Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
夕方まで寝ていた。
桜の体調がだいぶ回復していたので、皆で食卓を囲むことになった。
夕食は豚つくね焼き野菜添え。やっぱり美味い。
更には食後のデザートとして、ライダーが買ってきていた『ネットメロン』を切り分けて皆で食べることになったのだが……
そのメロン……木箱に入っていた。高級そうだ。
彫ってある文字『東方ふるうつ屋』……
猛烈にイヤな予感がしてきた。
「ライダー……これナンボした…?」
「2個で15000円」ニョホッ
「バカかァ!?てめェーーーッ!!」
誰のサイフ使って買ってんだコラァ!?
『東方ふるうつ屋』……!
思い出したぞッ!
確か杜王町にあるフルーツ屋で、アホみたいな金額の超高級フルーツを売ってる有名な店…!
テレビで何回も取り上げられる所のヤツ!
2個で15000円だァ…?
『ドクター・マーチン』とか『リーヴァイス』みたいなのと違って食いモンだぞォ〜〜〜?
成金ヤローが食うデザートじゃあねぇか。
「ッ!?…………………」キラキラキラァ
セイバーが今にも鼻歌を歌いそうなくらいゴキゲンになっている。
目の中に星のマークが見える。
生前のコイツはどんだけ不味い飯食ってんだよ。
……もしかして、イギリスとかァ?コイツの出身。
あり得そうかもね。
おっと、ぼくも一口、味をみておこう。
…ッ!?……うん、なるほど……
いや、実際めちゃくちゃ美味い。
フレッシュさと濃厚な甘味が、口の中で弾ける。
芳醇な香りが鼻から抜けて、まるでイイ香水だ。
横目で見ると、衛宮も桜もブッたまげている。
へ〜〜〜……冬作メロンの旬は12〜3月らしい。
木箱に入っていたパンフレットを読みながら、じっくり味わわせてもらう。
うん………たまにはいいか。
どうせ
死ぬまでに美味いモン食っておこう。
結果、全員…大満足。
サティスファクションだ。
◆
というワケで、深夜の時間。
ここからは、ぼくたちの時間だぜ。
今日の方針は
車椅子が軋む音が五月蝿い。
頭上の月明かりにまで届きそうだ。
しばらく無言で歩いていたセイバーが、唐突に歩みを止める。
「サーヴァントの気配です、マスター…指示を」
「行くぞ、先導してくれ」
走り出すセイバー。
ライダーが車椅子を押す。
爆速で回る車輪が、金切り声をあげる。
方角は東……深山町と新都を繋ぐ大橋。
「っ………!」
衛宮が息を呑む。
公園に踏み入った瞬間、異様な気配を感じた。
空気が濁っている。腐臭が鼻につく。
「シロウ、アレを…!」
「っ……!」
目を向けた先、そこには……
背を向けた遠坂と(おそらく)アーチャー。
「ぬ?……新手が来たようじゃな」
クソジジイ……間桐臓硯。
久々に拝む皺くちゃのツラ。
吐き気を催す邪悪そのもの……!
「ほう、誰かと思えばセイバーのマスターと………なんじゃ、裏切り者の慎二か」
「てめェーーーッ!ブッ殺すッ!」
やっぱりジジイに反旗を翻した事なんて、とっくにバレてたみたいだ。
そして遠坂と争ってたみたいだが、そんなの知るか…先手必勝させてもらうぜ。
「オラァ!」
ライダーが鉄球をブン投げる。
ジジイが咄嗟に繰り出した複数の蟲が迎え撃つも、それは一発で砕け散り、当たった傍から反射した鉄球が的確に蟲たちを各個撃破していく。
蟲如きで回転は止まらない。
瞬く間に蟲を全滅させ、その枯れ木みてーな身体に突撃していく。
「む……!」
杖で地面を打ちつける音、刹那の空間の歪み、鉄球の行方を阻んだのは、ぼくたちがかつて倒したはずのモノ……!
「キャスター……!」
「いえ、アレはキャスターではありません、キャスターの死骸を別のもので補っただけの模造品です」
なんて台詞を吐き捨てたセイバーが前に出る。
不愉快そうに顔を歪ませ、瞳の奥には炎を連想させるほどの怒りを秘めている。
チラリとこちらにアイコンタクト。
衛宮が頷くと同時に、セイバーが地を蹴る。
それと同時に、赤い騎士………遠坂のアーチャーも加勢する。
二つの剣風がキャスターを打ちつける。
迷いなく振るわれる剣筋によって、今度こそキャスターを討ち取り、弄ばれた外装が脆く崩れていく。
その剣戟の陰でコソコソしているジジイ。
フンッ……ぼくとライダーがボケッとしているとでも思っていたのかよマヌケがァァァァ!!!
「ぬぅ……!?」
既に掌に舞い戻っていた鉄球が、コソコソ逃げる背にブチ当たる。
砕け散ったジジイの身体から、大小様々な蟲がズルズルと零れ落ちていく。
ピチャピチャと水音。跳ね回る甲虫と翅虫と線虫。
身体を構成していたモノの化けの皮。
粘液の海でのたうつ醜悪の権化……!
