第2局です。前よりは長く書けました。
今回からやっと原作キャラが出てきます。
-木曜日・放課後-
「ふ~、疲れた~」
授業終わりに茜ちゃんが深いため息をついた。ため息の原因は、おそらく麻雀部のことだろう。
私達の自己紹介から二日、茜ちゃんが声をかけたがクラスの誰も麻雀部には入らないらしい。
それもそのはず、私達は二年生なのだから普通は部活に入っている。そもそも、麻雀をしたい人は麻雀部のある阿太峯中学校へ行く。わざわざ阿知賀女子にくるはずがない。
茜ちゃんが一人だとかわいそうなので、私は麻雀部創設に協力するつもりだけど、それでも同好会止まり。
しかも、部員が足りないだけじゃない、場所も設備も整っていない。
(やっぱり、阿知賀で麻雀部は無理なのかなあ)
私は諦めムードで教室の時計を見る。時刻は午後4時。部活に入っている人は部活をしている時間だ。
「よしっ。他のクラスにも声かけてみる!」
茜ちゃんが立ち上がり、教室を飛び出そうとする。だが、そうはさせない。
私はがっちりと茜ちゃんの腕を掴んだ。
「茜ちゃん、今日は職員室に用があるでしょ。捜すのはまた明日」
茜ちゃんはイヤだイヤだと子供のように駄々をこねている。
私は構わず、嫌がる茜ちゃんを引っ張って職員室へ向かった。
茜ちゃんが成長する日はくるのだろうか…。
-廊下-
職員室での用事は大したことじゃなかった。担任の先生にクラスで馴染めているか聞かれただけだった。
先生は心配してくれているのだろうけど、茜ちゃんはせっかくの勧誘の時間を潰されたので、終始不機嫌な顔をしていた。
今、予想以上に時間の余った私達は、校舎の探検ついでに部室候補を探している。
「へ~、やっぱ広いね~」
茜ちゃんは校舎の内装に興味津々で、先ほどの不機嫌な顔はもうない。
廊下を注意深くみているのか、歩く速さもゆっくりになり、いつも前を歩く茜ちゃんにしては珍しく私の後ろをついてきている。
学校の内装はお嬢様学校らしく綺麗に掃除してあった。外から見たまんまの広さで、あの子なら確実に迷っていただろう。
…いや、広い狭いはあの子には関係ないか。
「あ…」
茜ちゃんの小さい声が聞こえ、足音が止まった。
良い部室候補でも見つけたのだろうかと振り返ると、横を向き何かをじっと見る彼女の姿があった。
その視線の先には、現在使われていないであろう教室。確かに部室には良さそうだ。
「茜ちゃ…」
声をかけようとした。が、茜ちゃんの様子がおかしい。いつもならもっと喜んで跳び跳ねていてもおかしくない。
ならば何故だろう。見た限りこの教室に変わったところはない。ということは、中に何かあるのだろうか。
そう思い茜ちゃんと同じ場所に立ち教室の中を覗くと、その理由はすぐに分かった。
麻雀卓があったのだ。しかも一台だけではなく二、三台。
「えっ…」
私も思わず驚きの声をあげた。麻雀部のない阿知賀に麻雀卓があるとは思ってもいなかったからだ。
先生の言っていたことは嘘だったのだろうか。いや、そんな嘘をつく必要がない。
先生は知らなかった?それでもクラスの一人ぐらいは知っているだろう。
ああでもない、こうでもないと思考を巡らす。
(前はあったけど廃部になっちゃたのかな)
それらしい結論に辿り着く。しかし、辿り着いたところで麻雀部員が増えるわけではない。
場所と設備が整っていることが分かっただけで大きな収穫ではあったが、設備に関しては麻雀卓がちゃんと使えればの話だ。
「茜ちゃん、中に入ろっか」
麻雀卓を調べるために、未だに固まったままの茜ちゃんに声をかける。
茜ちゃんは目に涙を浮かべていたように見えたが、すぐに、うん、と小さく返事をして教室の扉に向かって歩き出した。
麻雀部創設に一歩近づいたとはいえ、そんなに感動することだろうか。
それとも、私の気のせい?
