第1局です。前よりは長いですがやはり短い。もっと多く書けるよう頑張ります。
-2047年・奈良県-
ピピピピッ ピピピピッ ………カチッ
手探りで目覚ましを止め、ベッドから体を起こす。8時間の眠りから目覚めた身体は動かす度にポキと音が鳴る。
いつも朝起きるのはとても辛い。楽しい夢の世界から現実に引き戻されるから。なんて言葉、どこかの本に書いてあったっけ。
まあ、夢といっても私が見るのはいつも同じ夢。雀卓を囲んで麻雀を打つ夢。詳しい内容は覚えていないけれど、幸せな時間だったいうことだけはハッキリと覚えている。
(うーん…眠たい…。目覚ましが鳴ったってことは、今は7時かな)
ベッドの脇に置いてあるデジタル時計の時間を確認し、身だしなみを整える。
家族の前とはいえ、あの娘のように寝癖の頭ででるわけにはいかない。鏡の前で自分の空色の髪を整える。
私の名前は
両親は私が幼い頃に事故に巻き込まれて他界しました。そして近所でもありかなり遠い親戚でもあった落合家に引き取られたそうです。血の繋がった家族はいませんが、落合家の皆さんがいるので寂しくはありません。
親の顔は覚えていないけれど、おじさん達の話だと、お母さんの髪も空色だったらしいです。
(今日の朝ごはんは何だろう、蕎麦だといいな)
そんなことを考えながら軽く髪を整え、部屋から出ようとドアに向かった。
しかし、ドアノブに手をかけたその瞬間、不運とドアが文字通り私に襲いかかった。
「ソーラー、おっきろー!」
大声とともに突然ドアが開かれる。私は不意の攻撃に反応することができず、おもいっきり顔をぶつけた。
これまで味わったことのない激痛が顔面に走り、しばらく顔を押さえて床の上をのたうちまわる。
犯人は決まっている、もちろんあの娘だ。「なにするの!」と怒鳴りたいところだが痛みでそれどころじゃない。
「あ、あかねひゃん、いひゃいよ」
とりあえず出せるだけの声を絞り出して目の前の少女に抗議する。しかし少女は何が起きたのか理解していないのか頭の上にはてなを浮かべている。
私に先制攻撃を仕掛けた、目の前のこの子は
私を引き取ってくれた落合家の娘さんで、私の大親友。いつも一緒に行動してきた姉妹みたいなもの。
髪の毛は透き通った薄い赤でとても私好み。ボサボサの寝癖さえなければ。
「はやくしないと遅れるよ?」
「遅れる?何に?」
茜ちゃんの言ってることが分からなかった私は、思わず聞き返した。
目覚ましのセットはいつも通り。外を見る限り時計が壊れているようにも見えない。遅れる要素は一つもなかった。
「うん、そだよ。今は7時20分。バスに乗って学校まで30分。いろいろ話したいことがあるから、始業20分前には学校に来いって先生が言ってたし…」
バス…?あ、そうだった。私達、奈良に引っ越したんだった。それで阿知賀女子に通うことになって、今日が転入初日。
確か今の時間だと次の阿知賀行きのバスは10分後に出発で、その次は40分後のはず。
つまり、次のバスに乗ると8時に学校に着く。その次だと……
………まずい。
-阿知賀女子 校門前-
「ほえー、さすが中高一貫校。デカイね~」
茜ちゃんは両手を腰にあて、校舎を見上げている。
「まっ、待って、茜ちゃん」
一方私はそんな余裕など全くなく、バスを降りてすぐに走りだした茜ちゃんを追いかけるので精一杯だった。
(は、速い…。バス降りてからずっと走りっぱなし。なんであんなに体力あるんだろ。いつも同じもの食べて、同じことしてるのに。やっぱりあれかな、寝癖パワーかな。いや、朝ごはんの差か。急いでたから朝ごはん全然食べれなかったのが問題なんだろうな、うん)
「早くしないと置いてくよー」
茜ちゃんはすでに靴を履き替え校舎の二階から手を振っていた。
……もう置いて行ってるし…
-職員室-
「はい、これで大体の説明は終わりね」
私達二人は一人の若い女の先生からこれからの大雑把な説明を聞いた。どうやら私達の担任の先生らしい。
先生達の計らいで、私達は同じクラスにしてもらえ、これからクラスで自己紹介をするとのこと。始業式だからか今日の予定はそれだけ。明日からは普通に授業があるようだ。
「何か聞いておきたいことある?」
