今回はついにあの人が話に加わっていきます。
-土曜日・夜・原村家-
カチカチ
対局が終了し休憩のために椅子の背もたれにもたれる。一度麻雀に集中してしまうと、ずっと同じ態勢になってしまい肩がこってしまう。だから合間にこういった休憩をはさむのだ。
(ふ~。今日もフェザーダークさんと打ちました)
引っ越しのためにしばらく顔を出せないと言っていたが、予定より早く落ち着いたらしい。昨日からネット麻雀を再開したようで、さっきも彼と打っていた。引っ越しをしてもあの華麗な打ち筋はぶれてはおらず、さすがはフェザーダークさんと言ったところだ。
一息つこうと紅茶を飲んでいたとき、一通のメールが届いた。
『From:フェザーダーク』
『To:のどっち』
『件名:お久し振りですね』
『お久し振りです。引っ越しの影響で少し留守にしていましたが、今日からはいつも通りネット麻雀を再開します。これからもよろしくお願いします。
さて、今日の対局ですが…
…とした方が宜しいかと思います。』
恒例の彼との反省会。この反省会がなければ、私もここまで強くなることはなかっただろう。自分の麻雀を評価してくれる人が一人いるかいないかでは大きな違いがある。自分では気づかないミスを他の人に指摘してもらうことで、ミスを少なくし腕をあげることができる。
(やはり一人より二人ですね…) カチカチ
お互い指摘し合う者の存在に感謝しながら返事を打った。
-同時刻・落合家-
『From:のどっち』
『To:フェザーダーク』
『件名:Re:お久し振りですね』
『こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
では、今回のご指摘ですが…
…と私はこのように考えました。』
私の送ったメールにすぐさまのどっちから返信が来た。もちろん内容は私の指摘の指摘。この頃はこういうのが多い。
(さすがはのどっち。私の指摘もあまり意味はなかったみたい)
麻雀の打ち方は人それぞれ。一人一人違う考えを持って打っている。色んな打ち方を知れば自分の打ち方も幅広くなり、それが結果として勝利へと導く。特にのどっちの打ち方はその勝利への最短ルートを歩いてるようで、とても参考になる。
そんなのどっちに私はある興味を持った。
(そういえば、のどっちってどんな人だろう)
ふと疑問に思ったのだ。これまで何年も一緒にネット麻雀をやってきたが、お互いに麻雀の話しかしたことがなかったからだ。
(う~ん。気になる…)
私はこういうのが一度気になるとどうしても気になってしまって仕方がない。小さい頃はそうでもなかったが、茜ちゃんの影響だろうか、あらゆることに興味を持つことが多くなった気がする。
断られるかと不安になったが、勇気を振り絞って、のどっちにメールを送った。もちろん、失礼のないように…。
-原村家-
(おや?またメールですか) カチカチ
『From:フェザーダーク』
『To:のどっち』
『件名:好きな動物は何ですか』
(………はい?)
『今まで何度も対局してきましたが、お互いのことを知らな過ぎると思います。
そこで、まずは好きな動物からスタートしましょう。
そういうことでのどっちさん、あなたの好きな動物はなんでしょうか?私はフクロウが大好きです。愛らしいあの目が本当に大好きです。』
(い、いきなりどうしたのでしょうか…)
これまでフェザーダークさんとは麻雀の話しかしてこなかった。それが急に好きな動物の話へ。本人はお互いのことを知らなすぎるからと書いているが、ずいぶんといきなりだ。
(まあ、好きな動物ぐらいなら…)
この程度なら教えても構わないだろう、そう思って返信する。
-落合家-
(あっ、来た)
返事が来るか心配していたが、大丈夫だったようだ。しかしまだ油断はできない。麻雀とは関係のないことを聞いたのだ、ふざけていると思われてのどっちが怒ったかもしれない。だから返信の内容しだいでは最悪の事態に陥る可能性もある。
(天国か地獄か…)
ドキドキしながらメールを開いた。
『From:のどっち』
『To:フェザーダーク』
『件名:Re:好きな動物は何ですか』
『好きな動物ならペンギンです。『エトピリカになれなかったペンギン』という絵本を知っていますか?その話の主人公の「エトペン」という名前のペンギンが特に大好きです。
フェザーダークさんはフクロウが好きなんですね。私はあまりフクロウのことを知らないのですが、フクロウはどうやって首を回しているのでしょうか?360度回るなんて不思議でなりません。是非教えていただけませんか?』
(えーっと、良かった…のかな?)