「おたくにかける言葉なんて一つもない」
表情の無いライダーが、それだけ言って鉄球を回しはじめる。
「ぬ……ぬぅ……!……ぬぉぅ……お…!」
譫言を吐き捨てながら、少しでも遠くに向かって這い回る姿は、塩をブッかけられて死にかけている蛞蝓そのもの。
どうせこれは本体じゃあない。
所謂、分身……遠隔操作の人形に過ぎない。
だが、分身を作るには本体から蟲を分離させて作る必要があるから、これを倒せば、しばらく回復の為に時間を費やすだろう。
だったら、無駄じゃあない。
「テメーの全てをバラバラにしてッ!!昆虫標本にしてやるぜェェェーーーッ!!」
「……ぐ……慎二ィ…!……き、貴様ァ……ッ!」
初めて聞いたジジイの怨嗟の声。
ザマァないぜ…!
テメーの屈辱と苦痛に塗れた声がずっと聴きたかったんだァ!
どんなバンドの、どんな名曲よりもなァァァ!!
ライダーが振りかぶるッ!
これでコイツは痛手間違いなしだッ!
「………え………?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ…!
異様な気配。
空気が震えている。否……歪んでいる……!
それを感じているのは、この場にいる全員。
遠坂とアーチャー。
衛宮とセイバー。
ぼくとライダー。
それだけでなく、今まさに地に這って藻掻き苦しんでいたクソジジイさえ……!
ドドドドドドドドドドドドドドドドッ…!
公園が闇に染まる。
湿った空気が一瞬で凍りつく。
耳鳴りがする気がする。
心臓が早鐘を打つ音が、頭の中にこびりつく……!
空間が歪んで、視界が歪んで、今の自分が何処にいるのかさえ、曖昧になっていくッ…!
震える身体、麻痺する首。
『見てはいけない』
直感が告げる。
『今すぐ逃げろ』
感覚が告げる。
『理解してはいけない』
本能が訴えかけてくる…ッ!
そんなの知るか……ッ!
麻痺した頭が怒りによって再起動する。
ぼくは、逃げられないんじゃあない。
公園の入り口に視線を向ける。
そこに……
その『影』は立っていた。
「ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ……うぅ…あ…」
なんだ、コレは。
こんな……こんなモノ……
悍ましい……あまりにも……
『影』そのもの……
この世の闇を凝縮したような存在。
本能的恐怖が強制的に呼び覚まされる。
間桐の蟲ですら、アレに比べれば児戯に等しい。
もっと、別の……それでいて恐ろしいナニか。
例えるなら……
『ヨハネの黙示録』の『大淫婦バビロン』
湿るように淫靡な風。
闇夜で蠢く冒涜的な混沌。
意思がなく、知恵もない。
アレは白痴にして賢者。
深淵の底の異空間に棲む者。
恐怖で脳が凍る。
身体の芯まで真っ直ぐに氷の剣が刺さっている。
「呵呵…………道理で……道理でなァ…!」
しわがれた老人の声がする。
哄笑を噛み殺しながら、地を這っていく。
あまりに無防備で無様な背中。
そこに一発でも叩き込んでやれば、コイツの身体なんて即座に砕け散るだろう。
なのに……!
「………………」
それはぼくだけじゃあない。
誰も動けない。
戦慄が身体を地に縛りつける。
「あ」
影が伸びる。
シュルシュルと。音を立てて。
鞭のような形を作り、影が迫ってくる。
初めて見せた意思らしきモノ。
冷や汗が鼻先に垂れてくる。
なのに拭えない。
ただ、ぼくは伸びる影を睨むことしか出来ない。
そして、『影』が、コテン、と首を傾げた。
その動作………見覚えがある。
確かに見覚えがある…!
だが、そんな筈は無いッ!絶対にッ!
何かが身体の奥の奥から迫り上がってくる。
いや、ぼくはその正体を知っている。
「
『怒り』だ。
ぼくは、いつだって……どんな時だって『怒り』で身体を動かしてきた。
この世界の『理不尽』と『残酷さ』……
それに虐げられる者がいた………
だから、守ってあげたかった。
『
常日頃から世界に対して問いかけていた。
グツグツと煮え滾る怒りを抱きながら。
目の前の存在がなんなのか、わからない。
きっと、一生…理解することはない。
今、脳裏に浮かんだ予感だって………
間違っている可能性もあるだろう。
いや、間違っていて欲しい。
ただ、もし…もしも……アレによって…
「許さねェーッ!!ぼくの命に代えてもォォ!!」
「慎二ィィィィ!!!」
両手の指が放たれる。合計10本の指。
瞬時に、それらは高速で回転する甲蟲に生長し、『影』に向かって直進する。
ズブズブズブ………
「…………」
確かに着弾した。
だが吸収された。
そうとしか思えない。
仰け反ったり、怯んだりもしていない。
伸ばした影で迎撃とか、それどころか飛んでくる蟲に反応すらしなかった。
怒りに任せた一撃が、無情にも闇に溶けていった。
再び恐怖の波が心に襲いかかってくる。
故に、どこか冷静になれた。
コイツ……無敵か。
ぼくらが『
この影は最強の『
真正面から戦えば絶対に勝てない。
詰まるところ、今のぼくらは………
チェスでいう『チェック』の状態って事か。