Fate/STEEL BALL RUN   作:涅槃先輩(27)

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一体…何ュガー・何ンテンなんだ…?


第十四話 魔術師の世界 その③

アトラム・ガリアスタが幼かった頃。

魔術師であった父と共に、

()()()()()()』の遺跡へと遠征した。

幼いながらも既に魔術師としての才覚を発揮していたアトラムは、今回の遠征も何事もなく終わると信じていた。

 

もう一度言うが、アトラム・ガリアスタは天才である。

科学と魔術を交錯させた父の工房に籠り、弱冠12歳にして魔道の探究に明け暮れ、それなりの結果も出していた。

魔術師は総じてロクデナシである。

それは幼少期の彼も例外ではなく、既に魔術師に必要な冷酷な人格が形成され、魔道に進まぬ人間を見下し、根源に到達することにのみ興味を示し、時には罪のない無辜の民を研究のためだけに手にかけたコトさえあった。

 

遺跡を探索し、魔術礼装を作るための素材をたんまりと手に入れたアトラムたちは、来た道を引き返していた。

最初に()()()に気づいたのは、アトラムの父であった。方位磁石がいつのまにか利かなくなっていたのである。

やがて周囲は流砂で見えなくなり、

()()()()()()()()』や『()()()()()』が現れた。

 

()()()()()()()

 

アリゾナ砂漠にはアメリカの原住民からそう呼ばれ、忌み嫌われている『呪われた土地』がある。

1875年、とある異端の魔術師が、時計塔の魔術師たちと調査チームを結成し、この土地を隅々まで調査した事例がある。

調査の結果『悪魔の手のひら』は、アメリカ最高峰の霊地であり、その歪みは魔術師どころか、魔術回路を持たない一般人にさえ影響を与えると評価された。

世界最高峰レベルの霊地、しかしそれは高いリスクを伴う。一般人に影響を与える性質は神秘の秘匿を妨害する『厄介』な性質。時計塔の魔術師たちは苦渋の決断でこの土地そのものを隠蔽する方針を固めた。

 

しかし、

()()()()()()()()()』までは隠蔽できなかったと言われている。

 

アトラムたちはそんな霊脈で遭難した。

次々と仲間たちが飢餓と暑熱で倒れ、とうとう片手ほどの人数になった時、事件は起きた。

小便がしたいと思い目が覚めたアトラムは、テントから這い出ようとして気づいた。

かすかな光の中に粗末な服を着た大男が立っていた。

その男は遺跡への案内人で、なんの魔術も使えない一般人であった。

しかしその生命力は凄まじく、食料も水もない灼熱の砂漠を、一度たりとも倒れずに共に歩き続けた猛者であった。

男は体から異様な臭いを放ち、何も考えていない牛のように生きたサソリを右手に口に頬張っていた。

そして男は空いてる方の片手でアトラムの首を絞めるとこう言った。

 

「おまえは騒ぐなよ、水も食い物も満足にねぇと思ったら、久しく忘れていたぜェ…こんな美しい皮膚をよォォォ」

 

首を絞められながらも、どこか冷静な目で周囲を観察していたアトラムは、とうとう暗闇に目が慣れてしまい、見つけてしまった。

 

()()()()()()()()()()()()()()姿()()

 

「うう…ハー……うううー……ハァーッ……うう」

 

この時、初めて死への恐怖を抱いた。

体は震え、肌は蒼白く、眼は小刻みに揺れ始める。

 

「美しい!スゲェ美しいッ!百万倍も美しい!…」

 

男は衝動のままにその醜い裸体を晒した。

刹那___男のホルスターから銃を抜き取った。まるで野生の獣のように素早く、熟練の兵士のように精確に……

 

「おい、おまえ何してんの?危ねぇぞ」

 

「フゥーッ……フゥーッ…」

 

「…おまえよくここから盗ったなぁ〜けっこうスゴイじゃん!でもそれってよォ悪ガキのすることだ…軽々しく扱うモンじゃあないぜそれは」

 

少年の呼吸はさらに荒くなっていった。

死神が首元で舌舐めずりしているのを幻視していた。

 

「…なぁ、それを下に置けって!もし撃ったらオレはものすごく怒る!ただじゃあおかねぇからな…おまえの手足を切り刻んで生きたままブタの餌にしてやるッ!だがオレみたいな元軍人には分かる。おまえには撃てっこねぇ…」

 

その男の声は奇妙な程に優しかった。

まるで父が子に語りかけるように優しく……

そしてなにより男の脅しがあまりに怖かった。

生きたまま切り刻んでブタの餌?

