Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#12 シルヴァー・ビートルズ その①

出席日数よりも大切なことは腐るほどあるのだが、ぼくの場合はとにかく寝ることだった。

時計を見ると既に昼。腹は減ってない。

いつものようにお茶(カモミールティー)を淹れて、ぼんやりとしていると、ふと思いついた。

 

そういえば、鉄球の回転は『技術』だったよな。

 

『技術』というと、例えば絵を描いたりだとか、ギターのコードを弾いたりだとか、そういった『練習』を積めば大抵誰でもそれを身につけられるってことだよな?

 

こーいうのには割と自信あるんだな、これが。

 

絵だって…美術の時間に書いた風景画はなんかのコンクールで、3位に入賞したことあるし、エレキギターとかでちょいと練習するだけで、かの名曲…『レット・イット・ビー』をすぐに弾けるようになった。もちろんギターソロもだ。

 

たまたま机の中にビー玉があったので、見よう見まねで指でペシペシ弾いてみる。

なんというか…『イメージ』はあるんだよな。

魔術を使う時もそうだが、何かの動作をする時ってのは、頭の中で『イメージ』をすることが大切なのだと思う。

イメージとは即ちコツとも言えるのだろうか。

自慢するようだが、ぼくは人の動作を『観て』『覚える』のが結構早い。

飲み込みが早いっていうのかな?

だから、まだそんなに見たことないけど、『回転』のイメージはある。

 

『風の中の木の葉が、バレエ・ダンサーのように、くるくる舞う』……そんなイメージ。

おっ、例えばこんな感じ?

 

グルグルグルグルゥウ

 

………マジ?

え?一発目で?

 

「マジすか」

 

ライダーがビックリしている。

勿論ぼくもだ。

というかなんだよコイツ神出鬼没すぎだろ。

たぶんコーヒー淹れてたんだろうけど。

 

「どう?『回転』ってのはこんな感じ?」

 

ガシッ

 

うおぉッ!痛ッ!!

なんで急に手を掴んだ!?

 

「おまえさん……その『手』…」

 

は!?何ィ!?

手?手がなんだよ!?

というか力強ッ

 

「シンジ、オレに『令呪』を使え」

 

「はぁ…?」

 

「『回転の技術を教えろ』…そう言え」

 

?……何言ってんだ……コイツ……急に……

 

「手を見れば分かる、おまえさんには『才能』がある……ちゃんとレッスンすればそれなりに扱えるだろう……だが、だからと言って我が一族の『秘伝』をチラシのクーポンみてーにホイホイくれてやるつもりもない」

 

………なるほど。

つまり、『大義名分』が必須だってか。

この『回転』は必ず大きな武器になる筈だ。

そもそもぼくの武器なんてサツからパクったリボルバーと、ちょっと硬くて真っ直ぐ飛ぶトゲトゲの羽蟲しかない。

初期装備がカスすぎる。

『才能』があるってんなら、習得しておいて損はないだろうし、フツーに興味もある。

 

「令呪をもって命ずる……」

『ぼくに回転の技術を教えてくれ』

 

赤い閃光が部屋を迸る。

左手に刻まれた…三角を描くその一画が消失する。

一瞬目がチカッとしたが、その後は特になにもない。

ただ心なしかライダーがホッとしている気がするくらいか。

 

「正直…レッスンを『飛び級』したっていいくらいなんだが…ここは『前例』に則らせてもらう」

 

ホルスターから鉄球を取り出すと、それがあっという間に回転し始める。

どう回転させているか全く見えなかった。

まるで手のひらにモーターが付いてるみたいだ。

 

「LESSON『1』は「妙な期待はするな』…だ」

 

……なにそれ?

 

 

 

 

それは鈴虫が鳴く頃だった。

いつものはあの薄暗い蟲蔵で修行しているのに、珍しく外に連れ出された。

お爺様は町の人たちからは慕われているようで、時々すれ違いざまに挨拶された。

もしこの間桐の神秘が白日の下に晒されるとするならば、一体どうなるのでしょうか。

別に「助けてください」なんて言うつもりもなかったけれど。

 

電車に乗って、少し緑が多い場所まで来たら、不気味な森の中まで歩いていって、開けた場所で唐突にお爺様が振り返った。

 

「今日は暗示の魔術について教えよう」

 

蟲が飛ぶ。お爺様の蟲。

びゅんびゅんと音を立てて、木々の隙間を縫うように飛んでいく。

数匹の蟲がピタリ、と動きを止めたかと思うと、明らかに様子がおかしい1匹のカラスが、ぼーっと嘴を開けながら落ちてきた。

 

「使い魔を通しても、畜生程度であれば暗示をかけることは容易い……どれ、桜もやってみなさい」

 

カッターで手首を浅く斬る。

赤い線に小さな血の粒が、朝露のように現れる。

そして、そこから蟲が産まれる。

血の粒は卵、瘡蓋は繭、皮膚は葉。

数匹の甲虫が瞬く間に成長し、変態する。

ブンブンと羽音を立てて、ひらひらと宙を舞う。

蟲たちの扱い方は分かっている。

ただ懇願すればいい。

心の中で、ただただ『お願いします』と頭を下げるだけでいい。

 

蟲が飛ぶ。

視界を繋いでみると世界がぐるぐると廻っていた。

目についた雀に、暗示をかけてみる。

『眠くなってください』

雀はコテン、と枝から落ちて、グシャ、と潰れた。

雀を殺した。

けど何とも思わない。

だって、わたしは悪くないから。

 

