木葉の幻想郷日記   作:バスタオル

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木葉の過去

やつは言った。天野(あまの) 沙耶(さや)は俺の母親であると。だが、俺はその人のことを知らない。どんなやつでなぜそうなっているのかも分からない。ただ、一つ思い当たる節があった。それは、さっきの夢だった。あの時聞こえたのは「助けて」だった。もしその人が同一人物であるなら、きっとその人が俺の母親なんだろうと思った。俺はそこで少し考え事をしたいと言い部屋を出た。  

 

霊夢「木葉の…お母さん…」

 

レミリア「そんな…それは一体」

 

妖夢「その話し方だと木葉さんのお母さんは不老不死の人間だと聞こえるんですが、間違いないですか?」

 

長津「えぇ、間違いないです」

 

妖夢「じゃあさっき二年前にあなた方が目の当たりにしたって言うのは…」

 

長津「はい。光のお母さん。天野沙耶様がドレインに取り込まれたところです」

 

妖夢「…」

 

長津「私たちは戦いました。沙耶様をドレインから切り離すために。ですが、それは叶いませんでした。いくら攻撃してもすぐに再生し、その度に力を増幅させていきました。やがて手に負えない程に強くなったドレインに私たちは敗れました。あの手この手で切り離すための策を考えていましたが、全て意味をなさなかった。何も出来ませんでした」 

 

妖夢「その後は…どうなったんですか…」 

 

長津「…光がそのドレインを幽閉させました」

 

霊夢「木葉が…」

 

長津「はい。光はそのドレインを幽閉し、二度と出ないように"方界"という世界を創りました。その後、光はその方界にドレインとなった沙耶様を幽閉し、方界の門を閉じることでドレインの問題に関してはそこで解決しました」

 

レミリア「ドレインに関しての問題は?それだとまだ問題が残っていたように聞こえるんだけど」 

 

長津「はい。ドレインは幽閉され、その問題は解決しました。ですが、私たちが喜んでいると、途端に空気が変わりました。何事かと周囲を見渡すと先程閉じたはずの方界の門がまた開いていたのです。そしてその開いた方界の門は周囲の地形を崩し、建物を崩壊させ、まるで世界を壊しているようでした。ですが、それをしていたのは方界の門でも沙耶様でもありませんでした。それをしていたのは光でした」

 

霊夢「な…木葉が…」

 

レミリア「でも木葉は能力も持っていないまさにひよっこ同然なのよ!?そんな木葉がそんなことできるはずがないでしょう!?」

 

長津「光は能力を持っていますよ。私たちと同様に」

 

レミリア「でもパチェの判定は能力無しだったわ!」

 

長津「当たり前じゃないですか。光を含めた私たち十二天星の能力は()()()()()では無いんですから」

 

レミリア「程度の能力じゃ…ない…」

 

長津「はい」

 

妖夢「じゃあ木葉さんの能力は…」

 

長津「光の能力は"音と言霊"です」

 

レミリア「音と…言霊」

 

長津「はい。私たち十二天星のメンバーが持つ能力はそれを使役している十二星座の魂が持つ能力と同じなんです。光が使役している天秤座の魂ライブラは音と言霊を操る天宮。なので、光の持つ能力は音と言霊を操る能力なんです」

 

レミリア「そういう事だったのね…確かにパチェの魔法は程度の能力しか感知しない設計だって前にも言ってた。だから木葉の能力が無しって判定が出たんだわ」

 

霊夢「そういう事だったのね…」

 

うどんげ「でも待ってください!仮にその能力が木葉さんの能力だとして、どうして世界を壊すようなことができたんですか?」 

 

長津「それは…光は言霊の能力を使って自分で閉じた方界の門を自分で開けたんです。言霊の能力は使用者の言葉が現実になる能力です。おそらく方界の門を開くよう言ったんだと思います」

 

うどんげ「な…」

 

