Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

22 / 82
#22 ブレイク・マイ・ハート その②

2月6日。

目が覚めた。

身体の調子がイイ。

修行を始めてから、毎日毎日…身体中が痛くてしょうがなかったが、ここ数日は不思議と痛みがない。

これが所謂……

()()()()()()()()()()()()』ってヤツじゃあなければいいんだがな。

歯磨きして小便してから居間に行く。

今日は藤村はいないみたいで、セイバーは家政婦みたいにテーブルを拭いているし、ライダーは新聞を読んでいる。

桜はまだ起きていないようだ。

というか……しばらく起きてこないだろう。

昨日も高熱だったらしい。

 

衛宮が朝食を持ってきて、すぐに離れにお粥を持って行った。

なんとなく気まずい空気だ。

だからテレビを点けたが、やれガス会社があーだのどーだの、やれ不審死の多発がどーだの……

余計気まずいんですけど。

 

食べ終えた食器をセイバーが下げていく。

同時に衛宮も帰ってきたが、やはり表情は暗い。

 

そうして朝の支度が終わると、ぼくらは今日の予定を話し合った。

とりあえず学校はふける……これは確定。

夜まで自由時間ってワケだ。

衛宮はセイバーとチャンバラの稽古。

ぼくは只管に休養。

ライダーは町を散策するらしい。

 

真っ昼間にやることはそう多くないので、寝まくって体力を温存するのが安牌なんだが、衛宮は元気いっぱいワンパク野郎なので、燃え上がっちゃってるらしい。

昨日の桜の話のせいかも……単純なヤツだ。

 

朝風呂とかしちゃおうとしたが、その前に離れに行ってみた。

ドアを開けると、桜はベッドの上で上体だけ起こしてお粥を食べていた。

まだ若干…顔が紅潮しているが、昨日よりも大分マシみたいだ。

 

「……あっ、おはようございます…」

 

「おはよう、熱はもう下がったのかい…?」

 

「はい……先輩が、色々してくださったので…」

 

そうやって…はにかむ姿を見ると、心の中に何か込み上げてくるものがある。

 

3年前……『修行』が始まってから、こうやって面と向かって…マトモに話した事はなかった。

身体中に激痛が走る毎日で、学校に行けた事だって殆どない。

クソジジイの口利きで穂群原学園に入学はできたが、こんな身体になっちまった以上、卒業できる可能性は低いだろう……

 

だが、()()()()()()()()()()

 

こんなことは死んでも直接言ってはやらないが……

衛宮士郎は『信頼できる男』だ。

ぼくが死んだ後でも桜を守ってくれるだろう……

 

「兄さんは…その……怖くないんですか?」

 

「………?」

 

「だって……わたしは()()()()()だから……自分で死のうと考えるのは怖いんです……」

 

ああ、なるほど。

コイツ、バカだわ。

でも、ぼくも同じくらいバカかもね。

こーいうのって、直接言ってやらなくっちゃあ伝わらないもんなんだなぁ。

ま!…そりゃあそうか………

 

「自明の下では、見過ごされて良い事など()()()()()()()()んだよ……」

 

「えっ……?」

 

「ワケわかんねーか?……そりゃあそーだよなぁ…ぼくも当時…『ジョースター』さんに言われた時は『何言ってんの?』ってカンジだったし…」

 

なぜこの言葉を覚えているのか……

キッカケは、イギリスに留学中……近所のクソガキ共にアジア人差別された時だ。

目を細めるあの下品なポーズをされ、早口でスラングまみれの汚ねー英語をベラベラ浴びせられた。

その時はまだ拙い英語で言い返すことしか出来なかったし、その後はお互いにヒートアップして殴り合いのケンカにもなった。

そしてそのエピソードを晩飯の時にブチギレながら『ジョースター』さんに話したら、なんとビックリぼく以上にブチギレていた。

あの時はちょっと引いちゃったな。

だが直ぐに冷静になって、自明の下ではうんぬんかんぬんと言い出した。

『は?』って思ったし……

なんなら実は今でもピンときてないんだが……

 

要は、()()()()()()()()()()って事だ………って、そう勝手に思っている。

 

「え……えっと……」

 

「ぼくの心は…脚を失った時からゆっくりと死んでいくだけだった……でも、お前のお陰で()()()()()()()……ぼくの帰る場所になってくれた……」

 

「……………」

 

「今度は()()()()()……必ずお前を助けてやる……もう2度とクソジジイの言いなりにならなくていいように……()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「わたしに…そんな資格なんてありません……」

 

「『知るかバーカ』……ぼくはそれが『正しい』と思ったから、そーするんだ…お前の為なんかじゃあない……ぼく自身の『誇り』の為にやってるんだ」

 

フンッ…!…罰ゲームか?これはよォ〜〜〜!

