今回も蒼空たちは麻雀しません。すいません。
-金曜日・夜・蒼空の部屋-
「いよいよ…明日だね…」
いつになく真剣な茜ちゃん。お気楽な茜ちゃんでも、地区予選ともなると緊張を隠せないようだ。
「ここまで色んなことがあったね…」
じっくりとこれまでのことが思い出される。阿知賀に引っ越したこと。玄ちゃんとあの教室で出会ったこと。穏乃と山に行ったこと。宥さんと旅館の仕事をしたこと。灼ちゃんと二人で勉強したこと。和が私達を頼ってくれたこと。
「ソラはさ…阿知賀に来て良かった…?」
少し心配そうに私の顔を窺う。私の答えなんて、分かっているだろうに。
「うん。良かったよ」
(分かっているからこそ、心配なのかな…私が長野に未練があることもお見通しみたいだし)
阿知賀はとても良い所だ。住む人も良い人だし、眺めも綺麗。交通の便がちょっと悪いけど、長野にいた頃と大して変わらない。何より麻雀部の皆がいる。それだけでここは掛け替えのない場所だ。
だけど、それでも14年間過ごした長野を忘れることなんて出来ない。長野だって奈良に負けず劣らず良い所だし、友達もたくさんいた。麻雀部だって…きっと…
(ダメダメ!そんなこと考えちゃ!)
(私が「長野の方が良かった」なんて絶対に言っちゃいけない!)
「もう寝よっか茜ちゃん」
「うん。そだね」
「おやすみ」
「おやすみ~」
バタン…と私の部屋のドアを閉める音が響く。夜というものはこんなにも静かだったのかと、なんとなく感慨に浸ってみる。
嵐の前の静けさでないことを祈ろう。
-土曜日・インターミドル県予選会場-
「うわ~すごいですね…」
穏乃が会場を見上げる。レギュラーではない穏乃や茜ちゃんは応援を頑張ってくれるそうだ。
「出場校は全部で16校。一回戦と二回戦は上位二校が勝ち進んで、決勝で一位になった学校が全国への切符を手に入れるんだよ」
改めて今大会のルールを確認する。皆バッチリだと思うが茜ちゃんや穏乃、もしかしたら玄ちゃん辺りが怪しいので念を押す。
「へえ。三回も戦わなくちゃいけないんだ」
「茜ちゃん…それ、昨日説明したよ…」
「そ、そうだよ!昨日蒼空ちゃんが部活中に言ってたのです!!」
「………玄ちゃん、昨日部活は休みなんだけど…」
「はうっ…!!」
なんというか、いつもの皆で安心する。大会前の雰囲気とはとても思えない。もちろん良い意味で。
和も灼ちゃんも宥さんも緊張している様子はない。むしろこの中で一番緊張しているのは私かも。
「よし!皆行くよ!」
「「「「「「おーー!」」」」」」
時は流れ決勝戦…
先鋒戦
「ロン!!タンヤオピンフドラ7です!!」
「「「えっ…」」」
次鋒戦
「ツモ。役牌ホンイツ、4000オールです」
「「「はい…?」」」
中堅戦
「ロン。リーチ一発イーペーコー」
「「「…」」」
副将戦
「ツモ。三色トイトイドラ3。4000、8000です」
「「「もう…いや…」」」
『副将戦で決着!!なんと全国への切符を手にしたのは、初出場の阿知賀女子だ!!』
-大会終了後・松実館-
「阿知賀女子!優勝おめでとーー!!」
パンパンとクラッカーが鳴り響く。大会を優勝という最高の結果で終わらせた私達は、玄ちゃんと宥さんに連れられ松実館へと訪れていた。
松実館に着くや否や玄ちゃんと宥さんは仲居さんに私達を預けてどこかに行ってしまい、仕方なく私達は仲居さんに着いて行った。
どうぞ、と襖を開けてもらって案内されたのは、宴会で使うぐらいの大部屋。そこでは『阿知賀女子優勝おめでとう!!!』と書かれた横断幕がどんと部屋の天井から吊るされていた。
部屋にはおじさんやおばさんを含め、灼ちゃんのおばあちゃんや、穏乃のお母さんらしき女の人。麻雀部の一応顧問の担任の先生もいる。私達麻雀部の関係者を集めた感じで、全員でざっと20人弱ぐらいだ。
「いやあ、ホントに優勝しちゃうなんてね~」
その中の一人、この前のお手伝いでお世話になった女将さんが料理を持って来てくれた。
「前々からあの娘達に、この日だけは大部屋を空けておいて!って何度も頼まれるもんだから、思い切って松実館を貸し切りにしてみたのだけど、どうやら正解だったみたいだわ」
「玄ちゃん達がそんなことを…」
