また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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意思を示し、走り出す

「じゃ、本番行くぜー。3、2、1」」

 

 カザミは録画を開始すると、はきはきとした声で話し始めた。

 

「よう!動画を見てくれてる皆!BUILD DiVERSのカザミから今日も動画をお届けするぜ!……っと言っても今日はバトルの動画じゃねぇ。真面目で大事な話だ、ちょっと長くなるかもしれないがどうか最後まで視聴して欲しい。――――よろしくお願いします」

 

 彼は毎回最初のお約束としている陽気な始まりからトーンを落とし、今回の動画の趣旨に話をスライドさせていく。

 

「まず事前情報を伝えていくぜ。……皆はELダイバーって知ってるか?世界的には兎も角、GBN的には名前は知られつつあるし、知ってる人も多いとは思うが、念の為に解説しておくな」

 

 カザミは録画画面を白い背景のみにして、パルが描いた絵とともに説明していく。

 

「ELダイバーは簡単に言うとGBNで生まれてきた電子生命体の事だな!ちなみに、どうやって生まれてくるかっていうと――――」

 

 白い画面にポンとメイをデフォルメしたイラストが現れる。

 その真下には『ELダイバー』と書かれたフリップが添えられていた。

 

「GBNアクセス時にスキャンしたガンプラのデータ、そこから転送した際に生じる総容量100万分の1くらいの余剰データが蓄積されて生まれてくる、らしいぜ」

 

 RX-78-2ガンダムのシルエットとダイバーのシルエットが表示され、矢印で行き先を二つ示し片方はGBN、もう片方はELダイバーの方へと向かわせ、それぞれに『余剰データ』等対応する単語を添える。カザミの発言をイラストの中に組み込んで注釈と簡易アニメーションを用意してなるべくわかりやすくした形にしたものだ。

 

「今回の話の情報源はうちのメイだ。過去の動画を視聴してくれた人は察しが付くと思うが、彼女はELダイバーだ!今までの話は間違いない事を保証するぜ!」

 

 カザミは話しながら画面を操作して少しだけメイを映す。

 メイは普段通りの表情で軽く手を振って応えた。

 

「今回の本題はそのELダイバーについて、俺達BUILD DiVERSの司令塔ヒロトから話がある。動画撮影には慣れてないからそこは了承して欲しい」

 

 カザミはカメラを操作し、ヒロトとマギーが座っているスタジオセットの方へ焦点を合わせる。

 

「聞き手は皆さんご存じ上位ランクフォース『アダムの林檎』のリーダー、優良ダイバー筆頭マギーさんだ!二人とも後はよろしく!」

「BUILD DiVERSのヒロトです、よろしくお願いします」

「はぁーい、マギーよ。よろしくねぇ」

 

 ヒロトは固く、マギーはいつも通りの柔和な挨拶で応える。

 会話の口火を切ったのはマギーからであった。

 

「ヒロト君、今日のお話はELダイバー全体についての事かしら?」

「ある意味では、そうかもしれません」

 

 意味深なヒロトの言い回しに、マギーは小首をかしげる。

 ヒロトはイヴと自分が写った画像を壁に投影し、彼女の方を指し示す。

 

「彼女の名は、イヴ。……恐らく、一人目のELダイバーです」

「っえ!?一人目はサラちゃんの筈だけど、どういうことかしら?」

 

 マギーはまるで今初めて聞きました、という雰囲気を装って話に食いついた。

 ヒロトが話し手であるのは当然の事だが、聞き手を抜擢する時に動画制作は一度ストップした。一応仲間内4人で練習はしてみたのだが、カザミは慣れている分ヒロトが浮き過ぎる、パルは緊張してしまって固い空気になりすぎ、メイと会話すると動画がもの凄く淡々とした印象で終わってしまう。

 そんな事情からある程度の演技が可能で、こちらの事情を改めて説明するまでもなく大方把握しているダイバー、マギーに聞き手をお願いした。

 あれこれ頼んでしまう事に4人で申し訳なく感じるところもあったが、マギー本人としては「頼られて嬉しいわ」と快諾してこの場に座っている。

 

「ELダイバーと呼称されたのはマギーさんの仰る通り、サラさんが初めてでした。イヴと自分は約二年以上は一緒に居ましたが、彼女の抱える事情を最後まで知る事はありませんでした」

「最後まで、という事はその、イヴちゃんの身に何かが起こったのね?」

 

 マギーが神妙な表情で質問すると、ヒロトは固く頷いた。

 

「イヴはGBNの中で身体を維持できないダメージを受けて、今その構成データはGBN中に散ってしまっています」

「……そうなのね。サラちゃんはイヴちゃんの事は知っているの?」

「伝えてあります。……イヴが、彼女が消えてしまった時期はブレイクデカールを発端とした第一次有志連合戦が終わってすぐ後、当時は運営にELダイバーを迎え入れる体制が成立しておらず、自分自身も彼女が少し変わったダイバーとは思っていましたが、電子生命体だなんて思いもしていませんでした」

