本来はインターハイが本編なのに、インターミドルまでを詳しくやり過ぎたと後悔してます。これだと、インターハイがもっと凄いことに…
来年の春まで待てずに、結局書いてしまいました。これからも、なんだかんだで暇を見つけて投稿します。
-日曜日-
「蒼空さーーん!」
穏乃が遥か先で手を振って私を呼んでいる。太陽の光を背にする穏乃のシルエットが辛うじて確認出来た。
地面がでこぼこして足下が不安定なこの道は、普段運動をしない私にとっては辛いことこの上ない。
「待ってよ…穏乃…」
私達は今、吉野山を登っていた。
-金曜日・部室-
「えーっ。クロ達練習出来ないの~?」
茜ちゃんが頬を膨らませて不満げに言う。その姿を見た玄ちゃん達は、だいぶ困り果てていた。
「ごめんね茜ちゃん。ゴールデンウィーク前は色々と忙しいんだ」
「私もウチの店番しなきゃならないから」
茜ちゃんが不満げな理由、それはこの休日に皆で練習しようと提案したのだが、玄ちゃんや灼ちゃんが家の仕事で忙しく練習が出来ないと言ったからだ。
三人とも、ゴールデンウィークやその前の連休は客の対応に追われるため仕方ないと言えば仕方がない。
「ノドカはできるよね!?」
今度は和の方に振り向いた。
「大変申し訳ありませんが、今週の日曜日は用事がありまして…」
しかし和も用事があるらしい。これで暇なのは穏乃と私と茜ちゃんの3人となってしまった。麻雀をするにしても三麻しか出来ない。普段は暇な私達も、いざ集まろうとすると意外に集まらないものだ。
もしかしたら、三連休なのに用事のない私や茜ちゃんの方が変なのかもしれない。
「う~ん。ノドカも無理なのか…」
「三連休だから仕方ないよ。茜ちゃん」
三連休は多くの人々にとって貴重な休みだ。玄ちゃん達のような特別な人達でない限り、家族とどこかへ遊びに行ったりするのが普通である。ただ、残念ながら私達の保護者はその特別な人達に当てはまったのだ。
だからこそ、余った時間を有効活用しようとしたのだが、うちの部活にはそういう人が三人もいたことを忘れていた。
「なら、しょうがないか…そうだ!忙しいんならアラタのお店のお手伝いをしよう!」
茜ちゃんがポンッと手を叩き、灼ちゃんの方を期待した目で見つめる。これが茜ちゃん名物の思いつきだ。これにはいつも頭を悩まされる。毎回毎回振り回されるのは私なのだが、今回は灼ちゃんになりそうだ。
「えっ。私そんなこと聞いてないけど…」
案の定灼ちゃんは初耳だった様子で、困った表情をしている。
「今言ったから大丈~夫!」
「…はあ。まあ、手伝ってくれるなら良いよ」
灼ちゃんは諦めたようにため息をついた。
「やったー!ふんふ~ん」
茜ちゃんが両手を挙げて喜ぶ。いつも以上に上機嫌になり、鼻歌を歌い始めた。
茜ちゃんの提案を了承してしまった灼ちゃんだったが、それはきっと失敗だろう。何故なら、茜ちゃんは恐らく全力で頑張ってくれるだろうが、それ以上に全力で空振りをするからだ。しかも全力で頑張ってくれてるだけに怒りに怒りにくい。
(どうせ暇だし、日曜日は迷惑をかけないか見張りに行こうかな…)
「あっ、ソラは来なくても良いからね?」
「ええっ!」
(心を…読まれた…!?)
