Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#23 戦慄の王女 その①

夕方まで寝ていた。

桜の体調がだいぶ回復していたので、皆で食卓を囲むことになった。

夕食は豚つくね焼き野菜添え。やっぱり美味い。

更には食後のデザートとして、ライダーが買ってきていた『ネットメロン』を切り分けて皆で食べることになったのだが……

そのメロン……木箱に入っていた。高級そうだ。

彫ってある文字『東方ふるうつ屋』……

猛烈にイヤな予感がしてきた。

 

「ライダー……これナンボした…?」

 

「2個で15000円」ニョホッ

 

「バカかァ!?てめェーーーッ!!」

 

誰のサイフ使って買ってんだコラァ!?

『東方ふるうつ屋』……!

思い出したぞッ!

確か杜王町にあるフルーツ屋で、アホみたいな金額の超高級フルーツを売ってる有名な店…!

テレビで何回も取り上げられる所のヤツ!

2個で15000円だァ…?

『ドクター・マーチン』とか『リーヴァイス』みたいなのと違って食いモンだぞォ〜〜〜?

成金ヤローが食うデザートじゃあねぇか。

 

「ッ!?…………………」キラキラキラァ

 

セイバーが今にも鼻歌を歌いそうなくらいゴキゲンになっている。

目の中に星のマークが見える。

生前のコイツはどんだけ不味い飯食ってんだよ。

……もしかして、イギリスとかァ?コイツの出身。

あり得そうかもね。

おっと、ぼくも一口、味をみておこう。

…ッ!?……うん、なるほど……

いや、実際めちゃくちゃ美味い。

フレッシュさと濃厚な甘味が、口の中で弾ける。

芳醇な香りが鼻から抜けて、まるでイイ香水だ。

横目で見ると、衛宮も桜もブッたまげている。

へ〜〜〜……冬作メロンの旬は12〜3月らしい。

木箱に入っていたパンフレットを読みながら、じっくり味わわせてもらう。

 

うん………たまにはいいか。

どうせ短(・)い(・)命(・)な(・)ん(・)だ(・)。

死ぬまでに美味いモン食っておこう。

 

結果、全員…大満足。

サティスファクションだ。

 

 

◆

 

 

というワケで、深夜の時間。

ここからは、ぼくたちの時間だぜ。

今日の方針は見回り(パトロール)。

車椅子が軋む音が五月蝿い。

頭上の月明かりにまで届きそうだ。

しばらく無言で歩いていたセイバーが、唐突に歩みを止める。

 

「サーヴァントの気配です、マスター…指示を」

 

「行くぞ、先導してくれ」

 

走り出すセイバー。

ライダーが車椅子を押す。

爆速で回る車輪が、金切り声をあげる。

方角は東……深山町と新都を繋ぐ大橋。

 

「っ………!」

 

衛宮が息を呑む。

公園に踏み入った瞬間、異様な気配を感じた。

空気が濁っている。腐臭が鼻につく。

 

「シロウ、アレを…!」

 

「っ……!」

 

目を向けた先、そこには……

背を向けた遠坂と(おそらく)アーチャー。

 

「ぬ?……新手が来たようじゃな」

 

クソジジイ……間桐臓硯。

久々に拝む皺くちゃのツラ。

吐き気を催す邪悪そのもの……!

 

「ほう、誰かと思えばセイバーのマスターと………なんじゃ、裏切り者の慎二か」

 

「てめェーーーッ!ブッ殺すッ!」

 

やっぱりジジイに反旗を翻した事なんて、とっくにバレてたみたいだ。

そして遠坂と争ってたみたいだが、そんなの知るか…先手必勝させてもらうぜ。

 

「オラァ!」

 

ライダーが鉄球をブン投げる。

ジジイが咄嗟に繰り出した複数の蟲が迎え撃つも、それは一発で砕け散り、当たった傍から反射した鉄球が的確に蟲たちを各個撃破していく。

蟲如きで回転は止まらない。

瞬く間に蟲を全滅させ、その枯れ木みてーな身体に突撃していく。

 

「む……!」

 

杖で地面を打ちつける音、刹那の空間の歪み、鉄球の行方を阻んだのは、ぼくたちがかつて倒したはずのモノ……!

