姿を見て、以前からそうだったろうか?と疑問を浮かべはしたが。

 

「ヒロト、これから話す事は、勿論お前が話してくれた過去が元だ。先にそこは明確にしておくぞ」

「ああ」

 

 ヒロトが頷く姿を見てから、メイは続きを話す。

 過去についてはおおよそ理解したと伝えるだけでいい、深くその件について確認するつもりはカザミ・メイ・パルには無かった。

 ヒロトも仲間たちの様子に、あの支離滅裂になってしまった発言をうまく解釈してくれたらしいと判断する。

 彼は頭を下げた

 

「ありがとう」

「いいさ、気にするな。では改めて話すぞ。イヴ姉さんを復活させるにあたって、予想される障害は多い」

「……そうだろうな、皆はどんな障害が出ると考えたんだ?」

 

 メイの説明にヒロトは頷き、深く聞く姿勢をとる。

 

「そうだな、とりあえずもうすでに排除できつつある障害を先に一つ説明する。復活した後のイヴ姉さんの保護手段だ」

「保護……。モビルドールか?」

 

 保護手段と言われ、ヒロトはすぐに答えに行きついた。

 

「そうだ、すでにELバースセンターに発注してある。問題は外見情報が不足していることだが――――」

 

 メイは指を二本立てる。

 

「解決方法は二つ。一つ目はヒロト自身の手でモビルドールを作る。お前の腕なら可能だろう、姉さんの外見を一番知っているのもヒロトだ」

 

 様々な案を実際に形にする事においては、仲間の中でヒロトは頭一つ抜けている。

 メイは彼の腕を信用している、その上製作者の思い入れが籠るのであればイヴの身体を作ることにこれ以上適役も居ない。メンテもヒロト自身の手で行えるとなれば、何かあって破損した時のフォローも素早い筈だ。

 カザミとパルも自然と頷いてしまう。

 懸念としては思い入れが強い分だけあれこれ悩んだりしないか、という可能性があるがそれは本人次第としか言えない。それに負担になるかもしれないが、同じくらい前向きな気持ちを作る理由にもなりうる。

 

「……もう一つはそのままか?」

 

 ヒロトは二つ目の解決策を予想はできたが、一応聞く。

 

「ああ、外見情報を追加で渡す。……他に姉さんが写った画像はあるか?」

 

 メイが首をかしげる。

 

「いや、無いな。……俺が作った方がよさそうだ」

「そうか、ヒロトが作ってくれたらきっと姉さんも喜ぶと思うぞ」

 

 メイは珍しく嬉しそうに微笑んだ。きっと渾身の力作になるだろう、今から見るときが楽しみだと彼女は考えた。

 ヒロトはメイの表情に微笑み返すと

 

「ああ、そうだといいな。……モビルドールを作る時に規定だったり、仕込んでおかないといけないギミックはあるのか?」

「その辺りはモビルドールを製作してくれている者に聞けばいい」

「ああ、それもそうだな。……その人の連絡先を教えてくれないか?」

 

 ヒロトの要請を聞く間にメイはいつもの表情に戻ってしまった。

 

「いや、必要ない。すでに私たち全員知り合っている。モビルドールの制作者は、コーイチだ」

「コーイチさんが!?そうだったんですか?」

 

 パルは予想外の名前を聞いて驚きの声を上げた。

 急に出てきた身近な知り合いに、ヒロトとカザミも驚きを隠せない。

 

「そうだ、あともう一人いるが、そちらは出てこないだろうな。まぁ、そもそもやり取りをする必要もないが」

「……?そうか、コーイチさんならいろいろ話しやすそうだな。」

 

 ヒロトはメイの様子に疑問を抱いたが、ともかく連絡を取るべき相手がコーイチであることに安堵した、ヒロト達のやろうとしている事にコーイチは驚きはするだろうが、あれこれと詮索する性格の人間ではない。

 その上互いにビルダーとしての腕は自然と把握している、話も当然通りやすい筈だ。

 

 少し段取りを考えているヒロトの裏で、メイも考えていることがあった。

 

 シバ・ツカサの行いを把握しているのは、4人の中でメイ以外に居ない。

 ブレイクデカール事件は、今までの話を振り返るに浅からずイヴに負担をかけているように考えられるが、それを知ればヒロトがどう動くか予想ができない。

 どうなっても少なくとも彼にとっては大きなストレスの元になることは間違いない、ならばなるべくヒロトの負担にならないように動いていく必要がある。

 

 自身が知っているからと全てを安易に口に出すと、さらに被害や悲しみを生みかねない、衛星砲の事やヒロトの過去を通じてメイが学んだことだった。

 後でコーイチに根回ししてシバ・ツカサの行いがヒロトに絶対に伝わらない様にしておく。そうすれば滅多な事にはならず、自然とヒロトの負担は無くなる、そうメイは判断した。

 

「では、モビルドールはヒロトに全て任せる事にする。これで障害の一つは除外でいいか?」

「ああ」

「賛成だ」

「僕もそれでいいと思います」

 

 四人は頷き合い、話は進む。

 カザミはモビルドールの件はヒロトに任せる、とボードに書く。

 

「では、続けよう。姉さんの復活の為に四散したデータを集める手段についてだ」

「ここからが今日の本番だな」

 

 メイが示した次の話に、カザミが合の手を入れる。

 彼らの議論は次の段階へと進む。

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