早く進ませるべきなのに、今回は麻雀要素0です。
-水曜日・部室-
「ねえ、皆、もう定期テストの一週間前だけど大丈夫?」
ある日の放課後、人数合わせで休憩中の灼ちゃんが、ふと思い付いたように言った。その言葉に一瞬皆の手が止まる。
我が阿知賀女子では、5月の終わりに定期テストがある。試験科目は国語、数学、理科、社会、英語のよくある五教科だ。
中等部では出席日数不足などでない限り留年が存在しないため、一応テストで点を取らなくても進級だけなら出来るのだが、成績不振者には補習が与えられてしまう。具体的な条件は、テストで33点以下を取ってしまうこと。ちなみに補習は茜ちゃん曰く拷問だとか。
「はわわ…て、テスト…」
玄ちゃんの顔に汗がだらだらと流れ始めた。明らかに動揺している。表情から察するに、完全にテストのことが頭から抜けていたようだ。
「玄ちゃん。まさかお姉ちゃんとの約束忘れたわけじゃないよね?」
いつの間にか宥さんが怖いくらいにニコニコしながら、玄ちゃんの後ろに立っていた。
「お、お姉ちゃん、だ、大丈夫だよ…」
「く~ろ~ちゃん?」
顔に張り付いた様な宥さんの笑顔が襲いかかる。普段あったかい宥さんは怒ると恐ろしいほど冷たい笑顔を浮かべる。そのギャップが普通の人が怒るよりも怖い。本当に怖い。
「うっ、ごめんなさい。勉強してませんでした」
観念したのか、玄ちゃんがしょぼんとして素直に白状する。今までの話から、どうやら玄ちゃんは、宥さんと勉強のことについて何かしらの約束を交わしていたようだ。だが、玄ちゃんはその約束を守れていないようである。
「もう…麻雀するのは良いけど、お勉強もちゃんとしなきゃ、めっ、だよ?」
「ごめんなさい、お姉ちゃん…」
玄ちゃんが重ねて謝る。宥さんが怒ると私達も困るので、これを機に真面目に勉強して欲しいものだ。
「定期テストですか。私達は今回が初めてなので、どんな風なのか楽しみですね、穏乃」
「えぇ~そうかなぁ?私は嫌だけどな~テスト」
一年生の穏乃や和にとって初めてであり、小学生と中学生の大きな違いの一つである定期テスト。二人を見て長野にいたころの最初の定期テストを思い出す。確か、不安のあまりテスト前に眠れなかった記憶がある。
「和も穏乃もテスト前には張り切り過ぎないようにね」
「はい。分かりました」
先輩からのアドバイスをしておく。これで少しは気が楽になっていると嬉しい。
「分かってると思うけど、テストで悪い点を取っちゃうと、後で補習をしなくちゃならないからね…」
宥さんが皆に警告する。主にこの中の3人に向かって。
「大会前とは言え、学生の本分は勉学ですから、そこは抜かりありません」
和は麻雀と同じできっちりと勉強しているようだ。さっきもテストが楽しみだと言っていたので、補習の心配ないだろう。
「勉強嫌だな~…」
対して穏乃は、あまり考えないで本能で行くタイプ。テストで失敗する典型的なタイプだ。補習の可能性が大いにある。
「はあ、仕方ありませんね。今度教えてあげます」
「やったー!ありがとう、和!」
だが、和という優秀な先生を手に入れたため、これで補習は多分大丈夫だろう。しかし、和に頼りきりだと、いずれ痛い目を見るので、後で自分で勉強するよう忠告しておこう。
「穏乃は和、玄は宥さんに教えてもらうとして、茜はどうするの?」
「あれ!?何で私、教えてもらうこと前提なの?」
茜ちゃんがひどく驚いた顔をする。自分は大丈夫だと思っているようだ。この前補習を受けていたのに、どこからその自信が出てくるのやら。
「茜ちゃんは私が教えるよ…いつも通り…」
散々茜ちゃんに勉強を教えてきたので、教えるのにはもう慣れた。茜ちゃんの分からないところは大体見当がつく。
そういえば小学校からずっと教えているような気がする。おばさんに何回怒られても、茜ちゃんは勉強を頑張る気配が全くない。それなのに、補習にはちゃんと参加するという律儀なところがある。そして、何故か補習では一発合格をする。
「いつも通りお願いね!ソラ!!」
「………いつも思うんだけど、茜ちゃんってもしかしてわざと悪い点取ってる…?」
-土曜日・落合家-
水曜日に言った通り、茜ちゃんの勉強をみてあげることになった。今は私の部屋で教科書を広げている。茜ちゃんもこの時間だけは真面目に勉強している。
「ソラー、ここの問題教えてー」
数学の教科書を開いて一つの問題を指差している。どうやらこの問題が分からないようだ。
「ああ。この問題ね。この問題はこれをここに代入して…」
「おおーなるほどー!」
私のアドバイスを聞いた茜ちゃんは教科書を持って、また勉強し始めた。
(う~ん、別にふざけてるわけじゃないのに、何でテストの点は悪いんだろ?)
