蒼空と茜空   作:tieck321

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一年振りの投稿…色々と遅れて申し訳ありません。遅れた理由などは活動報告に書いてます。


今回、麻雀初心者なりの"読み"みたいなのがありますが、見当違いなことが書いてあっても温かく見守って下さい…

一応あらすじ
玄ちゃんボコボコにされる。


阿知賀編 第23局 「お姉ちゃんふぁいあー」

-宥サイド-

 

 

『次鋒戦開始15分前です。』

 

 

対局室へと向かう廊下。私以外は誰もいない。静かな廊下には私の靴音が響く。

控室を出てから今まで、真っ直ぐこの廊下を歩いているのだが、未だに玄ちゃんとすれ違うことはない。無人の廊下は私の不安を掻き立て、自然と早足になった。

すると当然のことながら予定より早く対局室前へとたどり着く。目の前の扉を開けば、いよいよ対局室だ。

ここまでで玄ちゃんとは会わなかったので、彼女がこの中にいることは明らかなのだが、先ほどの試合の結果が結果だけに、対局室に入ることが躊躇われた。

それでも勇気を振り絞り、そっと扉の取っ手を掴む。冷房のせいかひんやりと冷たい。早足で体温が上がったのでより強く冷たく感じているのかもしれない。

 

 

(うう…冷たい…)

 

 

一度手を離し、ポケットから手袋を取り出しはめる。そして息を整え改めて取っ手を掴む。先ほどよりは冷たさは幾分かマシになった。

そのままゆっくりと扉を押した。ガチャンと金属の扉がぶつかり合う音と同時に、冷たい空気が流れ込んできた。対局室内は廊下以上に冷房が効いているようだ。私は巨大な冷蔵庫の中に入る気持ちで対局室に足を踏み入れた。

まず私の視界に映ったのは麻雀卓。そしてそこに座る…玄ちゃん。玄ちゃんは丁度私と向かい合う席に座っていたが、反応がなかった。瞳を閉じているのか私に気づいていない。

 

 

私は雀卓へと続く階段を上り、真正面から玄ちゃんへと近づいた。彼女はまだ目を開く気配はない。流石に足音で気づいていると思うのだが、敢えて反応していないのかもしれない。

とうとう私は雀卓を挟んで玄ちゃんの目の前にまで来てしまった。ここまで来ても目を閉じたままである。本当に気づいていないようだ。私は玄ちゃんを驚かせないよう、できるだけ優しく声をかけた。

 

 

「玄ちゃん…大丈夫?」

 

 

「えっ!?…って痛っ!!」

 

 

玄ちゃんはすっとんきょうな声を上げた。それと同時にガンと鈍い音が響く。不意を付かれて、膝を雀卓にぶつけてしまったようだ。

膝を押さえながら悶絶する玄ちゃん。私は直ぐに寄り添って、痛みが引くまで介抱した。

 

 

 

 

 

「じゃ、そろそろ戻るね!」

 

 

痛みが完全に引いてから、私達は対局室で何気ない会話をした。松実館のこと、学校のこと、東京のこと。どれも一度話したことがあるんじゃないかというぐらい平凡な話だった。ただ、その話の中に今の対局の話は出てこなかった。

そして、話の途中で会場のアナウンスが開始5分前を告げた。それを聞いて玄ちゃんは立ち上がり、そして華麗なステップで階段を駆け降りる。その動きは実に軽快で元気、なのだが、どうしても違和感を感じざるを得なかった。

 

 

「く、玄ちゃん!!」

 

 

「ん?何、お姉ちゃん?」

 

 

丁度階段を下り終えた所で、体をくるりとこちらに翻す。そして、じっと私を見つめながら次の言葉を待っていた。

 

 

「お姉ちゃんも頑張るから…見てて!」

 

 

私は、一言そう言った。たった一言だけどそれで良い気がした。姉なのに非常に情けないのだが、今の玄ちゃんに何を言うべきか分からない。チームのエースになれない私に、玄ちゃんの責任感は理解できない。背負っている物は同じでも、背負っている量は圧倒的に違っていた。

