-日曜日・Sagimori Lanes-
今日は快晴。絶好のボーリング日和。けどお客さんは少ない…。70年前にはボーリングブームがあったらしいけど、今じゃやっていくのがギリギリ。
(このままだとうちもマズイな…)
「ねえシズノ、ヒドイと思わない?朝起きたら出掛けてきます、だよ?せめて行き先ぐらいは教えてくれても良いのに」
「はあ、そうですね…」
これからこの店をどうしようかと思案していたら、私と同じくらいの女の子が二人来店して来た。一人はジャージを着たポニーテールの子。もう一人はパジャマ?を着て寝癖の頭の子。パジャマの方はよく分からないがお怒りのようだ。
「いらっしゃいませ」
変な格好だけど貴重なお客さんだ。常連になってもらわないと。
「二人お願いします」
ジャージの子が受付を済ませる。近くで見るとやっぱりすごいファッションセンス。もしかして若い子の間ではこういう服装が流行ってるのだろうか。
「そうだシズノ、勝負しよ!負けた方が勝った方の掃除当番一回分で!!」
「おっ、良いですね、よ~し、負けませんよ~」
そういえばあのパジャマの方って隣のクラスの転校生じゃなかったっけ。ジャージの方も学校で見たことあるし、阿知賀の生徒かな。
(ま、よくあることだけど)
-ボーリング勝負終了-
「ま、負けた…」
どうやら勝負は決着がついたらしい。勝ったのはジャージ。ジャージの方はなかなか上手かったけどパジャマは論外。ピンが隣のそのまた隣のコースにまで弾かれるなんて見たことがない。
「茜さん、約束ですよ。明日の部室の掃除、頼みましたからね」
「ぐぬぬ…掃除なんて、掃除なんて麻雀に関係ないじゃん…」
(麻雀?もしかして麻雀部?)
「うちに麻雀部なんてあったっけ…」
「「へ?」」
(しまった!声に出てた!)
「ねえ、もしかして阿知賀女子の人?」
パジャマが受け付けまでやって来た。
「まあ、そうですが…」
「ならさ、麻雀に興味ない?」
パジャマが何かを期待するような目でこちらを見る。これは確実に麻雀部の勧誘が始まる。
「いえ、興味ありません」
パジャマには申し訳ないが、麻雀はもうやめたのだ。ハルちゃんがプロ行きでもしない限りもう牌を握ることはない。
「そっか、残念。部員がもっと増えればクロも喜んでくれると思ったんだけど…」
「えっ、玄?」
聞き慣れた名前に反応してしまう。
「もしかして玄さんのこと知ってるんですか?」
「うん、まあ友達」
玄とは小さい頃に麻雀をした仲だったけど、今は少し疎遠になっている。
「そういえばクロが言ってた、麻雀とボーリングの強い友達がいるって。さては…」
(うっ、玄から話を聞いてるならここで嘘をついても無駄か)
「うん。多分それは私のこと」
「なら麻雀できるよね?麻雀部入らない?」
やっぱりそうくるだろうと思った。阿知賀で麻雀する人はおそらく少ない。部員は多い方が良いに決まっている。でも残念ながら私はもう麻雀をやめた。
「ゴメン、私もう麻雀やめたから」
「え~っ、麻雀楽しいのに、なんで?」
「…私の尊敬する人が、上を目指さなくなったから」
ハルちゃんが麻雀教室の先生止まりなんてあり得ない。もっと上に行けるはずだ。
「よく分かんないけど、無理矢理誘うのはだめだよね…」
パジャマがトボトボとジャージのところへ戻る。もっとしつこいかと思ったら、すぐに諦めた。
「やっぱり入って!」
わけではなかったようだ。パジャマは飛んで戻って来た。
「だから私はもう…」
「じゃあさ、麻雀しなくて良いから麻雀部に入ってよ」
…このパジャマはバカなのだろうか。麻雀をしない麻雀部員なんて意味が分からない。
「お断りします」
「え~」
パジャマは頬を膨らましてこっちを睨んでいる。このまま断り続けても素直に帰ってはくれなさそうだ。
(仕方ない、あの手を使うか)
「そこまで言うなら勝負で決着をつけようよ」
「勝負?」
パジャマは顔を元に戻した。
「そう、ボーリング勝負。三回投げて倒したピンの合計が多い方の勝ち」
「そっちが勝ったら私は麻雀部に入る。でもこっちが勝ったら、一週間ボール磨きをしてもらうから」
私がボーリングで負ける訳がない。ある意味これは出来レース。パジャマには悪いけど、麻雀部には入らない。
「それってシズノ…じゃなくて向こうの子を入れてもオッケー?」
「構わない」
何人増えようが関係ない。むしろ労働力が増えてラッキーだ。
「じゃあオッケー」
パジャマが勝負を受けた。これで一週間の労働力確保。
「シズノ~、勝負だよ~」
パジャマがジャージを呼びに行った。
-ボーリング対決-
「じゃあまずルール説明。チームはそっち二人と私一人。三回投げて倒した本数の合計を競う」
「そっちはより多く倒した方の記録を使って良いよ。これで良い?」
パジャマとジャージは同時に頷いた。
「じゃあまず一投目」
私達はレーンに並ぶ。左からパジャマ、ジャージ、私の順番だ。
「せーの」
私のかけ声とともに三人同時に投げる。
私のボールは………ストライク!これで10本。
左のレーンを見るとジャージもストライクだ。その左は…3本…。
(勝負になってない)
「これで10-10」
ジャージの子は確かに上手いが、持久戦になればボロがでる。
(このままストライクをとり続ける!)