授業中は居眠りばかりな茜ちゃん。でも、私と勉強する時だけは居眠りなんかしたことがない。これなら、平均点とはいかないまでも、そこに届くか届かないかぐらいまでは点を取りそうなものだが…
プルルル…!
勉強中に居間の電話が鳴る。少しすると、ガチャッと受話器を取る音が聞こえた。多分、おばさんが受話器を取ったのだろう。
いつもなら、おじさんかおばさんへの用事かセールスの電話なのだが、今回は違った。
「蒼空ちゃーん!!鷺森さん家から電話ー!」
「灼ちゃんから?何だろ?」
珍しく私への電話だ。おばさんに呼ばれた私は居間へと降りる。
-落合家居間-
「もしもし、灼ちゃん?」
おばさんから渡された受話器を取る。
「あっ、蒼空…」
まず、灼ちゃんの声を聴いて感じたことは、いつもよりも声に元気がないことだ。電話に緊張でもしているのだろうか。
「どうしたの?今日、何かあったっけ?」
「いや、約束とかそういうのはしてないけど、ちょっと手伝って欲しい…」
「手伝い?お店の?」
灼ちゃんで手伝いと言ったらお店のことぐらいしか思い付かない。それに今日は土曜日なので、客が大勢来てもおかしくない。
「えっと、まあ、そんな感じ…」
「それなら、茜ちゃんも連れて来た方が良いかな?」
電話でヘルプを求めるぐらいだ、相当忙しいに違いない。前のお手伝いでは茜ちゃんは役に立ったらしいし、勉強の気分転換にも丁度良い。
「いや!茜は連れて来なくていい!蒼空だけで来て!」
「そ、そう。分かった…」
いきなり声を荒げる灼ちゃんに戸惑う。普段は落ち着いている灼ちゃんでも取り乱すほど、茜ちゃんが来られては困るのだろうか。
(どうしたんだろ…やっぱり前の時に茜ちゃんは邪魔になってたのかな?)
手伝いに来てくれた茜ちゃんを悲しませないために、灼ちゃんが気を使ったのかもしれない。もしそうなら申し訳ないことをした。
「今から行くから待っててね」
「うん。待ってる」
-蒼空の部屋-
「茜ちゃん、ちょっと灼ちゃんの家に行ってくるね」
「え~!私も行きたいよ~!!」
駄々を捏ねられるのは予測済み。いつもなら茜ちゃんも連れていくのだが、灼ちゃんから連れて来るなとまで言われている。ここは大人しく部屋で待って貰うことにしよう。
「茜ちゃんは勉強を続けて!それが終わったら私のパソコンで麻雀してて良いから!」
「えっ、ちょっと!ソラ!!」
「私、ネット麻雀はしないんだけど…」
-Sagimori Lanes-
歩いて約20分。灼ちゃんの家にたどり着いた。外は雲一つない快晴。五月の終わりとはいえ、日差しの照りつける中を歩くと少し汗をかいてしまう。服が体に張り付いてちょっと気持ち悪い。
ウィーン…
自動ドアが開くと、中から涼しい風が。汗で濡れた体をひんやりと冷やしてくれる。
「いらっしゃ……そ、蒼空!」
「灼ちゃん、お待たせ!」
私が来るや否や、カウンターで待つ灼ちゃんは何故か仕事の制服を脱ぎ始めた。
「あれ?お手伝いは…?」
「店は大丈夫。それより私に付いて来て」
制服を畳んでカウンターに置いた灼ちゃんは、店の奥へと通じるであろうカウンター裏の扉を開け、私に付いて来るように言った。私はどういうことだろうと不思議に思いながら、灼ちゃんに付いて行った。
-灼の部屋-
「飲み物取ってくるから、ここで少し待ってて」
「うん。分かった」
店の奥に案内された先にあったのは灼ちゃんの部屋だった。灼ちゃんの部屋は全体的に物が少なく、必要最低限の物しか置いていないように見えた。それだけ整理整頓されているということなのだが、部屋にあるのは学校の授業で使う教材とボーリングや麻雀関係の物ばかりで、ちょっと女の子らしさが物足りない。
(まあ、灼ちゃんが化粧道具をいっぱい持ってたら、それはそれで驚くけど…)
オシャレをする灼ちゃんの姿を想像したら、ちょっと可愛い気がして一人でクスクスと笑ってしまった。
(灼ちゃんは服やアクセサリーなんかに興味なさそうだけど、ちゃんとオシャレすればきっと可愛いのに…)
今度一緒に買い物でも行こうか。そんなことを考えていると、部屋の扉が開かれた。