意外にも、結構この話題に食いついてきた。正直、良くて軽く流される程度だと思っていた。
まあ、何にせよこの話題を選んだのは正解だったようだ。メールの内容からして、どうやらのどっちはまだまだこの話に付き合ってくれるらしい。
(これでのどっちともっと仲良くなれるといいな)
そんな期待に胸を膨らませながら、フクロウの仕組みについて一生懸命語った。
私達の好きな動物話は夜遅くまで続き、なんとその話の中でのどっちが奈良に住んでいることが分かった。世界は意外と小さいものだ。
(そういえば明日、お手伝いだった…。朝早く起きれるかな…)
-日曜日・夜・落合家-
いつも通りネット麻雀を終えて、反省会を行う。昨日の一件のおかげで一気に距離が縮まり、反省会の中でも、より突っ込んだ話ができるようになった。数年も一緒に麻雀をやってきたとはいえ、なんだかんだ言って素性の知らない相手だったので、これまでは少し遠慮してしまっていた。そのせいで言いたいことを言わないこともあった。だが、今はお互いに遠慮なく意見交換ができている、と思う。少なくとも私は思っている。
『From:のどっち』
『To:フェザーダーク』
『件名:今日もお疲れ様でした』
『今回の対局ではミスが目立ちました。特に東4局の振り込みはあなたらしくないと思います。場には…
…私の指摘は以上です。』
前回よりも少し辛口の評価。今日の疲れがでたのか、私らしくないミスをしてしまった。
しかし、このメールで良いことも分かった。のどっちの指摘が前より詳しくなった。これがお互いを知った効果の表れなら、昨日のことは有意義だったと言えよう。どこか遠慮の入った意見より今の意見の方がずっと参考になる。いや、前から参考になったのだけど。
『From:フェザーダーク』
『To:のどっち』
『件名:Re:今日もお疲れ様でした』
『いつも有難うございます。まだまだ精進が必要ですね。
あと、すいませんが今日はこの辺りで失礼させていただきます。
それではおやすみなさい。』
短い返信をしてパソコンを閉じる。本当はもっとたくさんメールをしたいのだが、今日の疲れや明日の学校があるので早く寝ることにした。
私は明日の用意を済ませて寝床についた。
-月曜日・夜・原村家-
『From:フェザーダーク』
『To:のどっち』
『件名:お会いしませんか?』
『今日は友人と麻雀を打ちました。ネット麻雀も楽しいのですが、やはり現実で打つ方が楽しいです。
そこでのどっちさん、一度お会いして麻雀を打ちませんか?確か奈良にお住まいだと仰っていましたよね?ご存知とは思いますが、私もです。
次の日曜日に○○という雀荘にその友人と麻雀を打ちに行くのことになったのですが、是非のどっちさんも一緒に来ませんか?もちろん嫌なら断ってくれて構いません。どうでしょうか?』
(一緒に麻雀を打ちませんか…ですか)
フェザーダークさんからの折角のお誘いだが、ここは断っておくことにする。彼のことを疑っているわけではないが、万が一、ということもある。それに初対面の男性と一緒に話すなんてどうしたら良いか分からない。そもそも父がこの事を許すはずがない。
(ごめんなさい…)
「申し訳ありません、っと…」
断りのメールを送る。送り終わった後に、これで良かったのかと少し後悔したが思い直す。ネット麻雀がある限り、いつでも会えるのだから、と。
『From:フェザーダーク』
『To:のどっち』
『件名:Re:Re:お会いしませんか?』
『そうですか…。残念です…。気が変わったら連絡してください。』
-火曜日・阿知賀女子・一年教室-
キーンコーンカーンコーン…
今日の授業もいつものように終わった。毎日毎日同じことばかり繰り返している気がする。もちろん、授業が退屈だとか、学校がつまらないとかそういう訳ではない。先生方はとても熱心に教えて下さるし、学校だって楽しい。しかし何か、何かが物足りない気がした。
「蒼空さーーん」
