また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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奇跡を『起こす』為には

「四散したデータを集めるにあたって、数多くの障害がある。まず前提として、姉さんの身体は消滅し構成していたデータの行方がほとんど分からない」

「ああ」

 

 メイが上げた障害はヒロトもここ数日休んでる間に少しは考えていた事だった。とは言え問題点が把握できていても、その解決策までは考えていない。

 イヴの因子は少しはメイや他のELダイバー達にも受け継がれている、だが当然その他にも行方知れずになったデータが大半だろう。

 

「私たちの方では、GBNを管理している運営組織の力を借りる、という話が挙がったが、そちらはあまり現実味がない。ELダイバーに共生の場を与えてくれてはいるが、だからと言って優遇してくれるわけではないからな」

「……うん、そうだろうな」

 

 メイの纏まった意見に対しヒロトは納得する。

 カザミは運営の力を借りる事は現実味がない、とボードに記した。

 

「以上の条件から、プログラム上から姉さんをサルベージするのはできそうにない。それらを踏まえ、どうするか――――」

 

 今朝方にヒロトに掛かってきた電話で、パルはイヴ復活に当たって何らかの有効な手段を思いついたようなことを言っていた、通学中で落ち着いて話す余裕もなかったが、今から話される内容が恐らくその事だろう。

 ヒロトは自然と姿勢を正す。

 

「私たちは奇跡を起こせば良いのではないかと考えた」

「……奇跡?」

「ああ」

 

 メイは力強く頷いた。カザミとパルは同時に頭に手を当てた。メイの言いたい事はすでに理解しているし賛同もするが、だとしてもやはり結論の伝え方が突飛すぎた。

 考えてもいなかった単語に面を食らって、ヒロトは珍しく思考停止に陥ってしまうが、持ち前の理性で立て直す。

自分の為に仲間達が考えてくれたことなのだから、ともかく説明を最後まで聞いてみようと、説明を促した。

 

「……えっと、つまりどういう事だ?説明を続けてくれ」

「ああ、だがその前にヒロトは昔AVALONに居たと話していたが、第一次有志連合戦には参加したか?」

 

 メイからの質問にヒロトは首を傾げるが、すぐに肯定する。

 

「マスダイバー達との戦闘には参加している」

「そうか、なら話はある程度省けそうだな。勝敗の決め手になった光の翼は見たか?」

「光の翼?ああ、あれか、少し遠くからになるが見たな」

 

 メイが聞くと、ヒロトは印象深い光景をすぐに思い出した。

 ブレイクデカールで巨大化したビグザムから放たれる枝分かれするメガ粒子砲を何とか掻い潜り、ジュピターヴガンダムの姿勢を整え直していた時にあの翼は現れた。

 そうして振り返る中、ヒロトの脳内にイヴの消滅の間際の発言が蘇ってくる。

 

「イヴは、あれを皆の想いが重なって産んだ奇跡だと言っていた」

 

 ヒロトの言葉に、三人が目を見張る。

 思わずパルが声を上げる。

 

「イヴさんがそんな事を?」

「ああ、皆の想いが集まればきっと何でもできる、そう言っていた」

 

 ヒロトはその後の暗い記憶を振り払う為に眉根を揉んだ。

 

「ヒロト、大丈夫か?」

「……ああ、大丈夫だ。続けてくれ」

 

 ヒロトの負担は気にはなるが、心配しすぎるあまりにその都度議論が停止してしまえば先に進めない。

 彼の言葉を信じて、メイは話を続ける。

 

「奇跡を起こす方法を考える中でママからその光の翼の話を聞いた。その後、その奇跡の中心点がリクとサラ姉さんだったという話もあって、本人たちに詳しく話を聞きに行ったんだが」

「……リク達に?」

「ああ。イヴ姉さんとよく似た事をサラ姉さんも言っていた。それに当時のサラ姉さんはモビルドールの身体を持っていない、自身の状況がよく似ている姉さんたちの所感が重なるなら、皆の気持ちが奇跡を起こしたという話に間違いはないと私は思う」

 

