今回は牌画像変換ツールをあまり使わずにやってみました。
実は、どっちかというと使わない方が楽なんですよね…
-日曜日・とある雀荘-
プチ団体戦ラスト、ついに大将戦が始まる。先鋒戦からだいぶ時間が経過し、窓から外を眺めると空は赤く染まりかけていた。
大将戦のメンバーは私と宥さん、それに千里山中学の園城寺さんに阿太峯の
順位は一位が岡橋さん、二位が園城寺さん、その後に宥さん、私と続く。
今のところは最下位だが、逆転できない点数差ではない。難しいだろうが、私にもチャンスはあるはずだ。
(ちょっと本気だそうかな…)
プチ団体戦大将戦 東家 宥 南家 怜 西家 初瀬 北家 蒼空
東1局 親 宥 ドラ{一筒}
重要な一局目。私の配牌には{九萬}と{北}の暗刻がある。これならば和了れそうだ。
狙うは三暗刻。運がよければチャンタやドラも欲しいところ。
現在私達青チームは一位の黄チームと9900点差。40符3翻以上の直撃なら逆転、30符4翻のツモで同点だ。
三暗刻を揃えた時点で北と合わせて30符3翻は確定。そして、今回はヤオ九牌の暗刻がすでに二つ。つまり最低でも40符3翻にはなる。もし和了れば逆転の可能性は高い。
(まずは残りの面子を揃えないと…)
「ロン。北と三暗刻、50符3翻で6400です」
和了れはしたものの、直撃させたのは園城寺さん。二位には浮上したが、一位には届かなかった。
この手牌で捲れなかったのは痛い。
一位 黄チーム 55600
二位 青チーム 52100
三位 赤チーム 47800
四位 緑チーム 44500
-青チーム・竜華サイド-
「おじゃましま~す」
大将戦の東2局が始まってすぐ、茜ちゃんと穏乃ちゃんが青チームのところへやって来た。
「あれ?赤チームが何のようや?」
「いや~もう大将戦だし、みんなと見た方が面白いかなって思って」
「ここまで来たっちゅうわけか…」
「自分のとこ戻りぃや」と言いかけたが、思い直してやめた。インターハイやインターミドルなどの公式戦では絶対に許されないことだが、ここはただの雀荘。そう固くなることもないだろう。
「ホラ、こっち座り」
私と憧ちゃんがソファーの両端によってスペースを作る。二人は私から近い順に茜ちゃん、穏乃ちゃんの順で座った。
「シズ、先鋒戦お疲れ様」
「ありがと!憧も中堅戦お疲れ様」
お互いに労いの言葉をかける。チームは違えど、このように相手を気遣う精神は必要だ。
「それにしても、ここのテレビ、うちのところより大きいですね」
穏乃ちゃんがテレビを見て言った。
この部屋に付いているテレビ、それはこの店の備品だ。この雀荘では他の個室の対局の映像が見られるように、各個室にテレビが置いてあるのだ。フリーのテーブルとは違い、個室はそこそこの貸し料金がかかるが、全個室の対局の映像を見られる他、その映像の録画をしてくれるサービスもある。
「おっ、東1局はソラが和了ったんだ。これでうちらを抜いたか…」
「大丈夫ですよ茜さん。宥さんならきっとすぐ巻き返してくれます」
「だと良いんだけど…」
茜ちゃんは少し不安げだった。
-蒼空サイド-
「ロン。三暗刻、50符2翻で3200です」
「ううっ…、はい」
一位 青チーム 55300
二位 黄チーム 52400
三位 赤チーム 47800
四位 緑チーム 44500
岡橋さんに直撃させ、ついに私がトップ。しかしある意味ここからが大変だ。もちろんトップを維持するのも大変なのだが、それ以上に…
-青チーム・竜華サイド-
「もう三暗刻で和了へん?」
「正確にはしばらく和了れない、かな」
『三暗刻でもう和了れないな…』蒼空ちゃんが和了った時、隣の茜ちゃんがそう言った。三暗刻で和了ること自体がそもそも珍しいのだが、蒼空ちゃんが三暗刻で和了れないことの方が珍しいらしい。
「でもなんで和了れへんのや?」
「フフン、説明してしんぜよう」
「まず、ソラは手牌に刻子が出来やすい。だから三暗刻で和了りやすい」
さも能力があるのが当たり前かのように言う。
