Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
刹那。青い痩身が揺れる。
朱色の槍が直線を描き、遅れて閃光が迸る。
甲高い鋼鉄の音。そして火花が散る。
それ故、彼は不思議そうに首を傾げた後、鈍色の曇天に向かって跳躍する。
間合いが生じる。『一手』費やすのは必須の距離。
精悍な顔が愉悦によって歪んだ後、世間話でもするように軽々しく口を開く。
「妙な『芸』を持ってやがる……面白え」
対する
「痛でェェェ!くそォ!てめぇッ!!」
吠える
腕には螺旋が砂絵のように描かれており、そこに肌の弾力や瑞々しさはなく、例えるなら大樹の幹……あるいはそれ以上の硬度を有する状態であった。
そして掌には少しばかり窪みがあり、その鋭い歪みが人体の弾性によって元の寸法に戻ることなく、そのままに残っている。
手の甲には『回転』する2つの『鉄球』が、空を切る音を小さく奏でている。
「ほぉ?まるで『ねじれの発作』だな…だがそれが
ケルト神話の英雄にして、半神半人の戦士。
アイルランドの光の御子。
真紅の魔槍を操るだけでなく、18の原初のルーン魔術にさえ精通した万能の英霊は、あまりに奇妙な鉄球の回転が『技術によるもの』だと一目見ただけで看破した。
それは数多の武具を使い熟し、凡ゆる武術を修得し、豊富な戦闘経験を積んだ賜物である。
「オラアァァアッ!!!」
独り言に対する
それは最も原始的な戦闘技術。
しかしながら、それはシンプルな膂力に任せた投球ではなく独自の
螺旋状に回転する鉄球の尾には渦巻く風。
正確に痩身に向かうそれは、弧を描く真紅の槍によって阻まれた。
一瞬の銀光の後に鉄球は地に堕ちる。
「いい腕だ、だが俺に飛び道具は上手くないぜ」
「
例えるなら逆再生。
地に堕ちた鉄球が再び飛翔するも、またもや槍が行手を阻む。
しかし、さっきと違う点……鷹揚に構えていた槍使いの赤目に鋭さが宿る。
「ぬ、こりゃ驚いた…芸達者だなオマエ……チッ…間合いをとったのは悪手だったか…」
「どォ〜すんだァ!?次の『一手』はよォッ!」
弾かれた鉄球が、今度はひとりでに騎兵の手に舞い戻る。回転が途絶えぬままに。
少しばかりの沈黙……相対する両者の威風が空間さえも歪ませる。
槍兵は腰を落として低く構えると、それと同時に莫大な紅の魔力が渦巻いて、槍先に集い始めた。
「いい加減小競り合いには飽き飽きしてんだッ!」
本能的に『生命の危機』を感じ取ったのか……先程とはまた違う『迎撃態勢』で構える騎兵……回転は益々その勢いを、自壊することさえ恐れずに増していく。
「その心臓、貰い受けるッ!」
宣言と全く同時、渦巻く魔力が形作るそれは、
まさしく必殺の一撃…!
「オラァアアッ!!」
「
交錯する一撃から生じる、回転と魔力の激動。
その圧倒的破壊空間は、まさに
まず、青い痩身が後方に吹き飛ぶ。
脇腹に抉り込まれた拳大程の窪みが、鉄球によって齎された痛恨の一撃の証明である。
かの大英雄に届いた、
『ジャイロ・ツェペリ』が放つ極限の近接攻撃…!
膝を折ることまでは叶わなかったものの、それは確かに、常人では到達できないであろう地点…!
槍兵のダメージは、神秘亡き時代の英霊では、本来では有り得ないこと!
「うおおおおおッ!!」
刹那、対する騎兵の胸部が破裂する。
「ライダァァァァァァーーーッ!!!」
「黙ってろ水気の小僧…ッ!」
交錯しながらも、確かに放たれた真紅の槍。
それが持つ因果逆転の呪いにより、騎兵の『心臓に槍が命中した』という結果を構築され『槍を放つ』という原因を齎し必殺必中の一撃を可能にした。
因果の
騎兵の放ったそれが『技術』の究極形とするなら…
槍兵が放ったのは神代の『魔槍』の呪い…!
ボッッッ!!ズバババババッ!
