Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#21 ブレイク・マイ・ハート その①

無人の街並み。

光の届かない路地裏。

そこで1人の男が歩いている。

光無き瞳は揺れることなく……フラフラと幽鬼の様に歩みを進める。

男には『暗示』がかけられている。

暗示の内容は………

『この矢を間桐邸に届けること』

男に意思はなく、意識もない。

それはただ命じられた内容を遂行するための人形であり、道具と変わらない。

 

間桐臓硯は、日本だけでなく……海外の霊地もいくつか保有しており、それなりに他の魔術師とも交流がある。

数日前、エジプト(カイロ)に住む魔術師である『エンヤ・ガイル』から、奇妙な『魔術礼装(ミスティックコード)』を買い取った。

それは、例えるなら『黄金の矢』………

魔力に似た………しかし、()()()()()()()()()()()を秘めており、何かしらの『限定機能』があると確信させるほどの代物。

 

取引先の『エンヤ』は、この『矢』に対する関心があまりなく、そして金銭に苦慮しているようだったので、臓硯との売買に応じた。

 

ただ、彼女は慎重なタチだったので、直接来日せずに強めに暗示をかけたそこら辺の一般人に持たせて、日本に送り出した。

かつては時計塔を次席で卒業した腕前によって、日本の空港を易々と通り過ぎ……

そして、冬木市にまで『配達屋(ポストマン)』が到達した。

 

駅前ロータリーを千鳥足で歩く男。

側から見れば酔っ払いにしか見えないだろう。

それにしては、あまりにも迷いなく道を進むので、周りから見れば少しばかり奇妙に感じるかもしれない。

だが、そんな心配はない。

何処にも人はいないのだから。

終電がなくなった深夜とはいえ、それなりに多いはずの人影はなく。

建物に灯りも点いていない。

 

念の為に使い魔の一匹のカラスと視界を共有していた『エンヤ』は、だんだん焦ってきた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()………

 

そう直感し……ハッ、と気がついた瞬間……!

エンヤはすぐに()()()()()()

彼女は止まらない冷や汗を拭うことさえできず、たまらずその場にへたり込む。

 

切断する直前に、一瞬だけ見えた『影法師』

アレは理解できないモノ。

並びに理解してはいけないモノ。

 

数刻の後、研究資料や物資を息子…『J・ガイル』と共に纏め、工房を丸々放棄した『ガイル一家』は、インド(カルカッタ)に高跳びした。

ちなみに、この際に間桐臓硯の電話番号なども一緒に処分したらしい。

 

 

 

 

放課後の遠坂との情報交換も無事に終わり、衛宮ん家まで帰ってきた。

今日の晩飯はなんだろか、なんて呑気に考えていたら、台所の方で何かが割れる音がした。

覗き込んでみると、熱に浮かされた顔をした桜が、衛宮に抱き抱えられている。

一瞬クールに去ろうと思ったが、どうやら様子がおかしい。

目は虚ろで、頬は上気し、意識はトンでいるみたいで、悪夢でも見ているように魘されている。

 

やはり………

ここ最近の桜は体調を崩し過ぎている。

 

つまり……()()()()()()()()()()

 

離れにまで桜を運んだ衛宮が、神妙な顔で居間に戻ってくる。

表情が強張っていて、口を開いたかと思えば口を金魚みたいにパクパクさせている。

 

「………慎二、聞きたいことがある」

 

やっと口火を切ったが、声が震えている。

当然だろう、お前のイヤな予感は当たっている。

 

「学校の帰り道、病院でいくつか縫合糸とかメスとかパクってきた…そしてライダー……桜を頼む」

 

「……………」

 

黙ったまんま鞄を受け取ったライダーが、離れに消えていく。

『医療』スキルがある以上、失敗はしないだろう。

しばらく沈黙が居間を包む。

衛宮もセイバーも硬くなっちまっている。

ここから話す内容は、桜が墓場まで持っていきたかった『秘密』なんだろうが…ここで黙っていられる程シスコンじゃあないんだ……ぼくはな。

 

「さて………何から話したもんかな」

 

なんて前置きは、ほどほどにして……

ぼくは語る。

間桐の業について…………

 

まず、間桐臓硯について語ろう………

間桐家の現当主にして、500年も生きてる妖物。

それは生き血を啜る吸血虫で、ただ生きることに固執する虫未満の畜生。

ヤツの目的はただ一つ……『不死』になること。

だから聖杯を手に入れようとしている。

なんで『不死』になりたいのか、とか……『不死』になってなにをしたいのか、なんて知らないしどうでもいいが……とにかくヤツは聖杯を獲得する為なら何でもするだろう。

当初の予定では、今回の聖杯戦争では本格的に動くつもりはなかったらしいが、ぼくが参戦したことで本腰入れるつもりになったらしい。

だからって、ぼくを恨むなよ?

