Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#18 ミッドナイト その②

『ぼくは夜と踊るだろう』

 

確かそういう意味だったと思う。

CDショップで買った『T.レックス』のアルバム。

そのベストアルバムに収録された曲の一節。

大ヒットした曲の、次の曲の一節。

 

『ぼくは夜と踊るだろう』

何度も繰り返される、その一節。

何故かふと、思い出した。

 

目の前には、柳洞寺。

山門に至る階段が長いので、ライダーに背負ってもらうことにした。

周囲に目を配りながら、一歩ずつ昇っていく。

生温かい風が吹いて気持ち悪い。

ほんの一瞬、セイバーが弾かれたようにあらぬ方向を観たが、結局何もなかったらしく、かぶりを振った。

 

「セイバー…?」

 

「いえ、私の気のせいでしょう。カタナらしき物が見えた気がしましたが、何処にもない……境内に向かいましょう」

 

ホントは『疲れてんじゃあない?』とか軽口を叩きたかったが、彼女はあんまりにも真剣な感じなんで、やめといた。

 

そんな訳で境内に侵入したが、やはり静かだ。

風が強くなってきた。影も深い。

月明かりだけでは、やはり心許ない。

正直、異常だ。

仮にキャスターが此処を根城にしていなかったとしても、ここまで静かなんてありえない。

見解が一致していたようだったんで、共に寺の中に侵入する。

 

寺の人間は、その全てが眠っていた。

寝返り一つうたない。

触るどころか抱き上げようとしたって反応がない。

それは冬のナマズみたいにグッスリおねんねってワケじゃあなく、無理やり睡眠薬をブッ込まれたような……言い表すのも難しいが、正常な睡眠とは言えないようなものだった。

 

その中の1人に、あの気に食わないクラスメイト。

クソッタレ一成が赤ちゃんみたいに熟睡している。

別に怒りが湧いてくるワケじゃあない。

魔術師ってのは、所詮は俗世から離れた外道。

こーいう事して、一般人を食い物にするヤツだって、中にはいるだろうよ。

だが、少し胸糞悪くなった。

 

これは個人的な考えだが…

『吐き気を催す邪悪』とは……

何も知らぬ無知なる者を利用すること…

なのだと思う。

 

「えげつねーなァ、一般ピーポー相手によォ」

 

魔術と関わり合いのなかったライダーさえ、これが『良くない事』と感じとれている。

一刻も早く『原因』をブチのめさないと……

仏陀(ブッダ)になりたい連中相手にヘンな言い回しだが)

このまま衰弱して『お陀仏』だ。

 

何かに勘付いたセイバーが、奥の本堂を睨む。

呑気に会話している場合じゃあない。

目だけ合わせて頷き合い、盗人よろしく踏み入らせてもらう。

 

途端、目についたのは、死体。

胸を何かで貫かれ、大量の血を流した男が、既に…其処でくたばってやがった。

 

そして傍には、気色悪りぃ短刀を持った…英霊(サーヴァント)

 

フードが付いた紫のローブを身に纏っているが、殆ど返り血で染められている。

見た目から推測するに『魔術師(キャスター)』だろう。

杖ではなく短刀を持っているのが気になるが、もしコイツが暗殺者(アサシン)の英霊なら、牛みたいにボケッとせずに闇の中にドロンしているだろう。

 

「キャスター……!」

 

「だめだ、待てセイバー…!」

 

静かにブチ切れながら、飛び掛かろうとしているセイバーを、衛宮が止める。

思ったより冷静な判断だと感心してしまった。

いつだって様子見が最善手、なんて宣うつもりはサラサラないが、あの短刀のヤバさは、ほぼ門外漢のぼくでも分かる…!

 

「アレは魔術破りだ…!…英霊(サーヴァント)との契約だって断てるかもしれない程の…!」

 

「では…キャスター貴様…主を手にかけたな!」

 

怒号と共にセイバーが斬りかかる。

キャスターは後方に跳躍して躱そうとするも…

 

ギャルギャルギャルッ

 

はい残念賞。

回転する鉄球が、無防備な姿に直進する。

幽鬼の様な顔が驚愕に歪む。

土手っ腹に鉄球が叩き込まれ、一拍した後、撃ち落とされたキャスターが、力なく膝を突く。

ローブには螺旋状の皺。苦痛に染まる貌。

魔女は静かに呟く。

 

「そう、止めを刺しに来たというわけね…」

 

「黙れ。主を裏切った者の言葉など聞きたくもない……自らの行いを恥じ、ここで裁かれるがいい」

 

紫炎の如き閃光が迸る。

放たれた数発は、しかし対魔力の高いセイバーの鎧に阻まれる。

歩みを止めることなく肉薄し、風を纏う一太刀で…

音さえ置き去りにして、袈裟斬りを放つ…!

 

グッパオォォンッ!!