慣れとは恐ろしいもので、不思議と能力があることが普通に思えてきた。阿知賀女子は能力者の育成学校か何かに違いない、うん。
「だけど、その代償として和了る度に打点が下がるんだよね」
「打点が下がるって具体的にはどういうことなん?」
「例えば4翻で和了ると、次は3翻以下でしか和了れない。3翻で和了ると、次は2翻以下って感じ」
「確か、どんどん手が悪くなっていくって言ってましたよね?」
穏乃ちゃんが説明を付け足す。二人の説明を要約すると、蒼空ちゃんは和了る度に手が悪くなり翻数が下がっていく。三暗刻は2翻なので、2翻で和了った蒼空ちゃんは三暗刻で和了れないということか。
「じゃあ、1翻で和了ったらどうなるん?もうその下はないやん」
単純な疑問。どんどん下がっていくのなら、限界まで下がればどうなるのか、それが気になったのだ。
「1翻の後はノーテンだけかな。で、ノーテンの後は役満?」
「はあ、やっぱ役満かあ…って役満!?」
「マジですか茜さん!?」
同じ学校の穏乃ちゃんでさえも驚いている。
「うん。マジだよ。限界まで下がったら、その反発みたいに一気に手が良くなるんだって」
「ただ、欠点があって、ノーテンで流局しないとダメだから、途中で誰かに和了られたら手が悪いままなんだとか」
能力というのも良いことだけではないらしい。多少のリスクは憑き物のようだ。
「そのことって、宥さんは知ってるんですか?」
「さあね~ソラが話したかどうかまでは私も知らないし」
「でも、感づいてはいるかも」
-宥サイド-
「ツモ。ピンフ500、1000」
一位 青チーム 54800
二位 黄チーム 51900
三位 赤チーム 49800
四位 緑チーム 43500
(安い手だけど、流局は避けないと…)
東4局 親 蒼空 ドラ{三索}
(蒼空ちゃんの親番…だけど、多分蒼空ちゃんは流局を狙ってくるよね…)
ついこの間、部活中に蒼空ちゃんの能力について本人に尋ねた。蒼空ちゃんの能力は刻子を集めることができる一方で、打点がどんどん下がっていくというもの。そしてその打点はノーテンで流局しなければ元に戻らない。
そのため、蒼空ちゃんは一刻も早く流局になってほしいはずだ。だから私達の和了りを全力で阻止してくるだろう。
だが、それは簡単ではない。むしろ自分で和了るよりも難しいはずだ。
「ロン、2600や」
「は、はい…」
蒼空ちゃんが園城寺さんにらしくない振り込みをする。やはり3人の和了を阻止するのは簡単ではないようだ。
一位 青チーム 52200
二位 黄チーム 51900
三位 赤チーム 49800
四位 緑チーム 46100
-青チーム・竜華サイド-
「ちょっとヤバないか…」
蒼空ちゃんがノーテンになる前に南入してしまった。能力が説明通りなら、最低でも南3局までに流局しなければならない。
(残り3局…頑張ってや蒼空ちゃん!)
-蒼空サイド-
(宥さん強い…)
先ほどから宥さんが私の和了阻止を阻止しているみたいだ。宥さん以外の二人がしっかりと基本通りに打つため、宥さんが誘導するのを楽にしている。
和了らせないようにするのと、和了らせるようにするのでは、後者の方がやり易いに決まっている。
(それでも…諦めない!)
南1局 親 宥 ドラ{中}
(ドラが中…宥さんは中が集まりやすいし親だし気をつけないと…)
私の手牌には刻子が一つだけ。宥さんの和了を阻止するには戦力不足だ。
(どうしよう…)
宥さんに和了ってもらっても困るし、他家でも困る。かといって簡単には流局させてくれない。
ここは1翻でも良いから和了っておくべきか…
「あっツモです…」
「へっ?」
「700、1300です」
考え事をしていたら岡橋さんに和了られてしまった…
(これは本格的にまずい…)
一位 黄チーム 54600
二位 青チーム 51500
三位 赤チーム 48500
四位 緑チーム 45400
一位を取り返された…
これで流局プラスその後で和了らないと…
南2局 親 怜 ドラ{五萬}
(は、配牌に刻子がない…!)