「お待たせ」
お茶の入ったコップをお盆に乗せて、灼ちゃんが戻って来た。それをテーブルの上に置き、私に座るように促した。
「で、今日は何かあったの?私はてっきりお店のことだと思ってたんだけど…」
床に腰を下ろし、灼ちゃんが座るのを待ってから今日の用件を尋ねる。さっきの店内を見る限り、手伝いが必要なほどではなかった。だが、灼ちゃんは電話で店の手伝いみたいなことだと言っていた。まず、この謎について本人から聞きたい。
「お店のことっていうのは嘘。ホントは私の個人的な用事。騙すみたいな形でごめん…」
灼ちゃんが深々と頭を下げる。それを見た私は急いで頭を上げてもらうように言った。
「わっ!頭を上げてよ、灼ちゃん!私は別に怒ってないからさ。それよりも個人的な用事って?」
「ありがとう蒼空。個人的な用事っていうのは………」
そこで言葉が途切れる。灼ちゃんは本当にこの先を言って良いのかどうかと躊躇っているような顔だ。
「どうしたの?もしかして言いにくいことなの?」
この場面で躊躇するといったら、それくらいしかないだろう。
「うん、少し。でも大丈夫。心の準備は出来た」
そう言って大きく息を吸う。
「蒼空、私に…」
ごくりと息を飲む。いったい何を言われるのか。私の頭はそのことでいっぱいだった。内容が分からない上に、灼ちゃんの神妙な面持ち。そのせいで、私にはどんどん不安が募っていった。
「勉強…教えて…」
「へっ?」
思わず聞き返す。
「だから、勉強教えて…」
顔を真っ赤にする灼ちゃん。スカートの裾を掴み、恥ずかしいのか私から目を逸らす。
「もしかして、灼ちゃん…まさか、バ…」
「違うから!玄よりかは点良いから!」
「ち、近いよ…」
私の顔の目の前まで顔を近づける灼ちゃん。その迫力に圧倒され、体を後ろに反らす。
「あっ、ごめん蒼空。でも、本当に点が悪いとかそんなんじゃないから」
「なら、どうして勉強を教えて欲しいの?」
点数が悪くないと自分で思っているなら、それで問題は無いはずだ。
「確かに悪くはないんだけど、何故か私の周りの人は私が90点台ばっかり取ってると思ってる」
「なんとなく分かるような気がするよ…」
灼ちゃんの話し方や雰囲気みたいなものから、そう思うのは仕方ない。私だって今のことを聞くまで灼ちゃんは賢いとばかり思っていた。
「いつも勉強を教えてくれって言われるんだけど、教えれるほどは頭良くないし…」
「だから私に教えて欲しい、と」
どうしようか悩む。私は茜ちゃんの勉強も手伝わなければならない。おばさんに任されているわけだし、茜ちゃんを放っておくわけにはいけない。
「それならさ、皆と一緒にするのはどう?宥さんもいるし、捗ると思うんだけど」
「それは止めて欲しい。麻雀部の皆には出来れば内緒で」
名案だと思ったが断られる。皆に内緒というのは、おそらく麻雀部にも自分のイメージは保っていたいからなのだろう。だから茜ちゃんには来て欲しくなかったのだ。
頭が良いとそれだけで尊敬を集めることが出来るので、その考えは分からないでもない。実際に私もそれを体感している。
「ダメ…かな?」
上目遣いで頼まれる。いつものイメージから想像出来ない行動にドキッとしてしまった。こんな顔で頼まれたら断れるわけがない。
「分かった!私に任せてよ!」
(ごめんね…茜ちゃん)
今回茜ちゃんには自分で勉強してもらおう。
「ありがとう!蒼空」
茜ちゃんへ電話をし、しばらく自分で勉強するように言いつける。茜ちゃんは「えー」とか「なんでー?」と不満ばかり言っていたが、どうしてもと言ったら渋々納得してくれた。茜ちゃんに感謝だ。テストが終わったら、気がすむまで茜ちゃんに付き合ってあげよう。
「蒼空、ここはどうやるの?この公式を使うのは分かるんだけど、計算が合わなくて…」
「ここはその公式とこの公式を応用するんだよ」
「なるほど。ありがとう」
灼ちゃんの勉強をみているが、特に悪いところは見当たらなかった。基本はしっかりしているし、単純なミスも少ない。ただ、少し応用されると頭が混乱して分からなくなるだけのようだ。