破裂音。同時に何かが迸る轟音。
波打つ破壊エネルギーの躍動が脇腹を、腰を、太腿を疾走し、終点……即ち足先に集中する!
ドグオォォアアァッ!!!
暴風が吹き荒れ、血とズタズタになった足先がバラバラに飛び散り、大柄な肉体が
「うおおおおおおおおッ!?」
だが、それは死体ではない。
無惨に肉体を破壊されてなお、彼の命も、霊核も、意識も、闘志さえも未だ絶えていない…!
「鉄球の回転の『最終奥義』ダメージの衝撃波を体表に伝わらせて足へ移させ『
如何なる防御、如何なる回避行動であっても、それを防ぐことは『不可能』。
故に、『ジャイロ・ツェペリ』は咄嗟の直感的判断によって、ツェペリ一族380年の歴史が編み出した『奥義』によって………
ダメージを肩代わり……
即ち、因果を『
決して知名度が高い訳ではないジャイロ・ツェペリだが、彼の右眼に宿る並大抵の英雄たちを凌駕する『神秘』と相まって、神代を生きた者が持つ規格外の力と拮抗することに成功した。
彼には『知名度』が無い。
名高き英雄とは言い難い。
それでも彼は『英霊』となった。
ツェペリ一族の『宿命』
かつて、
この2つの要素によって……
ジャイロ・ツェペリは『英霊』となった。
「躱したなライダー……
まるで悪鬼が如き形相。
宣言を違えた汚名、それを今すぐに雪げない葛藤。
かつては誇り高き戦士として生きた者にとって、それは耐え難い屈辱であった。
「だが、足に深手を負ったオマエをみすみす逃して守る『命令』に、意味なんざねぇよなァァァ!?」
繰り返すようだが…
『クー・フーリン』は誇り高き戦士である。
『クー・フーリン』は
如何なる方法であったとしても、
まず、その者の情報を抜く。
そしてその次に行う行動は…『撤退』である。
故に、血湧き肉躍るほどの強者に(部外者からの)情けをかけるというのは、この死力を尽くして戦った自分とライダーに対してあまりにも無礼すぎる。
つまり。
『クー・フーリン』はまだやるつもりである。
「シンジィ!やるしかねェッ!『LESSON2じゃなくて3』だッ!」
「あのビー玉はたまたまだったッ!!」
「回転を信じろッ!回転の無限の力を信じろッ」
不幸中の幸い、もはや戦闘不能と言っても過言ではないライダーのホルダーには、ひとつだけ『鉄球』があった。
ビッ!グルグルグルシルシルシル
「水気の小僧…ヘタな横槍は足引っ張るだけだぜ」
地を踏む音。少年の枯れ木のような掌に、いつのまにか重圧がかかる。回転は途切れた。
失敗した。試すことさえも。
そしてこのままライダーは串刺しになるだろう。
どうにか一発ブチ込めないのか…?
ライダーはまだまだやる気だが。
ここから形勢逆転できるのかッ!?
間桐慎二は思考する。
ぼ、ぼくは……ここで観ているだけなのか?
こんなちっぽけな手で何ができるというのか……?
あァ!?……砂絵だ。芝生もない。なぜこんなところに。
「シンジィ!まさか……おまえ……!」
掌を返す。
ッ!?
回転しているぞッ!
指の第一関節から先!親指とか人差し指とかも、とにかく両手全部の指が螺旋状に回転しているぞォォォ!!?
………いや、しかし!これは直感的に理解できる!
要するにゲゲゲの鬼太郎ってことだろう!?
「うおおおおおおおお!!」
ドオォン!ドオォン!ドオォン!
指が螺旋を描いて飛んでいく。
きっと、ぼくの指は『卵』なんだッ
空中で孵化し、幼虫が霊地のマナを喰らいッ!
最終的に銀色の甲蟲に不完全変態した。
3匹の銀蟲が、ランサーに襲い掛かる。
唐突な不意打ちに難なく迎撃するも、その感触に違和感があった。
「またもやドジったぜ」
「さっさとやっちまうべきだった」
チュミ……チュミミミィ〜〜〜〜
こんな蟲…間桐の書斎でだって見た事がなかった。
つまり…新種ってワケだよなァ!?
「これはもう『魔道』の『蟲』じゃあない……これはきっとッ!『聖なる力を持っている』!これからは『