スカイダイバー   作:高田正人

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第13話:Dawn chorus3

 

 

◆◆◆◆

 

 

 ああ言えば正義漢の強いストリンディがすぐ反応すると踏んでのことだったが、後々まで引きずるとは厄介だ。

 

「あれはその……ちょっとした思い違いでした。思い返してみると、あの人はボーダーラインの面白い場所を案内してくれた、ただのいい人でしたよ。ええ、誘拐犯なんて誤解でした」

 

 俺はでまかせが半分で本当が半分の言葉を並べ立てる。

 

「それはたまたまです。いいですか? ボーダーラインは日常的に企業間闘争が行われる危険地帯なんです。傭兵やハッカーの戦いに巻き込まれたら一大事です。決して面白半分で観光できる行楽地などではないんですよ」

 

 ストリンディは正論を並べ立てる。まるで企業の防壁のようにとりつく島もない。

 

「おっしゃる通りね。返す言葉もないわ」

 

 だから、俺はさっさとしおらしく振る舞う。舌戦程度でこの騎士の主張を折るのは難しいだろう。もちろん、適当に謝ってこの場をやり過ごすこともできる。しかし、俺は絶対にそうしたくなかった。こいつに言い負かされたら沽券に関わる。何としてでも、多少の犠牲は覚悟してでも、俺はストリンディの主張を打破したいのだ。

 

「納得していただいてほっとしています。では……」

「では、これからは本腰を入れて自衛しましょう」

 

 安堵しかけたストリンディの表情が驚きに変わる。

 

「……え?」

 

 きょとんとする彼女をよそに、俺は教書を開くとある企業の連絡先を呼び出す。間髪入れずに仮想スクリーンがでかでかと広がり、にこやかすぎる人造の受付が映し出された。

 

「いらっしゃいませ! ご購入者様の自由と安全と正義を二十四時間守る全都市アーマメント普及商会スカイライン支部です!」

 

 スマイル&ウェポン。清涼なる死の商人。全自動戦線拡大兵器庫。カタログと銃を持って布教する武装聖職者。あらゆる通称で侮蔑されつつも重宝される武器商人の受付が、決まり文句を口にしつつとびきりの笑顔を浮かべる。

 

「商品を購入したいけれども、まずはこちらに試供品を取り寄せたいの」

「かしこまりました! 現在サービス期間中につき対象商品を大幅に増やしております! カタログはお持ちですか? では商品名をどうぞ!」

 

 大音量で怒濤の如く繰り出される受付の支持に従い、俺は隣に表示したカタログから次々と試供品を列挙していく。

 

 三重詠唱有機ブレイン。硬化粒子射出パイル。携帯式アサルト重力砲。高速演算スタッフ。疑似流体装甲スーツ。誰も買いそうにない規格外重装甲裁断超過駆動動力鋸。見る間に俺の目の前で構文が組み合わさり、整式となり、無数の武器となって具現していく。質料ホログラムだ。一体の強化外骨格を注文すると、受付が満面の笑みを浮かべて宣伝する。

 

「こちらの商品は現在無料レンタル期間中です! ご使用後は是非アンケートにご協力下さい!」

 

 まったくもって商魂たくましい。

 

「前回閲覧されたアンチ海産物斥力水着もご一緒にいかがでしょうか?」

「それ、サイズが合わなかったのでいらないわ」

「かしこまりました!」

 

 魔が差してちょっと試着してみたのだが、あれは二度と思い出したくない。

 

「さて、ストリンディさん。これでどうかしら? これらに加えて現在セール中の初心者用企業傭兵雇用パックも購入すれば、ボーダーラインでも大手を振って闊歩できると思わない?」

 

 注文を開始して数分後。俺は地面にずらりと並べた数々の武器を見せつけつつ、ストリンディに問う。

 

「シェリスさん……」

「何かしら?」

 

 さて、こいつはどう出るか。もし「試供品ではなく、実際に購入しないと信じられません」と言われたら、躊躇なく全部買う覚悟くらいはある。だが、俺はこだわりのあるハッカーだ。あれこれと数理を用いた武器を持ち歩くのは趣味じゃない。教書と有線があれば生身で事足りる。できれば買いたくないが、あの特大チェーンソーだけは少々惹かれる。

 

「……かなり裕福なんですね」

 

 ストリンディはしばらくあっけにとられた様子だったが、やがて妙なことを口にした。俺が貧乏とでも思っていたのか? 確かに俺は上層都市の住人じゃないが、シェリク名義で貯金はそこそこあるぞ。

 

「必要と判断したら出費は惜しまないだけよ」

「分かりました。では……」

 

 ストリンディは胸に手を当ててほほ笑む。

 

「これからもしボーダーラインへ行かれるのでしたら、どうぞ私もお呼び下さい。僭越ながら、このストリンディ・ラーズドラング、あなたの盾となってあなたを危険からお守りしましょう」

 

 悔しいが気取った仕草が様になっている。

 

「あら、名高き騎士様が直々に護衛について下さるなんて、私も随分とセレブリティになったものね」

 

 別に毎回こいつを呼びつける気はないが、気が向いたら護衛になってもらおうか。そう思った俺だが……

 

「もちろん有料ですけどね。報酬は応相談ですよ」

「え?」

 

 おいおい、金を取るのかよ。この騎士、案外がめついらしい。俺は笑顔のストリンディを前にして、どう反応したらいいかしばらく悩んでいた。彼女の発言の理由に、気づくことなく。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

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