 メイは二人はどうだ、とカザミとパルに視線を向ける。

 二人も迷いなく頷く。

 

「俺もそう思うぜ!」

「同感です!」

 

 ヒロトは三人の様子を見ながら、イヴの話を思い出す。

 

「消える、間際に奇跡の反動でバグが起こっている、とイヴは言っていた。また反動が起こるかもしれない」

 

 ヒロトは苦い声で、奇跡のリスクに対して言及する。

 メイはその声に対し

 

「その危険性は、確かにある、実際リクも指摘していた。だがサラ姉さんは、イヴ姉さんが帰ってくる時にGBNを傷つける訳がない、と言っていたぞ」

「……そうなのか、なら、……でも───」

 

 メイ越しに届いたサラからの言葉。ヒロトの意識の中で、それならばと信じたいという希望と、その反動で起きてしまった悲劇が脳裏を過り、うまく言葉が出ない。

 もし反動が生じて、何か被害が出た時、どうすればいいのか。

 カザミは、そんなヒロトの様子に慎重に言葉を選びながら声をかけた。

 

「なぁ、ヒロト」

「……?」

「その、さ、全部上手くいく可能性だって、有るんじゃねーかなって俺は思うぞ。イヴさんが戻ってきて、その上何も問題が起こらねぇ、って。駄目な事が起こるかも、なんて考えてたら何もできねーっていうか。もうちょっと能天気でもいいんじゃねぇの?それにさ――――――」

 

 カザミは頭を強く掻く

 

「なんつーか、お前がずっと苦しい顔してるの、見てらんねぇよ」

「え?」

「もしなんかあっても、俺たち一緒にやれる事やるからさ、一人で責任感じる必要はねぇよ」

「カザミ……」

「そうですよ!」

 

 パルも大きく声を上げた。同時に彼の目の淵から一筋の涙が零れる。

 

「ヒロトさんは一人で何でも背負い過ぎですよ!もっと自分がやりたい事とか幸せになる事を考えるべきです!」

「パル……」

「───なぁ、ヒロト。お前は、どうしたいんだ?」

 

 二人の言葉の後、メイはヒロトに問いかける。

 

「……俺は」

 

 自分は、どうしたいのか。

 

――――――どうしようもないから、諦めるの?

 

 マギーの言葉が、ふと蘇る。

 今度こそやれる限りをやる、あの時、自分でそう答えた。

 

「イヴに、もう一度会いたい」

 

「イヴに、君がやりたかったことは、本当にやれたのかって聞きたい」

 

「イヴに、今のこの世界を見せてあげたい」

 

「俺は」

 

「俺は、もう、諦めたりしない、絶対に、諦めない───!」

 

 ヒロトの心の底からの声を聞いて、メイは彼の肩を叩いた。

 

「ならば付き合おう、どんな結果になってもな」

「いいのか?」

「……おい、そこで聞き返すのは無粋だと、私でもわかるぞ」

 

 ヒロトの返事はメイにとっては不満なものだったが、ヒロトらしくもあるか、と彼女は少し笑った。

 カザミとパルも、ヒロトのはっきりとした意思が聞けたことでより一層やる気を高める。

 

「その言葉を待ってたぜ!ヒロト!」

「成功させましょう!絶対!皆で!」

「ああ……!」

「なんとしても姉さんを取り戻すぞ」

 

 4人は強く頷き合った。

 もう一度意識を合わせ、話は進む。

 

「……リクとサラさんは他に何か言ってなかったのか?」

「さっき言ったとおりの事だが、あとで音声を確認するか?」

「念の為にやろう」

 

 メイとヒロトが頷き合う様子を見て、カザミは先日のリクとサラと会話をする直前に出くわしたハプニングを思い出す。

 

「メイ、お前どっから録音してた?」

「……フォースネストに入ってからだが?」

「あー、じゃあ前半いらねぇな……」

 

 カザミはその時の光景を思い出して苦笑いが込み上げてきた。

 

「なぜだ、使える所があるかもしれないぞ」

「いやねぇよ!絶対ない!」

 

