また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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意志の連鎖

「調子良くねぇなぁー……」

 

 ELダイバーイヴの情報収集・復活援助を求める動画をアップロードした日の夜の事。カザミは自室で寝ころびながら自身の動画のコメント欄を読んで唸っていた。

 カザミが見る限り、状況は芳しくない。

 

「こいつら好き勝手言いやがって……!」

 

 コメント欄を見返して思わず舌打ちしてしまう。少なからず好感触なコメントはあったが、大半が酷い物だ。

 

『妄想乙』

『このチャンネルとは動画の趣旨ずれてんだろ』

『見たけど復活手段カルトじみててワロタ、創作と現実の区別くらいつけろwwww』

『こんなんどうでもいいからバトル動画あくしろよ』

『質、落ちましたね(笑』

『ELダイバーにガチ恋とかwwwwキモwwww』

『妄想男に付き合うマギーさんも大変ですね』

『0人目のELダイバー(激寒(激寒』

『要は死んだんだろw』

 

 コメント欄の流れは一番最初に騒ぎ始めた数人が特に重要だとカザミは考えている。今回は巡り合わせが悪かったようで、アンチ側のダイバーに勢いが付いてしまったようだ。

 ここ最近はバトル動画を上げる暇もなく、更新も滞っていた。視聴者の期待を裏切ったと言われれば、流石に全否定はできない。多少の文句コメントはあっても我慢するしかないだろう。

 それでも、此処まで酷いコメントを残される謂れはない。

 

「人が真剣に話してる事すらわかんねぇのかよ!」

 

 ふざけている様な動画にはしていない。なるべく分かり易い様に話せるところを話した。ヒロトも真摯に情報を求め、助けを求めていた。

 携帯を放り出し、畳を拳で叩いたカザミの気は晴れなかった。

 

「リクもコメント残してくれてるのに……」

 

 BUILD DIVERSのリクは動画をアップロードして1時間以内にはヒロトの発言が真実であると認め、全面的に支援するとの旨が書かれたコメントを残してくれていた。

 ELダイバーを一番初めに助けた人からの応援コメントが在る状況でこの反応、アンチは動画や他のコメントをちゃんと見ているのだろうか?とカザミは疑わざる得ない。

 今日動画をアップロードし、そう時間が経たないうちに再生数はなかなかの数字を出ている、広く発信するという意味では調子は一応良いくらいではあるが。

 

「あーもー!凹んでもしょうがねぇよなぁ!」

 

 カザミはやる事はまだいくらでもある、と考え直して己を奮起させる。

 風呂でも入ってさっぱりするか、と思ったカザミはのっそりと身体を起こして携帯を拾いなおす。

 

「メッセージ?おお!!キャプテン・ジオンからじゃねぇか!!」

 

 魂の師匠からのメッセージに思わずカザミは大声を出してしまう。

 あの人ならば話を聞いてくれるかもしれない、とメッセージを送った甲斐があった。

 急いで確認するも、内容はごく短い物だった。

 

「今は耐えよ。……って、あれ? こんだけか?」

 

 何の話だろうか、と一瞬考えるが、きっとコメント欄の荒れ具合をキャプテン・ジオンも憂慮してくれているのだろうと思い当たる。

 合点のいったカザミは短くも熱い激励にくぅーっと感嘆の声を上げる。

 

「熱い激励感謝するぜ!!!!キャプテン・ジオン!!!!」

 

 そのあまりの声量に階下の家族から『うるせぇ!』と怒声が飛んできたのはその直後の事であった。

 

◆◆◆

 

 そして次の日も時間を示し合わせて、4人はミッションカウンターに集合していた。

 挨拶もそこそこに、お互いの状況報告を行う。最初はカザミから。

 

「じゃあ、俺から。動画の再生数は順調に伸びてるぜ、まぁ、コメントは正直嫌な流れだが――――」

 

 皆逐次動画の状態は確認している筈なので、敢えて隠す事もせずカザミは思うところを述べた。

 三人も同じ感覚を覚えており、多少落胆の雰囲気を放っていた。

 空気が暗くなると予想していたカザミは、その流れを断ち切るかの様に明るい話題へと話を持っていく。

 