霊夢「でも、その言霊?の能力でその門を開けたとしてそれだけで世界が崩壊するものなのかしら?」

 

長津「いいえ、それだけだとただその門からドレインたちが出るだけなんです」

 

霊夢「じゃあどうして…」

 

長津「光のもう一つの能力。音の能力が関係してるんです。光は門を開いたあと音の能力で崩壊の旋律を奏で始めたんです。そして奏で始めると途端に地面が割れ、建物は倒壊していきました」 

 

霊夢「そんな…」

 

長津「そして、地面が割れ、建物が倒壊していく最中、先程開いた方界の門からドレインたちが出てき始めたのです。やっとの思いで幽閉できたドレインたちを光はいとも容易く出現させました。音で世界を壊し、言霊でドレインを呼び命を吸い取らせる…それはまさに世界の崩壊でした」

 

霊夢「そんなことが…」

 

長津「そこで私たちは地面に立つこともできなかったので空を飛ぶことにしたんです。ですが、それも叶いませんでした。光は私たちが飛ぶのを分かっていたかのように自分の周りだけ重力を重くしたんです」

 

妖夢「え、でも重力を操るのは風和瀬さんだけだったのでは?」

 

風和瀬「えぇ、そのはずなんですがなぜか光さんも私と同じ能力を使っていたんです」

 

長津「それに関しては何故なのかは分かりませんが、光は崩壊の旋律を奏でる前にあることを言っていたんです。それは…」

 

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ー回想ー 

 

二年前…

  

長津「やっとドレインを幽閉できた…やったな光。お前はすごいやつだ。大したものだ」

 

早乙女「やりましたね光!これでしばらくはこの世界も安泰ですね!」

 

光「何が安泰だ…何が幽閉だ…」

 

ググッ…

光は拳を握っていた。

 

長津「どうしたんだ?世界を救ったんだぞ?英雄になったんだぞ?もっと喜ぼうよ」

 

光「いらない…そんなもの…いらない。そんなもの…不必要だ…」

 

長津「おい光。どうした?」

 

光「お前らは…俺がどんな気持ちでやったのか分からないのか…」

 

条乃「何言ってるんだ光!周りのやつを見てみろよ!皆喜んでる!俺たちも喜んでいる!お前は昔から人の幸せを見るのが好きだったじゃないか!もっと一緒に喜ぼうぜ!」 

 

光「そうか…お前らは…そうゆうやつだったのか…」

 

長津「どうした光?なんか暗いぞ?光らしくないぞ?」

 

光「俺らしくってなんだ?俺らしくってなんなんだ?それはお前らが決めつけた印象に過ぎない…勝手な印象を俺に押し付けるな!」

 

長津「どうしたんだよ光」

 

光「お前らは必要ない。この世界も…ここにいるやつも全員…必要ない!」

 

長津「光…」

 

光「お前らだって見ただろ…俺の母さんがドレインに取り込まれるところを!母さんはとても強かった。じゃあなぜドレインに取り込まれたのか、お前ら分からないのか!あの時言っていただろ!」

 

沙耶 (私は自分の体を依代としてドレインたちを幽閉します)

 

光「そう言ってただろ!それなのに…それなのに…お前らはドレインが幽閉された事だけを喜んでいた。母さんの犠牲あっての幽閉なのに…俺たちはその補佐をしただけ…本当に幽閉したのは母さんだったのに…何故お前らが喜んでいる!何故お前らが幽閉したかのように言う!なぜ母さんが犠牲にならなければならなかったのか!それは俺たちがまだ未熟だったからだ!俺たちがやった訳じゃない!母さんがやったんだ!…それなのになぜお前らは喜んでいられる…母さんを失う俺の気持ちが…お前らには分からないのか!」

 

風和瀬「光さん!私たちだって悲しくないわけじゃない!光さんのお母さんは私たちをここまで立派になるまで指導してくれた恩人なのよ!」

 