(家族みたいに一緒にいるけど、まだまだ知らないことが多いな)
もっと茜ちゃんのことを知りたい。そんなことを思いつつ教室の中に入った茜ちゃんの後を追う。
-元麻雀部部室-
(この卓すごいキレイ)
卓を見てまず思ったのがそれだった。卓の表面をなぞっても、指には埃ひとつつかない。
新品のように見えたが所々小さな傷があり、かなり使い込まれていたことがわかる。
それでもこんなにキレイなのは使用者が丁寧に扱っていたからだろう。
こんなに手入れのゆき届いた卓をみると、実は麻雀部は存在するのではないかと思えてきた。
「この部屋、ちゃんと掃除されてる」
茜ちゃんの一言で気がつく。
周りをよく見ると、卓だけではなくこの教室全体もキレイなのだ。
(ここを掃除しなきゃならないクラスでもあるのかな?でも、こんな所使わないと思うけど…)
「あの…何かご用ですか?」
しばらく教室を見物していると背後から女性の声が聞こえ、私と茜ちゃんは同時に振り向いた。
そこにいたのは、エプロン姿で片手に水入りバケツを持った黒い髪の少女だった。
バケツの縁に掛けられた雑巾とエプロン姿から察するに、この部屋の掃除をしているのだろう。きっとさっきまでいなかったのは、おそらく水を汲みに行っていたからだ。となると、もしかしたら私達は掃除の邪魔をしているかもしれない。
「す、すいません。掃除の邪魔でしたか?」
ぺこりと頭を下げる。茜ちゃんも少し遅れて頭を下げた。
もし邪魔であるなら早々に退散しようと思っていたが、そうではなかったらしい。彼女は優しい口調でこう言った。
「いえいえ、大丈夫です。もうすぐ終わりますから」
バケツを置き、少女は私達と話しやすい距離にまで寄ってきてくれた。話しやすい位置に来たあたり、掃除は後回しにしてくれたのだろう。急いで終わらせる必要はなかったようなので、本当に邪魔ではなさそうだ。
ほっと私は息をついた。
「それより、ここ麻雀部…じゃなくて元麻雀部の部室に何のご用でしょうか」
最初の質問に戻る。
彼女の発言から予想どおり麻雀部は廃部になったことが分かった。
心のどこかで期待していたので少し残念だ。
「麻雀卓があることに気がついてこの教室に入ったんです」
私はありのままに伝えた。正確には、気づいたのは茜ちゃんだけど。
「麻雀卓が気になった?ということはもしかして、麻雀に興味がおありで!?」
一気に私との距離を縮めてきた彼女。キラキラと輝く目は期待で満ち溢れている。
(まさかこの人も私達と同じで麻雀部を作りたいんじゃ…)
そんな考えが頭に過った。
「はいはいはーい!あります!あります!」
隣の茜ちゃんが元気よく手を挙げた。私以外で麻雀の話ができそうな人が見つかりとても嬉しそうだ。
元気一杯の返事を聞いた黒髪の彼女は、よしっ、と小さくガッツポーズをしている。
「そういえば、良ければお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
名前を聞いていなかったことに気づき、彼女に尋ねる。
やはり名前が分からないとやりづらい。それにこの人とは、これからも付き合いがある予感がした。
「おっと、申し遅れました。私の名前は
敬礼の真似をしながら答えてくれた。
(同い年だったんだ…。年上かと思ってた)
続いて私が茜ちゃんのも含めて自己紹介をする。
「私の名前は羽暗蒼空です。隣のこの子は落合茜ちゃん。二人とも中学二年生です」
「な、なんと…中学二年生でこのおもち…。同級生にこんなにも素晴らしいおもちをお持ちの方がいたなんて、松実玄、一生の不覚…」
「えっと……」
松実さんは小声で何か呟き手をワシワシと動かす。なにやら怪しい雰囲気だったので、深くは関わらないことにした。
「ところで、松実さんは麻雀部員だったんですか?」
彼女から一歩離れて、先程から気になっていたことを質問した。
ここの掃除をしていたあたり、関係者であることは間違いないだろう。となれば元麻雀部というのが一番可能性が高い。まぁクラスの掃除当番という可能性も捨てきれないが。
「う~ん、そうともいえるし、そうともいえない」
どっちつかずのよく分からない返答が帰ってきた。麻雀部員であり、そうでないとはどういうことなのだろうか。
「私、こども麻雀クラブの一人だったの」
「こども麻雀クラブ?」
松実さんの言う『こども麻雀クラブ』という言葉に聞き覚えはなかったが、ある程度の予想はできた。おそらく麻雀をする集まりか何かなのだろう。そして松実さんはその一員。だから麻雀部であって麻雀部でない。松実さんのあやふやな返答の意味が分かった。
「あ、説明してなかったね。こども麻雀クラブっていうのは、赤土さんって人が開いた麻雀教室だよ。でも去年、赤土先生が福岡の実業団に行くことになったから麻雀教室はなくなっちゃったんだ」
松実さんは本当に残念そうに俯いた。
「…あれ?ならなんで掃除なんかしてんの?」
同い年と分かり、敬語をやめた茜ちゃんが、珍しく最もな疑問をぶつけた。確かに麻雀教室がなくなったなら、もうここを掃除する必要はないはず。何か特別な理由でもあるのだろうか。