つまり、落ち着いて問題を解くことが出来れば良いというわけだ。しかし、テストはそれが出来ないから難しいのだ。普段なら解ける問題も、テストの三文字だけで一気に変わった問題に見える。すると灼ちゃんのように混乱してしまう。
「灼ちゃん。そろそろ休憩にしない?」
かれこれ3時間はマンツーマンで勉強を教えている。こんなに長くなったのは、飲み込みの良い灼ちゃんが今回のテスト範囲を越えて、1年生の時の問題まで質問をし始めたからだ。
「うわ…もうこんな時間。ごめん、やり過ぎた」
「大丈夫だよ。それより体が動かしたいかな」
ずっと座りっぱなしで腰が痛い。ここはストレッチ代わりに体を動かしたい。
「ウチのボーリングやって行く?勉強教えてもらったし、タダで良いよ」
「ホント!?ありがとう!」
この後、灼ちゃんとボーリングを楽しんだ。さすが灼ちゃん。私なんかは手も足も出なかった。
ちょっと悔しかったので、仕返しに上目遣いでもう1ゲームおねだりしてみた。結果は見事成功。第2ゲームは動揺していた灼ちゃんにギリギリで勝利した。
-水曜日・学校-
いよいよテスト当日だ。私はもちろん、茜ちゃんも灼ちゃんもこの一週間頑張ってきた。きっと大丈夫なはずだ。
(良しっ!頑張るぞ~)
-月曜日・放課後・部室-
今日は三日間続いたテストの返却日。私達の努力が結果として表れる日だ。部室に集まった皆は自然とテストの話になる。
「玄ちゃんはどうだったの?」
まず切り出したのは宥さん。やはり玄ちゃんの点数が気になるようだ。
「フフン!これを見るのです!」
玄ちゃんがバンっと五枚の紙を卓の上に置いた。
「国語46点、数学35点、英語34点、理科42点、社会48点…って補習ギリギリだよね…」
点数を見るなり、私達に「やっぱりか」といったため息が出る。その中で宥さんだけはわなわなと震えていた。皆に嫌な予感が走る。
「す、スゴいよ!玄ちゃん!!」
怒号なり例の笑顔なりが来ると思っていた私達だったが、意外にもやって来たのは誉め言葉。玄ちゃんも宥さんに誉められ嬉しそうに照れている。
「これで良いんですか!?宥さん!」
玄の点数に一番ため息をついていた和が思わずつっこんでしまう。すると宥さんは目に涙を浮かべながらこう答えた。
「玄ちゃんが全教科30点以上なんて奇跡だよ。しかも社会は48点!お姉ちゃん、嬉しい…」
(玄ちゃん、いったい今までどんな点数取ってたんだろ…?)
聞いたら恐ろしい点数が飛び出すと思うので、止めておく。
「じゃ、次は私が!」
穏乃が玄ちゃんと同じようにテストの解答用紙を広げる。
「国語48点、数学36点、英語52点、理科45点、社会49点ですか…平均的に悪いですが、特に数学が悪いですね。本当に私の言った通りに勉強したんですか?」
和が点数を見て渋い顔をする。和は穏乃を教えていたはずだから、この結果には不服なようだ。
「むっ。なら、和はどうなのさ」
「私?私ですか?」
カバンからテストを取りだし堂々と卓の上に置く。余程点数に自信があるのだろう。そしてその自信の通り、卓の上には大量の丸が並んでいた。
「国語100点、数学100点、英語100点、理科100点、社会100点……全部100点…」
点数を読み上げていた穏乃の声がだんだんと沈んでく。最後辺りはもう聞き取れないぐらいだった。流石に私もこれには次元の違いを感じる。
「すごい!すごい!ノドカすごいよ!」
今までに見たことのない100点の嵐に、自分が取ったようにはしゃぐ茜ちゃん。私のテストではそこまで喜ばないのにと少し嫉妬してしまう。
「茜ちゃんは大丈夫だったの?今回はあんまり勉強みてあげられなかったけど…」
「今回はバッチリだったよ!」
待ってましたと言わんばかりにテスト用紙を勢い良く叩きつけるように出す。
「国語35点、数学41点、英語35点、理科78点!?社会も68点!よく頑張ったね茜ちゃん!」
「えへへ」
これまで20点代ばかりを見てきたのに、今回はなんと最高で78点。国数英は平均を大きく下回っているが、理社は平均以上だ。
