Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#11 シー・ラブズ・ユー

目を覚ますと、夕方になっていた。

(マスター)というのは、絶え間なく魔力を消費し続けている。穴の空いたバケツのように。

そもそも死んだ人間を現世に干渉できる形で降霊するのに、なんの代償も払わなくていいなんてあり得ないだろ?

英霊(サーヴァント)という存在を、ただそこに()()()()()()()でも、その『燃費』はバカにならないのだ。

更にダメ押し…ぼくの魔術回路の質はゲロ以下だ。

魔術髄液による贋作の回路を、刻印蟲の魔力とミスれば一発アウトの()()()()によって、なんとか本物にすることができたが、この才能の無い身体では、10本以上は作れなかった。3年も費やしたのにだ。

しかも自力で生み出せる魔力は、寝起きのションベンより少ない。

冬のナマズみたいに大人しく寝てると、消費される分よりほんのちょっぴりだけ生成される魔力が上回るが、これから戦いで消費されるであろう莫大な魔力に比べればタンカスだな。

 

数は必要最低限。質はギリギリ()()()()()

使える手札も足りなけりゃ、そもそも山札もない。

仮にこの聖杯戦争がゲームだとして

ぼくが主人公だとしたら…

うん、クソゲー大賞グランプリだね。

 

改めてウンザリしてしまったが、人はそれでも腹が減るもんだ。

どうせ衛宮が台所でなんか作っているだろう……

そういえば、最近は食ったことがないな。

前はババアが食う飯みたいな質素な味付けだったが、果たして成長しているのだろうか……

 

ぼんやり考えながら、居間に続く襖を開けると……

 

「…………………」

 

………いやぁ、大所帯っすね。

衛宮、藤村、セイバー、ライダー、桜、ぼく

流石に6人も居たら居間もキツキツだなこりゃ。

もそもそと這い回っていると、隣の桜が座布団を用意してくれた。

気が利くヤツだ。出世するタイプ。

 

「…えーっと?状況を整理すると?」

 

むむむ、と眉間に皺を寄せた藤村がブツブツとなんか呟いている。

聴覚を共有している使い魔の蟲を使ってコッソリ聴き取ると、どうやら衛宮の言い訳を反芻しているようだった。

まずセイバーは衛宮の義父…切嗣の知り合いで、日本観光の為に来たが、宿泊のアテにしていた衛宮切嗣が不在だったので途方に暮れていた所に助け舟を出した…というカバーストーリーらしい。

 

「それで…ライダー?さんは…?」

 

「オレェ?」

 

オイオイオイオイ。

なに?ぼくはアドリブってワケ?

あっ、アホが焦ってら。

上等じゃん。

桜が目ん玉かっ開いて見てきてるけどどうでもいい

 

「彼はぼくのイタリアの友人ですよ先生……そしてたまたま同じ時期に観光が被ったんで、折角なら4人でって話になって、宿代ケチるために彼も便乗してんです」

 

イギリスに留学していて今でもジョースターさんとは文通、とまでは行かないにしてもメッセージカードを送り合う仲だ。

現地でもそれなりに友だちができたこともあった。

おかげさまで藤村が担当する英語のテストでは無双しまくっている。

 

「へぇ〜〜〜だから英語のテスト毎回満点なのね……やっぱ幼少期に留学に行ったっていう経験と海外の友人を作ることが、英語を身につけられやすいものにするのかもね」

 

「帰国してからもホストファミリーとは親交があるので。そして以前イタリア旅行に行った時にライダーと出会ったんですよ」

 

「失礼シニョリーナ、オレたちは問題を起こすつもりはありません」

 

ライダーも意図を汲んで援護射撃してくれた。

……どうでもいいけど、コイツの敬語なんかゾワゾワすんな。妙に言い慣れているみたいだし。やっぱり育ちは良さそうだよな。

 

「ほら、こんだけ日本語喋れンすよ?頑張って勉強したらしいぜ」

 

「ちょっとだけヨーロッパ…というかイタリア訛り?…っぽいけど、でも全然普通に、ネイティブな日本語を喋ってる!お上手ねぇライダーさん」

 

「元々ウチに泊める予定だったんですけど、どうせなら和風な武家屋敷で泊まった方が嬉しいでしょう?な?ライダーもそう思うだろ?」

 

黙って頷いとけッ!余計なこと喋んじゃあねぇぞ!

 

「…………」ウンウン

 

「………まぁ〜士郎が『納得』してるなら、大丈夫でしょうけども」

 

ゴリ押しできた。

そもそも藤村は家主じゃあないので、カンケーないんだけども。

 

そんなこんなで、晩飯の時間になった。

メニューはこちら。

 

かつおのたたき風サラダ。

鶏肉揚げ。

肉じゃが。

えび天などの天ぷら各種。

炊き立てご飯

味噌汁

麦茶

 

……多いな。

 

この武家屋敷と合間ってか、羽振りの良い大名の晩飯みたいに見えてきた。

なんか意味わからんくらい豪華な献立だな。

流石に藤村もこれにはにっこり。バクバクと馬みたいに食っている。

セイバーと桜は黙々と飯を食っていて、ライダーは箸に苦戦しているようだ。

 

「ナイフとフォークなら完璧なんだけどよォ」

 

「持ってこようか?」

 

「ニョホホ折角の機会(チャンス)だ、箸で行かせてもらうぜ…日本の文化には興味あったんでね」

 