「だが!あのキャプテン・ジオンから激励のメッセージが昨日の夜届いた!届く人には確実に届いているぜ!以上!」

 

 ヒロトはその言葉に嬉しそうに頷き、後を繋げる。

 

「俺からは、昨日の解散間際にも話したけど、リクから返事が来たこと。夜にAVALONのカルナさんからもいい返事を貰っている。他にもロータス卿や知らない人から、まぁ数は少ないけど。あとモビルドールもコーイチさんに色々話を聞きながら設計している段階だ」

「そうか。お前の腕なら問題ないとは分かってはいたが、実際に順調だと聞けたのは良かった」

「……ああ、このまま進めていく。情報は駄目だった、報告はそれだけ」

 

 モビルドールの進捗を聞いたメイから微笑みが零れる。

 初対面の頃と比べると遥かに感情表現が豊かになっているメイに、三人は感心すると同時に彼女と同じく微笑みを浮かべる。

 続いてパルが手を上げた。

 

「僕にも、良いメッセージが来てます。と言うより、物凄く乗り気で既に復活させる方法に興味を持ってくれているみたいなんですよね。……いろいろまだ詰めた方がいいとは僕も思うんですけれど、触りだけ伝えていいですか?」

「ふーん?まぁ、そこまで勢いある人なら、話してもいいんじゃね?」

「俺もいいと思う」

 

 パルの言う良いメッセージというのは無論兄からの物だった。

 イヴ本人に興味を示したというよりも、『ヒロトからイヴへの強い愛を感じた』と、相変わらずだが兄らしい独特な感性からの応援ではあったが、何にせよ心強い応援であることに変わりはない。

 三人の同意を確認してパルは頷き、そのまま別の話題へと繋げていく。

 

「あ、あと、クアドルンさんの翼の様子、そろそろ見に行きたいなぁって」

 

 控えめな提案だが、他の三人も気にしている内容ではあった。

 

「確かに、窮屈になってるかもしれないしな」

「以前はまだ余裕があるとは言っていたが、そろそろ外すべきかもしれないな」

「私も同意見だ、パル他に何かあるか?」

「いえ、僕からは以上です!」

 

 パルは三人と意見が一緒だったことに喜び、尻尾がその感情を表現している。

 最期はメイの報告で締め括られる。

 

「最後は私だな。……ELダイバーの大半から既に返事が来た。概ね色よい返事をもらっている。ELダイバーにも勿論其々の個性があるからな。全員から、とはいかなかったが」

「……他人事じゃねぇ、ってELダイバーの中には思う奴も居るだろうしな」

「ああ。返事の中にはそういった考えのELダイバーも居た」

 

 保護されてない状態で消滅してしまえばどうなるか、というのはELダイバーからしてみれば背筋が凍るような話であるが、同時にイヴ姉さんの復活が上手くいけば、一転して福音を齎す話になる。

 賛同しておいて損はない、そう考えるELダイバーが大多数であった。

 カザミの意見にメイは頷き、話を続ける。

 

「報告は以上で、次は提案だ。昨日皆と別れた後にママから言われたんだが――――」

「お!妄想ダイバーズ!」

「ぁあん?誰だてめぇ、おい待てこら!」

 

 急に挟み込まれた言葉に四人で反応するが、声を上げたと思わしきダイバーはさっさとその場を立ち去ってしまった。

 カザミは思わず追いかけようとするが、ヒロトとメイが同時に腕を掴んで止める。

 

「相手にするな」

「ヒロトの言う通りだな。あの手の輩はコメント欄にもいただろう」

「っけ!わかったよ」

 

 パルはハラハラと事の成り行きを見守っていたが、カザミが落ち着いたのを見て安堵する。

 メイは何事もなかったように話を続ける。

 

「ママから言われたのは、皆で息抜きした方がいい、との提案だ」

 

 マギーからのアドバイスに、カザミも頷いた。

 

「最近頭使ってばっかりだったしな、賛成」

 

