スカイダイバー   作:高田正人

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12月2日まで毎日投稿いたします


第21話:Sabotage campaign

◆◆◆◆

 

 

 ボーダーラインでも、とりわけごみごみした工業地を俺は歩いている。周囲の建築物は強引な機械化により、生身と機械が混じった不格好な機体のような異形となっている。煙突から昼夜を問わず吐き出され続ける煤煙。道路を掃除しているのかさらに汚しているのか分からない清掃用のマシン。空気はオイルと煤と塗料の匂いで満ちている。

 

「よう、小さい迷子ちゃん。お外まで案内してやろうか?」

 

 職人や機械工が大多数を占める通行人の中で、人造のヴィディキンスを執事のように連れた俺は相当目立っていたようだ。周囲に個人経営の金属加工工場が目立つようになってきたところで、とうとう知らない顔に呼び止められた。全身に流動タトゥーを移植したスキンヘッドの大男だ。

 

「不要よ。ここに用があるの」

 

 視界に入れるだけで目が回る流動タトゥーから目を逸らし、俺はそっけなくそう言う。

 

「ペットのワンちゃんにキレイな首輪でも買ってやるのかよ。ははっ!」

 

 嘲りを隠さない口調に、俺はため息をついた。面倒くさい。

 

「欲しいのは仕事用の外側だけキレイな車。コールドフィッシュの八本腕に依頼して作ってくれたのよ」

 

 コールドフィッシュという店名。八本腕というあだ名。二つが符牒となり、大男の表情が嘲笑から賛嘆に変わった。

 

「驚いたな。あんた、こっち側の人間か。また人畜無害に偽装したボディだな。金がかかっただろ?」

 

 俺の体を機体だと勘違いしてるらしい。まさか。こいつは完璧に生身だ。

 

「支払いよりもっと面倒なものがつきまとって頭が痛いわ」

 

 

 

 

 一気に親しげになった大男から「面倒事があったら呼んでくれよ」と提案されたが、それを「気が向いたらね」と返し、俺は一件の店の前に立った。スクラップがうずたかく積まれた、周囲の店と変わらない外観だ。看板さえない。だが俺は知っている。ここは報酬次第で、どんな車種でも職人が手ずから作ってくれる小さな自動車工場だ。

 

「お邪魔するわ、モンダーノおじさん」

 

 巧妙に隠された入り口から入ると、乱雑な外観とは裏腹に中はきれいに整理されていた。一台の自動車の下に潜り込んでいた店主が姿を現す。

 

「おや、わざわざ来てくれたのかい、娘さん」

 

 ボーダーラインに似つかわしくない優しい老人の声音。ただしそれは、ヒトとタコの混じった外見から発せられている。

 

 エミグラント。水生種族とは異なる、深淵からの移民。人間らしく服を着てエプロンをつけ、さらに金縁の眼鏡をかけているが、その姿はまさにあってはならない異形そのものだ。根源的な恐怖が背筋を這い上がってくるのを止められない。

 

「失礼だが、ハンドルを握ったことはあるかね?」

「運転は人造がするから問題ないわ」

「ほほう、ならばよい」

 

 やはりプロ。自作がいい加減に扱われないよう確認してくるのは好ましい。

 

「注文の品はこちらにあるよ」

 

 車庫に案内された俺が目にしたのは、一台の高級車だ。ただし偽物だが。しかし、単に外見を似せただけじゃない。きちんとセキュリティを通れるように数理的にも完璧に偽装してあるはずだ。

 

「ええ、これが欲しかったの。ありがとう」

 

 

 

 

 ヴィディキンスが運転する車に乗り、俺は続いてとある屋外闘技場に向かった。生身にこだわる徒手空拳のバトルが毎夜開かれている、ボーダーラインではおなじみの娯楽の場だ。車を停めて偽装数理で外見を変えてから、俺は見物客に混じってバーリ・トゥードの戦いを眺めていた。しばらくすると、横から太い声をかけられる。

 

「一貫いかがかね?」

 

 隣をちらりと見ると、一人の板前がいた。ニンジャ・スシの遊撃店員だ。肩には金属の増設アームが二本。四本の腕がその場で握る寿司は、ボーダーラインの面々に好評だ。ちなみに遊撃と言うだけあって、店員は皆武装している。簡易契約を結べば、企業傭兵として雇うことも可能だ。そうなれば、合成食材ではなく敵をネタにしてしまうだろう。

 

「おすすめは?」

「ネギカモが入った」

 

 頑固一徹、といった顔の店員は腕を組む。

 

「五貫もらおうかしら。ワサビ大盛りで」

 

 俺の注文を聞くと、途端に店員は相好を崩した。

 

「ご指名ありがとう、コンフィズリーちゃん」

 

 なよなよした女っぽい口調。「タダ乗り」ジェノート。性別も外見も記憶も、全部滅茶苦茶になった成れの果ての元人間だ。

 

「はい、依頼の品よ。大事に使ってね」

 

 先程の注文は合言葉だ。依頼主を確認したジェノートは、俺に一枚の原画を渡す。

 

「ありがとう。これは報酬よ」

 

 俺も素早く有線を増設アームに接続し、そこから大綱にある口座に料金を振り込んだ。

 

「無断使用は一度が限度よ。すぐに対策されちゃうから。タイミングに気をつけてね」

「もちろん。それで十分よ」

 

 ジェノートがバーガーアーキテクチャーの本社の認証を盗取し、俺は報酬を支払う。取引は終了だ。

 

「じゃあね。また何かあったらよろしく」

 

 そう言って去っていく板前の背中を見ることなく、俺はヴィディキンスを伴って歩き出した。熱狂する群衆をすり抜け、出口へと向かう。仕事前のこの緊張感がたまらない。

 

 ――企業間闘争の準備は整った。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

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