食卓が賑やかになってきた。

ライダーは意外と人懐っこい性格している。

主に盛り上がっている藤村の相手をしているが、時々セイバーやぼくたちにも話をふってくる。

だがクチャラーじゃないし、口の中のもん飛ばさないし、寄せ箸とか舐り箸とかしないしで、所々で育ちの良さを見せつけてくる。

やっぱり謎の多い男だ。

さりげなくおかずを隣に座る桜に横流ししていると、いよいよ眼力だけでビームでも打てそうになってきた。

 

「あとで色々説明してやるから待ってろ」

 

「約束ですよ?兄さん」

 

「フンッぼくが約束破ったことあるか?ないだろ?ぼくは『紳士』なんだぜ?」

 

「その割にお下品な単語…よく使いますよね」

 

横を見ると、ジトっとした目。

やるじゃん。ぼくの『引き分け』ってところかな。

 

それにしても衛宮の飯美味いな。

脂モンは胸焼けするから無理だが、かつおのたたきと肉じゃがと味噌汁がマジでグッド。おったまげるくらい美味かった。

だが和食よりも優れているのは洋食…特にイタリアンだと、4年前に証明してやったからなぁ。

あの時みたいにもう一度料理バトルするのも悪くないかもな。

一身上の都合でガツガツ食えないが、『ご飯』を誰かと食べるというのは、すごく……素敵なことなんだと思う。

それを当たり前だと思えることもまた……

 

晩飯を食べ終えると、衛宮と桜が新婚さんみてぇに並んで皿洗いしてやがるんで、藤村に押されながらセイバーに離れを案内する。

なんでぼくの方が部屋について詳しいんだ?全く。

 

「ここがセイバーちゃんのお部屋ね、わざわざ同行してもらっちゃってから言うのもなんだけど、ライダーさんは離れじゃなくて士郎の隣の部屋でいいかしら?」

 

「おっとすいません、荷物は最初シンジの家に預けてたんです…明日また来ますね」

 

「あらそうなの?それじゃ、また明日ね」

 

段取り悪いなァ…

飯食った直後だし…血糖値スパイクか?

そしてどうやらライダーは、巧みにぼくの意図を汲んでくれたみたいだ。

頭もいいよなコイツ。

でもなんかすんごい武力があるわけでもないし、19世紀のカウボーイみたいな服装だし。

ハァ……コイツの()()ってマジなんだよ。

 

「良い夜を。………今度バル行きませんか?」

 

「イタリア人ってほんとにナンパするんだ…!?」

 

「はいはい、んじゃ今日はこの辺でお開きっすね」

 

居間の方でも片付けが終わったそうだ。

家に、帰ろう。

 

衛宮と藤村に手を振り、ライダーは霊体化。

そしてあれだけ騒がしかった夕暮れが、今ではふたりぼっちになってしまった。

桜が無言で車椅子を押している。

そういえば、こうやって押してくれるのは久しぶりな気がするな。

そもそも家に出てなかったし、ぼくが突っぱねてたのもあるし、あと桜が衛宮の家に入り浸るようになったからだな。入り浸らせたのはぼくだが。

 

背中越しでもわかるくらいモジモジしている。

芋虫か?テメェはよぉ………

 

「先輩が台所で、「怪我したんだけどライダーさんが治してくれた」って言ってまして………」

 

「ふーーーーーん、で?」

 

「だから兄さんに…ありがとうございますって…」

 

「ほらな?紳士だから約束破らないだろ?」

 

以前桜に懇願され「聖杯戦争では先輩(衛宮)だけは殺さないで」と言われた。

別に殺すつもりはサラサラなかったが、愚妹はやるかもしれないと思ってたのか。

 

「ふふっ…考えるって言ってませんでしたっけ?」

 

「さぁな…そこんとこは、よう覚えとらん」

 

住宅街の坂道が来た。

弓道部で身体を鍛えているお陰か、坂をスルスルと昇っていく。

一人で漕いでる時と違って、町の景色がよく観える。

 

「なぁ桜…」

 

「なんですか?」

 

「オマエ、誰かに恋したりとかするのか?」

 

ピタッ

 

「えっ!……え、えっと…」

 

分かりやすいヤツだな。

どうしようもねぇ。

だが、そうか……

 

「お前はもう何も言うな……」

 

「ち、ちがっ……くてですね…」

 

まだ誰かに恋なんてしていないだろう…と思っていたが、そういうワケではなさそうだ。

まぁ、ちょっと考えたら分かったことなんだけど。

 

「誰かに恋するってのはいいもんだぜ…ぼくも昔、留学中に知り合った『エリナ』って子がいて…その子が初恋だったんだ」

 

「………」

 

「もうあれから何年が経つだろう…?今ではとっくに手紙のやり取りすらしていない…その子との思い出も『四つ葉のクローバー』の押し花くらいだし、最近は顔や声まで忘れかけている」

 

そう、もうどこで何をしているのかも分からない。

ただ、時々こう思うのだ。

()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

「だがそれでもやっぱり、まだ覚えている…そしてそれが『勇気』のキッカケになることがある」

 

「兄さんの話って時々、哲学的になりますよね」

 

は?なんだコイツ折角イイこと言ってんのによォ

いつからか、ほんのちょっぴりだけ生意気になりやがったなコイツ。

ぼくの後ろをヒヨコみてーに、ちょこちょこ着いて来ていたのが懐かしいね!

 

「まぁとにかくだ!誰かを好きになるってのは、『幸福』な事なんだと思う……桜は、どう思う?」

 

「……そうですね、わたしもそう思います」

 

「兄貴ってのはな、妹のこーいう(恋バナ)話を聞きたがるもんなんだ……観念しな」

 

振り返るとそこには、いつものように困ったような笑顔が………夕陽に照らされていた。

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