想像するだけで悍しく、手の震えが止まらない。

呼吸はさらに荒くなり、銃口が荒波のように揺れ始める。

 

「やさしくするから下に置けって!おまえをオレの息子として育ててやるから……ベッドの下に置くんだよォォォ!!!」

 

優しい微笑みを釣り餌にしていたその顔は、もはや隠そうともしない下劣な欲情を剥き出しにしていた。

男はその銃に手を伸ばした。まるで獲物に襲い掛かるコヨーテのように。

 

ドグォオォン

 

「うわあああぁぁぁーーッ!!」

 

爆ぜた。

何が爆ぜたのか?

あらゆるものがだ。

 

アトラム・ガリアスタの咆哮、常識、恐怖、高揚。

そして……男の頭。

 

6秒間。

アトラムはそこに人形のように留まった。

6秒後、アトラムはテントから歩き出した。

 

その目には漆黒の炎がみなぎっていた。

その皮膚には、太陽のような赤みがさしていた。

彼には光が見えていた。

これから進むべき『光の道』が………

 

公正なる戦いは内なる不安をとりのぞく。

乗り越えなくてはならない壁は

『男の世界』

彼はそう信じた……

それ以外には生きられぬ『道』

それ以外には生きられぬ『性』

 

アリゾナ砂漠のアメリカ=メキシコ国境付近。

一人の少年が保護された。

とても奇妙なコトに……その倒れていた少年の口の周りには……汗のような……しかしそれにしてはあまりにも不自然な水滴が付いていた。

後に少年は、あの時自分の周りにある空気の水素を無意識のうちに()()()使()()()()()()』させる事で水を舐めていたというコトを悟った。

 

少年はこの『()()()()()()()()()()』は

『男の世界』の入り口に踏み入れた報酬____

そう受け取った。

 

アトラム・ガリアスタは魔術師である。

銃を使う、手段は選ばない、無辜の民は殺さない。

それでも、魔術師である。

なぜなら彼は己を高める神聖な修行を極める事で、

『根源』に至ろうとしているからである_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脚が痛む。

目眩がする。

吐き気もだ。

それがどうした?

傍に倒れ込んでいる慎二のため。

こんな俺と一緒に戦っているセイバーのため。

 

俺はこんなところで死ぬわけにはいかないッ!

 

身体が痺れている。

血の巡りさえも感じない。

脚の感覚がない。

視界が色褪せていく。

それでも立つ。立って、こいつをぶちのめす。

 

「……お前の脚に撃ち込んだその弾丸は…さっきのと同じく生体電流を遮断する……だがなぜまだ脚が動くのか?」

 

こいつは『敵』だッ!

こいつなりの信念はあるみたいだが、それでもこいつが躊躇なく人をブッ殺すヤツだってのに違いはないッ!

あのランサーと同類の人間!

今ここで倒さなくてはッ……

 

()()()()()()()()()()()()()()ッ!

 

「知るか…アンタ、その銃の整備でもサボったんじゃあないのか?」

 

軽口を叩きながら、全力で意識を編み上げ続ける。

理由はわからない。だがなぜかあの『()()』を見て以降、『強化』の調子が良い。

基本骨子をわざわざ解明する必要もない。

ただ構成『()()』を補強するだけでいい。

だがそれでも俺はまだ未熟なんだろう。物も自分も強化できるようになった。それでも他人を強化できないと感覚的にわかるし、それどころか全身を強化することも、今の技量じゃできないだろう。

……そうか!今ようやくわかった!