 今のでイライラしたし、とは態々言わなかった。

 パルも思わずため息を吐く。

 

「エルドラに行きましょうか、翼の様子も見れますし、息抜きになりますから」

「私もパルと同意見だ。それで決まりでいいか?」

「ああ、行こう」

 

 ヒロトも賛同して、エルドラに行くことになった四人はあの路地裏へと向かい始めた。

 

「そういや、マサキは何だって?」

「……皆の意思を束ね、大いなるうねりを共に乗りこなそう。今は耐え忍ぶ時期だが、熊の冬眠期間に比べれば遥かに短い筈だ、ってメッセージが返ってきた」

「いや良く分かんねぇよ!しかもまた熊か!……まぁ、ともかく協力してくれるって事か」

 

◆◆◆

 

 4人が路地裏に向かい、少し話しながら待っていると黒い背景のウィンドウが出現する。

 

「ふふっ、今思ったんですけどこの黒いだけの画面、クアドルンさんの身体のどこかなんですかね?」

「ああ、なるほど。そうかもしれないな」

 

 フレディが呼んでくれる時は顔がはっきり見えるが、クアドルンに呼んでもらうと毎度なぜか真っ黒な画面になってしまう。自分の思い付きで笑うパルを見ながら、ヒロトからも笑みが零れた。

 

 ウィンドウにカザミが触れると転送が始まり、4人はエルドラへと辿り着く。

 ――――水上都市セグリ。当時のエルドラの文化を象徴していたであろう、かつての都市が存在した場所にミラーグの山は降りていた。

 

「毎回、お休みのところすみません」

 

 転送されてすぐにパルがクアドルンにペコリと頭を下げた。

 クアドルンはまるで気にしない様子で楽な姿勢に戻り、深みのある落ち着いた声で4人を迎え入れた。

 

「大した手間ではない。……存分に羽を伸ばすと良い」

「ありがとうございます!」

 

 ヒロト達四人の呼び出し手がフレディとクアドルンの二人に分かれたのは、アルスとの決戦を終えて暫く経った後の事だった。

 かつてセグリが在った場所、今はミラーグの山がある場所からフレディの故郷までは距離がある。ガンプラ程の便利な移動手段もない中で、エルドラに行く度にフレディに迎えて貰うのはヒロト達としても心苦しくあった。祭壇を自分の住処としているクアドルンが呼び手として名乗りを上げてくれたおかげで、4人はふと気分が赴いた時にもエルドラに行くことが出来るようになったのは2か月程前になる。

 祭壇の周囲を一瞥して、クアドルンは少し残念そうに確認してくる。

 

「今日もマサキは居ないのだな」

「マサキさんは、まだ本調子では無いですから。でも、彼ならすぐ調子を取り戻してまたここに来ると思います」

「時間はある、焦るなと伝えておいてくれ」

「はい、必ず」

 

 クアドルンの温かい言葉をヒロトは嬉しく感じた。

 パルはクアドルンの話が終わったタイミングで、ここに来た目的の一つを話し始める。

 

「翼の調子はどうでしょうか?」

「悪くない」

「窮屈になってはいませんか?」

「問題ない」

「確認してもいいですか?」

「……好きにしろ」

 

 ぶっきらぼうに答えたクアドルンはそれきり目を閉じて動かなくなってしまった。

 種族や外見の話を抜きにすれば、まるっきり偏屈な爺さんと健気な孫の絵だな、とカザミは思った。

 パルはそんな感想を抱かれている事に気が付かず、他の三人に向かって声をかける。

 

「確認は僕だけでも出来ますから、皆さんは先に村に向かってください」

 

 パルの言葉には気遣いもあるが、自分がやりたいという彼の意思も同時に自然と見えた。

 三人はパルの意思を汲んで頷く。

 

「じゃあ、先に行ってるな」

「ではまた近いうちに来ます、クアドルンさん。パル、後は頼む」

「待っているぞ」

 

 パルを残して三人はガンプラに乗り込み、フレディの故郷へと足を進めた。

 

◆◆◆

 

「みなさーん!」

 