「二投目、いくよ」
また私のかけ声で同時に投げる。私はもちろんストライク。隣は…。
カンッ!!!
甲高い音が鳴り響いた。その音はボールがピンに当たった音ではなく、ピンがボールに当たった音だった。
どういうことかというと、パジャマが弾いたピンが隣のジャージのボールに当たったのだ。おかげでボールの軌道がずれて9本しか倒れず、しかもその原因であるパジャマが倒したのはたった5本だ。
「なにしてるんですか茜さん!!」
「いやあ…申し訳ない」
完全にパジャマがジャージを邪魔している。ハンデのつもりで二対一にしたが、代表者の一対一の方がやりがいがあったかもしれない。
「これで19-20」
(まあ、こっちにとっては好都合。次ストライクをとれば私の勝ち)
「三投目」
勝利を確信した私は三投目を投げた。右手を離れたボールは美しい軌道を描きピンに向かって転がっていった。
(勝った…)
そう思ったときだった。
カンッ!!!
ピンが…飛んできた…。
カコーン、ガラガラ…
ピンが音をたてて倒れた。完璧なフォームに完璧な軌道。本来ならストライクで間違いなし。しかしボーリングの神様は気まぐれのようで、その完璧を見事に打ち砕いてしまった。
当然、軌道のずらされた私のボールではストライクなどは不可能で、二本のピンが何事もなかったかのようにそこにたたずんでいた。
この時だろうか、私は驚愕を超えて初めて時間が止まるという現象を体験した。
「いけぇーーっ、シズノーーー!」
パジャマの叫ぶ声でやっと私の時間は再び動き出した。
(まずいっ!)
もう手遅れである、そんなことは百も承知だったが、この時ばかりは振り向かざるを得なかった。
カコーン、ガラガラ
予想通りジャージのレーンの先にはピンが一本としてなかった。
「いーーやったーーーっ!」
「スゴイよシズノ!」
二人は抱き合ってぴょんぴょんと跳ねている。
(負け…た…)
初めて同い年に負けた。本当ならそのことにショックを受けていただろう。
しかし私の頭の中にあったのはボーリングでの敗北ではなく、さっき交わしたあの約束のことだった。
「約束だよ!麻雀部に入ってくれるよね!?」
パジャマが満面の笑みでこちらに来る。
「…分かった。麻雀部に入る」
(なんで、あんな約束したんだろ…)
このとき私は、人生で一番深いため息をついた。
-ボーリング対決終了-
「そういや名前聞いてなかったね。私は落合茜、茜ってよんでね!」
茜と名乗った少女は手を差し出した。
「私は
視線を少し横にそらして握手を交わした。
「よろしく!アラタ!」
茜は私の手を覆うように両手で握手した。固く結ばれた手をブンブンと上げ下げし、三、四回往復すると、手を離した。
私はこの日からしぶしぶ麻雀部の一員となったのだ。
「私、忘れられてません?」
-夜・落合家・蒼空サイド-
「ただいま~」
茜ちゃんが帰って来た。さて、これからが本番だ。きっと何も言わず出かけたことを怒っているにちがいない。これから茜ちゃんの質問責めだと思うと気が滅入る。
(茜ちゃんを連れて行くと邪魔になりそうだったからなんて言えない…)
「ソラ、ただいま。あと、おかえり」
(来た!)
「あの、茜ちゃん。今日はゴメン!」
素直に謝る。それが一番だと思った。
「うん?あっ、今日のこと?良いよ良いよ」
(あれ?怒ってない…?)
私の心配は杞憂だったようで、茜ちゃんは私の隣をふつうに通り過ぎた。
鼻歌を歌ってスキップする茜ちゃんは、いつもより生き生きしていた。
「こらっ、茜!家の中でスキップしない!!」
「ご、ごめんなさい…」
麻雀部 現在6人
麻雀部が6人を突破しました。まだまだ増える予定です。