ここまで頑張ったご褒美として頭を撫でてあげた。茜ちゃんは嬉しそうにされるがままになっている。
「ゲフン!そ、蒼空さんはどうでしたか?」
和が大きく咳き込んだ。その声に反応して、私は茜ちゃんの頭から手を離す。
「あっ…」
茜ちゃんが少し悲しそうな声をあげたような気がした。だが、振り向いても茜ちゃんの顔は何ともない様子。きっと空耳だったのだろう。
「私は………はい、これ」
返されたテストを皆の前に見せる。
「国語92点、数学100点、英語89点、理科92点、社会93点」
「和の後だとインパクトないかな…?」
全て満点を取った和の点数を見た後だと、私のはいまいちな感じがする。もちろん私の点数だって良いはずだ。数学なら学校の誰にも負けない自信がある。だが、他の教科は一つ年下の和には負けそうな気がする。
「そんなことありません!中学二年生でこの点数は凄いですよ!」
「そ、そうかな?」
和に異常に絶賛され少し困惑する。和の好意は有難いのだが、私より点数の高い人に言われても複雑な気持ちだ。
「玄さん、茜さん、蒼空さんと来れば次は灼さんですね!」
「えっ…!」
穏乃が不意に灼ちゃんに話を振る。灼ちゃんの体がビクッと動いた。
そこで私は不安になる。このままでは、灼ちゃんの点数がバレてしまう。もちろん断ることは可能だが、それだと皆に不審がられてしまう。いや、それよりも不審がられてしまったと灼ちゃんが思い込むことの方が重大な問題だ。
これまでも灼ちゃんはテストを見せることを拒んで来ただろうから、普段ならそうしてもおかしく思われないだろう。しかし、今は麻雀部内で、周りにいるのは麻雀部の仲間だ。そして、その中でテストを見せ合う流れが出来ている。
ここで断っても、皆は何とも思わないかもしれない。だけど、灼ちゃんからすると、皆を裏切ったという罪悪感と気づかれたのではないかという懸念が生まれるかもしれない。
「待って穏乃、そろそろ麻雀を…「分かった」」
「えっ…灼ちゃん、良いの?」
私が助け舟を出そうと思い、この話をすっぱり切ろうとしたが、それを止めたのは他でもない、灼ちゃんだった。
「はい」
灼ちゃんは裏向きで五枚の紙を卓に置いた。
「あれ?何で裏向き?」
玄ちゃんが怪訝な顔をする。私も灼ちゃんが何をしようとしているのか分からない。だが、正直私はホッとしていた。何故なら、灼ちゃんがテストを見せるということは、つまりは努力が報われたということだからだ。これなら私が心配するようなことは起こらないだろう。
「実は、私も見てないんだ。点数」
(!!!)
「そうなんですか~でも、灼さんなら良い点数ですよね」
私が止めようとする前に穏乃がペラっと捲ってしまった。「せめて読み上げないで!」という私の本心とは裏腹に、穏乃は一枚ずつ捲って灼ちゃんの点数を読み上げる。
「国語90点、数学92点、英語91点、理科93点、社会92点…さすが灼さんです!」
読み上げている間はまるで時間が止まっているかのように感じた。国語が90点と分かった後でも、他の教科は大丈夫だろうかと心配でならなかった。
最後の社会点数が告げられてやっと私は胸をなでおろした。灼ちゃんも同じように安堵している。
「何であんなことしたの?」
皆がテストの点数を見ている間に、灼ちゃんにだけ聞こえるように隣で囁く。
「蒼空に教えてもらったんだから、90点を取れないわけがないって信じてたから」
さも当たり前のように言う。信じてくれるのは嬉しいが、私ぐらいにはそのことを言って欲しかった。いきなりあんなことをされて心臓が止まるかと思った。
「もう。こんなことはこれっきりにしてよ?」
「うん、分かった」
灼ちゃんはそう言って、卓の上のテストを片付ける。
「さ、麻雀やろう、皆」
灼ちゃんが小さく笑った気がした。
インターミドル県予選まで後12日
皆さんは中学生の時のテストはどうでしたか?私は数学が得意で英語が苦手でした。蒼空が数学が得意なのはそのためです。
次回はやっと県予選開始です。長らくお待たせしてしまって申し訳ございません。