だから私が言えたのは、たった一つ。自分の背中を見守って欲しいということ。量では劣るかもしれないが、玄ちゃんと同じ物を背負っている。その背中を見て、一人じゃないことを感じて欲しかった。

 

 

「…うん。分かった」

 

 

言葉上では短いやり取りだった。しかし、これだけで私の伝えたいことは十分伝わっただろう。だから、私は、私達は何も言わず背を向けあった。それぞれの行くべき場所に向かって。

 

 

 

 

 

-阿知賀女子控室・蒼空サイド-

 

 

対局室から戻った玄ちゃんは、少し目が赤く染まっていた。泣いていたのは、誰の目にも明らかだった。だけど、その目は悲しみに満たされたものではなく、何か決意に満ちた目だった。

だから、誰も何も言わなかった。いや、その決意のこもった目に圧倒されて言えなかっただけかもしれない。いずれにせよ、玄ちゃんは私が心配するような状況にはない。きっと宥さんが言うべきことを言ったのだろう。私達では到底響かない、宥さんだからこその言葉を。

 

 

「皆…ごめんなさい。いっぱい点取られちゃった…」

 

 

玄ちゃんは入ってすぐに頭を下げた。そして、私達がそれに対して言葉を掛ける前に玄ちゃんは体を起こして、こう続けた。

 

 

「でも、次はそれ以上に取り返す!だから…だから…」

 

 

玄ちゃんの目からは、涙がポタポタとこぼれ落ちていた。声も震え、ぎゅっと握った両手には力が込もっていた。その様子を控室内の全員が見守っていた。

 

 

「皆、絶対に勝って!!」

 

 

…それは、玄ちゃんから聞いた初めての、勝利のお願いだった。今まで自分で勝利を手繰り寄せていた玄ちゃんは、私達に『頑張って』と言うことはあっても、『勝って』と言うことはなかった。それは、勝利に拘っていなかったということもあるだろうが、何よりも私達に一位でバトンを渡せば、必ず勝ってくれると信じてくれているからだろう。

しかし今回、玄ちゃんは初めて勝利を遠ざけた。私達に四位でバトンを渡すことになった。だから初めて『勝って』とお願いしたのだろう。

それはある意味で我が儘であった。でも、今はそれが嬉しかった。

 

 

「…勝つよ…絶対に」

 

 

私は一言そう言った。けれどこれは、私だけの言葉ではない。和の、灼ちゃんの、宥さんの、そして茜ちゃんの、穏乃の、さらには先生の、阿知賀女子麻雀部全員の言葉だ。

この言葉で全員の心に火が点いた気がした。『絶対に勝つ!』と。

 

 

 

 

 

 

-宥サイド-

 

 

次鋒戦 前半戦 東家 剱谷 南家 椿川 西家 東栄 北家 阿知賀

 

 

東1局 親  ドラ{三萬}

 

 

九巡目

 

 

宥 手牌{一萬二萬三萬七萬八萬七筒七筒九筒七索八索九索中中}

 

 

現在、手牌ではチャンタとサンショクが完成しつつある。{九萬}{八筒}をツモればテンパイ。そして河にはそれぞれが一枚ずつ見えている。十分に引けるだろう。

しかし、懸念材料が一つ。河にはそれ以外の七~九の牌が少ししか見当たらない。特に南家の椿川は字牌も少なめだ。

 

 

(もしかして…椿川の人も…?)

 

 

椿川の捨て牌には{白}と二巡前に捨てた{九索}がある。一巡前にはドラの{三萬}を切っている。ここだけ見ればチャンタの線が薄いようにも見えるが、王牌に{二萬}が一枚、そして河には二枚見えているため、{一萬}~{三萬}の順子を諦めた可能性もある。

となると、椿川が{七筒}~{九筒}で待っていれば、仮に{九萬}{八筒}をツモっても、テンパイするために捨てる{七筒}で振り込むかもしれない。点差の大きい上に大事な一局目で躓きたくはないので、慎重に様子を伺うべきだろう。

 

 

(次の椿川の人の捨て牌次第かな…)

 

 

{九萬}スッ

 

 