「確かに、無理もない話ね。私もサラちゃんの事を知るまでGBNに電子生命体が居るかも、なんて考えてもいなかったわ」

 

 マギーは悲痛な面持ちで頷き、続けて自身の思うところを話していく。

 

「私も第一次有志連合戦の事はよく覚えてるわ。直前は特にブレイクデカールによるバグの被害がいろんな場所で起こっていて、GBNは滅茶苦茶になっていた。今のELダイバーはいろんな手段で保護されているけど、イヴちゃんはバグの影響を諸に受けてしまったのかもしれないわね」

「そうかもしれません。ただ飽くまで俺の感覚だと、彼女の場合は自分からバグを抑え込んでいた様にも思います」

 

 ヒロトの話にマギーは目を丸くする。

 

「そう感じるような事があったのね?」

「イヴはGBNの隅々まで好いている様でした、一緒に各ディメンションや色んな催しに実際向かってみて本当に楽しんでいる姿を見てます。俺はGPDからの移行組で最初はGBNに馴染めませんでしたけど、彼女のおかげでこの世界を好きになることができました。……そういう事もあって彼女はGBNを守る為に身を挺したのかも、と考えています」

 

 事情を凡そ知っているだけに思わず哀愁を感じてしまいそうになるヒロトの言葉に、マギーは優しく微笑んで見せた。

 

「そう、大切な思い出なのね」

「はい」

 

 今も複雑な感情でいるヒロトに、マギーは今の聞き手という立場で出来る限りの言葉をかけた。

 ヒロトはその気遣いに言葉は出せないながら心の底から感謝し、微笑む。

 

「今回カザミの力を借りて動画をアップロードさせてもらったのは、俺がもう一度イヴに会いたいと考えているからです。……今までの話は俺の主観で、もしかしたらこの世界の何処かで既にイヴは復活しているかもしれません。もし心当たりのある人がいたら是非情報を頂きたいです」

 

 ヒロトは一度画面に向けて頭を下げる。

 今までの経験から、現時点でGBNの何処かでイヴが復活している可能性は無いだろうという事はヒロト達も良く分かっていたが、目標である『イヴを復活させる奇跡を起こしたい』という話はどうしても突飛な印象になるので、視聴者から見て意図がわかりやすい言葉を伝える必要があると考えたのだ。

 

 マギーはそんなヒロトの意思に対して、敢えて否定的な意見をぶつける。

 

「いい情報がなかったらどうするの?」

 

 マギーの試すような言葉は、ヒロトに以前の会話を思い起こさせるものだった

 答えは当然決まっている。

 

「それでも諦めません。情報がなかった時の事も考えてあります、試行錯誤の余地はありますが」

「草案はあるって事ね、どうするの?」

 

 ヒロトの答えに頷き、マギーは短く分かりやすい単語に変える。

 

「第一次有志連合戦の終盤、光の翼がバグを押し返す様子を見た人はこの動画の視聴者の中にもいるとは思います」

 

 彼の発言はマギーは怪訝な顔をしながら頷いた。

 

「私はあの場で直に見たけど、あの翼がどうかしたの?」

「あれは皆のGBNを守りたいという気持ちが重なった起こり得た奇跡だと、イヴとサラさんの二人が示し合わせることなく同じ見解を述べていました。当時の彼女たちはある程度はシステム側に干渉出来る状態で、俺達BUILD DiVERSはその見解が真実であると感じました。……なのであの時と同じことを意図して起こせたら、きっとイヴにまた会えると考えています」

 

 淀みのないヒロトの説明に対して、マギーは理解する間を置いてから、極めて冷静に言葉を返す。

 

「皆の想いを一つにする。――――きっと簡単な事じゃないわよ」

 

 声のトーンが落ちた、冷徹にも聞こえるマギーの返事は当然の事だった。かつての第二次有志連合戦での対立の光景が脳裏を過る。

 ヒロト達自身もそれが如何に困難を極めるのかは、予想も覚悟も出来ていた。

 

「分かってます。でも、やります!」

 

 マギーの射貫く様な視線に臆することなく、ヒロトは力強く意思を示す。

 そんな彼の瞳に宿った覚悟を見据えたマギーは、今までの重苦しい雰囲気を一転させて、普段通りのテンションで満足気に頷いた。

 

「その意気や良し!私は応援するわ!」

「ありがとうございます、皆さんもどうか協力していただけると幸いです。たくさんの人から支援の意思が上がった後で改めて具体的な方法を説明した動画を上げるので、またその時は宜しくお願いします!」