 

肉を斬り骨を断つ音が響く。

遅れて鮮血が舞う。

ぼくたちやライダーの助太刀さえ無用だった。

圧倒的な戦闘力。一方的な戦い。

数分どころか、数秒の決着。

 

妙だ………呆気なさすぎる……

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()

やはり、何か嫌な予感がする。

 

「………ふ、ふふ……私が……裏切った…?」

 

……………微かに聞こえる嘲笑の声。

果たしてそれは何に対しての嘲りなのか。

キャスターが消滅した今、真実は真夜中の闇に消えてしまった。

 

「キャスターは倒しました。シロウ、指示を」

 

無感情に指示を仰ぐセイバー。

衛宮は、監督役の胡散臭え神父に連絡した後、撤退する判断を下した。

それは間違いないと思うし、実際、じゃあここで何を調べるんですかって聞かれても、何も思いつかない。

だが、やはり妙だ。

……用心しよう。

 

「これはオレの父上からの受け売りなんだが…」

 

急にどうした?って思ったら、ぼくじゃあなく、暗い顔をした衛宮に話しかけていたらしい。

 

「『感傷』というのは、おまえさんの未来を永遠に惨めなものにしかねない……らしいぜ」

 

「ライダー……でも俺は、ただこの戦いに『納得』したいだけなんだ……こんな……当然のように惨い死に方が罷り通るような……そんな戦いに」

 

「そうゆう事なら、そうゆう事でいい……『納得』は、全てに優先する…それを忘れなければ、な」

 

それだけ言って、また黙った。

月光の下、帰り道を無言で辿る。

参加者が1人減った。

あっけなく誰かが死んだ。

そんなことは、どうでもいい。

不思議と動揺がない。

いつもより身体が軽い気がする。

 

最も、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……もうサッサと寝ちまおう。

武家屋敷まで戻ってきた。

そして用意してもらった部屋に帰ると、ポツンと、ちょっと小汚い車椅子が置いてあった。

一体、誰が用意したのだろうか。

だが、これのおかげで小便に行ける。

緊急時なら兎も角、普段の生活まで、リュックサックみたいに背負われるなんてゴメンだ。

 

 

 

 

1998年12月25日。クリスマス。

雪が降り積もり、冷たい風が肌を刺す。

そんな日にも関わらず、路上にはどこか浮かれたヤツらばかり。

ヘラヘラと、幸せそうに。

 

ぼくは、そこら辺のナンパ道路や仲よしクラブで、大口を叩く負け犬共が嫌いだ。

1人じゃあ何にもできないハトの群れみたいな、気取り屋のカス共が嫌いだ。

 

だから1人で、車椅子を漕いでいる。

 

愛飲している茶葉が切れたから、わざわざスーパーまで向かっている。

なんか妹が押して行くって駄々を捏ねていたが、突っぱねてやった。

別に気を遣ってやったとか、そんなんじゃあない。

でも、それならどうして…独りで……

いや、どうでもいいことだ。

それに、あんなの(妹)に甲斐甲斐しく介護されるなんて、ぼくの気高い誇り(プライド)が許さない。

 

そう…………

退院してから、妹がいつも以上に纏わりついてくるようになった。

出来もしない飯の練習し始めたり、ベタベタ勝手に車椅子押してきたり、挙げ句の果てに口を開けば、

『アレができなくてごめんなさい』

『コレができなくてごめんなさい』

『気が利かなくてごめんなさい』

大体二言目にはこのどれかだ。

もうウンザリだった。

 

惨めな気分だった。

ウザったかった。

放っておいて欲しかった。

憐れまないで欲しかった。

 

ある日、ほんの一瞬だけ、手が出そうになった。

衝動的に胸ぐらを掴んだ事があった。

桜は無抵抗だった。

やろうと思えば、ブン殴れたかもしれない。

 

本当は………

「なんだァーッ!?その目はァァァァッ!?」って叫び散らかしてやりたかった。

「ナメてんじゃあねェーーーッ!!」って叫びたい衝動に駆られていた。

だが、どうしても出来なかった。

 

「兄さん、いいですよ…?」

 

無抵抗に、微笑みながら、そんな事を言われた。

 

プッツンと音がして、手を振り上げて、それから、それから……思いっきり自分の膝を殴って、桜が狼狽して、それを振り切るように、全力で車輪を漕いで、転がり込むように自室に逃げて、鍵を閉めて、ノックを無視して、意味もなく…痛みすら感じない自分の脚を殴りまくった。

 

何故だろうか…?

どうしても、桜を殴れなかった。

どうしても、桜に当たれなかった。

どうしても、桜にできなかった。

度々考えても、やっぱり分からないまま。

いつだって、ぼんやりと考えている気がする。

 

「あっ……っ!?……慎二っ!」

 

遠くから、何か聴こえてきた。

暑苦しい声。

騒がしい足音。

声の方を見れば、いつもの仏頂面……じゃあなく、汗かいて心配そーなツラ。

 

「そういう君は、衛宮士郎」

 

「お前……入院したって聞いてたけど……まさか、そんな……」

 

たまげているのも当然だろう。

桜が病室に来てからすぐ親族以外、面会謝絶した。

どーせ桜以外誰も来ねえので、わざわざ親族以外、なんて言わなくてもよかったのかもしれない。

リハビリ含めて3ヶ月くらいの入院。

途中でコイツの存在を思い出した。

が、めんどくさくなって、忘れることにした。

 

そんな訳で、今ツケが来た。

 

何て言われるのだろうか?

同情の言葉?慰めの言葉?

どれもゴメンなんですけど。

 

「………………………………」

 

ササッとどっかに行ったかと思えば、ぼくが勝手に前に進んでいく。

人影が陽の光を遮って、目の前が少しだけ見やすくなった。

いつもより、ほんのちょっぴりだけ、景色が早く流れていく。

 

「スーパー」

 

「わかった」

 

それからは、無言だった。

衛宮は何も言わなかった。

なぜクリスマスに1人で外に出てるのか。

なぜ車椅子を押してくれるのか。

なぜ何も言わないのか。

 

なぜ、ぼくを助けてくれるのか。

 

今は、どうでもよかった。

 

『ありがとう』と言うつもりはない。

『ごめん』なんて死んでも言うものか。

 

だが……………………

 

何故か冬の風が、少しだけ暖かく思えた。

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