Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
2月5日。
朝起きて、車椅子に乗って便所に行き、テレビで朝のニュースとか見ながら、桜が淹れてくれたお茶を飲む。
ちなみに藤村とライダーは、2人仲良く赤ペンで何かを書き足しながら、あーだのこーだの言いながら、競馬新聞を読んでいる。←何してんの?
だが衛宮はまだ起きてこない。
いつもは健康ジジイ並に早起きだそうだが、今日は珍しく寝坊というわけか。
なんて思っていると、セイバーが居間に来て、こう言い放った。
「シロウの体調が優れません、恐らく風邪かと」
おったまげ。
馬鹿は風邪をひかないというのはデマらしい。
そんな訳でゾロゾロ大所帯で寝室まで向かうと、梅干しみたいに真っ赤なタコ野郎が布団に寝っ転がっていた。
熱は37.6℃……風邪だな。
昨日、キャスターと交戦した影響なのか…?
なんて一人で色々考えていたら、いつの間にか話が変な方向に転がっている。
「ふっふーん。もしかして士郎、桜ちゃんの風邪が移るような真似しちゃったの?」
「!?」
なんだとおおオォ〜ッ!?
ぼくの妹、間桐桜はまだ16だぞオォォ……
この野郎ォオオオ〜〜〜〜………
まだ付き合ってもない癖に、もうヤッちまいやがったってんのかァ!?
もしそうだとしたら……
「ばばばばばばば、バカッ!き、昨日は熱計って薬出しただけだっ……!冗談でもそうゆうの禁止だ藤ねぇッ!!泊まってくれた桜に失礼だしっ!……そ、それに……」
何こっち見てんの?轢き殺すぞ。車椅子で。
「こいつ…俺を殺る気だ…『マジ』だ……!」
「も、もうっ!いい加減にしてくださいっ!」
……ハッ!…フ〜〜〜〜〜〜……危ない危ない。
危うく妹の名誉と魂の安寧の為に『針串刺しの刑』にする所だった。
それにしても、覚悟していたとはいえ………
ツレが妹とイイカンジなのって、しんど〜〜〜〜
気まずいっていうか、ダルいっていうか………
アラアラアラ、何?お粥作った?んで看病する?
なんだよ……ご結婚すンのか?
このままじゃあ、衛宮が……
『間桐慎二の妹の夫』になってしまうぞッ……
クソッ!なんかイヤな響きだッ!
「あっ、慎二クン、今日はサボらないで……ね♡」
先生、キツイっす。
「あははははははは、そうだっ!今日は一緒に学校行こっかッ!!朝から教室でのんびり読書なんてイイッて思わない?思うよね?んじゃレッツゴーーーーッ!!」
うおォッ!?車椅子が爆速にィ!?
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ。
ぼくは衛宮ハウスで風邪引いたマヌケを見下ろしてたと思ったら、いつの間にか学校の教室にブチ込まれていた。
魔術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ……
もっと恐ろしい冬木の虎の片鱗を味わったぜ……
◆
グチュリ、という音が聴こえた。
水気を帯びた塊が弾けるような音。
湿り気のあるモノが破裂する音。
「………む…?……これは……」
それは、間桐臓硯の分身の一匹、出来損ないの孫に植え付けた蟲が奏でた最後の音であった。
『それ』自体に大した機能はない。
盗聴や覗き見などは出来ないし、せいぜい肉を魔力を変換し生成するだけの外付けの
だが、間桐臓硯から産み落とされたモノであるだけに、存在しているかどうか分かる程度には、
『
「……今更、命が惜しくなったか……?」
などと嘯いてみるが、それはなかろう、と自問自答する。
間桐臓硯は回想する。
己が孫、間桐慎二について。
この世に生を受けてから、およそ500年。
産まれ落ちる子孫たちは、決して間桐臓硯を超える事が出来ず、それどころか路傍の三流魔術師と同程度の素質しか持たなかった。
そして、数本の魔術回路しか宿さなかった出来損ない、間桐鶴野の息子にして、とうとう『名残り』のみ残して凡俗となった『期待外れ』の孫が産まれた。