「呵呵……ふむ、馬が見えるか?…あの黒い馬だ」

 

見える。

大きな黒い馬。

馬……兄さんが好きな生き物。

そういえば、一度乗せてもらったことがある。

思ったよりも地面から高くて、ここから落っこちたら怖いな、痛いのかな、って思いました。

別に興味なかったけれど、兄さんが楽しそうだったので、断りきれずに乗ってしまった。

お馬さんは呑気に枯れ草をもぐもぐ食べている。

なんだか腹が立ってきました。

あの子はのんびりと、悠々と、大地を駆っている。

なんだか腹が立ってきました。

この空と大地に、産まれてきたことに感謝して疾っている。

わたしはそんなこと……きっと、一度だって思ったことないのに。

 

「そうさな…『混乱』の暗示をかけてみるがよい」

 

言われた通りにする。

『混乱』……いい気味です。

あんまりにものんびりしていますから、きっと一度だって何かや誰かに怒ったりしたことなんてないでしょう。

蟲の視界を通して、暗示をかけた。

お馬さんは耳をくるくる回している。

どうしてでしょうか?

でも、なんだか可愛い仕草だと思いました。

 

「桜や、面白いものが観れるぞ?」

 

「え」

 

皺苦茶なニヤケ顔が見えましたから、思わず視線を逸らしてしまいました。

すぐに視界を繋げ直す。

兄さんが居ました。

黒いお馬さんに跨っています。

いつものように、一心同体になって……

 

ずどどどおおんって音がしました。

ばきって音も聴こえました。

 

兄さんが倒れています。

兄さんが黒いお馬さんに蹴られています。

大人の人がやってきて血まみれの兄さんを抱えてわたしは知らなくてわたしはわるくなくてわたしのせいでわたしがこんなことをわたしがやったことでわたしがあんじをかけたせいでわたしが…………

 

「呵呵呵ッ……愉快愉快…ッ」

 

お爺様が嗤っている。

腹は立ちませんでした。

悲しくもなくなってきました。

涙も出ませんでした。

一瞬、つららが背中にブスリと刺さった気がしましたが、それだけでした。

ただ、だんだんと怖くなってきました。

兄さんは、兄さんでした。

イジワルで、口が悪くて、強引で、友だちが少なくて、説教っぽくて、いつもフキゲンそうで。

だけど、優しい人。そして馬が好きな人。

わたしはなんなんでしょう?

あの人が大好きなものを穢して、なにがしたかったんでしょうか?

どうして腹が立ってしまったんでしょう。

もしかすると兄さんを殺してしまう所だったのに。

 

身体が震えたり、頭が痛くなったり、吐き気がしたりだとかはしませんでした。

どちらかというと、寒くなりました。

 

鈴虫が鳴く頃、わたしは『裏切り者』になった。

兄を……大切な家族を裏切った。

ごめんなさいと言いたかった。

いつもみたいに呆れ返って、鼻を鳴らして、フキゲンそうに許してくれるかもしれないと思った。

ごめんなさいと言えなかった。

 

だって、兄さんはわたしに色んなものをくれた。

本当に大切なものをくれた。

なのに奪ってしまった。

『夢』『希望』『未来』を

奪って、奪って、奪って……

そして今度は『妹』まで奪ってしまう。

他ならぬ、わたしが。

 

それが何よりも怖かった。

 

なんて自分勝手………

すごく、気持ち悪くなりました。

時々、鏡に映る自分が、大きな蓑虫に見えます。

『宿命』の糸でぐるぐる巻きにされた、蓑虫に……

 

 

 

 

冬木中央公園に来た。

あの家で『回転』の練習をすると、ジジイに筒抜けになるし、そうじゃあなかったとしても、フツーにあの家に居たくない。

公園の中心の広場に行ってみると、あまりにも『生命』がいないんで、好都合ではあるのだが、少し寂しい気持ちになった。

とはいえ、フラッと誰か暇そうな輩が来る可能性もあるので、遠坂には不評だったカスみたいな『人払いの結界』も一応張っておく。意味ないかもしれないけども。

 

「シンジ、この握った手の中の『鉄球』をどう取り上げる?」

 

まぁまぁ必死こいて結界張ってると、ライダーが意味わかんないこと言ってやがった。

いや、無理じゃん。

 

「おっと!噛みつくのはナシだ…イカサマ使うんじゃあねえぞ」

 

「誰がそんなサルみたいなことすんだよ」

 

あ!目を逸らした!

これはつまり…

 

「おそらく昔…あの夢で見たカタブツっぽいオヤジさんにおんなじことやられて、その時に噛みついたりしたんだろ?どう?当たってる?そんでそれ何歳の時?もし二桁だったとしたらおまえヤバいよ」

 

「9歳の頃のオレじゃなくて回転の話をしてんだッ回転で握った拳の中からどう取り出すって話だッ」

 

「絶対無理じゃん」

 

「本当に無理だと思うか?」

 

ゲっ……おい、マジかよ。

 

手を開いてみると…

()()()()()()()()()()()()()()()……

うそォ?いつの間に?

 

「ほぉ〜それどうやってんだ?」

 

………………フ〜〜〜〜〜

うん。なるほどね。

まさか、ぼくが張ってたのが…

『全身青タイツホイホイの結界』だったとはね…

ある意味天才なのかもね、ぼく。

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