 

「キャスター……!」

 

「いえ、アレはキャスターではありません、キャスターの死骸を別のもので補っただけの模造品です」

 

なんて台詞を吐き捨てたセイバーが前に出る。

不愉快そうに顔を歪ませ、瞳の奥には炎を連想させるほどの怒りを秘めている。

チラリとこちらにアイコンタクト。

衛宮が頷くと同時に、セイバーが地を蹴る。

それと同時に、赤い騎士………遠坂のアーチャーも加勢する。

二つの剣風がキャスターを打ちつける。

迷いなく振るわれる剣筋によって、今度こそキャスターを討ち取り、弄ばれた外装が脆く崩れていく。

 

その剣戟の陰でコソコソしているジジイ。

フンッ……ぼくとライダーがボケッとしているとでも思っていたのかよマヌケがァァァァ!!!

 

「ぬぅ……!?」

 

既に掌に舞い戻っていた鉄球が、コソコソ逃げる背にブチ当たる。

英霊(サーヴァント)相手ならともかく、通常の魔術師相手であれば必殺の一撃。

砕け散ったジジイの身体から、大小様々な蟲がズルズルと零れ落ちていく。

ピチャピチャと水音。跳ね回る甲虫と翅虫と線虫。

身体を構成していたモノの化けの皮。

粘液の海でのたうつ醜悪の権化……!

 

「おたくにかける言葉なんて一つもない」

 

表情の無いライダーが、それだけ言って鉄球を回しはじめる。

 

「ぬ……ぬぅ……!……ぬぉぅ……お…!」

 

譫言を吐き捨てながら、少しでも遠くに向かって這い回る姿は、塩をブッかけられて死にかけている蛞蝓そのもの。

どうせこれは本体じゃあない。

所謂、分身……遠隔操作の人形に過ぎない。

だが、分身を作るには本体から蟲を分離させて作る必要があるから、これを倒せば、しばらく回復の為に時間を費やすだろう。

だったら、無駄じゃあない。

 

「テメーの全てをバラバラにしてッ!!昆虫標本にしてやるぜェェェーーーッ!!」

 

「……ぐ……慎二ィ…!……き、貴様ァ……ッ!」

 

初めて聞いたジジイの怨嗟の声。

ザマァないぜ…!

テメーの屈辱と苦痛に塗れた声がずっと聴きたかったんだァ!

どんなバンドの、どんな名曲よりもなァァァ!!

ライダーが振りかぶるッ!

これでコイツは痛手間違いなしだッ!

 

「………え………?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ…!

 

異様な気配。

空気が震えている。否……歪んでいる……!

それを感じているのは、この場にいる全員。

遠坂とアーチャー。

衛宮とセイバー。

ぼくとライダー。

それだけでなく、今まさに地に這って藻掻き苦しんでいたクソジジイさえ……!

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドッ…!

 

公園が闇に染まる。

湿った空気が一瞬で凍りつく。

耳鳴りがする気がする。

心臓が早鐘を打つ音が、頭の中にこびりつく……!

空間が歪んで、視界が歪んで、今の自分が何処にいるのかさえ、曖昧になっていくッ…!

 

震える身体、麻痺する首。

 

『見てはいけない』

直感が告げる。

『今すぐ逃げろ』

感覚が告げる。

『理解してはいけない』

本能が訴えかけてくる…ッ!

 

そんなの知るか……ッ!

麻痺した頭が怒りによって再起動する。

ぼくは、逃げられないんじゃあない。

逃(・)げ(・)な(・)い(・)ん(・)だ(・)…!

