スカイダイバー   作:高田正人

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第54話:Rescue mission

 

 

◆◆◆◆

 

 

「助かりました、コンフィズリー。あなたのおかげです」

 

 チューニングの双子の片割れが運転する車の後部座席。リエリーの護衛として乗る俺が教書を開くと、仮想スクリーンにファイアアラームの顔が映し出される。

 

「あなたの無差別放火に救出対象を巻き込みたくなかっただけよ」

「いくら何でも私はそこまで愚かではありません」

 

 しれっとファイアアラームがそう言うと、もう一枚の仮想スクリーンが勝手に展開される。

 

「おい、こいつの言うことを信じるなよ」

 

 渋面でそう言うのはソードフィッシュだ。

 

「放火は可能な限り派手に。然れども不必要に味方を巻き込むなかれ。火炎放射器愛好会の基本的信条です」

「それが守られているならば、私もここまで苦労せずに済むんだがな」

 

 ソードフィッシュはため息をつく。彼女の苦労はともかく、今回の作戦は成功した。リエリーは無事救出できたし、ファイア&ソードも撤退できた。あの鉱化症候群のサムライを呼びに来たビーハイヴは、俺が制御フレームをハッキングして操っていた奴だ。アナログなサムライは偽の情報に引っかかり、二人が逃げる隙が生まれたということになる。

 

「全部冗談よ。本気にしないで」

 

 俺は隣でこっちを見つめるリエリーに言う。

 

「え? あ、その、なんだか……」

 

 その顔は完全に驚きと憧れで染め上げられていた。

 

「何かしら?」

「皆さんクールで格好いいな……って思って」

 

 仮想スクリーンの向こうから苦笑する気配が伝わってきた。すかさず助手席のレニアが突っ込みを入れる。

 

「企業傭兵は契約によって企業間闘争を代行する職種です。それ以上の特筆すべき価値はありません。彼女たちが今回あなたを救出したのは、私たちチューニングが雇用したためです。誤解なさらないで下さい」

「そういうことよ。私たちがあなたに関わったのは報酬のため。金銭と契約だけで結ばれた一期一会よ」

 

 俺はチューニングに同意する。

 

「そういうドライなところが格好いいんですけど……」

 

 俺のすげない言葉にも、リエリーの目から憧憬の光は消えない。そういうものだ。否定は憧れの炎を燃え立たせる燃料となる。だが、俺はリエリーを笑えない。天蓋がヒトの侵入を拒めば拒むほど、俺は己をスカイダイバーとして証明したくなる。人間とは非合理だが、その非合理こそが人間性だ。

 

 

 

 

「本当にありがとうございました、先輩」

 

 スカイライトに建つ大聖堂の前で、俺は車から降りた。

 

「気をつけて帰りなさい。まあ、チューニングが一緒ならば安心でしょうけど」

 

 頭を下げるリエリーに軽く手を振って挨拶し、そのまま俺は走り去るチューニングの車に背を向けた。リエリーについてはもう心配いらないだろう。

 

「……さて」

 

 俺がポケットから取り出したのは、リエリー救出の際に使ったスパイダーに入れてあった基盤だ。スパイダーのメインフレームはチューニング所属だが、ソケットには俺が操縦するための基盤が差し込まれていた。俺は近くのベンチに腰掛けると、指先から有線を伸ばして有線を基盤に接続する。加筆されていた構文をアサルトソフトウェア越しに起動。

 

「――さすがはあのステイルメイト唯一の直弟子。もうお気づきになりましたか」

 

 構文の内容は単純な通信だ。耳障りな世辞と共に、俺の視界に一人の聖職者の全身像が投影される。アサルトソフトウェアが反応しないことから、改竄病源や譫妄ウイルスの類は皆無らしい。

 

「チューニングが私を雇ったのは、これが目的なのかしら?」

 

 ボーダーラインのマニアどもに人気があるジョッキーが狙い澄まして誘拐され、その奪還のために動いたチューニングが、わざわざ俺のようなフリーのハッカーを雇う。その背後で糸を引くのはやはり、偶然ではなくエンクレイブ関連の連中だ。

 

「いつぞやみたいに、ひざまずいてくれないの? あなたの忠誠心もそろそろ投げ売りの時期かしら?」

 

 俺の皮肉に、聖職者ことイヴァーニン・アルバレフはこう答えた。

 

「そうお望みならば」

 

 そして流れるような動作で、彼は俺の前にひざまずく。悪びれもしないどころか、心からの敬意が込められた態度に、俺は鼻で笑うことができなかった。

 

「……聖職者の癖に腰が低すぎよ、あなた」

 

 神ではなく人にひざまずく。やはりこいつは真っ当な聖職者ではない。

 

 

 

 

「……またここね」

 

 意識がわずかに揺らいだ後、俺とイヴァーニンが立っていたのは曇天の下だった。辺りには雪が積もり、振り返るとそこに建つのは重厚なレンガ造りの屋敷だ。無論レンガといっても合成品だろうが、その建築様式も外見も、この世界が都市で覆い尽くされる以前の伝統が引き継がれている。何もかもが寒々しく、陰鬱で、薄暗い。

 

「こここそが、あなたの居場所です」

 

 立ち上がったイヴァーニンがそう言うが、俺は今度こそ鼻で笑った。

 

「お前が勝手に決めるな」

 

 矯正整式をねじ伏せ、俺は本来の口調で奴を煽る。

 

「で、用件は何だよ。このボディから出て行けってクレームか?」

「ご存じないのですか? そのお体にあなたがいられるのは、ほかでもない彼女の意志であることを」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

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