Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
『見るなのタブー』
世界各地の神話や民話に見られるモチーフのひとつ。何かをしているところを「見てはいけない」と禁止が課せられていたにも拘らず、それを破ってしまったために悲劇的な結果が訪れる、あるいは、決して見てはいけないと言われた物を見てしまったために恐ろしい目に遭う、というパターンをもつ。
ここで幾つか例を挙げよう。
旧約聖書の場合。
『創世記』19章において、ソドムとゴモラが滅ぼされるとき、神の使いがロトの家族へそれを予告する代わりに、町の方を振り返るなと言いつけたが、妻は途中で振り返ってしまい、塩の柱となった。
ギリシャ神話の場合。
竪琴の名手オルペウスは、毒蛇に咬まれて死んだ妻エウリュディケーを生き返らせようと決意して冥界へ行き、冥王ハーデースと交渉を試みた末に「地上に戻るまでは決して後ろを振り向いてはいけない。成し遂げたら妻を返そう」と約束させることに成功した。しかし、エウリュディケーが本当に付いて来ているか不安だったオルペウスは、もう少しで地上にたどり着くという所で後ろを振り向いてしまい、エウリュディケーは冥界に引き戻されてしまった。
日本神話の場合。
神産みの段で、亡くなったイザナミを追って黄泉の国を訪れたイザナギは、中を見るなと彼女に言われたにもかかわらず、櫛に火をつけ扉を開けて中を見てしまう。自身の朽ち果てた姿を見られたイザナミは怒り、逃げるイザナギを追いかけるが、黄泉の国の入り口で二神は離婚する。
このように、『見るなのタブー』は世界各地に存在し、多くの人々の心理に刻み込まれている。
もしかするとこれは、この世界で最も普遍的な、人類の誰もが打ち勝つ必要がある『試練』の一つなのかもしれない………
◆
若い男の声が、後ろから聴こえた。
ライダーがピタリと、足を止める。
背中越しでも震えが伝わる。
荒い息遣いも聴こえる。
汗がナイアガラの滝のように噴き出てきて、ビショビショになっている。
ギリギリ、と歯軋りの音。
砕け散りそうな程に歯を食い縛り、コイツは『試練』に打ち勝とうとしているのか。
「ジャイロ…?」
「やめろォ〜〜〜……オレに話しかけるな……」
この尋常じゃない様子を観るかぎり、背後から聴こえるこの声は、恐らくコイツの生前の『親友』だとか『相棒』だとか、そんな感じの存在なのだろう。
だが、この!ぼくの『黄金』のような脳細胞なら流石に
ここでやるべきことは、今にも振り返ってしまいそうな…この甘ちゃんをなんとかすることだ。
「歩きなよ、ライダー……」
「あ、ああ……そうだな……」
一歩ずつ、あの『光』に向かって歩き始める。
大通りに近づいていく。
「ジャイロ……
「ジョニィ……!」
泣きそうな声。震えた声。
コイツが初めて見せた……少年のように純粋で、だけど『大人』になるために耐えている姿。
あの、東方家系図を見せてくれた時に言っていた……ジョニィ・ジョースター……ライダーにとって、本当に大切な友人だったのだろう。
「なら、たったこれだけ……」
「ありがとうジャイロ……」
「本当に……本当に………」
「『
「それしか言う言葉がみつからない…」
ほんの一瞬だけ、立ち止まった後……
なら、ぼくがやるべきことは……
「GOッ!『ジャイロ』ッ!GOッ!」
「うおおおおおおおおおーーーッッッ!!!」
走っていく。脇目も振らずに。
声が枯れるくらいに吠えながら。
全てを振り切るように。
きっと、もう『迷い』はない。
このまま、ビュンビュンと疾っていく。
『光』の中へ…………
さっきは、えげつない罠だと思ったが、今ならわかる……この『試練』は、きっと最もシンプルで、最も慈悲深い……
『
◆
あの後、大通りに出た後も、ぼくらは振り返らずに走った。
すれ違う人たちからジロジロ見られたが、どうでもよかった。
まぁ、ぼくだって高校生背負って爆走するカウボーイみてーな男がいたら、あまりにも奇妙な光景すぎてジロジロ見ちまうからね。
「ライダー……」