長年一緒だからこそこんなことが出来るのだろうだが、嬉しいようなそうでないような複雑な気持ちになる。しかし自分が邪魔者扱いされたようなのは少し寂しい。
「あの~…」
悲しむ私の下に穏乃がひっそりと来た。私以外の皆は他の話に夢中で気がついていない。
「どうしたの穏乃?」
とりあえず、穏乃が待っているので用件を聞いてみる。
「日曜日空いてるんでしたら、一緒にハイキングにでも行きませんか!?」
「もちろん、私が案内します!」
ハイキングとは、健康のため、あるいは知らない土地を見聞したり、自然の風景や歴史的景観を楽しむために軽装で、一定の距離やコースを歩くこと。そういえば、長野にいた頃に一、二回ぐらい行った覚えがある。
山が大好きな穏乃にとってはいつもの事なのだろうが、私にとっては貴重な体験をする良い機会だった。
「ハイキング…良いですね」
目を輝かせて私の返事を待っていた穏乃は、私の言葉を聞くと嬉しそうに必要なものや集合時間などを教えてくれた。
-日曜日・吉野山-
穏乃の説明だと、そんなに疲れないということだったが、穏乃がすごいのか私の体力がないのか、頂上に至るまで物凄く体力を使ってしまった。既に足はヘトヘトで動かすのも困難だった。足が棒になるとは、まさしくこのことだろう。常日頃から運動は大事だと実感した。
残りの道を何とか歩き、やっとのことで頂上にたどり着いた時、あまりの光景に私の足の疲れなど全て吹っ飛んでいった。
「キレイ…」
まず出てきた言葉がそれだった。一面が葉の緑と空の青で埋め尽くされており、所々にある雲の白や桜のピンクが文字通り山に花を添えている。山から聴こえる風の音や鳥の声も心地よい。それによって心が澄んでいく気がした。まさか山にこれ程までのリラックス効果があるとは想像すらしていなかった。様々な本で地上と山は別世界だと聞いてきたが、なるほどその通り、これは別世界と言っても過言ではない。
「どうですか蒼空さん?」
穏乃は私の反応に手応えを感じているのか、期待した目で見つめてくる。誉めて下さいと言わんばかりに。
「すごくキレイだよ…穏乃…」
「えっ…!」
思ったことをそのまま言葉にする。美しさのあまりボーッとしてしまっていたのか、うまく言葉で表せなかった。
後でよくよく考えたら、ドラマっぽく穏乃に告白しているみたいになっていることに気づいた。恥ずかしさに一人で悶えたのは言うまでもない。
「もう少し早く来れたら桜の見頃だったんですが…」
「いや、これでも十分だよ。ありがとう穏乃」
正直一面ピンクの桜は見てみたかったが、それは来年までの楽しみに取っておこう。それに新緑の山だって桜に負けないくらいの魅力はある。
「それじゃあ、蒼空さん!来年も一緒にここに来ましょうよ!」
「うん、良いね。また来よう!」
少し気が早いかと思ったが、きっと来年もここへ訪れるだろう。どうせなら茜ちゃん達も一緒が良い。
「そうだ、穏乃。来年どころか毎年、桜が満開の時に皆で来ませんか?」
「そうですね!玄さんや宥さんや灼さんや茜さん、それに和とも一緒に来ましょう!」
その時は何も思わなかったが、今思えばあれは穏乃なりの激励だったのかもしれない。和を毎年ここに連れていくということは、和が阿知賀に居続けるということ。つまり私達が優勝するということだ。言葉で表すことが苦手な穏乃の、自分なりに考えた末での行動だったのだろう。
何故私だけなのかはいまいち分からないが、穏乃の気持ちはきちんと受け取った。それと同時に負けられない気持ちがますます増えていった。
「じゃ、帰りましょうか」
山の景色を堪能した私達はもと来た道を下山していった。
-日曜日・Sagimori Lanes・灼サイド-
「いらっしゃいませー!」
茜の元気の良い声が店内に響き渡る。それは満員とはいかないまでも、そこそこ多くの客の声に負けないくらいだった。
蒼空に言われた通り、接客を任せたのは正解だったようだ。あの明るく大きな声はすごい営業効果がある。私一人だと、どうしても暗い雰囲気が出てしまうので、茜には毎日居て欲しいくらいだ。
「灼ちゃん、茜ちゃん、そろそろ休憩して良いよ」
おばあちゃんが店番を変わってくれた。朝から働き詰めでそろそろ休憩をもらおうと思っていたので丁度良い。
「まだまだ大丈夫だよ、アラタのおばあちゃん!」
茜はまだまだやれると言っているが、お手伝いとはいえ、客人の茜をこれ以上働かせるのは忍びない。私とおばあちゃんの説得で私と茜は休憩を取ることになった。
-灼の部屋-
「はい。お茶」
茜の前にお茶を差し出す。茜は「ありがとう」と言ってお茶を口にした。渡したのはただのお茶だが、あまりにも美味しそうに飲むので、なんだか動物のエサやりをしている気分だった。
「ふう。おいしかった」
「お菓子もあるから欲しかったら言って」
「うん。分かった~」
茜がフラフラと歩いて私のベッドに倒れ込む。大丈夫とは言っていたが、やはり疲れていたようだ。頑張ってくれた茜に感謝。
それにしても意外なのは、茜が思ったより失敗らしい失敗をしないこと。蒼空からは空振り空回りは日常茶飯事だと聞いていたのだが。ここは本人に尋ねてみよう。
