スカイダイバー   作:高田正人

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第53話:Imbroglios

 

 

◆◆◆◆

 

 

「問題ないわ。合流地点まで行くわよ」

 

 俺が操作するスパイダーの後ろを、リエリーがおっかなびっくりついてくる。

 

「先輩、本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

 ファイア&ソードの陽動にビーハイヴが引っかかり、俺のスパイダーがリエリーの部屋にたどり着くと見張りは皆無だった。

 

「狂人とゲームを楽しんでいたジョッキーの台詞とは思えないわね」

 

 リエリーからビーハイヴと遊んでいたと聞いて、俺は少しだけ感心した。どうやら彼女のジョッキーとしての姿勢は堂に入ったものらしい。

 

「だ、だって……あの人たち、さっきまで私に人工ケンタウロスのカタログを見せてげらげら笑ってたんです。絶対『逃ゲタラオ前ヲコウシテヤル!』っていう脅しですよ!」

 

 脅し、か。特盛りの違法人体改造が大好きなビーハイヴの趣向だ。むしろ、リエリーは連中に気に入られたのかも知れない。

 

「安心しなさい。このスパイダーは武装してるし、私のいるところからでもハッキングは可能よ。何かあったら私が守ってあげるから」

 

 俺が請け合うと、急にリエリーはもじもじとして笑顔になる。現金なものだ

 

「せ、先輩がそう言うなら、私、先輩を信じちゃいます。いいですよね?」

「はいはい。でも、マップくらいは共有してもらうわよ。私に頼りきりじゃなくて――」

 

 俺がスパイダーを通じて、リエリーの体内にある警備血球にアクセスしようとしたその時。

 

「先輩!? ねえ先輩どうしたんです!?」

 

 俺の教書にソードフィッシュからの緊急連絡が入った。

 

 

 

 

「コンフィズリー、予定変更だ」

 

 ソードフィッシュは外耳のデバイス越しに通信する。隣には、胸に短刀が突き刺さり、深々と斬られた片手を押さえるファイアアラームがいる。

 

「手練れのサムライと戦闘中だ。お前だけで人質を逃がせ」

 

 彼女の視線の先にいるのは、鉱化症候群に冒された一人のサムライだった。

 

「……退け」

 

 呼吸器ごしにくぐもったサムライの声が聞こえる。病が膏肓に入っていながら、なおも彼は肉体を捨てて機体になろうとしない。その自己の肉体へのこだわりに、ソードフィッシュはコンフィズリーを連想しつつ跳ぶ。ボールが弾むかのような、ドワーフの矮躯を活かした走法。跳躍と同時に体を回転。

 

「それはできない相談だな!」

 

 次々と空中で繰り出されるブレードの急撃を、サムライはゆらりと立ったまま片手の刀でいなす。あたかも、降りしきる毒性雨を濡れずに躱すかのような信じがたい技量だ。攻撃と攻撃の隙間を縫い、無造作に刀が差し込まれる。その切っ先がソードフィッシュの小指を見事に切り落とし、彼女の右手からブレードがすっぽ抜ける。

 

「まだだ!」

 

 ソードフィッシュは右手をポケットに入れ、中身を放り投げる。奥歯に仕込んだデバイスを噛んで多機能ゴーグルを一瞬だけ展開。外耳の通信デバイスを耳栓の機能にする。強烈な閃光と爆音が迸った。ポケットの中身はスタングレネードの効果を構文にした基盤だ。ブーツの数理を起動させ、空中に足場を作り彼女は斬りかかる。

 

 金属音が響き渡る。サムライの首を狙ったブレードは、かざされた刀によって完全に受け止められていた。ソードフィッシュが目を見開くのと同時に、サムライは人工繊維ワラジのローラーで素早く後退した。一瞬遅れて、彼がいた場所を燃え盛る飛沫が襲う。ソードフィッシュがそちらを見ると、ふらつきつつファイアアラームが立ち上がっていた。

 

「……耳目を封じようなどスマイル・ストップ」

 

 サムライの口調にソードフィッシュはずっこけそうになった。渋い声質とは不釣り合いな、矯正整式で強引に言葉遣いを変換したものだ。

 

「……某の五識は既にロスト済み哉」

「見た目はフェイクで中身は機体か」

「……ノー。空空寂寂の境地でソードを振るえば、自ずと真仮の別を判然してオフ・コース」

 

 何を言っているのか分からない。なので仕方なく、ソードフィッシュは一切を片づける魔法の言葉を口にした。

 

「ゼンだな」

 

 改めてソードフィッシュは片手だけでブレードを構える。

 

「私はソードフィッシュ。お前は?」

 

 ゆらりと刀を正眼に構えたサムライは、彼女に応える。

 

「……三柴アンノウン斎徒好。いざ、為合いをトゥギャザー」

 

 ――しかし。

 

「おいサムライ、また遊んでいるのか?」

 

 張り詰めた空気に突如乱入した者がいる。

 

「……リターンされよ。ここはシュラ・スペース哉」

「だからなんだよ」

 

 胡乱な雰囲気を漂わせてやって来たのは、ビーハイヴの一人だ。首筋のケーブルに指を突っ込んで油まみれのカスをほじりながら、彼はアンノウン斎と名乗ったサムライに言う。

 

「帰るぞ」

「……ノー哉」

「知るか。これは伝言だ。さっさと戻れって言ってるぞ」

 

 いぶかしげなアンノウン斎に、ビーハイヴは歩み寄ると顔をぶつけるようにして近づける。

 

「あぁ? こっちの命令を聞けないのかよ。ブシドーはどうしたんだ?」

 

 ビーハイヴの義眼とサムライの濁った両眼がぶつかり合い、やがてアンノウン斎は刀を鞘に収めた。

 

「……イエス哉」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

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