我ながら単純ですね。
久しぶりなので、ルールとか得点計算とか間違ってたらごめんなさい。
‐和サイド‐
トン…トン…
対局室にリズム良く牌を置く音が響く。ツモって、そして切る。その度に独特な緊張感が肌にピリピリと伝わってきた。
(全国大会2戦目ですが、まだこの雰囲気は慣れませんね)
自分は緊張などしない方だと思っていたが、案外そうでもないらしい。特に団体戦はどうやっても慣れることはなさそうだ。
県の個人戦の時とは違い、団体戦ではチームを背負うことになる。どうしてもその肩にかかる重みが違っていた。
「ロンです。ピンフドラ2、3900です」
ただ、それでも私は自分を貫かなければならない。私がこの副将に選ばれたのは、普段の私が評価された結果なのだから。
1位 剱谷 145500
2位 阿知賀 90800
3位 東栄 90300
4位 椿川 73400
‐実況放送室‐
「原村和の和了で阿知賀女子が2位に順位を上げました。2回戦は上位2校が準決勝へと駒を進めます。ですのでこのままの場合、剱谷と阿知賀女子が準決勝へ進出することになります」
「上位2校ってのは変わった制度だよねぇ。上位1校の方が分かりやすいのに。けどま、副将戦に見どころが増えるのは良いかもね~」
「副将戦?大将戦ではないのでしょうか?最後の順位が決まるのは大将戦ですし…」
「いや~甘いね、えりちゃん。大将戦で順位が決まるからこそ、副将戦が面白いのよ」
「"面白い"、ですか…」
‐対局室・剱谷サイド‐
(うーん…今度は阿知賀が2位かぁ…これは困ったなぁ)
私、
(監督からの指示だと、2位と共闘して3位との差を付けろってことなんだけど…)
それは目下進行中のこの対局、副将戦の2位の動向のことである。
副将戦前、監督から受けた指示はこうだ『準決勝へは2位以上が進出となる。だから2位と共闘して3位との差を広げろ。そうすれば大将戦で更に共闘がしやすくなる』と。
これに従い私は2位と共闘しようとした。しかし、先程から東栄と阿知賀が2位を奪ったり奪われたりの繰り返しだ。
(これじゃあ、どっちと共闘したら良いか分かんないじゃん…)
と、考えていると運よく私に願ってもない助け舟が来た。
「ロン。清一ドラ2。16000です」
(おぉ…阿知賀が東栄に清一。これで3位と32500点差か。前半戦とはいえ南2局だし、2位は阿知賀で決まりか)
私は監督の指示を実行すべく、後半戦に向けて準備を始めるのであった。
『副将戦前半が終了。1位は変わらず剱谷高校。2位は3位から順位を上げた阿知賀女子。3位は東栄、そして椿川が続きます』
1位 剱谷 147800
2位 阿知賀 114800
3位 東栄 76500
4位 椿川 70900
‐剱谷控室‐
「いや~疲れました~」
「お疲れ様。どうだ、他の3校は?」
「見た感じ大丈夫そうです、監督。阿知賀が調子良さそうですけど、私からは和了ってませんし、もしかしたらあちらさんも私たちと同じこと考えてるんじゃないですかね」
「ほぅ。それなら好都合だ。中島、分かっていると思うが阿知賀にはなるべく手を出すな。3位と4位を集中的に狙って向こうにアピールするんだ」
「分かってますって」
‐後半戦・東1局‐
(さてさて、タンヤオテンパイ。場合によっては一盃口も狙える手。点数的には2600か1300でショボイ手だけど、速攻が優先優先)
手牌{三萬三萬四萬四萬五萬六筒六筒八筒八筒八筒五索六索七索}
{五萬}トンッ
(良し来たっ!…って阿知賀かよ…安い手だし、ここは今後のためにもスルーするか)
-2巡後-
「ロンっ!タンヤオのみ。1300!」
{三萬三萬四萬四萬五萬六筒六筒八筒八筒八筒五索六索七索} {二萬}
(さあさあ、阿知賀さん。言いたいことは分かってくれたよね?)