先生は椅子を回して、こちらに体を向けて尋ねた。正面を向いて話すと、思ったよりも若いことが分かった。
先生の質問に対して何かあるかなと考えてみる。茜ちゃんはどうだろうと横を見ると、器用にも立ったまま船を漕いでいた。
(茜ちゃん…説明に飽きたのかな…)
こんな時でも居眠りするのかと呆れていると、ふと私の頭にある質問が浮かんだ。
そしてそれは私の頭を通る前に、気がつくと口から飛び出ていた。
「麻雀部…麻雀部はありますか」
この時、なんでこの質問を思いついたのか自分でも不思議でならなかった。
確かに私は小学生の時から麻雀をやっていて、麻雀部も全く関係のない話ではない。麻雀はもちろん好きだし、麻雀部があれば入りたいという思いはある。
けど、それは今でなくても良いはずだった。他に先生に質問すべき内容はあっただろうに、何故かこのことを今ここで聞かないとダメな気がした。
「麻雀部?麻雀部ねえ…」
先生はバツの悪そうな顔をした。その姿で、返答は大体予測できてしまった。
「ごめんなさいね、麻雀部はないの」
「そう、ですか」
思ったとおりの返答で私はちょっぴり肩を落とした。少し残念だけど、仕方ない。麻雀は家でも出来るし、他の部活にでも入ろう。
「他に質問がないなら教室に「それなら!」」
「それなら、麻雀部を作ることはできますか?」
説明に飽きてウトウトしていたはずの茜ちゃんが突然口を開いた。寝ていたと思っていた茜ちゃんが大声を出したので先生も目を丸くしている。
だが、私は茜ちゃんの声よりも「麻雀部を作る」という言葉に驚いた。なぜなら、茜ちゃんは長野にいたころから私達仲良し以外とは麻雀を打たなかったからだ。
(ど、どういうこと…?)
私は戸惑い、先生は未だポカンと口を開けていたが、はっと気づいたようにコホンと咳払いをし、もう一度座り直して茜ちゃんの質問に答えた。
「もちろん可能よ。ただし、部を作るには最低五人の部員が必要。けどその前に同好会。同好会は二人いればできるから、まずは同好会を目指したら良いんじゃないかしら」
その言葉を聞いた茜ちゃんは目を輝かせて言った。
「なら、今から同好会を作ります、ソラと私の二人で!」
-二年教室-
結局あの後、他の部を見てから決める、という先生の案に落ち着いた。先生の言う通り、他の部活を見てからでも遅くない。ただ茜ちゃんは麻雀部を作る気満々だけど。
「はい、注目」
先生の言葉で一斉に先生の方向を向く生徒達。先生は何かを生徒に話しかけている。教室の外の私達にはよく聞こえないが、おそらく私達のことだろう。
しばらくして、教室がざわついてきた。私達のことを話していると考えると少し照れくさい。
「じゃあ、入ってきて」
あらかじめ言われた通りに教室に入る。ガラガラと音をたてながら扉を開く。教室の中は静まりかえっていて、扉の音がいつもより大きく聞こえた。皆の視線を集めながら私達は教卓の前に並んだ。
自己紹介はまず私からだ。
「長野県から奈良県に引っ越してきました羽暗蒼空です。好きな食べ物は、お蕎麦です。これからよろしくお願いします」
パチパチと拍手が起こる。とりあえず無事に挨拶を済ませることができて緊張がほぐれる。
次は茜ちゃんの番なので、そっと茜ちゃんの顔を覗いた。彼女の顔には緊張などは全くなく、むしろ早く喋りたそうだ。まさかとは思うがさっきのことを…
「ソラと同じで奈良に引っ越してきた、落合茜だよっ。好きなことは麻雀!阿知賀に麻雀部を作ろうと思ってるから、入りたい人は声かけてね~」
(はあ、やっぱり…)
皆が呆気にとられて一瞬静かになった後、ゆっくりと拍手が起こった。茜ちゃんはしてやったりという顔をしているが、先生は少し苦笑いをしている。
自己紹介の後は質問責めだった。長野のこと、家族のこと、好きなもののこと、とにかくたくさんの質問を浴びせられた。
そして皆がいなくなった時にはもう昼になろうとしていた。
こうして私達の転入初日は終わった。
あとがき
今回は阿知賀編第1局。まだ阿知賀のメンバーは登場していませんが、次の話で登場します。
麻雀はまだまだしません。もともと少ないですが。
大分展開が進むのが遅いですが、どうぞお付き合い下さい。