Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
妙な気配だ。
今朝、朝練をしていた陸上部の奴が、走っている途中で転んだかなんかで、ケガをしたらしい。
原因は寝不足らしいが、どうも…きな臭い。
それだけじゃあなく他の部活の連中も倒れるヤツらが出ているようで、その数は十人を超えたらしい。
朝のHRでは藤村が『朝練の禁止』を言い渡し、職員室に帰って行った。
いつもの呑気な表情が鳴りを潜めた…どこか神妙な顔つきで。
教室を見れば、チラホラ欠席者がいる。
そして当然、一成も欠席だ。
人が少ないせいか…どこか暗い雰囲気のまま授業が進み、昼休みになった。
教室から出て、購買で適当にサンドイッチを買ってから、車椅子をキコキコ漕いでいると、能面みたいに無表情な遠坂と鉢合わせた。
気楽に挨拶するような間柄じゃあないので、会釈もせずにすれ違おうとすると、超スピードで腕を掴まれ、無理やり紙切れ一枚を握らされた。
『放課後に屋上』
普通ならカツアゲされるとしか思えない文章だが、流石にこれが何を意味するかは分かる。
しかし、いくらなんでも渡し方が雑すぎるだろ……正直ブン殴られるかと思った。
イライラしながら授業を聞き流していると、あっという間に放課後になった。
約束通り屋上に向かうと、貯水タンクの陰で遠坂が座っていた。
相変わらず無表情……いや、少しイラついていて、普段の愛想を振り撒いている優等生の化けの皮が、どっかに行っちまったようだ。
「ごきげんよう、間桐クン……挨拶はこのくらいにして要件だけ言うわ」
「…………」
急だな。そして強張っている。
「昨日、何があったか教えて貰えるかしら?」
「………『NO』だと言ったら…?」
「その時は『
顔が『マジ』だ。
女子高生のクセに、ぼくを始末しようとしている。
ウソは言っていない気迫と雰囲気だ。
『スゴ味』があるッ!
やはり魔術師はクサレ脳ミソばかりだ。
「………フンッ…いいぜ……もし登校してきたのが衛宮だったのなら、アンタにゲロってただろうし」
というわけで、昨日の出来事…… 柳洞寺に攻め込み、血塗れのキャスターと、既に死体となった…そのマスターを発見し、衛宮のセイバーが余裕で瞬殺した事、衛宮は戦いの影響でグロッキーになって学校を休んでいる事などを、要約して話した。
当然だが、この『
1
恐らく遠坂なら、ちょっとでも本気を出せば、ぼくの左腕がなんかヘンだとバレるだろうし……
そうなったら対抗できないレベルの暗示とかをかけられるかもしれない。
いや、霊体化しているライダーが側にいるし、多分それくらい感知されているから、そんな迂闊なコトはしないだろうが………
話を聞いた遠坂は、難しい顔をして何やら考え込んでいる。
「だとしたら、やはり妙ね…キャスターが倒されたのなら柳洞寺から漂ってくる魔力の流れは消失する筈だし、そもそも間桐クンたちが戦っている時間帯に、新都で『魂喰い』が発生していたのよ…」
そんなバカな…!って言えないんだな、これが。
やはり妙だと思ったのは気のせいじゃあなかった。
「あのキャスターは、ブッ殺される前にゴチャゴチャなんか言ってた……たぶんだけど、裏で『誰か』が動いている」
「同感。大方…最後の1騎の仕業とかでしょうね」
む、確かに。
今の所、出揃っている
衛宮:セイバー
ぼく:ライダー
イリヤスフィール:バーサーカー
遠坂:不明(教えてもらってない)
死んだヤツ:キャスター
不明:ランサー
あと1騎足りない。
判明していないのは、アーチャーとアサシンのみ。
そして遠坂は、暗殺なんてチマチマするのは性に合わないだろうから。
「遠坂の英霊、アーチャーだろ?」
「ま、バレるわよね……ライダーのマスターさん」
となると、残りの1騎はアサシンでほぼ確定。
一応、『第三次』の時みたいに不正してるヤツが居たら話は別だろうが、今のところコソコソと姿を隠しているようだし、十中八九アサシンだろうね。
「たぶん『魂喰い』してるのはキャスター以外にも、(推定)アサシンがやってたんでしょうね」
「治安が悪すぎない?昔のイタリアかよ」
「でも逆に言えばアサシンさえ倒せば、後は真っ当な参加者しかいないわけだから……アインツベルンが残ってるけど」
ハァ〜……マジであの反則肉ダルマどうしよォ〜
一応
それは遠坂も同じみたいなようで、ぼくとため息つくタイミングが見事にシンクロした。
「とりあえず休戦は続行で、対バーサーカー戦の時だけは三陣営で袋にしましょう」
圧倒的に格上相手との情報交換会が無事終わった。
「話はこれで終わり?じゃ、帰るわ」
「ちょっと待って」
……………………ヤバイか?
お、落ち着け……仮に『左腕』がヘンってバレても、まだまだ切り抜けられる。
一番ヤバイのは、これが『誰の左腕』かがバレることだ。
「………え、と……桜……の事だけど…」
「あぁ、なるほどね……ハンッ…アイツなら衛宮ん家でよろしくやってるよ……」
チ!ビビらせやがって!
あ、危なかった……
早とちりして墓穴掘ったら終わる所だった………
「………戦いに巻き込んでないでしょうね?」
オイ。
オイオイオイ。
なんか……マズイぞ……ッ…!
スゴ味が増してきているッ……
クソッ……この………
だからって、この殺気にビビってたまるか……!
「
「……………………………………それもそう、ね」
クソ長い沈黙の後、遠坂はたった一言それだけ呟いて、踵を返して帰って行った。
そこにどんな意味が込められているのか、そんなことはどうでもいい。
ただまぁ、1つ言わせてもらうなら………
…………マジなめるなよ。
◆
ひたひたと散歩する
ゆらゆらの頭は空っぽで
きちきちした目的なんてうわのそら
ブルブルと震えてゴーゴー
からからの手足は紙風船みたいに
ころころ地面を転がっている
影法師が歩き出す。
ヒタヒタと、水音を立てて。
くうくうお腹がすきました
くうくうお腹がすきました
くうくうお腹がすきました
ごうごう、ごうごう、ごうごう
影法師が歩き出す。
ピチャピチャと、雨粒が跳ねるように。
キレイなキレイなペンダント
おっこちていた、ペンダント
わたしのモノにしてしまおう
まるで、矢みたいなペンダント
わたしのモノにしてしまおう
矢はすきです
あの人みたいに真っすぐ飛ぶから
矢はすきです
ピカピカのモノなら尚更すきです
影法師が嗤っている。
街の光が消える頃、ソレはカラカラと嗤っている。
影法師が笑っている。
夜の帷が降りる頃、ソレは無邪気に笑っている。
誰もいない公園で、子どもの様にはしゃいでいる。
一体、誰が置いたのか……?
そこには『金色の矢じり』があった。
ソレにはハートが描かれていた。
ソレにはカブトムシの意匠があった。
影法師がソレを手に取ると、ズブズブと音を立てて、真っ黒な闇の中に『めり
一拍置いてから、影法師がブルブルと震えだす。
苦しそうな……荒い息遣い。
苦しそうに……身体を抱いて。
やがて、ソレは完全に呑み込まれた。
名前のない怪物が、夜の街を歩いていく。
今夜、虫を潰した
悲しい気持ちになりました
でも……だいじょうぶ
こんなにキレイなものを拾ったのだから
影法師が、愉快に笑う。
ソレは、名前のない怪物。