この日のためにこの大部屋どころか松実館ごと貸し切ってくれた二人。それだけ私達が良い結果を残すと信じてくれていたのだろう。二人の思いに答えれて本当に良かった。
「そういえば、玄さんも宥さんもどこに行ったんですか?さっきから姿が見当たらないんですけど…」
「ああ、あの二人ならもうすぐ来るわよ…ほら」
穏乃の問いに対して女将さんが指差した先、そこには周りの仲居さんとは違った色の着物を着た玄ちゃんと宥さんがいた。玄ちゃんは緑色の、そして宥さんは黄色の着物を着ている。
二人とも、さらに追加される料理をお盆に乗せて運んで来たようで、お盆の皿には大きな伊勢海老がずっしりと構えていた。
「地元で取れた伊勢海老ですのだ!」
「く、玄ちゃん…!奈良に海は無いよ…」
玄ちゃんと宥さんは冗談を交えながら料理を私達の前に並べていく。女将さんや他の仲居さんほどでは無いにしろ、慣れた手付きでそつなくこなすその姿が大人びて見えた。
(二人とも、麻雀以外にも色んな特技があるんだ……私には、何があるだろう…)
自分の麻雀以外の特技を考えてみる。蕎麦の大食い、フクロウの豆知識、数学……大した物が無くて自分への自信が無くなりかけた。もし、私から麻雀を取ったら何が残るだろう?そう考えると少し怖くなった。
「……ラっ!ソラっ!!」
「へっ!?」
「もう、何ボーッとしてるの?今から乾杯だよ?」
茜ちゃんに言われて初めて気づく。もう周りの人は全員、乾杯の用意を済ませていた。
「ご、ごめん!」
私も急いでコップにお茶を注ぐ。
「じゃ、改めまして、阿知賀女子学院麻雀部の優勝を祝して、乾杯!!」
「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」
玄ちゃんの合図とともに皆が各々のコップを突き上げる。そして私達の大宴会が始まった。
「落合茜っ!「MIRACLE RUSH」歌いま~す!!」
「待ってました茜さ~ん!!」「いけいけ~!」
宴会も盛り上がってきた所で茜ちゃんがカラオケを歌い始めた。その歌声は中々な物で周りの観客、主に玄ちゃんと穏乃が合いの手を入れたり、応援していたりしている。その姿を見ていた大人達も微笑みながら彼女達を見て見守っている。
だが、そんな大盛り上がりの空間に、浮かない顔をする少女が一人、和だ。和は楽しんでいないことはないようなのだけれど、本気で楽しめていないようにも見えた。その証拠に時々深いため息をついている。
「大丈夫、和?体の具合でも悪いの?」
「蒼空さん…いえ、体は至って健康です」
ため息をつく和が心配だったので、こっそりと和の隣に歩み寄って体の具合を尋ねる。もしかしたら体調を崩しているかもしれない、そう思って聞いてみたのだが、和が言うにはそうではないらしい。それはとても良いことだが、ここで新たな疑問が生じる。体ではないのなら、何故ため息をつくのだろうか。
「大丈夫ならそれで良いんだけど、無理はしないでね?」
「はい…ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
ペコリと謝った後、和はまたため息をついた。絶対に何かある、そう確信した私は少し距離を置いて和の視線を観察することにした。
「茜、歌上手いじゃない」
「すごいでしょ、お母さん!!」
茜ちゃんとおばさんが仲良く会話をしている。普段ウチで良く見る光景だ。何の変わりもない日常、和はそれを見つめてまたため息をついた。
(もしかして…和…)
ぐるりと部屋にいる人達を見渡す。おじさんにおばさん、女将さんと玄ちゃん達のお父さん、灼ちゃんのおばあちゃんに穏乃のお母さん。皆それぞれ両親や祖母が集まっている。麻雀部のメンバーの中で、血の繋がりのある家族が来ていないのは私と和だけだった。
私にはいないと言っても、おじさんとおばさんがいる。血の繋がりが無くとも立派な家族だ。だからこの部屋にいても親がいなくて寂しいと思わなかった。しかし和にはそういう人が来ていない。家族と呼べる人達がここにはいないのだ。
「あの…すみません女将さん?」
「ん?どうしたの蒼空ちゃん?」
「和…ちゃんのご両親は…」