なんでこんな…小っ恥ずかしい事シラフで言わなくっちゃあならないんだァ〜〜〜!

ちくしょォ〜〜〜!

こんなのぼくのキャラじゃあないぞ……クソッ…!

 

「…兄さんは、もし…わたしが悪い子……ッ………になったら……どうしますか……?」

 

ハァ〜〜〜〜〜〜?

なんだよ急に……

くだらない質問しやがって………

 

「その時は…こっぴどく叱ってやるよ…んでその後の事は、ぼくが何とかしてやる……あ!だが一緒に頭下げるなんて事は絶対しないからなッ!!」

 

「……ふふっ……兄さんらしい……」

 

フンッ……何笑ってんだよコイツ。

 

「もう二度とこんなくだらない質問するなよ………分かったらサッサと寝てろ…………じゃあな」

 

「はい………おやすみなさい…兄さん」

 

あーあ…

なんでこんなマヌケな妹持っちゃったかね〜〜〜

ま、いいや……だって、ぼくって紳士だから……

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そー思っちゃうんだからサ。

 

 

 

 

車椅子を漕ぐ音が遠ざかっていく。

 

()()()()()()()

 

日常の陽だまりが壊れていく音がする。

守りたかったモノが壊れていく音がする。

大切な何かが零れ落ちていく。

そんな気がする。

 

3年前の、とある日……

いつもの蟲蔵での『修練』の時間……

そこに突如入ってきた兄………

蟲の海の中のわたしと、目が合った。

どこまでも無表情だった。

まるで冷たい氷のような………

だが、その時確かに…………

瞳の中に『()()()()』を幻視した。

 

あの日から、蟲蔵での『修練』はなくなった。

代わりに兄が入れられていたのだろう。

日に日に窶れていく姿が痛々しかった。

逞しかった身体が次第に痩せ細っていって、頬がこけて、髪が痛んで、苦しそうな表情を常に浮かべるようになった。

 

()()()()()

 

そもそも、わたしは間桐の『跡取り』としてこの家の養子になった。

兄さんに魔術師としての資格がなかったから、代わりに、わたしが間桐の魔術を修めることになった。

なのになぜ今更………

もしかして、本当は兄さんに魔術師の資格があったのではないか…?

いや…だとすると、あの有様はおかしい。

あんな、自分で自分の命を燃やすような真似をすれば、魔術師として完成する前に死ぬのは明白だ。

どうして、どうしてこんなことに……

答えはお爺様が教えてくれた。

 

「慎二は聖杯戦争に参加するつもりなのだ」

 

聖杯戦争。

7人の魔術師(マスター)と、その英霊(サーヴァント)たちが殺し合う儀式。

勝ち残った者への報酬は、『願いを叶える大釜』

つまり……『聖杯』……

兄さんは()()()()()()()()()()()()()……お爺様に聖杯を捧げるために、外法中の外法を用いて魔術師になったらしい。

 

兄さんの目的………

それは()()()()()()()()()()()()()()()()

お爺様は『不死』になりたがっている。

不死になれば、わたしを使って『間桐の血』を復興させる必要がなくなる。

そして、わたしは『用済み』になる。

だからこれ以上、苦しむことはない。

これ以上、蟲に身体を犯されることもない。

これ以上、夜を怖がることもない。

これ以上、お爺様に怯えることもない。

 

つまり…兄さんは()()()()()()()()()()()()()

 

吐き気がした。

死にたくなった。

口から勝手に『ごめんなさい』って言葉が止め処なく溢れ出てくる。

 

兄さんは何も知らない……

だって、わたしのお陰で、脚を失うことになった事故から立ち直れたと言っていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

吐瀉物が込み上がってきて、思わず先輩が用意してくれた桶に戻してしまった。

濁った水面に映る自分の善人面が、歪んで見える。

 

兄さん………なんて可哀想な人。

真実に到達してしまった時、一体どんな顔をするのだろうか。

 

怒るのだろうか。

悲しむのだろうか。

わたしを憎むのだろうか。

あるいは許してくれるのだろうか。

 

いっそ……全てをぶちまけてしまおうか。

いや、そんなことはできない。

そんなことしたって、あの人の心が再び死ぬだけ。

 

苦しい。

わたしの罪が、背後から迫ってきている。

苦しい。

わたしの宿命が、忍び寄ってきている。

苦しい。

誰かに傷つけられる事よりも、よっぽど………

 

悍ましい罪人。

穢れた偽善者。

なんて……醜い人間だろう。

 

兄さん……あなたの妹は……もう、とっくに……

()()()()()()()()()()()()()()

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。