 

公園の入り口に視線を向ける。

そこに……

その『影』は立っていた。

 

「ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ……うぅ…あ…」

 

なんだ、コレは。

こんな……こんなモノ……

あ(・)っ(・)て(・)は(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)……

悍ましい……あまりにも……

『影』そのもの……

この世の闇を凝縮したような存在。

本能的恐怖が強制的に呼び覚まされる。

 

ア(・)レ(・)は(・)魔(・)術(・)と(・)か(・)じ(・)ゃ(・)あ(・)な(・)い(・)。

間桐の蟲ですら、アレに比べれば児戯に等しい。

もっと、別の……それでいて恐ろしいナニか。

 

例えるなら……

『ヨハネの黙示録』の『大淫婦バビロン』

 

湿るように淫靡な風。

闇夜で蠢く冒涜的な混沌。

意思がなく、知恵もない。

アレは白痴にして賢者。

深淵の底の異空間に棲む者。

 

恐怖で脳が凍る。

身体の芯まで真っ直ぐに氷の剣が刺さっている。

 

「呵呵…………道理で……道理でなァ…!」

 

しわがれた老人の声がする。

哄笑を噛み殺しながら、地を這っていく。

あまりに無防備で無様な背中。

そこに一発でも叩き込んでやれば、コイツの身体なんて即座に砕け散るだろう。

 

なのに……!

身(・)体(・)が(・)動(・)か(・)な(・)い(・)……!

 

「………………」

 

それはぼくだけじゃあない。

誰も動けない。

戦慄が身体を地に縛りつける。

 

「あ」

 

影が伸びる。

シュルシュルと。音を立てて。

鞭のような形を作り、影が迫ってくる。

初めて見せた意思らしきモノ。

 

冷や汗が鼻先に垂れてくる。

なのに拭えない。

ただ、ぼくは伸びる影を睨むことしか出来ない。

 

そして、『影』が、コテン、と首を傾げた。

その動作………見覚えがある。

確かに見覚えがある…!

見(・)覚(・)え(・)が(・)あ(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)ッ!!

だが、そんな筈は無いッ!絶対にッ!

 

あ(・)っ(・)て(・)は(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)ッ!

 

何かが身体の奥の奥から迫り上がってくる。

いや、ぼくはその正体を知っている。

 

「銀甲蟲(シルヴァー・ビートルズ)ッ!」

 

『怒り』だ。

ぼくは、いつだって……どんな時だって『怒り』で身体を動かしてきた。

この世界の『理不尽』と『残酷さ』……

それに虐げられる者がいた………

だから、守ってあげたかった。

 

『あ(・)の(・)子(・)が(・)一(・)体(・)な(・)に(・)を(・)し(・)た(・)……!?』

 

常日頃から世界に対して問いかけていた。

グツグツと煮え滾る怒りを抱きながら。

 

目の前の存在がなんなのか、わからない。

きっと、一生…理解することはない。

今、脳裏に浮かんだ予感だって………

間違っている可能性もあるだろう。

いや、間違っていて欲しい。

ただ、もし…もしも……アレによって…

蝕(・)ま(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)と(・)す(・)る(・)な(・)ら(・)ば(・)……!!

 

「許さねェーッ!!ぼくの命に代えてもォォ!!」

 

「慎二ィィィィ!!!」

 

両手の指が放たれる。合計10本の指。

瞬時に、それらは高速で回転する甲蟲に生長し、『影』に向かって直進する。

 

ズブズブズブ………

 

「…………」

 

確かに着弾した。

だが吸収された。

そうとしか思えない。

仰け反ったり、怯んだりもしていない。

伸ばした影で迎撃とか、それどころか飛んでくる蟲に反応すらしなかった。

 

怒りに任せた一撃が、無情にも闇に溶けていった。

再び恐怖の波が心に襲いかかってくる。

故に、どこか冷静になれた。

 

コイツ……無敵か。

 

ぼくらが『歩兵(ポーン)」だとするなら……

この影は最強の『女王(クイーン)』。

真正面から戦えば絶対に勝てない。

詰まるところ、今のぼくらは………

チェスでいう『チェック』の状態って事か。

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