我が一族もここまで堕ちたか、と血族の凡ゆる全てに失望する原因となった『出涸らし』……
それが、間桐慎二である。
もはやそれがどの様な生涯を送るかさえ、興味が持てなかった臓硯は、それが
そんな事よりも、遠坂家からの養子として引き取った間桐桜を改造し、ついでに愉悦の為に拷問し、優秀な母胎として『作り直す』ことの方がよっぽど関心があった。
しかし、桜が絶望の鎧で心を閉ざし全てを諦める頃、臓硯は『とある計画』を思いついた。
慎二の奴に『魔術』の存在を教え、傾倒させ、しかしそれはどう足掻いても手に入れられないモノなのだ、と思い知らせてやることで、肉体ではなく心を甚振ってやろう……と。
幼い頃から何かと要領が良く、そして何かに熱中したことのない幼子にとって、『魔術』という『特権』は、さぞ魅力的に見えるだろう。
たまには道化の踊りを観るのも悪くない……留学から帰ってくれば、それとなく魔術本などを目につく所にでも置いてやろう、と思いついた。
しかし、慎二は臓硯の予想を裏切り、既に『乗馬』という競技に熱中していた。
洋館から出る前の、日々をつまらなさそうに見つめる冷めた目つきは、希望と決意に満ちた眼に生まれ変わり、その心には爽やかな風が吹いていた。
そして『傲慢さ』はいつの間にか『誇り』へと昇華され、他人を羨まず、周囲の甘言にも惑うことなく邁進する…そんな情熱を内に秘めるようになった。
唐突に現れた義妹に対しても、不器用ながらも『兄』をしているようであったし、一緒に出かけることもあったようだ。
てっきり自分のように苛めるか無関心を貫くのどちらかと思っていたのに………
虫唾が走る、とは……まさにこの事か。
肉体は腐り、魂も腐り、未来に希望などなく、ただ迫り来る『終わり』を僅かでも遠ざける為に苦しむだけの毎日。
そんな日々を過ごす自分から生まれた分際で、『夢』だの『家族』だの……なんとくだらないことか。
思えば、あの落伍者……雁夜もそうだった。
穢れた血族の一員の癖に、英雄的自己犠牲で己に酔う気色の悪い息子。
桜の為と言いながらも、遠坂の倅に対する復讐心を捨てきれず、結局は迷走するままに蟲の餌となった愚か者。
こんな間桐の一族なんぞに、『夢』だの『正義』だの……烏滸がましいにも程がある。
所詮、蟲から産まれた『この世のカス』……それが英雄気取りとは嗤わせる。
苛立ちが募り、嗜虐心が蛆が如く湧いてくる。
兄ができてからというもの、桜の目に少しだけ光が宿ってきた。
その理由は…この家で唯一『家族』と呼べる存在が出来たから、であろう。
ならば、その『家族』を自らの手で壊してしまえば、桜は何を思うのだろう……?
桜は謂わば『間桐』の『被害者』であり、それ故に自らの精神を護る事が出来た、と予想している。
だが『加害者』となってしまえば……?
それも唯一『家族』と呼べる存在に対して……
それは好奇心であり、同時に八つ当たりであった。
そうして……悪辣な計画は実行された。
結果として慎二は脚を失い、桜は監視対象である…衛宮の倅に依存するようになった。
だが、ここで更なる誤算……慎二が雁夜のように…肉体を改造する事で聖杯戦争のマスターになると言い出した。
まず、何処で聖杯戦争について知ったのか……いつから書斎を漁っていたのか……など色々聞きたくなったが、彼奴が編み出した『魔術回路の生成方法』は、時計塔の論文として発表できるくらいには上出来であり、死亡するリスクこそあったが、妙に強い悪運を発揮してか……見事凡俗から三流魔術師に自力で『先祖返り』した。
まさに棚から牡丹餅………本腰を入れるのは桜が子を産んでから……と静観するつもりであったが、万一にでも聖杯が手に入るのであれば、それに越したことはない。
故に……間桐臓硯は闇の中で暗躍する。
出来の悪い愛しい孫の為に。
そして、妄執の果ての野望の為に。