スカイダイバー   作:高田正人

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第41話:Heroism

 

 

◆◆◆◆

 

 

「ほら、これが十年前に発掘されたエウレキュラス文明の“太陽の碑文”だぞ。これは元々――」

 

 二日後。俺はウズムクとデザートローズ考古学博物館を訪れていた。目的は観覧ではなく現場の下調べだ。サンドピット自治区が誇る観光の中心地だけあって、セキュリティはなかなか堅牢だ。

 

「随分と饒舌ね」

 

 俺は展示物の説明に忙しいウズムクに言う。

 

「悪かったな。仕事の邪魔か?」

 

 博物館に入った瞬間から水を得た魚のように生き生きしていたウズムクは、自分の長広舌に気づいたのか恥ずかしそうな顔をしつつも頬を膨らませる。

 

「単なる感想よ。考古学に興味があるの?」

 

 何気なく俺が聞くと、彼の顔つきが二流ガイドの顔から、見果てぬ夢を追う決意を秘めた顔に変わった。

 

「この砂漠の下に、まだ誰も発見したことのない古代遺跡があるんだ。オレはいつか絶対に発掘してみせる」

「誰も見たことがないのに、なぜ存在するって分かるの?」

「伝説に語り継がれているんだ。古代熱砂戦争の記録にも残ってる。みんなただの伝説だって言ってるけど、オレはそう思わない」

 

 なるほど。このガイドは未来のトレジャーハンターか。

 

「それで、将来に向けてこうやってガイドで稼いでいるのね?」

 

 ウズムクが進学するにせよ、知識増設の生体パーツを埋め込むにせよ、多額の費用が入り用だ。身なりや振る舞いからして、彼の実家は貧しいのだろう。果たしてこの少年の見果てぬ夢が日々に忙殺されて消えていくのか、それともいつか叶うのか。俺としては後者を願いたい。

 

「悪いかよ」

「まさか。前人未踏の開拓者には共感できるわ。リスクは大きく共感者もいないだろうけど、頑張りなさい」

 

 俺が率直にそう言うと、ウズムクは目を見開いて驚いた。

 

「そう言われるなんて思わなかったよ。てっきり、ほかの連中みたいにバカにすると思った」

「私は夢追い人には寛容なの」

 

 俺はこいつをバカにできるほど堅実じゃない。むしろ同類だ。

 

 

 

 

 下調べを終えてホテルに戻る帰り道。

 

「……あのさ」

 

 道路に通行人が減り始め、周囲の建物の外見がくすみ始めた辺りで、後ろを行くウズムクが俺に話しかけた。

 

「何かしら?」

 

 振り向くと、ウズムクは博物館のはつらつとした様子はどこへ行ったのか、思い詰めたような顔で俺を見ている。

 

「……あんたたち、悪徳者だろ」

「悪徳者?」

 

 知らない単語だ。

 

「そうだ。教父様が言ってた。眠らない機械都市からやって来た異邦人で、この街の知らない悪徳を教える悪い奴らだって」

 

 なるほど。確かに俺たちはよそ者だ。おまけにハッカーで頭の中には悪だくみが満載。そしてやることといえば抗争と奪い合いと破壊工作。確かに、この自治区の宗教関係者が渋面になるのもうなずける話だ。

 

「違う……よな?」

 

 なぜかすがるような目でウズムクは俺を見るが、知ったことかとばかりに俺は肯定してやった。

 

「事実よ。その教父はまともね」

「わ、悪いことはダメだぞ!」

「それは発狂した公議と、それを利用する企業に言いなさい。私たちハッカーは企業間闘争の代理人よ。依頼を受けて侵入し、破壊し、盗取する。これは人倫では悪徳でも、経済では取引なのよ」

 

 俺はボーダーラインでまかり通っている常識を説明してやる。ウズムクにとっての悪徳は、ハッカーにとっては経済活動でしかないのだ。

 

「なあ、そんな悪いことやめないか」

 

 俺の自説にウズムクは愕然としていたが、やがて妙になれなれしい態度で忠告してきた。

 

「その、なんて言うか、オレはあんたに、悪いことはして欲しくないって言うか……」

 

 汎愛モラリストのようなパワー溢れる倫理観ではなく、押しつけがましい親しさがある。

 

「……うまく言えないけど、オレが力になれるんだったら、言ってくれよ。あんたは、悪徳者になんかなっちゃダメだって」

 

 俺は鼻で笑った。ああ、そうだった。こいつはハッカーの何たるかを知らず、俺が見かけ通りの脆弱な少女だと思っているんだった。

 

「ねえ」

 

 か弱い女の子は、危ない連中と手を切って花でも愛でていろと言いたいのか。そしてあわよくば、自分が故郷に錦を飾るまで待っていて欲しいと妄想しているのか。一方通行の恋愛感情にも困ったものだ。

 

「な、なんだよ」

 

 俺がぐっと顔を近づけると、ウズムクは顔を赤くしてたじろいだ。

 

「――調子に乗りすぎよ、世間知らずのお坊ちゃん」

 

 俺は人差し指から有線を伸ばし、ウズムクの右目の網膜に突き立てた。器官を一切損傷させずに眼球に接続。大綱を構文の形状で表示。

 

「なっ!? なんだよ!? なんだよこれぇ!?」

 

 ウズムクがひっくり返って手足をばたつかせるのを、俺は見下ろす。初心者が膨大な情報をいきなり視神経に流し込まれれば、前後不覚になるのも当然だ。

 

「――それが私にとっての、発掘するべき古代遺跡」

 

 俺は聞いているのか聞いていないのか不明のウズムクに語りかける。この俺自身が、ノヴィエラ・セレフィスカリヤの肉体に囚われた俺の魂が、その願いを決して忘れないように。

 

「あなたと同じように、私にもたどり着きたい場所があるの。全身全霊を賭け金に積んでも、なお届かないあの蒼空が」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

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