ダンケルクま゛ま゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!
▽──────────▽
「失礼するわ、指揮官。調子はどうかしら」
既に三時を短針が迎えた頃合い、書類を片付け終えこれといってやることもなくかといって外を出歩く気にもなれず大人しく読書でもしていようとソファーに腰かけたタイミングでノックと共に執務室のドアが開いた。
返事をした覚えはないが、来客がいるわけでもなく、また重要書類を扱っているわけでもないため、わざわざ返事を待たなくともこちらとしては問題はない。無論、誰何をしてくれた方がこちらとしても誰が来たのかわかる為ぜひともしてほしいモノだが、流石に数年も付き合いがあればだいたい時間帯や声音でなんとなく、誰が来たのか理解できる。
では、誰が来たのか、というと。
「仕事もあらかた終わったからな、丁度暇してたよダンケルク」
扉を開けて入ってきたのは毛先が黒みを帯びている不思議な銀髪を腰まで伸ばし、ジャン・バールのように赤と黒を主とした服を身に纏うKAN-SEN。勝気なジャン・バールに対してクールな美人といった感想を抱かせる彼女はダンケルク。ジャン・バールと同じヴィシア聖座に属するKAN-SENで、あるがそれは今は置いといて、この時間に彼女が来るという事はそういう事なのだろう。
彼女と共に部屋に入ってきたワゴンに乗せられている諸々を見て俺は昼食を抑えめで正解だった、と内心で喜びながらテーブルの上に広げていた本をひとまとめにして端に寄せる。
そうして空いたスペースに彼女がワゴンの皿を移動させてから、そのままこちらに視線を向けずにいつも通りの事を聞いてくる。
「砂糖はいくつ必要?」
「二つで頼むよ」
そう答えてすぐに差し出されたティーカップを彼女から受け取り、向かいのソファーに座った彼女に視線を向ければ、ダンケルクの視線は俺、ではなくいや正確に言えば向いている方向としては俺であっているのだが、俺の顔ではなく下の方腰位置へと視線が向いていた。
それもそうだろう。
この部屋に入ればすぐにわかることだが、いま俺はソファーで横になっている秘書艦殿の頭を太腿に乗せているわけで、ダンケルクの視線いや表情は珍しいこともあるものね、とでも言いたげなモノだ。
「起こした方がいいんじゃないかしら」
「それは確かに。……と、いいたいが、まあこれは俺にとって役得だからな」
急ぎでもないし態々起こすこともないだろう。
そう判断して、俺はテーブルの上に置かれた今日のおやつもとい差し入れへと視線を向ける。
どうやら、今日はドーナツのようだ。
無論、ドーナツと言っても一種類ではなく、典型的なドノーマルなモノに加え、サクサクとした触感が人気なオールドファッション、さらにはフレンチ・クルーラーまである。
「クルーラー。これはシュー生地で作る奴だろう?他のと生地が違うし、手間じゃなかったか?」
「ふふ、そうね。確かに大変だったけど、指揮官や母港のみんなが楽しんでくれるだけで私としては作ってよかった、と思えるしそれに駆逐艦の子たちも手伝ってくれたから作ってる間は楽しかったわ」
「そうかい。なら、楽しませてもらうとしますか」
ダンケルクの満足そうな顔に俺は笑みを浮かべながら、彼女と駆逐艦らが作ったというドーナツの山からフレンチ・クルーラーを手に取りかぶりつく。
瞬間、中に入っていた生クリームのほのかな甘さが口の中に広がっていく。こう言っては何だが、ダンケルクは甘党だし俺自身割と甘党な人間だから生クリームもそれなりに甘いものだと思っていた。
しかし、今回はそこまで甘いわけではなくしっかりとドーナツ本体のおいしさが感じられた。まあ、流石に普段みたいな甘さのクリームだったら、それこそ同じ生地で作っているシュークリームと大差ないので差別化されているのは俺的にありだと思っている。
それにしても、駆逐艦たちと作ったのか。
…………問題が起きたという報告がなかったのは、良かったと嬉しく思うべきなのか、それとも何か良からぬことの前触れなのか、と恐れるべきなのか。
「……一応、ラ・ガリソニエールとアルジェリーが厨房の出入り口を見張っててくれたから……」
「おう……ヴィシア勢……」