だけど、タイミングが悪かった。まだ見極められていないのに、チャンスは訪れる。いや、これはチャンスと言えるのだろうか。

とりあえず、点差を考えればここでリーチすべきだろう。そうすれば最低でも跳満。順位も3位に浮上する。

しかし、それをするには{七筒}を切らなければならない。振り込む可能性を考えたら、{中}を切って{七筒}か{九筒}を待ち、リーチ単品に張り替えるのも良いかもしれない。火力は大分下がるが、失点のリスクも下がる。

 

 

(でも、ここは…少しでも…ほんの少し多くでも稼がないと…)

 

 

後の三人の負担はなるべく減らしたい。特に蒼空ちゃんに関しては、初めて出場することになり、不安も大きくて大将である負担もあるだろう。だから最低でもイーブンまでは戻さないといけない。

 

 

「リーチ!」{横七筒}トンッ

 

 

だから私は{七筒}を切ることにした。失点覚悟の賭けに出た。気づくと自分の心臓が大きく脈打っていた。ドキドキしながらも牌から手を離した時だった。

 

 

「ポンっ!」

 

 

聞こえたのは椿川の鳴きだった。私は一瞬固まった後、ハッと我に返り急いで{七筒}を彼女に手渡した。

 

 

(よ、良かった…)

 

 

渡した後に心の中でホッと息をついた。

この鳴きで椿川のチャンタはなくなった。しかも七八九の線がなくなったお陰で、椿川の手牌に{八筒}がある可能性が低くなり、私がツモる期待度も高まった。更には、{七筒}が鳴かれたことから他家の七~九の警戒が薄れるため、{八筒}{九筒}が切られやすくなる。そうなれば私の和了の可能性も上がる。

 

 

 

 

 

そしてそれから三巡後、一発は無理だったものの無事に{八筒}をツモった。

 

 

「ツモ。リーチサンショクチャンタドラ1。3000、6000」

 

 

{一萬二萬三萬七萬八萬九萬七筒九筒七索八索九索中中} {八筒}

 

 

一発や裏ドラがあれば倍満だったが、ここは跳満止まりだった。だがそれでも三位に浮上。まだ二回戦通過ラインには乗っていないが、このまま慎重に打っていけば、この次鋒中に二位にまで上がれるかもしれない。

 

 

一位 剱谷 130700

二位 東栄 97300

三位 阿知賀 87100

四位 椿川 84900

 

 

 

 

 

-阿知賀女子控室・蒼空サイド-

 

 

「やっと一局が終わった~」

 

 

対局中黙っていた茜ちゃんが隣にいる私の膝に頭を乗せてきた。茜ちゃんも緊張していたのだろう。ただ、ボサボサの髪の毛だと、毛先が脚に擦れてくすぐったい。

 

 

「茜ちゃん…くすぐったいんだけど…」

 

 

「大丈夫大丈夫、私は柔らかくて気持ち良いから」

 

 

茜ちゃんは動く気配なし。膝枕がよほど気に入ったのか、完全に私の膝に頭を預けてきた。

 

 

「園城寺先輩の言う通り極楽極楽。いや~先輩の膝枕説聞いてて良かった!」

 

 

(いつの間に雀荘でそんな話を…というか、膝枕説って?)

 

 

色々と謎は残るが、今は気にしないことにした。それと、脚のくすぐったさにも慣れてきたので、取り敢えず暫くは膝枕をしてあげようと思った。

 

 

「あっ!もうすぐ東二局が始まりますよ!」

 

 

穏乃の声で私はテレビに目を向けた。茜ちゃんをチラリと見てみるが、どっしりと頭の重みが膝にのしかかる。このまま試合観戦をするようだ。

 

 

『先程の一局で剱谷を除く三校が団子状態となりました。まだまだ二回戦通過はどの中学か分かりません』

 

『今配牌がセットされ、次鋒戦東2局、スタートです!』




23局でした。久しぶりの執筆…点数とか、役とか凄い忘れてました。もしかしたらどこか間違ってるかもしれません。
次回投稿は一応未定です。ですが時間の余裕は今年よりは多いはずなので、直ぐに投稿出来るとは思います。
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