光「その恩人に対してお前らは…ありがとうの感謝の気持ちを持ったか…」

 

風和瀬「…!!」 

 

光「持たなかっただろう…それもそうだろ。お前らは母さんをドレインとしか見ていなかったからな」 

 

長津「そんなことはない!」

 

光「なら智志。お前はさっきなんて言った?」

 

長津「なにって…」

 

光「お前はさっき"ドレインを幽閉した"と言っただろ」

 

長津「それは沙耶様の事じゃなくて他のドレインのことで…」

 

光「智志…ドレインに取り込まれた人達は取り込まれたあとどう認識される」

 

長津「…ドレイン」

 

光「そうだろ…取り込まれた人達はいくら人間であってもドレインとして認識され、退治される…そしてお前は、"ドレインを幽閉した"と言った。お前は俺の母さんでもありお前の恩人でもある人をドレインと認識していた…」

 

長津「…」

 

光「そしてお前は恩人がドレインになったことを忘れ、自分たちが幽閉したかのように言った…」

 

早乙女「違うよ光!それは誤解だよ!私たちは沙耶様に感謝して…」

 

光「もういらない…そんな乾いた言葉なんてもういらない…気持ちのないそんな言葉なんてもう聞きたくない…母さんが自分を犠牲にしてまで守ったこの世界では母さんに感謝する人はいなかった…周りのやつらだってそうだ。今あいつらが感謝しているのは母さんではなく俺たち十二天星だ。母さんがやったと知らずに…」

 

長津「周りの人たちはこのことを知らない!だから仕方ない!」

 

光「例えそうでも俺ならここで"俺たちじゃなく母さんがやった"ってはっきり言える。だがお前は"仕方ない"で終わらせた…」 

 

長津「…」

 

光「もういらない…こんな世界…俺は母さんが守ったこの世界で生きていたくない…」

 

長津「光…」

 

光「もういらない…こんな世界…消えてしまえばいい」

 

長津「!?」

 

ビリビリ…ビリビリ…

光は能力を使おうとした。

 

風和瀬「みなさん!光さんから離れてください!光さんには心がありません!何をするか分かりません!」

 

光「もういらない…母さんが守った世界なんて…もういらない…お前らにも大切な人を失う悲しさを身をもって教えてやる」

 

三室「光!やめろ!」

 

光「俺が許せないのは母さんに感謝しなかった事じゃない…俺が許せないのは…母さんが…お前らの恩人が…犠牲になったにも関わらずヘラヘラ笑っていることだ…」

 

ブゥン! 

光は天秤の能力を発動した。

  

長津「な!? 全員!ここから離れろ!」

 

光「気炎(きえん)光楼(こうろう)!」

 

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ー現在ー

   

長津「これが二年前に起こった出来事です」 

 

霊夢「そんな事が…」

 

レミリア「今の木葉には想像もできないことね…」

 

長津「えぇ、それから私たちは光を止めるために戦いました。なんとか光を止めることができましたが、私たちは光が目を覚ました時にまた暴れるのではないかと考え、晃大の洗脳と風和瀬の精神を操る能力を使って光の記憶を一部改変しました」

 

霊夢「それで…木葉は…」

 

長津「光は目覚めたあと何事も無かったかのように私たちに接しました。記憶の改変は成功しました」

 

霊夢「そっか…」

 

長津「ですが、その日以来、光は感情を一部無くしてしまいました。それは優しさです。慈悲の心です。彼はドレインを退治することに躊躇しませんでした。ですが、それは形を成したドレインも同じです。以前の光は人の形をしたドレインを見つけるとドレインと人を切り離すようにしていました。ですが光はそんな形を成したドレインでさえも躊躇なく退治するようになりました。私たちはそれを見て罪悪感しかありませんでした。私たちが無理やり記憶を変え、無かったことにしたせいで本来の光がいなくなってしまったのです」

 