ぼくが参加しなきゃマスターになっていたのは桜だったワケだからな。

 

「なっ……く…ッ…!」

 

「シロウ」

 

「ッ………わかってる……慎二、続けてくれ」

 

ハンッ………いちいちキレてんなよ。ボケが。

話を戻すが……あのクソジジイは、蟲を使い魔にして操ることに長けている。

恐らく桜が苦しんでいるのは、体内に仕込まれた『刻印蟲』のせいだろう。

それが精気を吸い取っているから、桜は魔術を行使出来ないでいる。

たぶん逃げ出さない為の楔みたいな役割だろうね。

それともう一つ、桜を使ってとっくに枯れた間桐の血を再興させる為に、現在進行形で身体を作り替えているんだ。

あのジジイにとって、最適な胎盤にするためにな。

 

もし、ぼくに参加する気がなかった場合……

きっと『大穴狙い』で桜をマスターにして無理そうだったら早々に撤退させるつもりだったのだろう。

そして、次の聖杯戦争で『本命』の桜の子どもに、手持ちを全ツッパして聖杯をブン取る……って計画(プラン)だったんだろうな。

 

尤も……ぼくが参加したことで修正する必要が生まれたワケだがね。

 

「慎二……間桐の血は枯れたって言っていたが、ならどうしてお前がマスターになれたんだ…?」

 

チ!……オマエ、普段は頭脳がマヌケなのに、たまにビックリするほど鋭いんだな。

ああ!そうだよ!お前の言う通り、血が枯れたぼくには元々魔術回路なんてなかった。

だから、体内に蟲を()()()()()……必死こいて魔術回路を()()()んだよ。

定石(セオリー)から外れまくった外法中の外法を用いてね。

だから、ぼくは直に死ぬだろうし、ヘタすれば明日にでもポックリくたばっているかもね。

 

「………………」

 

だが桜は別だ。

幸い、ライダーには『医療』スキルがあるから、桜の体内の蟲はある程度摘出できる。

多少時間は稼げるだろう。

だが、それも時間の問題だ。

どうせイジったり出来ない根っこの奥深くまで蟲を仕込んでいるだろうし、一度摘出すれば必ずクソジジイは気付くだろう。

 

()()()()()()()()()()

 

どうにかしてこの戦争をサッサと片付けて、奪われる前にソッコー聖杯を使う必要がある。

願いは勿論……『間桐臓硯の消滅』…これ一択だ。

桜を救う道は今の所これしかない。

 

「ちょっと待て、だったら慎二もライダーに体内の蟲を摘出してもらえば…」

 

そんなことをすれば、()()()()()()()()()()()

そもそも、自力で魔力を生成できないから、体内に蟲を入れたんだ。

じゃあないと英霊(サーヴァント)の召喚と維持が出来なかった。

要するに穴の開いたバケツに、水道水を注ぎ込んでいる状態なワケだから、蛇口を捻るとバケツの水は全部外に流れる。

そうなると、後は魔力ではなくシンプルに精気を吸われることになる。

後は、そのままジ・エンドだ。命がな。

 

「私にも、願いがありました。それが叶うのなら、時に誇りすら捨てる覚悟さえありました…ですが、家族のために…妹のために命すら燃やす者を見殺しにしてまで…願いを叶えたいとは思いません…」

 

セイバー……アンタがそこまで言うなんて、正直…意外だったな。

 

「シロウが許すのなら、件の外道…間桐臓硯の討伐に協力させて頂きたい…もしかすると『聖杯』を用いなくても何かしらの手段があるのかもしれない」

 

「勿論だ……絶対に後悔させてやる……!」

 

フンッ……単純な力押しでブッ殺せるほどカンタンな話じゃあないだろうけど……協力してくれるってんなら、素直にありがたいね。

もし、『願い』を用いなくてもイイってんなら、『聖杯』なんざ喜んでくれてやるよ。

 

話はこれで終わりだ。

 

 

 

 

間桐慎二が真実を語っている頃……

騎兵(ライダー)…『ジャイロ・ツェペリ』は、間桐桜が眠る離れに来ていた。

鞄の中には病院から拝借した医療器具が入っており、離れのストーブの上には煮沸消毒用のお湯が、薬缶(ヤカン)の中になみなみ入っている。

 

彼女は少し魘されながらも、寝息を立てているようだったが、念の為……回転する鉄球を脊椎に押し当てられ、その意識を完全に手放した。

 

拝借した医療器具の中には、吸収性の縫合糸やメスだけでなく、失血死しないようにと輸血パックも用意されており、回転の技術と現代医療の力によって、魔道に侵された身体が次々と暴かれていく。

 

ジャイロは、思わず顔を顰めた。

 

()()()()()()()

 

身を捩って蠢く蟲が、神経と絡み合っている。

それはまるで交尾しているように。

こんなモノを体内に入れられるなんて、一体どれほどの苦痛なのか。

聞けば、彼女はまだ16歳……友人や恋人との青春を謳歌すべき年齢だ。

にも関わらず。こんな悍ましい…なんて惨い所業…

一体、彼女が何をしたのだろう…?

慎二(マスター)から話を聞いたが、こんな所業を受けるべき謂れなんてどこにも無かったはずだ。

いや、例えどんなに悍ましい罪を犯した罪人だったとしても、こんな人間の尊厳を踏み躙られるような事などあってはならない。

 

間桐臓硯は外道だ。外道の極みだ。

 

心が義憤の炎で燃え上がるほど、頭脳は冷静に冷えていく。

手先は機械のように、精密に動いていく。

桜は、ただの何処にでもいる女の子だった。

それが、()()()()()()()()()()()の姿と重なる。

だからこそ、ジャイロの手はブレない。

 

そうして、数十匹の蟲が摘出された。

どれも回転の力によって捩じ切られており、粘液を滲ませている。

それらをまとめて、中庭でマッチと灯油を使って燃やしながら、ジャイロはこう思った。

 

慎二(マスター)』は、きっと………

()()()()()()()()()()()()()()()()()

だから、オレが呼ばれたのだろう………

 

そして、火柱に水を掛けた。

気がつけば、夜が明けようとしていた。

昇る太陽に向けて、彼は少しの間だけ『祈った』…

この『旅』の無事を…………

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