-土曜日・早朝・落合家-
『今日の正午に校門前に集合!茜ちゃんにもお願い』ブツ、ツーツーツー
(なに…これ………)
玄ちゃんからの電話があったのは日が昇ってからすぐのことだった。夜中にネット麻雀をしていた私はもちろん眠っており、そしてそのまま目覚ましの時間までぐっすり眠るはずだった。…いきなり電話が鳴るまでは。
無理矢理起こされた上にあの電話、私は怒りを通り越して疲労を感じた。
(寝直そ…)
私は布団に潜り直した。
-昼・校門前-
「遅いですね」
穏乃が心配そうにこっちを見ている。穏乃の服装はジャージ姿。色々と危ないが本人は気にしていない様子だ。
話が逸れてしまったが確かに遅い。もう十二時三十分を過ぎている。さっき連絡をとったところ、今走っていると言っていた。ケガの可能性もあるにはあるが彼女なら大丈夫だろう。
こんなにも私達を待たせている犯人、それは…。
「茜ちゃん大丈夫かなあ」
そう、茜ちゃんだ。茜ちゃんは私よりも早く出発したのだが、何を思ったのか走って行こうと考えたらしい。バスで三十分もかかる道のりを走っていくなんて、何を考えているのか分からない。おかげで私達は校門前で立ちっぱなし。まだ春だから待っていられるが、これが夏だと倒れていてもおかしくない。
(一緒に行けば良かった)
今さら後悔してももう遅い。むしろ悪いのは準備の遅れた私の方、ということにしておこう。
それからさらに三十分後、茜ちゃんはやっと校門前に到着した。私服のパジャマ姿で走ってくる様子は異様と言わざるをえなかった。
「ではでは、全員揃ったことですし行きますか」
茜ちゃんの休憩が終わって玄ちゃんが歩きだす。
「行くってどこにですか?」
穏乃の質問を私も聞きたかった。待ち時間にも聞いてみたが内緒と言われ教えてくれなかった。仲間外れが嫌いという玄ちゃんの気持ちも分かるが、安眠妨害をされた身としては早く教えてほしい。
「なんと我が家、松実館です!」
玄ちゃんは待ってましたといった様子で言った。いまいちピンと来ないが玄ちゃんの言う通り松実家のことだろう。でも何故松実「館」なのだろうか。幼なじみの穏乃なら何か知ってるんじゃないかとチラッと顔を見たが、穏乃も同じらしい、首を傾げていた。
「時間も押してるし急ご~」
茜ちゃんが玄ちゃんを追って走りだす。
(こうなったのは誰のせいだと思ってるんだか…)
-松実館-
「ただいま~」
玄ちゃんが裏口から入る。私達もそれに続いてお邪魔した。
松実館というのは旅館のことだった。大きさはそこまで大きい訳ではないが、温泉もついていてしっかりとした旅館である。
玄ちゃんに案内された部屋は客間というより居間に近かった。部屋の真ん中には炬燵があり、上には蜜柑、側にはテレビ、おまけに暖房とこの部屋だけ冬のようだ。
「お姉ちゃん、ただいま」
玄ちゃんが炬燵に話しかけた。この部屋の暑さにやられてしまったのだろうか、炬燵をお姉ちゃんと呼んでいる。
………もちろん冗談です。
「おかえり~」
モゾモゾと炬燵から一人の女性が顔を出した。この人が玄ちゃんのお姉さんなのだろう。こんな暑い部屋で何重もの重ね着をしながら炬燵に入っている。常人には考えられないことだが、きっとサウナダイエット的な彼女なりの健康法に違いない。
「ふえ、玄ちゃん、お客さん来てるなら早く言ってよ~」
私達に気づいたお姉さんは炬燵の布団で顔を半分隠して、小動物のようにこちらを窺っている。私達が炬燵の側に座ると、布団を下げて自己紹介をしてくれた。
「あの~、私玄ちゃんの姉の松実
玄ちゃんのお姉さんである宥さんは、玄ちゃんとは違いおとなしい性格のようだ。頼まれたら断れない、そんな感じだ。
「初めまして、ユウさん。私は落合茜です。ところでその炬燵に入っても良いですか?」
茜ちゃんが軽く自己紹介をして炬燵に入ろうとする。
「どうぞどうぞ。人数が多いほどあったかいから大歓迎だよ」
この暑い中で歓迎できるほどの余裕があるらしい。この人、大丈夫かな。
っと、そういえば自己紹介をしていない。早くしないと。
その後、私と穏乃は自己紹介を終えたが、その途中で茜ちゃんが炬燵の中で眠ってしまった。パジャマで寝ている姿はもうダメ人間そのもの。風邪を引いたらいけないので起こそうと思ったら、寝ぼけた茜ちゃんに炬燵に引き込まれた。抱きついてくる茜ちゃんを振りほどくのに苦労した。
「ええっ!麻雀部?」
宥さんは驚いたように言った。玄ちゃんから話を聞いていると思っていたが違ったようだ。
「そう!お姉ちゃんが入ってくれれば部員は全員で五人。麻雀部が作れるんだよ!」
宥さんはう~んとしばらく考えていた。これを断られるととうとう後がなくなる。私は内心ドキドキしていた。
「私で良かったら是非入らせてください」
宥さんは承諾してくれた。茜ちゃんと玄ちゃんは宥さんに抱きついて喜んでる。宥さんもとても嬉しそうだ。違う意味で。
「そうだ、今からパーティーやろうよ!」
玄ちゃんが閃いた。麻雀部結成記念を祝してということだろう。
「いいね、やろうよ」
茜ちゃんも賛同する。
「えっ、でも玄ちゃん…」
宥さんが何か言いたげだ。もしかしたら宥さんは反対なのかもしれない。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。夕方までには終わるから!」
宥さんはしばらく困った表情を浮かべていたが、玄ちゃんの必死の説得に折れて、「夕方までだよ」と言ってパーティーを許してくれた。
その言葉を聞いた玄ちゃん達はまたもや宥さんに飛びついた。
「やり、ましたね」
隣で座っていた穏乃が私にしか聞こえないような声で言った。
「うん、麻雀部の結成だね」
私も同じくらいの大きさで言った。
「私、まだ信じられないですよ。つい一昨日まで麻雀をすることはもうないなって思ってたのに、今は麻雀をしたくて仕方がない。こんなにもワクワクしたのは久しぶりです!」
穏乃の気持ちはよく分かる。私も同じだから。転入初日に麻雀部がないと聞いたとき、私はもう麻雀をすることはない、あってもネット麻雀だけになるのだろうと思っていた。茜ちゃんが麻雀部を作ろうと言ってくれなかったら、ここにはいなかっただろう。
けど今ここにいる。そしてみんながいる。今から始まる私達の麻雀部がどうなっていくのか、楽しみで仕方ない。
「夢じゃ…ないですよね」
穏乃が聞いてくる。
「うん、夢じゃないよ」
私は答えた。
例え夢だとしてもこんなところで終わらせない。
物語はこれから始まるのだから。
麻雀部 現在5人
第5局でついに麻雀部ができました。アニメの阿知賀と違って、部員はまだ増えます。
第6局は蒼空が旅館で頑張ります。茜と穏乃、特に穏乃にはしばらく目立ったシーンはありません。穏乃ファンの方、すいません。