「私、今日が掃除当番だから」
一瞬ん?と思ったが話の流れから麻雀教室の、だろう。
あまり会話が成立しない返答だったが、茜ちゃんは気にすることなく続け様に質問をした。
「他の人は掃除してんの?」
「それは…」
チラリと私は松実さんの顔を伺った。実は私もそのことは少し気になっていた。麻雀教室が一人な訳がない。しかもこの部屋はなかなか広い。一人で掃除するとなると大量の時間と労力が必要だ。
「みんなは…今はいないけど、いつかは来てくれるよ」
…どうやら掃除をしているのは松実さんだけらしい。他の人達がどういう人達なのかは分からないが、松実さんに任せっきりなのは如何なものかと思った。
「ああそれと、みんなっていうのはこども麻雀クラブにいた友達のことです」
その後小さい声で、今頃どうしてるかな、と呟いた。顔を見て分かる。恐らく連絡を取ってないのだろう。
「えーっ。なんで何もしないの?気になるなら呼べばいいじゃん」
松実さんの話し方からして多分そんな簡単な話ではない。大体話の雰囲気から想像出来るものなのだが、素直な茜ちゃんには難しいようだ。その素直さは良いことだし、それが茜ちゃんの長所だけれど、今のこの場では無神経と取られても仕方がない発言だ。
「なんでって言われると、信じてるからかな。みんなが戻ってくることを」
そんな茜ちゃんの発言にも笑顔で返した松実さん。しかし、その笑顔は無理に作っているようにも見えた。信じてると言っているが、その一言で済ませられる程ではない、特別な事情がありそうだ。
「…その麻雀教室の人達とは連絡を取ってるんですか?」
力になりたい。心の底からそう思って質問した。
私がどこまで力になれるか分からない。けれど、聞かなければ何もできない。もちろん、松実さんが嫌ならそこでやめるつもりだ。
「連絡かあ…。そういえば同じ学校にいるのに全然会ってないな」
(……あれ?遠くにいるんじゃないの?)
私は少し拍子抜けした。話を聞いていて、てっきりその人達はどこか遠くへ行ってしまったと思い込んでいた。前言撤回で松実さんには悪いが、そんなに深刻な問題ではないように思えてきた。
(いやいや、先入観は良くない。もしかしたら凄い仲違いをして気まずいのかも)
「な、なんで会わないんですか?」
「………なんでだろ?」
「…」
もしかして、この人そういう人なのかな…。でもそういうことなら、解決法は単純そうだ。
「松実さんは、このままで良いんですか?」
松実さんが現状に満足しているかを確認する。不満に思っていればいつかは自分で動くだろうけど、もし満足しているなら…。
「……このままでも良いと思うな。私、待つのは得意だから」
松実さんは一瞬言葉に詰まってから答えた。私はその一瞬を見逃さなかった。その間で、口ではああ言っているけど本心はきっと違うと確信した。
松実さんは自分の気持ちを偽っていることに、自分自身で気づくべきだ。じゃないと、取り返しのつかないことになるかもしれない。
…私達がしてしまった失敗を松実さんにはして欲しくない。
(待つだけじゃダメだってことを伝えなきゃ)
「松実さん、待っていればそのお友達が来るって本当に信じてます?」
厳しい言い方になると思うけど、これが私にできることだ。
茜ちゃんは私の言いたいことを理解したのか、黙って私を見守ってくれている。その視線だけで私は勇気づけられた。
「えっ、もちろん信じてるよ?」
不思議そうに首を傾げている。何を言ってるんだ、という顔だ。
「本当はその人達はもう戻って来ないって思ってるんじゃないんですか?」
自分でも酷いことを言っていると思う。彼女の思いを否定しているのだから。向こうからしたら、勝手なことを言っている最悪な女に見えるだろう。
もし、ここで松実さんに叩かれても、私は文句を言えない。
「そ、そんなことない。いつか絶対ここに戻ってくる」
松実さんは私を一瞬睨んだが、すぐに元に戻った。心の優しい人だ。私なら目をそらすか、怒鳴るかしていたかもしれない。けど、松実さんは私から目をそらさず、怒鳴りもしない。
人を嫌うことを嫌う。そんな感情が表情から読みとれた。
「なら、いつかなんて待たなくても、今戻ってきてもらえば良いじゃないですか。その人達は学校にいるんでしょう?」
だからこそ私は言葉を続けた。良心が痛もうが突き進んだ。
「い、今は無理だよ」
「今がダメならいつですか。明日?明後日?一週間後?それとも来年ですか」
…松実さんはその人達と会うことから逃げている。なんで逃げているかは分からない。けれど、逃げるだけじゃ何も解決しない。
(ちゃんと向き合って、松実さん)
「…」
松実さんは下を向いて黙っている。
「待ってるだけじゃ、大切なものは手に入らない。私はそう思います」
私の本音。
「なら…」
「ならどうしたら良いの!?赤土先生がいなくなって、憧ちゃんもいなくなった!麻雀教室がなくなって和ちゃんも穏乃ちゃんも全然会えなくなった!