窓の外で穏乃が廊下を駆けて行った。向かったその先には、一人の女性。確かお名前は羽暗蒼空先輩。この前麻雀部に勧誘された時を最後に言葉を交わしていない。こういう言い方をすると、さも仲違いをしているように思えるかもしれないが特にそういったことはない。仲違いというよりは、私が一方的に彼女達を避けているだけと言う方が正しいだろう。
今も、廊下で話す二人が早く移動しないかと教室の物陰から窺っている。
(なぜ私がこんなことを…)
私の教室は穏乃の教室よりも靴箱の手前にある。いつもなら穏乃の教室の前を通らずに済むので、穏乃と出会わずに帰れるが、今は違う。二人は靴箱の前で何かを話しているのだ。これでは穏乃達に見られずに帰ることはできない。
あの一件以来、どうも穏乃達を避けてしまう。自分はこういうことをしないタイプだと思っていたが、違ったようだ。
(どうしたものでしょうか…)
「原村さん?」
「は、はい!!」
後ろからクラスメートに声を掛けられ、驚いて少し大声をだしてしまった。周りの人達は足を止め、何事かとこちらに視線を向けた。注目されることには慣れているのであまり恥ずかしくなかったが、周りが少しざわついてしまった。そのせいで、今一番気づかれたくない人に気づかれてしまった。
「和~!」
穏乃が私のもとに駆け寄った。それと同時に周りで止まっていた人達も再び動き始めた。
「和!久し振り…って前にも言ったか」
穏乃はエヘヘと手を頭の後ろに回して照れている。私が麻雀部の誘いを断ったことを全く気にしていないようで、いつもの穏乃だった。
「あれ、原村さん?」
穏乃の後ろから羽暗先輩がやってくる。前も思ったが「蒼空」という名前どおりの綺麗な空色の髪と瞳だ。
その美しさに見とれて、暫く先輩の顔を見つめていると、だんだんとその顔が赤くなっていった。
「な、何か顔に付いてるかな?」
先輩はペタペタと自分の顔を触って確かめている。
「いえ。何も付いてませんよ。ただ、綺麗な髪と瞳だなと」
そう言われた先輩はきょとんとした後、『ありがとう』と言って手を戻した。
「そういえば挨拶が遅れました。こんにちは羽暗先輩」
初めて出会った時と同じようにお辞儀をする。あの時との違いは言葉だけだ。
「こんにちは原村さん」
続いて先輩もお辞儀をする。これも前と同じだ。
「ねえ、和!今から部活に行くんだけど、和も来ようよ!」
穏乃はいつもの無邪気な笑顔で私を誘った。その顔につい甘えてしまいそうになるがぐっと堪える。今麻雀部に入ったとしても、来年の春にはもう私はいないのだから。
あの時、赤土さんが阿知賀を送り出した後、部室で泣いていた皆の姿がどうしても浮かんでしまう。玄さんも穏乃も憧も泣いていた。
もし私が引っ越しのことを伝えたとする。そうすれば、私が引っ越す時もきっと彼女達は笑って送り出してくれるだろう。そして私が去った後に泣いてくれるのだ。
それを考えると引っ越しをしなければならない自分が、そして何も出来ない自分が嫌になった。
「それは前も言った通り断ると言ったはずです」
(本当は入りたい…。今すぐ一緒に麻雀を打ちたい…)
思ってることとは反対のことを言う。私には自分を偽るしかできなかった。
「そうだよね…。気が向いたら入ってね和!」
穏乃は一瞬残念そうな顔をするが、すぐに元の笑顔に戻る。そして先輩を連れて部室の方へと歩いて行った。
(ごめんなさい、穏乃…)
私は靴を履き替え家路についた。
-放課後・原村家-
家に帰っても頭には麻雀部のことしかなかった。勉強にも全く手がつかず、さっきから机のノートが開いたままだ。
このまま座っていても埒が明かないので、気分転換にネット麻雀をすることにした。
(この時間でもフェザーダークさんはいるのでしょうか)
今までこんな早くにフェザーダークさんを見たことはない。いつも深夜かその前といったところだ。
無性に彼を見つけたいと思い、ダメ元でフェザーダークさんを探してみると、意外にもすぐに見つかった。
(…)
『あなたにとって、麻雀とはなんですか?』カチカチ
気が付くと私は彼にメールを書いていた。手が勝手に動き、本文を打つ。一文が完成すると、私の手はマウスへと向かい、カーソルを送信ボタンに合わせた。
『送信』カチッ
(はっ、私は何をしているのでしょうか!)