どこぞのロイヤル空母への警戒網がわりとガチというべきか、下手すると拘束連行独房入りからの異端審問とは名ばかりのリンチという恐ろしいコンボが発生しそうな組み合わせに俺はなんとも言えず、紅茶に口をつける。
それにしても、彼女の作るアイスティーはとてもおいしく、普段自分で面倒に作るモノとはなんといえば、いいのだろうか、とにかく違うと断言できるほど美味いしおやつにあう。
はじめて飲んだ時はロイヤルのメイド隊が入れる紅茶となんら遜色のないモノで、褒める際にロイヤルを口にした時は紅茶の本場はアイリスなのよ指揮官?となんか圧が強かった記憶がある。
紅茶の消費量が云々と言っていたが、それが本当の話なのかは俺にはわからない。調べる?いや、調べてどうする……これで別にロイヤルとアイリスで普通にロイヤルのが消費量多かったらダンケルク可哀想でしょうが。
まあ、とりあえず、ロイヤルはお紅茶キメてらっしゃるお国ということで、アイリスはダンケルクのアイスティ一強という事で。そういう事にしておこう。
「ところで、指揮官」
「ん?」
「さっき、本を読もうとしてたけど、何の本を読もうとしてたの?」
「資格の本」
「資格」
「公認会計士の」
「公認会計士」
読書しようとしたのを入室したときに見えたのだろう、ダンケルクが俺の読む本に興味でもあったのか聞いてきた彼女に、俺はテーブルの端に寄せておいた本というか、参考書の表紙を彼女に見せる。
流石に、予想だにしなかった返答にどう反応すればいいのか、わからないのかダンケルクはオウムの様に俺の言葉と同じことを返してきた。
ぶっちゃけ、軍属が資格を取るというのはなんともおかしな話だが、もしも指揮官という権限の剥奪や怪我などを理由に母港から離脱、そういった事が起きて最悪軍属ではなくなった場合を考えて、指揮官業の合間合間で資格の勉強をしている。
まあ、別に資格を取る取らないは置いといてそういう勉強をしておくのは良いことだと思うんだ。何が必要になるか、わからんし。
「……ふふ、勉強するのはいいけれども、あまり根を詰め込みすぎないようにね指揮官」
「あいあい、ほどほどにするよ」
なんとなく、誤魔化した気がするが、まあわからなくはない。
いきなり、上司が公認会計士の資格勉強してるとか言われたらなんも言えんよなあ。
と、それは、置いといて、だ。
「ん、あ、……寝てたのか」
「おはよ、ジャン・バール。硬い膝枕ですまんな」
どうやら、秘書艦殿が目を覚ましたらしい。
瞼を開けた際に電灯にやかれたか、すぐに片手で目元を覆いながら身じろぎする彼女の薄めの茶髪を手櫛で梳きながら、そう呼びかければ
「別にこれでいい。…………それより、こっちこそ悪かったな重かったろ」
「いや、別に気にするなよ。ある種、役得だったからな」
「そうかよ……ん、なら、お前も少し寝るか?今度は俺が膝枕して───」
ジャン・バールとしては気まぐれか、それとも自分だけ寝てたというのが少し引け目だったのか、今度は自分が膝枕してやる旨を起き上がりながら提案してくれたのだが、残念ながら起き上がる際にジャン・バールと俺らの向かいのソファーに座るダンケルクと目と目が合ってしまったらしく、提案も最後まで口にできずジャン・バールは固まってしまった。
どうやら、ダンケルクがいたことに気が付いていなかったらしい。
しばらく、ダンケルクと視線がぶつかっている時間が続いていくが、下手に口出すとジャン・バールが爆発……する……するのかなぁ?ともかく、こういう時は大人しくドーナツ食べてれば俺に被害は来ない、はず。
「どうしたの?ジャン・バール。指揮官に膝枕するんでしょう?」
「……おう、する」
「あ、するの」
まさかのジャン・バールの返答につい俺は驚きを口に出してしまうが、ジャン・バールは睨みつけて……いや、なんか不貞腐れた表情だな。
「なんだ、嫌か」
「いやいや、役得だし」
手にしていたドーナツを口に放り込んでからティッシュで口周りを拭ってから慌てずに食べて、口の中のドーナツがなくなったのを確認してから靴を脱ぎジャン・バールの健康的な太腿へと頭を乗っける。
何やらダンケルクの微笑みから感じられるモノがあるがそれは感じられない振りをしつつ、ジャン・バールの膝枕を堪能する。
存外、柔らかくついつい夕方まで眠ってしまった。
▽──────────▽