この宴会のセッティングのリーダーであろう女将さんに和の両親が来るか聞いてみる。今のところ和の家族らしき人は見当たらない。だが、仕事で遅れて来る可能性は十分ある。自分達の娘が県大会で優勝したのだ、流石にお祝いしないことはないだろう……と思いたい。
「ああ、それならさっき和ちゃんに言ったわよ。二人ともお仕事が忙しくて来れないそうよ、ってね」
「あ、ありがとうございます……」
やはりと言うか、そうであって欲しくないと思っていたことが起こってしまった。和の両親は残念ながらここには来れないそうだ。さっきからついていたため息は、きっと両親が来てくれないことを気にしていたのだろう。
(ここは部長の出番かな……)
「和、一緒に食べませんか?」
出来るだけ、気を使ったことを悟られないように自然に接する。私が気を使って和に話しかけたと分かれば、むしろ和に気を使わせかねない。
「はあ。蒼空さん、気を使わなくても良いですよ。両親が来ないことは予想していましたから」
「うっ、バレてたの…?」
「私を観察していたことも、女将さんに話を聞いていたのもバレバレでしたよ」
気づかれないようにひっそりと行動していたつもりだったのだが、和には筒抜けだったようだ。
「まあせっかくですし、ご一緒させてもらいます」
和が席を立ち私の席までやって来てくれた。
「改めて優勝に乾杯です」
「うん。乾杯」
コップ同士をコツンと小さく鳴らす。二人だけの乾杯というのも中々乙なものだ。
「団体戦で優勝したおかげで、これで全国に行けます」
「和は来週には個人戦もあるんだよね?」
個人戦。団体戦とは違い、個人が何局か打ってその総合点で競う種目だ。団体戦のように一発勝負ではないため安定した実力が求められる。ただし、仲間は誰もいないため、精神面では大きな負担がかかる。
「はい。来週の土曜日に東風戦を行い上位16人までに絞り、日曜日に半荘戦を行ってその結果上位3人が全国へと駒を進めます」
「その二日間は皆で応援に行くよ!」
「まだ二日かかるとは決まっていませんが、ありがとうございます」
個人戦には和以外誰も出場しない。団体戦に出られなかった茜ちゃんや穏乃に声をかけてみたが、二人とも別に個人戦にはあまり興味がないらしい。その代わりに全力でチームのサポートをしてくれるそうで、とても心強い。
「そういえば、蒼空さんは来年の個人戦をどうするつもりですか?来年はインターミドル個人戦に出られる最後のチャンスですよ?」
「うーん、どうだろ。その時の気分次第かな」
「そんな曖昧な…」
私のどっち付かずの返事にあきれ果てている和。私としても、どちらかに即決出来る方が好ましいのは分かっている。だが、未来は未来なわけで、今来年のことを考えることはどうしても出来なかった。
「和はどうして欲しい?」
「もちろん出場して欲しいに決まっています!」
(やっぱり和だからそう言うよね…)
実力主義の傾向が強い和にとって、強い人がそれ相応に評価されないのは我慢出来ないのだろう。私は別に自分が強いとは思っていないのだが、和には強い人、最低限個人戦で活躍出来る人だと思われているらしい。今回は特に団体戦で私に出番が無かったので、より個人戦には出場して欲しそうだ。
「和はどうして来年私に出場して欲しいの?」
答えはまあ予想出来るが実際に質問したことは無かったので質問してみる。
(『強い人こそ全国に行くべきです!』とかなんだろな…)
「そ、それは………全国の舞台で蒼空さんと戦ってみたいからです」
すっと答えられると思っていたが意外にも和は言葉を詰まらせた。私はそれを見て何かあると直感した。
ここでさっきのやり取りを振り返ってみる。私が言ったのは『和はどうして来年私に出場して欲しいの?』だ。対する和の返事は『そ、それは…全国の舞台で蒼空さんと戦ってみたいからです』。
二つを思い出して和の返事に少し違和感を感じた。何故地区予選ではなく全国なのか。和は全国だろうが部室だろうが私と打つことを重要視しそうなものだ。しかし和はあえて『全国』という言葉を使った。
(もしかして…和は…)
全国でなければならない理由。それがもしあるとすれば、全国でしか戦えない場合だ。そして私の言った『来年』という言葉。これらから予想される和の言葉の真意、それは…