俺は撃たれた脚を『補強』している……構成している物質が破壊されても。今まで何度も解明してきた基本骨子さえ覚えていれば、その記憶通りに編み上げることで、補強することができる。

今の俺は、千切れそうな脚を魔力の結束バンドで無理やり補強している…といった感じなのだろうか。

ともかく、これで俺も多少は戦える。

 

今の俺の手札は、両腕と持ってきた木刀。

相手の手札は、必殺の魔弾。

 

俺は……どこを『強化』するべきか…?

考えろ、今最も必要なコト…最優先でするべきコトを!

 

「………ここで、対等となる話をしよう…」

 

こいつ……何悠長に語り出してやがる……一体何を考えてる……

脚を撃たれた俺も大概ヤバいが……アンタだって相当ヤバい筈だ!

左腕が丸ごと吹き飛んでやがる……いくら魔術師だからって……後から治療する手段がいくらでもあるからって……今のまんまじゃあ、あと1〜2分後には失血死だ!

 

「私の腰の拳銃は一八七三年型コルト、又の名を『ピースメーカー』……今の君くらいに離れているなら、私はあと『5歩』近づかなくてはならない…『5歩前』で撃っても命中度は低い……」

 

…今ここで尻尾を巻いて逃げれば、俺だけは助かる……

だがそうすればこいつは慎二にとどめをさすだろう……

そしてこいつが失血死するまで逃げ切るのは………たぶん、できないだろう……

いや、違う………

違うだろ衛宮士郎ッ!

今はただこいつを倒すことだけに集中するんだ……そうだ……

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

この戦争で犠牲になる人を増やしてはいけないッ!

こいつの弾丸となって死んだ人たちのために!

こいつが今後殺していく人たちのために!

 

「目眩がして…私はもう何も見えない…だがこれだけは分かる。私は『外さない』…この『一発』は」

 

俺が『強化』するのは…!

 

『両脚』ッ!

 

こいつは『5歩』と言った…!

なら俺の脚を、

『1歩で5歩分の距離を疾れるくらいに強化』すれば、あの状態なら俺を精確に捉えるコトはできない筈ッ!

 

「___同調、開始(トレース オン)

 

走るな。走るな。走るな。まだ走るな。

溜めろ。溜めろ。溜めろ。まだ溜めろ。

たった一瞬の疾走に、全ての力を込めろ。

ここを取り逃すと、一人か、二人か、あるいは三人の死骸がここに転がることになる。

 

一人殺すことでほかの二人を助けれるのなら…!

なら、ならば…!俺なら二人助ける…!

俺と慎二の二人を…!俺の力で…!

 

両腕を顔の前でクロスさせる。

強化していない両腕なんて、拳銃で撃たれたら一発で吹っ飛ぶだろう。

だが頭は…急所は守れるかもしれない。

 

「来るか…!」

 

蹴った。地を蹴った。

もう後戻りはできない…!放たれた弾丸のように!

 

「うおおおおおおおおおーーーッ!!!」

 

撃たない!まだ撃たない!こいつはギリギリまで引きつけてから撃つ!

ならば届くかもしれないッ!

背中に入れておいたこれにッ!

顔の前でクロスした両手ならッ!!

 

ドグオォンッバキャアッ!!

 

「……『1歩分』…木刀で詰めたのか……急所を外された……」

 

「ハァーッ…ハァーッ……ハァーッ…」

 

外れた……俺は死んでいない。

たしかに腹を撃たれた。

だが腹の中に心臓はない。脳もない。

勝った……!

 

「……砂漠の一粒ほども、後悔はない……」

 

勝った……俺は……

躊躇なく人を殺すようなヤツに……

勝った………

俺は……この戦い(殺し合い)勝った(殺した)…のか…

 

「エミヤ…『光の道』を見ろ…進むべき『輝ける道』を…社会的な価値観がある…そして『男の価値』がある。『真の勝利への道』には『男の価値』が必要だ…この戦争で確認しろ…『光輝く道を』」

 

待て……アンタ…何をするつもりだ…!

 

「オレはそれを祈っているぞ、そして感謝する」

 

そんな身体で…!

まだ戦うってのか!!

 

ドゴォオン!

 

血まみれの……拳……

俺の鼻の先まで……

クロス…カウンター……

俺の方が先に……殴った……殴れた……

 

「ようこそ……『()()()()』へ……」


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