 ガンプラで移動して村の中に着地させると、フレディがまっしぐらに駆け寄ってヒロト達を出迎えた。

 

「よう、フレディ。皆の調子はどうだ?」

「変わりありません!村の皆も元気です!」

 

 嬉しさを表現するフレディの尻尾は、パルよりも感情表現が豊かであった。

 相変わらず元気一杯の様子に、三人とも現実の実家に帰ったかの様な安心感を覚える。

 

「今日はパルさんが居ないんですね」

「ああ、いや、来てはいるんだ。ただ翼のメンテナンスがあるから、それが済んだら来る」

「なるほど、そうなんですね!」

 

 ヒナタがエルドラに来る事は稀だが、普段は4人揃って来る事が当たり前と認識しているフレディにとっては当然の質問であった。ヒロトの答えに納得したフレディは、4人揃っている事に嬉しそうに笑う。

 

「うちに行きましょう!歓迎しますよ!」

「お邪魔させてもらうとするか」

 

 カザミはフレディの誘いに頷き、2人を促してからついて行く。

 先導するフレディはフンフンと鼻歌を口遊み、独特なリズムに合わせて彼の尻尾が左右に揺れる。

 

「カザミさんが来るとマイヤ姉さんが一日くらい怒らなくなってすごく助かります!あ、もちろん皆さんが来てくれただけで僕はすっごくうれしいですよ!」

「――――へぇ」

 

 フレディのご機嫌の理由が明かされると、鼻歌のテンポが更に上がる。

 一方カザミの方は気が気ではなくなった、ヒロトの方から意味深な視線を感じたからだ。

 

「んだよ」

「何も言ってないじゃないか」

「へぇ、とか言ったじゃねぇか」

 

 カザミが食って掛かる様子に、ヒロトは表情を崩さないまま淡々と答える。

 

「感心しただけだろ」

「何にだよ」

 

 居心地悪そうなカザミに、ヒロトはつい笑みを零しかけるが、持ち前の理性でなんとか押し留める。

 

「言っていいのか?」

「……勘弁してください」

「何か言う事があるんじゃないのか?」

「これからは控えます、はい」

「よし」

 

 小声でいろいろ言葉を抜かしてカザミとヒロトは会話したが、二人はこれ以上なく通じ合っていた。

 メイはそんな男子二人の会話についていけず、首を傾げると。

 

「フレディ、マイヤとカザミについてくわ――――」

「だから蒸し返すなって言ってんだろうが!」

「わぁ!?皆さんどうかしたんですか!?」

「いや、特に何もないよ」

 

◆◆◆

 

 ヒロト達がエルドラに向かい、息抜きを始めた頃。

 BUILD DIVERSのフォースネストにて、コーイチはカザミがアップロードしたヒロトの動画のコメント欄を確認し、溜息を吐いていた。

 

「僕たちだけじゃダメか……」

 

 さてどうしようか、とコーイチは思案する。

 事前にモビルドール・イヴの制作依頼が来た時、ELダイバー本人に会わせず、画像のみを送ってきたことを不思議には感じていた。

 彼女の隣に写っていた今より少し幼い顔立ちのヒロトを見て、その時は何か深い事情があるのだろうと詮索はしなかった。少し時間が経ってヒロト本人からモビルドール制作に関する質問を受け、続いて件の動画を知り、――――全ては繋がった。

 『ツカサとヒロトを絶対に会わせてはならない』という、メイからの一文が送られて来た時は釈然としなかったが、今ではその意味が良く分かった。確かに徹底した対処が必要だろう。

 

 カザミの動画はどうやら妙に粘着質なダイバーに目をつけられている様だ。

 肯定的に捉えるコメントに一々反対意見をぶつけている辺り、随分と手間の混んだ、贅沢な時間の使い方であった。

 しかもそれが、一人ではなく複数人。配信動画が一億再生を突破している事でも有名なカザミの知名度が、今回に限ってはデメリットとして強く出たようだ。

 

 『その情熱をもっと有意義に使えば良いのに』と内心で呆れ果てるが、それを聞くような相手とも思えない。そもそも、そんな相手であるならば、こんな贅沢な時間の使い方はしていない筈だ。