霊夢「…」

 

長津「なのでこの世界で光に会った時は驚きました。光があなた達を守るために戦ったことを…本来の光に戻っていることを…」 

 

レミリア「本来の…光」

 

長津「ひとつ質問です。この世界の光はどんな感じでしたか」

 

霊夢「…とてもうるさかったわ。空を飛ぶにしても、弾幕を撃つにしても何か新しいことを見たり体験したりするだけで子供のように無邪気になっていつも私に言ってきた。楽しそうだった。初めて弾幕を撃った時の木葉の顔…とても嬉しそうで…とても楽しそうだった。私はそれを軽くあしらっていた…それでも木葉は私に笑顔を見せてくれたわ」

 

レミリア「そうね。能力が無くて悲しんでたり、咲夜に勝てなくて悔しがってたり、それなのに弾幕を撃てるようにしてあげるなんて言ったら目を輝かせて喜んでいたわ」

 

霊夢「他にも私が倒れているところに真っ先に飛んできて私を守ってくれたわ。あの時木葉は怒っていた。怒った木葉を見るのはあれが初めてだった」

 

妖夢「私もそうです。私は幽々子様がいなくなったことを木葉さんに相談したら、木葉さんは親身になって聞いてくれました」

 

早苗「私も神奈子様や諏訪子様がいなくなった時、妖夢さんと鈴仙さんと一緒に木葉さんに話を聞いてもらいました」 

 

うどんげ「あの時の木葉さんはとても優しかったです。茶化すこともなく私たちが言い終わるまで静かに話を聞いてくれました」 

 

霊夢「木葉は私たちの力になっている。あの子がいなかったら私はこんなにも楽しい気持ちにはなれなかったでしょうね」

 

長津「そうだったんですね…光はあなた達を本当に大切に思っていたんですね。私たちはまた間違ったことをしてしまうところでした。あなた方と光の繋がりを無理やり断ち切ろうとしていたのですから…」

 

霊夢「…」 

 

長津「光は変わってしまいました。今は光ではなく木葉として今を生きています。以前の光の面影はもうありません。それは嬉しいことですがそれと同時に不安があります。このまま続けば均衡が崩れ、ドレインが出現してしまいます。そうなった時私たちは光の星座の魂であるライブラを光の体に戻さなければなりません。そうなると光は以前の光に戻ってしまうかもしれません。優しさが消えた光に…それに以前の記憶をまた復元することになるのであなた方のことを忘れるかもしれません」

 

霊夢「そんな…」

 

長津「なので、折り入ってお願いがあります」

 

霊夢「何…」

 

長津「光はライブラが体に戻れば記憶が復元されます。なので、その前に一緒にドレインを退治して欲しいのです。ドレインが退治されればライブラは体に戻る心配はありません」 

 

レミリア「でもそうなったら木葉の能力や世界の均衡とやらはどうなるのかしら?」

 

長津「能力は使えなくなります。今の木葉のようになります。均衡は私たちで何とかします。私たちも光と同じ十二天星。ドレインを倒すことくらい容易いことです」

 

霊夢「でもそうなったらあなた達が…」

 

長津「別に構いません。あの子が本来のあの子でいられるのなら私たちはそちらを取ります。あの日から願ったあの子の幸せが今この世界にあるのなら私はあの子をこの世界にいさせてあげたいのです。身勝手ではありますが、どうかあの子を、木葉をよろしくお願いします」 

 

レミリア「…その話はこの異変を解決してからにしなさい。解決した上でまたこの話をしなさい。木葉の前で。それを決めるのは他でもない木葉なんだから」

 

長津「分かりました。ではまたその時にお話しします」

 

霊夢 (ねぇ木葉…ここに残ってくれるよね…元の世界に…帰らないよね…)

 

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ー同時刻ー

 

??? (なるほどね。そういう事だったの。ならこれでこの幻想郷は救われるわね)

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