‐実況放送室‐
「4位の椿川が剱谷に振り込み!ボーダーラインの2位との差が広がりました」
「うわ~、あの中島って娘、場慣れしてんね~」
「そうなのですか?中島選手は阿知賀の原村選手の振込を一度見逃してしまっていますし、むしろ場に飲み込まれているような気もしますが」
「ありゃチームの方針じゃない?2位との差を広げず、3位以下との差を広げるっていう」
「…?それはおかしくありませんか?確かに今回4位の椿川との差は2600点広がりましたが、3位の東栄とは1300点しか広がっていません。原村選手のときに和了っていれば、3位にも4位にも2600点差をつけれたはずです。これでは2位の阿知賀が得をしただけじゃないですか」
「そこがミソ。阿知賀に有利なプレーをしたってことは、阿知賀から協力を得られやすくなる。この副将戦に限らず大将戦でもね」
「まさか、阿知賀と協力して逃げ切りを図ろうと…!そ、それはルール上大丈夫なのでしょうか?」
「ルール上は一応問題ないよ。それにこんなの、インターミドルじゃよく見る光景だから大丈夫なんじゃない?知らんけど」
「まさか副将戦で増える見どころって…いえ、何でもないです」
‐対局室・和サイド‐
次の局の準備のため、パラパラと雀卓に吸い込まれていく牌たち。それを見て私はさっきの局を振り返っていた。
(剱谷の人、私の{五萬}を無視して、わざわざ打点の低くなる{二萬}で和了りました。これはミス、なのでしょうか…)
私は頭の中であらゆる可能性を思案した。あの場面で2位との差を引き離さず、4位との差を離すことを優先したのは何故なのか。たまたま私が打牌した後にテンパイしたのだろうか。それとも4位の椿川が余程脅威なのだろうか。
そして私はある可能性に思い至った。
…もしかして私たちは侮られているのではないでしょうか。こんな奴ら、すぐに3位以下に落ちてしまう、と。だとしたらとても悔しいです。
「んじゃ、東2局行こっか~、
チラリとこちらを見ながら、敢えて私の名前を強調して呼んでいる。
なるほど、そういうことですか。
(私たちへの挑発、ということですね)
私は彼女に向けて、静かなる闘志を燃やした。私たちと40000点以上の差があるとはいえ、弱いと思われるのは気分が良いものではない。
思い切って私は、その挑発を受けて立つことを示すために敢えてこう言い放った。
「そうですね。貴方からのお誘い、お受け致します!」
「ちょ…!さすがに声に出すなよ!」
何やら彼女はアワアワと慌てふためき、審判の方をチラチラと気にしていた。声に出されて怖気付いたのかは知りませんが、今更撤回することは赦しません。
(私たちを侮ったことを後悔してもらいます!)
‐実況放送室・えりサイド‐
「…東2局が始まって12巡目。各校それぞれ手牌を整えていきます…」
私は対局室の映る画面を見ながら、淡々と実況を続けていた。
対局室では全国制覇を目指す中学生が純粋に勝利を求め、熱い闘いを繰り広げている。そう、思っていた。
しかし、現実は違っていた。この対局室には勝利のための目に見えない思惑が渦巻いている。まだ幼い中学生の大会で、だ。
「…ちょっと実況適当過ぎじゃね?」
三尋木プロが指摘する。彼女の顔には表れていないが、私のやる気のない実況に怒っているようだった。
私はそれが分かった。分かった上でまるで気づいていない振りをした。
「そうでしょうか?このくらいが普通だと思いますけど」
私は三尋木プロの方に目を合わせず、素っ気ない態度でそう答えた。
元々、私の志望は朝の顔となることだった。小さい頃テレビで見た、自信を持って何百万、何千万という人が見ているかもしれない中、堂々とニュースを読み上げるアナウンサーの姿に私は目を奪われた。
それを目指して私は努力した。滑舌の練習から始まり、姿勢を正す練習、苦手な笑顔の練習もした。
そうしてやっと掴み取った夢の仕事。それなのに今、私はテレビの前にはいない。上から回された中学生の麻雀大会の実況をしている。
このことに、私も最初は特に嫌な思いはなかった。新米の私にすぐ大役が回ってくるとは最初から思っていないし、仕事を貰えるだけで有難いと思っていたからだ。
それに中学生の大会とはいえ、目一杯頑張る子たちの実況ができるのだから、私もそれに応えて目一杯実況しなければならない。そう思っていた。
(これが…これが本当に正しいの?確かに戦略としては理にかなっているけど、中学生の大会が本当にこれで良いの?)
