見渡す限りの荒野。ジリジリと照りつける太陽。地平線が揺らめいて見える。
時はU.C.0080。一年戦争終結から数カ月経ったが、アフリカ大陸に展開された戦線では未だにジオン軍残党と連邦軍の間で戦闘が行われている。
荒野に二機のモビルスーツが佇んでいる。四つん這いの姿勢で固定された連邦軍の陸戦型ジムの肩の装甲にはトカゲの装飾が施されている。彼らは いつ現れるかも知れぬジオン軍残党を待ち続けているのだ。
「...」
『...おい』
「...」
『おい!』
「なんですか、うるさいですよ先輩...」
『本隊から何か報告はあったか』
「ないですよ...そんなの、ずっとないんですから...」
『...そうか』
「...」
『...』
「...っうわああああ!!!」
『どうした!?敵襲か?』
「違うんですよ!コックピットにデカイ蜘蛛が入ってきて!...っうわ!やめろ!こっち来んなって!」
『バカ野郎、ハッチ開けてるんだから虫くらい入ってくるに決まっている』
「…ふう、やっと追い出せましたよ。もう!」
『...それにしても、あれだな。なんというか...あれだ』
「アレって何ですか?そういう喋り方してるとボケやすいらしいですよ」
『うるせえな』
「ちゃんと考えて喋ってくださいよ」
『...思い出した!』
「何ですか」
『今なあ、暇だよなって言おうと思ってたんだったよ』
「期待してガッカリしましたよ、先輩」
『…』
「...」
『なあ、スフィンクスって知ってるか?』
「スフィンクスってあのスフィンクスですよね?」
『そうだ、あのスフィンクスだ』
「スフィンクスがどうしたんですか?」
『旧世紀の神話でな、スフィンクスはライオンの体と人間の顔をもった怪物として描かれてるんだ。スフィンクスはな、住処の前うぃ通りがかる旅人にクイズを出したんだ。で、答えられないと食い殺しちまったんだとよ。』
「なんか物騒な話ですね。それってどんなクイズなんです?」
『ちょっと待ってくれ。その前にタバコをすわしてくれ。』
「早くしてくださいよ」
『ちょっと待ってな。あれ...ライターがこの辺に...』
男は、慣れた手付きでタバコに火をつけた。
『それはな、《朝は4本足で、昼に2本足、夕方に3本足になる動物は?》というやつだ』
「朝は4本足...昼に...夜?...動物ですよね?...それって実在する動物ですか?」
『もちろんだ』
「うーん...」
空を仰ぎながら鼻から煙を吐き出す。
「わかんないです、」
『《人間》だ』
「人間?なんでです?」
『よく聞け。赤ん坊は四つん這いで歩いてるだろ。そんで、成長して二足歩行になる。最後に、年取ると杖ついて歩くから3本足だ。』
「...たしかに...なるほど、」
『おもしれえだろ? ある時、賢い誰かさんが正解を出したんだ。そしたらどうなったと思う?スフィンクスは崖から身を投げて死んじまったんだってね。』
「へえ...別に面白くはないですけど」
『お前のその反応もつまんねえな』
「...はあ」
『こんな話するくらい暇ってことよ...』
それから、二人は黙り込んでしまった。
片方の男は2本目のタバコを口にくわえた。
夕方になって、辺りも暗くなってきた。
「アフリカ戦線異常なし...と」
『今日もな』
「きっと明日も、明後日も、ずっとですよ」
『...そうかもな』