「メシ食いてーな……おたく『料理』できるか?」
「………フンッ…ナメるなよ……ぼくは衛宮なんかよりよっぽどウマい飯作れんだ……『イタリアン』だけならね」
……たぶん、和食ならぼくの完敗だろうけど。
「ニョホッ手伝ってやっから作ってくんねーか?」
しょうがね〜なぁ〜。
そんなワケで、衛宮ん家まで来た。
もう夕方だ。
たしかにぼくも腹が減ってきた。
背負われるままに居間に行くと、なんかすっかり馴染んじゃった4人が居た。
藤村と桜は将棋を指していてるが、盤面を見るに、桜が『王手飛車取り』されている。
つまりフルボッコにされている。カワイソー。
アホの衛宮とカタブツなセイバーさんは、茶をしばきながら観戦しているようだ。
「あっ、おかえりなさ…い?」
「慎二?なんで、おんぶされてるんだ?」
バカみたいに呑気で、無条件に幸せそうな空気。
実は昔、このなんか無条件に幸せそうな空気が嫌いというか、苦手というか…そんな感じだった。
だが、今ならちょっと沁みる……
「今日はぼくが飯作ってやるよ……この前衛宮が作った和食も、バカの癖になかなかやるじゃんって思ったけどね……やっぱり料理は『イタリアン』が一番ウマイんだよ……ドゥーユーアンダスタン?」
「えっ、ちょっ、急になんでさ」
「…あぁ、皆さんはこの居間をリゾート…カリブ海のビーチだと思ってくつろいどいてください」
たまげまくってる一同をガン無視して、背負われたままキッチンに入らせてもらう。
この家は何故かビビるくらい食材があるので、やろうと思えばフルコースだってできる。
流石に小羊背肉は無かったが。
おっ、だがマダコがある。冬が旬だからね。
渋いモン買ってんじゃん。
ライダーに背負われながら、ぼくは指示を飛ばして、たまに腕を伸ばして手伝ってやる。(アシュラマンみたいだ)
料理というのは包丁さばきだとかフライパンをひっくり返しまくるだとか、そんなんだけじゃあない。
キチンと材料を揃え、ちゃ〜んと下ごしらえし、茹で時間とかの時間をキチッと守ってやれば、それだけでウマイ料理は作れるのだ。
なので、正確な指示を飛ばしたこのぼく!が…MVPであり、料理長なのだよ。
そんなワケで、作ったのがこちら。
前菜:カプレーゼ*1
主食:プッタネスカ*2
主菜:タコのトマトソース煮
食後酒(藤村限定):グラッパ*3
食らえッ!これが『イタリアン』だッ!!
「ゥンまああ~いっ!」
うっせぇぞ藤村ァ!!
◆
「慎二クンの『イタリアン』食べたお陰で、頭の中に名曲が降ってきたァッ!!どう?聴きたい?」
ラリってんの?
「…ライダー……なんでこんな度数高いの藤ねぇに呑ませたんだよ……デキあがってんじゃないか」
「聴きたいの?聴きたくないの?二度と歌ってあげないんだからねッ!」
めんどくせェ〜〜〜〜〜〜〜〜
「………じゃあ、聴きたいです」
この、馬鹿ッ!
なに余計な事言ってんだよッ!
妹じゃあなければ、手ェ出る所だったッ!
「なんでさなんでさッ!ななななんでさッ!YO!YOッ!作詞作曲:藤村大河、売れる売れ売れ売れるYOッ!」
おい、どうすんだよコレ。
「藤ねぇ……それなんだよ…?」
「士郎のテーマ…!」
キリッじゃあないんだよ。
「「なんでさなんでさッ!ななななんでさッ!」」
!?!?!?
「あっ…ヤバイ!スゴクいいッ!激ヤバかもしれないッ!傑作っていうのかな…ネアポリスなら大ヒット間違いねーかも!」
「マジすかライダーさん!実はひそかにそう思ってたんすよォ〜〜〜譜面にできます?」
待て、今ぼくは恐ろしい事実に気づいてしまった。
藤村がラリってんのはスゲーよくわかる。
あのグラッパってのは、度数が高いからな。
だがあのカスソングを…即興でデュエットしていたライダーは……
つまり……これは、つまりだ………ッ!
て、天然すぎる…………
そしてセンスが死んでる。イッちゃってるよ。
哀れすぎて何も言えねー……
「衛宮、なんとかしろ」
「なんでさ」
「チェケラッ!」
「Check it outッ!」
うっせぇぞ藤村ァッ!!あとライダァァァッ!!