刻子がないのは茜ちゃんと対局した時以外では初めてだ。これは嫌な予感が…
「ロン。チンイツドラ2、16000だよ」
「えっ……は、はい…」
(宥さんの倍満…もう後がない…)
一位 赤チーム 64500
二位 黄チーム 54600
三位 緑チーム 45400
四位 青チーム 35500
-青チーム・竜華サイド-
「アカン。これはアカン」
逆転はこれで絶望的だ。次の1局は流局。そしてその後に和了らなければならない。
ラス親なのが唯一の救いだ。
「さあ、ソラは次和了るかな~」
心配する私を他所に茜ちゃんは随分と楽しそうだ。
南3局 親 初瀬 ドラ{二筒}
勝負の1局。私にとってこの局はそう言っても過言ではない。ここで流局させなければ私の逆転の望みは消える。
先鋒戦で玄ちゃんや灼ちゃんを相手に頑張ってくれた清水谷さん。
中堅戦で和や江口さん、そしてすごく強かった茜ちゃんに少しのマイナスで繋いでくれた憧ちゃん。
この二人とは学校も年齢も違うけれど、青チームの仲間だ。
だからその二人のためにも、大将である私が諦めるわけにはいかない。
例えどんなに絶望的な状況だろうと、例え勝つ確率が0%だろうと私は勝利を信じて打ち続ける。それが、大将の役目。
(絶対に勝つ!!!)
-宥サイド-
(蒼空ちゃんの雰囲気が変わった…)
(普段落ち着いてる蒼空ちゃんに火をつけちゃったかな?)
いつもよりもあったかい蒼空ちゃん。あったかいのは嬉しいけど、私も大将を任された以上負けるわけにはいかない。そしてそれは他の二人にも言えること。二人ももちろん諦めてはいないはず。
(この局で勝負が決まる…!)
-蒼空サイド-
「チー!」
まず初めに動いたのは岡橋さん。岡橋さんは親だから、直ぐにでも和了りたいのだろう。打ち方もどこか憧ちゃんに似ている。ということは、安い手を連続して和了るタイプ。
「ホンマ、皆強すぎやろ」
「一位は無理かもせえへんな~」
次に園城寺さん。口ではああ言っているが、本当は一発逆転を狙っているに違いない。
「ポン」
宥さんが中を鳴く。これで宥さんは面子を揃えるだけで和了れるようになった。
(こっちも負けてられない)
「ポン!」
宥さんの捨牌に鳴く。これで次に宥さんがツモる牌を私がツモれる。
(多分このままだと宥さんがツモって和了るだろうし、ずらすしかない)
-宥サイド-
(蒼空ちゃんがずらしたせいでツモの調子が悪い…)
ツモをずらされると、僅かだがツモが乱れる。これで暫く和了れなくなった。
(でも、もうすぐ元に戻るはず…)
「ポン」
(!!!)