自分の行動が信じられなかった。
(手が勝手に動く、そんなオカルトありえません!)
無意識のうちにメールを送った。それが何故だか分からない。指が勝手に動いてメールを送ったのだ。
ピッ
返信が返ってきた。あまり開きたくはなかったが、一応私が送ったものなので、開かないわけにはいかない。
何を言われるだろうと身構えながら、意を決してメールを開いた。
(あっ…)
ガタッ
-放課後・部室-
「ソラ、もう帰るよ~」
「あっ、待って。今パソコン片付けるから」
-校門前・和サイド-
「そういえば、さっきパソコンから音が鳴ってましたけど、あれってなんだったんですか?」
「ああ、あれは…」「穏乃!!!」
(ま、間に合いました…)
全力で走って息が苦しい。体中が汗でびっしょりで、足もふらふらだ。
ただそれでも走ってこれたのは、きっと私の彼女達への思いのおかげだろう。
「和!?」「和ちゃん!?」「原村さん!?」「ノドカ…」「和…ちゃん?」「えっ、誰?」
それぞれ思い思いに私を呼ぶ。中には顔を知らない人もいるが、全員驚きの表情を浮かべていた。ただ一人、落合先輩を除いて。
(あの人は、私がくることでも分かっていたのでしょうか…。っと、いけません。本題に入りませんと)
息を整え6人に向かい合う。そしてできる限り大きな声でこう言った。
「私を、私を麻雀部に入れて下さい!!」
一度ならず二度までも断っておきながら、今更入れてくれという身勝手な行動、その謝罪の意もこめて頭を下げる。
永遠にも思える沈黙の時の後、穏乃が口を開いた。
「頭を上げて、和…」
優しい声だった。私がゆっくりと頭を上げるとすぐに穏乃が飛びついてきた。そして暫く抱きついた後、私から頭を離してこう言った。
「一緒に…、一緒に麻雀やろう!!」
声は喜んでいたが、目からは涙が流れていた。
「はい…!」
私の目からも涙が溢れた。人生で一番泣いたのではないかというぐらい泣いた。玄さんも私達に抱き着いて大泣きしていた。他の4人も優しく見守ってくれている。
玄さんがやっと泣き止んだというところで、穏乃が私に改めて言った。
「これからよろしく、和!!」
-夜・落合家-
『From:のどっち』
『To:フェザーダーク』
『件名:ありがとうございました』
『夕方はありがとうございました。あなたのおかげで何かがふっきれました。』
のどっちから感謝のメールが届く。実は今日の放課後、のどっちから『あなたにとって、麻雀とはなんですか?』というメールが送られてきたのだ。最初は謎かけか何かだと思ったが、真面目なのどっちがそんなことをするはずがないと思い、私の思う麻雀についてを書いた。
今のメールによると、どうやら私の意見は役に立ったらしい。少し恥ずかしくなったが、のどっちのためになったのだから良しとしよう。
それにしても今日は色んなことがあった。メールのこともそうだが、なにより和のことだ。ついちょっと前までは入らないと言っていたのに、さっき麻雀部に入ると言ったのだ。
(何かあったのかな…?まあ、いっか)
考えても仕方ないと思い、パソコンを閉じた。
『From:フェザーダーク』
『To:のどっち』
『件名:Re:無題』
『麻雀のおかげで私はたくさんの仲間と出会いました。麻雀を通じて仲を深めていきました。もちろん、良いことだけではありません。時には麻雀で喧嘩をすることもありました。けれど仲直りもやはり麻雀でした。
勝って喜んだり、負けて泣いたり、打ちながら笑いあったりして、私は皆と過ごしてきました。そしてこれからも過ごしていくでしょう。
だから私は、麻雀とは仲間との絆だと思います。のどっちさんがどういう意図でこのことを聞いてきたのかわかりませんが、もし麻雀のことで悩んでいるのなら、自分の意見に正直になってみて下さい。
自分を偽って打つ麻雀は誰も楽しくなんてありませんから。』
麻雀部部員 現在7人
今回はいつもより時間がかかりました。書いてる内に和がどういうキャラだったか思いだせなくなってきました。何日にも分けて少しずつ書いたので、変だったらごめんなさい。
当初は和をメインヒロインにしようとも考えたのですが、それはやめました。でも、気が変わったら復帰の可能性も…。
次回は5月の終わりになりそうです。