今みんなに会いに行って麻雀に興味ないって言われたら、もうあの時には戻れないことが分かっちゃう!!
そんなこと知るくらいなら、みんなを待って知らないほうが良い!!ずっとずっと待って、みんなを待ち続けるほうが良い!!」
松実さんは泣いていた。泣きながら叫んでいた。その姿でさらに心が痛む。私には想像できない苦しみがあったのだろう。
でも、ここで引く訳にはいかない。ここで引いたら松実さんを傷つけただけになる。
(そんな無責任なことできない!!)
「…松実さん、少しだけ私、いや私達の話を聞いてくれませんか?」
松実さんは顔を上げて私の顔を見た。その目は涙で溢れていた。
「私達、奈良に引っ越す前は長野に住んでました。その時私達には仲の良い友達が三人いて、いつも五人で麻雀をして遊んでいたんです」
「私はある事情で親戚の茜ちゃんの家に住んでいたんですけど、ある日おじさんの仕事の都合で私達は長野を離れなければなりませんでした」
「この時私達はこの事をすぐに他の三人に伝えるべきだったんだと思います。けど、私達には勇気がなく、ずっと黙ったままいつものように過ごしました」
「でもある時、この事が三人のうち二人にバレました。もちろん怒られました。なんでもっと早く言ってくれなかったの、って」
「その後、その二人に会いに行くことはなかったです。というよりも、会いに行けなかった、ですね。どんな顔して会えばいいか分かりませんでしたから。だから、私達がしたのは三人から会いに来るのを待つ、それだけでした」
「結局、引っ越しの日までにその二人は来ませんでした。もう一人に至っては、この事を知っていたかどうかも分かりません」
「私達は最後まで仲直りできないまま長野を去りました。今でもずっとそのことを後悔しています…」
「…」
松実さんは最後まで静かに話を聞いてくれていた。
「私は松実さんにこの苦しみを味わって欲しくない。待ってるだけじゃ何も変わらない。
だから…待つのはやめにして、その人達に会いに行きませんか?」
(もう二度と、会えなくなる前に…)
「待ってるだけじゃ何も変わらない、か…」
松実さんは制服の袖で涙を拭いた。
「そう、だよね。待ってるだけじゃダメだよね。私が一番年上なんだから私が迎えに行かないと!」
顔を上げた彼女の顔からは、迷いが消えていた。
「うん、その調子だよクロ!」
「あ、茜ちゃん!?いきなり呼び捨ては…」
「ふふっ。玄で大丈夫だよ」
「ほら、クロもこう言ってるし。これからよろしく、クロ!」
「よろしく!茜ちゃん、蒼空ちゃん」
彼女…いや玄ちゃんはとても楽しそうだった。茜ちゃんと満面の笑みで笑い合っている。その笑顔はさっきまでの泣き顔よりよっぽど彼女らしく、心が温まった。
「はい。こちらこそよろしくお願いします、玄ちゃん」
笑い合ったこの時間は、きっと私達の最高の思い出となるだろう。
麻雀同好会 現在3人
第2局、どうでしたか?
アニメを見て玄が待ち続けた理由を自分なりに解釈しました。
私が見逃しただけで、アニメで理由を言っていたかもしれませんが、そこはオリジナルということで。
最後のシーンは実体験から書いてます。うまく書けてるといいのですが。
次回も原作キャラが登場します。お楽しみに。