 

 動画撮影は滞りなく終わりへと向かっている。

 この締め括りで動画を撮り終えるかどうか、4人の間でも散々話し合った、今までの発言では言及していない事が一つあるからだ。即ち、奇跡のリスクについて話すかどうか。

 今までの話には『奇跡』という良くも悪くも目立つ言葉があったが、基本他のダイバーに迷惑を掛けないような内容で上手く誤魔化す事が出来ている。

 

「最後にお伝えします、あの光の翼はバグを押し返した時に、反動も生んでいました。もしかすると今回のイヴの復活に伴い、GBNに予想していない衝撃が及ぶかもしれません。今はそのリスクを回避する手段を思案しています」

「なるほど。――――私は全部上手くいく可能性を信じるわ」

 

 これを隠さずに話そうと決めたのは、最終的にヒロトだった。リスクを隠さず話す事で事前に自分達も懸念していると伝え、後から突かれるかもしれない問題点を先に明示しておく目的があった。

 隠し事は出来得る限りしない事と、例えリスクがあろうとも引かない意思を示す、一種のけじめだ。

 そして隠すべき事は、イヴの最期や当時のヒロトの心情など、言えば身内のトラウマを酷く抉り兼ねない事情。

 

「自分達から伝えられることは、今回は此処までです。――――皆さんのご協力をお願いします」

 

 そうして、動画は締め括られた。

 カザミが動画の録画を切る。

 

 ヒロトとマギーを見守っていた三人が声をかけた。

 

「お疲れ様です。ヒロトさん、マギーさん」

「お疲れさん。二人共」

「伝えるべきことは伝えられただろう。良かったと思うぞ」

 

 三人が揃って労う中、ヒロトは椅子に深々と座りこんで緊張感から解放された。

 マギーも多少は疲れたようで、背筋を伸ばしている。

 

 カザミはそんな二人の様子に、当然だよなー、と笑いながら動画の出来を確認して、満足げに頷いた。

 

「動画、なかなか良いんじゃねぇかな。アップロードしとくぜ。皆後で動画のURL送るから、当てになる人には送っておけよー」

 

 動画の説明欄に書くべき内容は既に用意してある。

 カザミの合図にヒロトは思わず一旦制止しようと思ってしまうが、首を振ってその弱気な意思をか掻き消した。

 

「ああ、やってくれ」

「おうよ」

 

 カザミは慣れた様子でウィンドウを操作し、動画のアップロードを完了させた。

 

「まぁ、動画上げたって言っても数秒で真っ当な反応は来ねぇしな。暫く待つしかねぇな」

「確かに。いい反応が来るといいですけど、待つしかありませんからね」

 

 パルは少し不安そうにカザミの意見に賛同する。

 マギーはそんな男三人の様子を見ながら、クスリと笑みを零した。

 

「ガンダムXが好きな人は良い反応くれそうねぇ」

 

 絞られた条件にカザミは一瞬ポカンとするものの、マギーの意図を察してニヤリと笑う。

 

「プラトニックなラブって奴が好きな人多そうだよな、ガンダムXのファンは」

「ガロード・ランとティファ・アディールの関係性、いいですよね。僕もちょっと憧れます」

「……」

 

 『機動新世紀ガンダムX』は、ストーリー全体を通して典型的なボーイ・ミーツ・ガールと成長を描いた作品であり、その主人公とヒロインであるガロードとティファの関係は、数多くのガンダムシリーズにおいても指折りの名カップルとして広く知られている。

 そういった作風を好む層には、確かにヒロトのイヴへの想いは少なからず胸を打ちそうだ。

 遠回しに揶揄われたと理解したヒロトは、皆から顔を逸らして沈黙を貫いた。その表情は想像するまでもない。

 

「いい大人が多いのよな、あの作品。大体のキャラの年齢設定凄く若いのが違和感あるようでいて、戦後の恐ろしさが垣間見えるというか」

「ニュータイプの解釈も宇宙世紀と違ってて面白いですよね」

「ほう、話せることがいろいろとあるのだな」

 

 思わずカザミとパルがガンダムマニアトークに突入する中、メイが興味を示して参入していく。

 賑やかになってきた現状に、注目の眼が逸れたとヒロトが安堵して視線を戻すと、綺麗なくらいににこやかな表情でマギーが覗き込んできた。

 

「我が道を走るのも、時には大事よ」

 

 ウフフ、と楽しそうに笑いながらマギーは立ち上がり、ファッションモデル宛らの歩みで飲み物を取りに向かう。

 

「我が道を走る、か」

 

 今はまだ駆け出したばかりで道は長く続いている。

 それでも、進んでいく。その決意を反芻したヒロトは、取り敢えずは揶揄われない様にと、仲間達のマニアトークに参入していった。

 

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