「茜、今日は失敗しなかったね。本当はフォローがたくさんいるって思ってたんだけど」
「うん?ああ、まあね。ホントはこんなだよ?」
茜は体を仰向けにして答えた。
「どういうこと?」
茜の口から出た意味深な言葉。その意味を素直に取るなら、いつもは本気を出していないということになる。しかし彼女の性格からはそんなことは想像できない。だから何かの間違いかと思い聞き直した。
「あちゃ~。言っちゃった」
「でも、ま、いっか」
ベッドから体を起こし私の前まで寄ってきた。
間違いだろうが間違いでなかろうが、それなりに重い話が飛び出すと身構えていた私だったが、返ってきたのは思ったよりも軽い返答だったので、フッと肩の力を抜いた。そんなに重大な話ではないようで安心した。
「実は私、物凄~く天才なんだよ」
座りながら腰に手をあて、胸を張る。ただ、いつもの茜の先入観があるせいか、彼女がふざけているのではないかと思ってしまう。
「ただ、ちょっとね…」
しかし、そんなドヤ顔から一転、一気に暗い顔になった。
「どうしたの?もし嫌じゃなかったら、話して欲しい」
茜には似合わない顔。お節介かもしれないが、それをどうにかしたいと思った。
「別に嫌じゃないよ。今から話すつもりだったしね。あっ、でも他のみんなには内緒だよ」
私の心配する顔に気づいたのか、慌てて手を横に振る。それと他の人への口止めを頼まれた。
私がコクンと頷くと、茜は私から少し離れ、またベッドに座り直して話し始めた。
「私はいつも本気を出さないんじゃなくて、出せないんだ」
「その原因というか、きっかけみたいなものは…ソラなんだよ…」
「蒼空が?」
思ってもいない答えだった。
「ソラが近くにいる時だけ何もうまくいかない。出来ることが出来ない」
「麻雀もそう。ソラが近ければ近いほど、私は弱くなる。逆に遠ければ遠いほど、私は強くなる」
茜は天井を見上げる。その話からプチ団体戦のことを思い出す。あの時は蒼空と茜は別室にいた。だからあの時の茜は少し変だったのか。いつもの失敗をする茜ではなく、何かこう…卓全体を支配している、そんな感じだった。
「このことに気づいたのは、ソラに麻雀を教えてもらってから少し経った頃かな。私は近所の友達と麻雀をしたんだ。そしたら自分でも分かるくらい圧倒的に強かった。誰にも負けないくらい強かった」
「力を手に入れた私は、それを振り回してばっかで、全く他の人のことを考えてなかった。ソラのことでさえも。そしたら、当たり前だけど、気がついたら周りにはソラ以外誰もいなかった」
茜は淡々と自分の過去を語る。
「ソラ以外の皆に避けられるようになったあの時間は、私の人生で二番目に辛い時間だったかな。でも、そんな私でもソラはずっと側に居てくれた。独りの私にずっと優しく手を差しのべてくれた」
「ソラの優しさに気づいてから私の能力はソラの近くでは使えなくなった。まあ、こんな能力いらないから良いんだけどね」
「けど、ソラに話したら絶対責任を感じると思うから、特にソラには黙っててよ?」
話を終えると、茜は立ち上がって伸びをした。そして肩をぐるぐると回しストレッチをしながら、部屋の外へと向かう。休憩は終わり、ということだろう。私を横切った時の彼女の横顔は、いつもの彼女であった。
ただ、彼女の話には少し疑問が残る。蒼空の話では、麻雀を始めたのは、確かすごく強い姉妹に勝つためだと言っていた。だとすると『誰にも負けないくらい強かった』というのは変ではなかろうか。
それに何よりも蒼空の話と食い違うところ。それは…
「蒼空の話じゃ、茜が蒼空を麻雀に誘ったって聞いたんだけど…」
ちょうどドアノブに手をかけたところで茜の動きがピタッと止まってしまった。そして暫くした後、茜は声を絞りだすようにこう言った。
「ソラは…忘れてるだけだよ…」
茜の声は今まで聞いた中で、一番辛そうな声だった。その声の雰囲気に飲まれてしまったのか、私はどうにかしたいと思っていたにも関わらず、結局茜の後ろ姿に何もすることが出来なかった。
-茜サイド-
アラタに矛盾を指摘され、私は内心焦っていた。まさかソラから昔の話を聞いているなんて思っていなかったからだ。特に秘密にしようと約束したわけではないが、昔のことを話すことはあまりないだろうと油断していた。
これからは簡単に喋らないよう気をつけよう。
私が得た能力。さっきはいらないと言ったが、今はその能力によって生かされている。なんだかんだ言って結局は能力頼りということか。だが、それでも私はこれを使わなければならない。
(それが…それがソラのため、だもんね…)
インターミドル県予選まで後41日
茜の過去に触れる回でした。
蒼空や茜の能力に、淡の「絶対安全圏」みたいな名称が欲しいです。いつまでも「能力」ていうのも変ですし。
というわけで、気が向いたら名称を考えてくれると嬉しいです。私も自分なりに考えますが、良いのがあったら採用します。インターミドルが終わるまでは「能力」で通すので、インターハイが始まる前に感想ついでに書いてくれたらと思います。