(また、蒼空ちゃんが鳴いた…!私のツモがまた乱れちゃう)
(あったかくない…)
-蒼空サイド-
(ふー。一か八かだったけど成功だったみたい)
私がこの局を流局させるために一番大きな壁となるのは宥さんだと思っていた。案の定宥さんは私の最大の敵になっている。
だからこそ、私は考えた。宥さんの弱点を。
宥さんの能力は赤色の牌が集まり易い能力だ。玄ちゃんのようにその牌を切ったらペナルティがあるわけではない。一見隙のない能力だが、どうしても牌がずらされると、その直後は能力が及ばないのではないか、そう思った。
もちろんこの説はあくまで仮説で、確かめたわけではない。しかし今回は運良くその仮説が的中した。
(さあ、これが海底牌…)スッ
{白}トンッ
「ノーテンです」
「ノーテンです…」
「テンパイや」
「…テンパイです」
一位 赤チーム 66000
二位 黄チーム 53100
三位 緑チーム 46900
四位 青チーム 34000
-青チーム・憧サイド-
「いいっやったーーー!!!」
シズが両手を突き上げる。
「いや、なんでアンタが喜んでんのよ!」
「ああっ!そうだった!」
自分のチームも忘れるくらい熱中していたようだ。
「もう。なにしてんのよ…」
「ごめんごめん」
相変わらずシズはシズだ。熱くなると、敵味方関係なく応援してしまう。
(でも、私がシズみたいに相手チームだったとしても喜んでたかも)
-蒼空サイド-
南4局 親 蒼空 ドラ{七索}
(迎えたオーラス)
「…日はまた昇る…」
(本当にヒヤヒヤした対局だった)
「リーチ!」
(けど、なんとか乗り越えた)
「ツモ!四暗刻!16000オールです!!!」
(清水谷さん、憧ちゃん、やりましたよ)
大将戦終了時
一位 青チーム 82000
二位 赤チーム 50000
三位 黄チーム 37100
四位 緑チーム 30900
収支順位
一位 羽暗蒼空 +36300
二位 松実宥 +2200
三位 岡橋初瀬 -18500
四位 園城寺怜 -20000
-対局終了後-
「ソラっ!お疲れ様!」
茜ちゃんが側に近寄り肩を揉んでくれる。
「いつもどおりカッコいいね、あれ」
最後の四暗刻のことを言っているのだろう。
「茜ちゃんも格好良かったよ」
「ありがと、でも今回の収支トップの方がスゴいよ!」
あまり褒められると照れてしまう。しかし茜ちゃんはそんなことお構い無しに私を褒め続ける。
「蒼空ちゃーん!」
向こうから声がすると思って振り向くと、玄ちゃんが飛びついてきた。
「うわっ、玄ちゃん!?」
「さすが蒼空ちゃん。カッコよかったよ~」
抱きついた玄ちゃんは顔を私の胸に埋めて、中々離れなかった。そこまで感動してくれたのだろうか。
「こら、玄。蒼空から離れて」
灼ちゃんが玄ちゃんの襟の後ろを掴み引き剥がす。玄ちゃんは両手をジタバタさせて「おもちが…」と呟いていた。
「蒼空、おめでとう。私のチームは負けちゃったけど、いい勝負だった」
「そうだったね。一位が入れ替わったりして私もドキドキした」
今回のプチ団体戦は仲間の重要性を再確認させられた対局だった。仲間がいるからこそ頑張れる。仲間がいるからこそ助けてくれる。そう感じた対局だった。
「蒼空さん。まずはおめでとうございます」
和も私に祝福の言葉をかけてくれた。
和へのお礼もかねて『和も頑張りましたね』そう言おうとすると…
「ですが、最後のリーチには納得出来ません!何故あんな無駄なことをしたのですか!?」
お説教タイムの突入だ。デジタル派の和にとって、私達の打ち方は不可解で仕方がなく、よくこうしてお説教されているのだ。
「あれは、リーチしないと和了れないから…」
「そんなオカルトあり得ません!!!」
-怜サイド-
(みんな楽しそうやなあ)
阿知賀女子のメンバーは敵味方関係なくお互いの健闘を称えあっている。
「怜~」
「トキ~」
うちの二人も来たようだ。
(竜華の膝枕で癒してもらお)
-憧サイド-
「はあ~」
初瀬が大きくため息をつく。最後のオーラス。初瀬は一位でバトンを渡されたのに三位にまで落ちたのだ、無理もない。
「初瀬、あんなの気にしたら負けよ。負け!」
「私達はこれから頑張ればいいんだから」
自分に言い聞かせるように言う。
私も初瀬と同じように手も足もでなかった。まだまだ精進が必要だ。
(今度は負けないわよ!)
-夜・帰りの電車にて-
「ねえ、ソラ…」
隣に座っている茜ちゃんが話しかけてきた。
「何、茜ちゃん?」
「麻雀、楽しいよね…」
何故今さらそんなことを言うのだろうか。いつもの私だったらそう思っていたに違いない。
「うん。そうだね…」
だが、その時だけは、茜ちゃんの気持ちが何となく分かる気がした。
インターミドル県予選まで後48日
蒼空の能力の詳細が判明しました。
やっぱり能力には何かしらリスクがないと。
でも、よく考えたら茜には何もありませんでした。
話もひと段落したので、しばらく休みます。どれだけ休むかはわかりません。ごめんなさい。
それでも、さすがに1ヵ月は空けないと思います。