「もしかして、もし来年引っ越すことになった時に私と対局したいから個人戦に出て欲しいの?」
来年に全国でなければならない状況。それはつまり私と和が違う県の代表であるという状況だ。そして違う県の代表であるということは和が引っ越している、要は私達が今年優勝出来ないことを意味している。
「…」
下手な言い訳はしないものの、私から視線を逸らす和。チームの負けを少しでも考えたことに罪悪感を感じているのだろう。
だが、私はそれを責めるつもりはない。なぜなら、和は引っ越すか引っ越さないかの当事者であり、一番この問題に深く関わっているからだ。
「そうだ!今年、団体戦で優勝出来たら来年は個人戦出ようかな」
「なっ…!」
だけど、というよりもだからこそ、私は意地悪なことを言ってみた。和を元気付けるために言ったつもりだったが、後で思うと私は考えたくなかっただけかもしれない。和が引っ越すなんてことを。
「もう知りません!!」
案の定和に怒られた。
「……でも…ありがとうございます」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、そう聞こえた気がした。
-個人戦当日-
「二位通過おめでとう、和」
「ありがとうございます」
無事に和は個人戦を二位で通過し、全国への切符を手にした。和ほどの実力ならば一位通過もあり得ると思っていたが、そう甘くは無かったようだ。一位は三年の
「和ちゃんも強かったけど、小走さんも強かったね」
「はい。流石三年生です。結局彼女には一度も勝てませんでした」
和で勝てないのだから、きっと私では足元にも及ばないのだろう。人口が比較的少ない奈良でもこんなに強い人がいることを考えると、各都道府県から猛者が集まる全国が本当に楽しみだ。
-夜・蒼空の部屋-
『From:のどっち』
『To:フェザーダーク』
『件名:ご報告』
『この前言っていた大会で優勝することが出来ました。これもフェザーダークさんのおかげです。ありがとうございました。』
夜、のどっちから一週間ぶりにこんなメールが送られてきた。のどっちはここ一、二週間に用事があったらしく、ネット麻雀にも顔を出さなかった。私も団体戦の前はネット麻雀を控えていたので、いつから顔を出していないかの正確な時間は分からない。
(優勝かあ…すごいな…)
-和の部屋・和サイド-
『From:フェザーダーク』
『To:のどっち』
『件名:おめでとうございます!!』
『優勝おめでとうございます!私の助言が少しでも役に立ったのなら光栄です。』
(団体戦での優勝を喜んでもらえると、個人戦で喜ばれるよりも嬉しいですね)
個人として誉められるよりもチームとして誉められる方が阿知賀の皆の努力が認められたようで何倍も嬉しい。特にフェザーダークさんのような強い打ち手にだとなおそう思う。
(全国優勝の報告をしたら、いったいどういう反応をしてくれるでしょうか)
まだ始まってすらいない全国が楽しみになってきた。
-蒼空の部屋・蒼空サイド-
(そういえば、大会で優勝って言ってたけど、今日ある公式大会はインターミドル予選の個人戦だけのはず………って、もしかしてのどっちは小走さん!?)
確かインターミドルと被らないように、中学生が出れる大会は今日の地方予選一つだったはずだ。そして今回の大会の優勝者は小走やえさん。彼女は和でさえも勝てないほどの実力者だ。のどっちもそれに負けないぐらい強い。同じ奈良で同じ中学生でこんなにも強い人が二人もいるだろうか。だが、もし彼女達が同一人物なら二人いるのも納得がいく。
(き、気づかなかったことにした方が良いよね?)
恐らく自分の正体は隠したいだろうし、小走さんのためにもこの事は忘れることにした。
阿知賀女子麻雀部、全国へ!!!
見事団体戦優勝です!アニメと同じくらい描写したからこれで良いですよね?
次回はインターミドル本選です。一回戦は…皆さんの予想通りになると思います。もちろん、二回戦と準決勝、決勝はちゃんとやります。
インターミドルをやるにあたって、どうしてもオリキャラが必要です。オリキャラと言っても出番はインターミドル、インターハイだけです。出来る限り数は少なくしようと思っています。