 カザミの断言にヒロトは首を傾げる。

 

「本題に入る前に何かあったのか?」

 

 ヒロトの疑問に、カザミとパルは苦笑しながら答える。

 

「いえ、大した事はないんですけど、すごく疲れただけと言いますか」

「……あー、俺たちがフォースネスト手に入れたら、ドア開ける前にノックするのルールにしような」

「え、まぁ、それは構わないが」

「親しい友人に遠慮はいらないのではないのか?」

「これルールだから!もう決めた!全員順守な!」

 

 カザミはあの時のサラや今のメイの様子から、ついつい会った事のないイヴにも一抹の不安を覚えるも、無理矢理振り切った。

 期せずしてさっきの重い雰囲気はどこかに吹き飛んでしまったようだった。

 

「で、やるって決めたからには本気で奇跡起こすぞ」

「ああ」

「二人の話から、皆の想いが大切なんですよね?」

「そうだな、なら……」

 

 パルの確認にメイは頷き、少し言葉に詰まった。

 

「姉さんの事を沢山のダイバーに知ってもらわないと、話にならないだろうな」

 

 カザミはその前提に、だろうな、と頷く。

 

「想いを合わせてくれそうな人間に当てはあるが、もっと数が欲しい」

 

 メイの言葉は納得の要求だった。

 リクやサラを始めとするBUILD DIVERSの面々や、マギーは勿論力を貸してはくれるだろうが、この場の人間と合わせて12人しかいない。そこにフレディとヒナタを加えても14人で、更にマサキがいても15人だ。

 ヒロトは力を貸してくれる可能性が高いダイバーが居ないか考える。

 

「ELダイバーたちはどうだろうか?」

 

 現在で80人以上は存在する筈だ。同じELダイバーの為なら力を貸してくれるかもしれない。イヴの話やその復活の手段に対しても、一般ダイバーより素直に受け入れてくれそうだ。

 

「なるほど、できるだけ連絡を取ってみよう。他は何か思いつくか?」

 

 メイは頷くと、カザミとパルを見る。

 パルはしょんぼりと肩を落とすと

 

「僕、フレンド、あんまり居なくて、僕個人の当てとなると一人くらいしか……」

「なるほど。しかし一人増えるだけでも、一歩進んでいる、気にするな」

「……メイさん、ありがとうございます」

 

 パルの脳裏に思い浮かぶのは兄の事だ。

 現実での事故の後遺症から傷心していた自分をGBNに誘ってくれた張本人で、きっと手を貸してくれるだろう。

 メイはパルの話を聞き終えると、カザミに目を向ける。

 

「カザミ、動画は使えないのか?」

「あー、それ今考えてたんだがよ……」

 

 カザミは眉根を揉むと

 

「上手くいけば、それこそすげー人数が手を貸してくれるかもしれんが、変な奴にまとわりつかれる可能性もあるしなぁ――――」

 

 エルドラに関するミッションが終わって以降、カザミのチャンネルは1度荒れた。人目に付き過ぎると変に否定だけをしたがる輩とぶつかる時もあるのだ。

 変質的で粘着質なダイバーに目をつけられたら堪ったものではない、カザミ自身は動画を上げている以上覚悟していたが、身内が同じ目に遭う事が嫌だった。

 

 それこそ、一旦は手を貸してくれても、イヴが復活した後に非常識な輩に絡まれる可能性もある。

 

 その辺りまで可能性を考えて、カザミはハッとする。

 どうなっても、やれる事をやる、さっき決めたばかりではないか。

 

「……ここはヒロトの意向に沿うぜ、リターンは確かにでかいしな」

 

 どうする?とカザミはヒロトに伺う。

 問われたヒロトの決断は即答であった。

 

「やろう、身内だけだと数も知れてる。それに、やれる事は全部やるのはさっき決めた事だ」

「――――!ああ、だよな!やろうぜ!」

「なら、伝えるべき事の台本が居るな。一から十まで説明する必要はないだろうが……」

「そうですね。……ともかく皆で考えてみましょう!」

 

 

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