 ただ、ヒロト達の想いは確かに伝わってくる。今回の件は何としても上手くいって欲しいと思う位には。

 

 考えに耽っていると、急に扉が大きな音と共に開け放たれる。突然の事にコーイチは驚いて、椅子から転げ落ちそうになった。

 入ってきたのは見るからに興奮状態のモモと、彼女とは対照的に落ち着いた様子のアヤメだ。

 

「コーイチさん!」

「びっくりするなぁ、もうちょっと静かに開けてよ、モモちゃん」

「そんな事はどうでもいいの!見てよこれ!」

 

 空間上に表示されたディスプレイを、モモはコーイチの顔面に叩き付ける勢いで押し付ける。

 

「近いって。……ああ、これか。今僕も見てたよ」

 

 押し付けられたディスプレイに表示されているのは、ちょうどコーイチが見ていた動画のコメント欄だった。

 

「どうにかしてください!」

「いやどうにかって言われても、この手の人は言っても聞かないよ、でも一応――――」

 

 手段は考えている最中、とコーイチは繋げようとするが、モモの表情を見て言葉を続ける事は出来なかった。

 

「こんなひどい事言うなんて!この人達どうかしてる!絶対おかしいんだから!」

 

 潤んだモモの瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちる。

 コーイチがディスプレイをよく見てみると、その中心点は『要は死んだんだろw』と心のない一言が書かれたコメントだった。

 

「――――そっか、サラちゃんと重ねちゃったんだね」

「うん……」

 

 ヒロトから動画に関するメッセージがリクに送られた直後、BUILD DIVERSはメンバー召集の上でリクから全員に説明があった。ヒロト達の現状について何が起こっていて、本命がどこにあるのかという内容だった。リクはその説明の際に『死んだ』という言葉は一切使っていない。明朗快活な彼にしては歯切れが悪く、『ヒロトとイヴさんは会う事が出来ない状況にある』と、何とか言葉を紡ぎ出している程であった。当時のリクの心境としては、ヒロトとイヴの現状に自分とサラを重ねてしまい、「死」や「消滅」などの表現に強い抵抗感があったのだろう。

 

 心無い言葉は、人の心を酷く傷つける。

 

「うぅぅぅぅぅ」

 

 泣きじゃくるモモを、アヤメは宥めながら抱きしめる。

 

「大丈夫、きっと上手くいくわ」

 

 アヤメはモモを慰めながら、彼女の頭を優しく撫でている。アヤメとしても複雑な感情を抱いているのは同様で、それでも自分まで取り乱す訳にはいかないと気丈に振舞っているが、不意に不安げな眼差しでコーイチに縋る。

 そんな二人の様子を見て拳を握り締めるコーイチ。仮想空間だと言うのに、その掌から酷く痛みを感じた。

 

「――――ごめん、ちょっと出てくるね」

 

 コーイチはリクの様に積極的に行動を起こすタイプではない。冷静な思考と広い視野から物事を把握した上で最適な行動を選ぶ慎重派である。今回の件についても、冷静な彼らしく『時間を空けて様子を見る』という考えがあったのだが、今ではその気がさっぱりなくなった。

 ヒロト達も同じだ。動画の様子から察するに、彼らは自分達以上に辛い思いをしているに違いない。

 

 やれる事はやるべきだ、彼等と同じ様に。

 それに、――――目の前の2人が辛い思いをしている現状に、コーイチは黙っている事が出来そうになかった。

 

◆◆◆

 

 ヒロト達がエルドラに向かい息抜きを始めた、ほぼ同時刻。

 AVALONの談話室のソファに座っているカルナにエミリアが近寄ってきた。

 

「カルナ、送ってくれた動画、今見たわ。私も是非手伝いたいとは思うけど……どうしたのそんな顔して?」

「――――エミリアさん。俺、今気づいたんですけど。……いやもっと早く気が付けよって話なんですが」

 

 深刻な表情を浮かべるカルナに対しエミリアは何事かと心配する。

 カルナは言いたい事が纏まらないのか少し黙ったが、やがて重苦しそうに口を開いた。

 