私には何が正しいか分からなかった。
「…」
「…はぁー……。おっ!えりちゃん!見てみろよ、面白いことになってんぜ!」
意気消沈する私に、三尋木プロはわざとらしく大声を上げて、私にモニターを見るように促した。
「…これは、阿知賀の手牌…?」
そこに映し出されていたのは阿知賀女子、原村和選手の手牌だ。実に綺麗な待ちでテンパイしている。もし和了すれば跳満は確定の手だ。
しばらくすると画面が切り替わり、今度は剱谷の中島帆純選手の手牌が映る。こちらはそこまで綺麗じゃないものの、和了すれば満貫は確定の良い手だ。
そして2人は、なんとお互いのアタリ牌をお互いに抱えていた。
「これが…なんですか?まさかさっき言っていた"見どころ"とやらが見れるのでしょうか?」
私はマイクを口から離してキッと三尋木プロを睨んだ。
ここから起こる事態は容易に想像できる。お互いがお互いのアタリ牌を処理し、安牌と思い込んだ他家に振り込ませやすくするという流れだ。
わざわざこの人は、私が見たくない場面を見せつけたいのだろうか、と嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
「あのさぁ、何か勘違いしてるみたいだけど、私の言う"見どころ"は、トップ2人が仲良くワンツーフィニッシュするところじゃないぜ」
「………えっ?」
思いがけない三尋木プロの言葉に、私は驚きと同時に心の奥底で淡い期待が芽生えていた。
「私の言う"見どころ"ってのは…」
『ロン。一気通貫ホンイツ白。12000です』
「こういう、どんな状況でも自分を曲げない奴が現れるところだよ!!」
(阿知賀が…阿知賀が剱谷から和了った!?)
…私は画面に映る彼女に釘付けになった。てっきり剱谷と協力して逃げ切るものだと思っていた。きっと対局室もそういう雰囲気だったに違いない。
でも、それでも周りに流されず自信を持って彼女は自分を貫いた。正々堂々麻雀を打つ。その姿は、私の憧れたあのアナウンサーの姿と重なった。
「ほら、実況実況」
「えっ…!あっ!ロンです!阿知賀女子の原村和選手が1位の剱谷高校の中島帆純選手に跳満を直撃させました!」
私は頭を真っ白にしながら実況を始めた。さっきまでの無気力な実況とはまるで違う、心踊る実況だった。
そして時間を忘れ、気づけば副将戦は終了していたのである。
『副将戦終了ーーっ!なんと!阿知賀女子が剱谷を追い抜き1位となりました!原村選手はなんとこの副将戦で40000点近くも稼ぎ、ついに1位へ躍り出ました!』
1位 阿知賀 131200
2位 剱谷 125600
3位 東栄 73900
4位 椿川 69300
‐対局室・和サイド‐
「お前…なんで裏切ったんだよ…!」
副将戦が終わってしばらく、審判が対局室から出ていった後、剱谷の選手が訳の分からないことを言って私に噛み付いて来た。
「裏切る…?なんのことでしょうか?」
彼女の言うことを私は理解できなかった。裏切るも何も、私たちは敵同士。最初から協力関係にない。
「『お誘い、お受けします』って言ったじゃんか!なんで私から和了ったんだよ!」
「勝負なのですから和了るのは当たり前です。むしろあなたはそれを望んでいたのではないのですか?」
「は…?」
私の言葉を聞いた彼女は、あんぐりと口を開けたまま固まってしまった。そして「うあー!」と唸り頭を掻きむしった後、私にこう吐き捨てた。
「覚えてろよ!大将戦で先輩がお前らをボコボコにするからな!」
「そうですか。こちらの先輩にも伝えておきます」
「あぁ、もう!ぐぁーーー!」
変な叫び声を上げて彼女は対局室から飛び出した。
(…変わった方ですね)
彼女と同じく私もゆっくりと対局室を後にした。
次話は多分ないです。これまでの経験からすぐエタるのでこう言っときます。
あっ、感想、評価はいつでも待ってます。