「第一次有志連合戦の後に、――――このイヴって子は消えたんですよね?」

「そうね。そう言っていた様だけど?」

「でもあいつ。――――ヒロト、第二次有志連合戦に出てるんっすよ」

 

 カルナに言われた言葉により、そういえばそうだったとエミリアは記憶を探って思い出した。あの頃はヒロトのログイン頻度が唐突に下がっていたので、いつの間にか居ないと思い込んでいたらしい。

 その辺りまで彼女は冷静に思い出しているだけだったが、その記憶が今カルナの言わんとするところ克明に告げた。

 

「――――あぁ!?まさかっ、何て事……!」

「エミリアさん、もっと俺らに出来る事思いつきません?こんなんじゃヒロトに合わせる顔がない……!」

 

 第二次有志連合戦のあの時、カルナは事情が分からないなりに親身に接していたつもりだったが、結局はヒロトに追い打ちを掛けていただけかもしれないと気づくに至った。

 エミリアもAVALONのあの時の立場そのものが、ヒロトを追いつめていた可能性に気が付いた。

 悪意は誰にもなかったが、だからと言ってそうだったのかと、それだけで済ませる訳にはいかない。例えヒロトに自分達を責める意思がなくとも、これでは仲間である彼に申し訳が立たない。そんな2人が覚えた葛藤は全く同じだった。

 

「2人とも、どうしたんだ?」

 

 2人が閉口してしまいながらもどうするかと思案している最中、GBNのチャンピオンでありAVALONの隊長、クジョウ・キョウヤが談話室に入ってきた。

 キョウヤは副官の2人が悲痛な面持ちで考え込んでいる様子を察して、彼等が放つ雰囲気からすぐに声をかけた。2人を良く知っている彼をして、明らかに尋常な様子ではなかったからだ。

 

「隊長!ヒ――――」

「どうした?……本当に何があったんだ?」

 

 ヒロトが、何と言えばいいんだろうか。カルナは言葉に詰まった。彼にとってキョウヤは頼りがいのある隊長だと心の底から思っている。第二次有志連合戦の折りもキョウヤの為に戦っていた。

 しかし今から話す事は、言い方を間違えてしまえばキョウヤとヒロトの両者を同時に傷つけかねない。

 

 普段ならば容赦なく意見を述べる2人の副官が、珍しく言葉に詰まっている様子を見ていて、キョウヤは徒ならぬ事態だと見解する。

 エミリアさえも未だに言い淀んでいる辺り、事の深刻さは更に増していると確信するに至った。

 

「二人とも、とりあえず僕の部屋で話を――――」

 

 聞こうか、と勧めようとした時、談話室の扉が大きな音を立てて開かれた。

 思わず3人が視線を向けると、普段から門番の役割に徹しているフォースメンバーが、何かから逃げて来たかのように青ざめた表情で駆け込んできた。

 キョウヤが何事かと訊ねる前に、フォースメンバーの方が声を張り上げる。

 

「隊長!BUILD DIVERSのコーイチって人が隊長に会わせろって!」

「コーイチ、BUILD DIVERSの?構わないが、何も直接呼びに来ないでいいんだぞ」

「いやそれが、怖い位に凄い剣幕で!てかもう入って来てるんですよ!」

 

 何?とキョウヤが驚いて聞き返しそうになった時だった、開け放たれた談話室に件のコーイチが足を踏み入れる。

 幾ら何でも不躾が過ぎると、眉を顰めたエミリアが糾弾しようとしたが、コーイチを見た瞬間に口を噤んでしまう。

 何故ならば、

 

「突然の来訪失礼致します。キョウヤさんに火急のお話がありまして、無礼を承知の上で押し入らせて頂きましたが、今お時間を宜しいでしょうか?――――出来れば、其方のお二人にも同席して頂けると非常に有り難いです」

「……すぐ部屋に案内しよう」

 

 感情を感じさせない程に冷徹な表情で眼鏡を直すコーイチの眼光が、あのキョウヤですら気圧される程の圧と化して彼を射殺す程であったから。

 

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