Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

23 / 82
#23 戦慄の王女 その①

夕方まで寝ていた。

桜の体調がだいぶ回復していたので、皆で食卓を囲むことになった。

夕食は豚つくね焼き野菜添え。やっぱり美味い。

更には食後のデザートとして、ライダーが買ってきていた『ネットメロン』を切り分けて皆で食べることになったのだが……

そのメロン……木箱に入っていた。高級そうだ。

彫ってある文字『東方ふるうつ屋』……

猛烈にイヤな予感がしてきた。

 

「ライダー……これナンボした…?」

 

「2個で15000円」ニョホッ

 

「バカかァ!?てめェーーーッ!!」

 

誰のサイフ使って買ってんだコラァ!?

『東方ふるうつ屋』……!

思い出したぞッ!

確か杜王町にあるフルーツ屋で、アホみたいな金額の超高級フルーツを売ってる有名な店…!

テレビで何回も取り上げられる所のヤツ!

2個で15000円だァ…?

『ドクター・マーチン』とか『リーヴァイス』みたいなのと違って食いモンだぞォ〜〜〜?

成金ヤローが食うデザートじゃあねぇか。

 

「ッ!?…………………」キラキラキラァ

 

セイバーが今にも鼻歌を歌いそうなくらいゴキゲンになっている。

目の中に星のマークが見える。

生前のコイツはどんだけ不味い飯食ってんだよ。

……もしかして、イギリスとかァ?コイツの出身。

あり得そうかもね。

おっと、ぼくも一口、味をみておこう。

…ッ!?……うん、なるほど……

いや、実際めちゃくちゃ美味い。

フレッシュさと濃厚な甘味が、口の中で弾ける。

芳醇な香りが鼻から抜けて、まるでイイ香水だ。

横目で見ると、衛宮も桜もブッたまげている。

へ〜〜〜……冬作メロンの旬は12〜3月らしい。

木箱に入っていたパンフレットを読みながら、じっくり味わわせてもらう。

 

うん………たまにはいいか。

どうせ()()()()()()

死ぬまでに美味いモン食っておこう。

 

結果、全員…大満足。

サティスファクションだ。

 

 

 

 

というワケで、深夜の時間。

ここからは、ぼくたちの時間だぜ。

今日の方針は見回り(パトロール)

車椅子が軋む音が五月蝿い。

頭上の月明かりにまで届きそうだ。

しばらく無言で歩いていたセイバーが、唐突に歩みを止める。

 

「サーヴァントの気配です、マスター…指示を」

 

「行くぞ、先導してくれ」

 

走り出すセイバー。

ライダーが車椅子を押す。

爆速で回る車輪が、金切り声をあげる。

方角は東……深山町と新都を繋ぐ大橋。

 

「っ………!」

 

衛宮が息を呑む。

公園に踏み入った瞬間、異様な気配を感じた。

空気が濁っている。腐臭が鼻につく。

 

「シロウ、アレを…!」

 

「っ……!」

 

目を向けた先、そこには……

背を向けた遠坂と(おそらく)アーチャー。

 

「ぬ?……新手が来たようじゃな」

 

クソジジイ……間桐臓硯。

久々に拝む皺くちゃのツラ。

吐き気を催す邪悪そのもの……!

 

「ほう、誰かと思えばセイバーのマスターと………なんじゃ、裏切り者の慎二か」

 

「てめェーーーッ!ブッ殺すッ!」

 

やっぱりジジイに反旗を翻した事なんて、とっくにバレてたみたいだ。

そして遠坂と争ってたみたいだが、そんなの知るか…先手必勝させてもらうぜ。

 

「オラァ!」

 

ライダーが鉄球をブン投げる。

ジジイが咄嗟に繰り出した複数の蟲が迎え撃つも、それは一発で砕け散り、当たった傍から反射した鉄球が的確に蟲たちを各個撃破していく。

蟲如きで回転は止まらない。

瞬く間に蟲を全滅させ、その枯れ木みてーな身体に突撃していく。

 

「む……!」

 

杖で地面を打ちつける音、刹那の空間の歪み、鉄球の行方を阻んだのは、ぼくたちがかつて倒したはずのモノ……!

 

「キャスター……!」

 

「いえ、アレはキャスターではありません、キャスターの死骸を別のもので補っただけの模造品です」

 

なんて台詞を吐き捨てたセイバーが前に出る。

不愉快そうに顔を歪ませ、瞳の奥には炎を連想させるほどの怒りを秘めている。

チラリとこちらにアイコンタクト。

衛宮が頷くと同時に、セイバーが地を蹴る。

それと同時に、赤い騎士………遠坂のアーチャーも加勢する。

二つの剣風がキャスターを打ちつける。

迷いなく振るわれる剣筋によって、今度こそキャスターを討ち取り、弄ばれた外装が脆く崩れていく。

 

その剣戟の陰でコソコソしているジジイ。

フンッ……ぼくとライダーがボケッとしているとでも思っていたのかよマヌケがァァァァ!!!

 

「ぬぅ……!?」

 

既に掌に舞い戻っていた鉄球が、コソコソ逃げる背にブチ当たる。

英霊(サーヴァント)相手ならともかく、通常の魔術師相手であれば必殺の一撃。

砕け散ったジジイの身体から、大小様々な蟲がズルズルと零れ落ちていく。

ピチャピチャと水音。跳ね回る甲虫と翅虫と線虫。

身体を構成していたモノの化けの皮。

粘液の海でのたうつ醜悪の権化……!

 

「おたくにかける言葉なんて一つもない」

 

表情の無いライダーが、それだけ言って鉄球を回しはじめる。

 

「ぬ……ぬぅ……!……ぬぉぅ……お…!」

 

譫言を吐き捨てながら、少しでも遠くに向かって這い回る姿は、塩をブッかけられて死にかけている蛞蝓そのもの。

どうせこれは本体じゃあない。

所謂、分身……遠隔操作の人形に過ぎない。

だが、分身を作るには本体から蟲を分離させて作る必要があるから、これを倒せば、しばらく回復の為に時間を費やすだろう。

だったら、無駄じゃあない。

 

「テメーの全てをバラバラにしてッ!!昆虫標本にしてやるぜェェェーーーッ!!」

 

「……ぐ……慎二ィ…!……き、貴様ァ……ッ!」

 

初めて聞いたジジイの怨嗟の声。

ザマァないぜ…!

テメーの屈辱と苦痛に塗れた声がずっと聴きたかったんだァ!

どんなバンドの、どんな名曲よりもなァァァ!!

ライダーが振りかぶるッ!

これでコイツは痛手間違いなしだッ!

 

「………え………?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ…!

 

異様な気配。

空気が震えている。否……歪んでいる……!

それを感じているのは、この場にいる全員。

遠坂とアーチャー。

衛宮とセイバー。

ぼくとライダー。

それだけでなく、今まさに地に這って藻掻き苦しんでいたクソジジイさえ……!

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドッ…!

 

公園が闇に染まる。

湿った空気が一瞬で凍りつく。

耳鳴りがする気がする。

心臓が早鐘を打つ音が、頭の中にこびりつく……!

空間が歪んで、視界が歪んで、今の自分が何処にいるのかさえ、曖昧になっていくッ…!

 

震える身体、麻痺する首。

 

『見てはいけない』

直感が告げる。

『今すぐ逃げろ』

感覚が告げる。

『理解してはいけない』

本能が訴えかけてくる…ッ!

 

そんなの知るか……ッ!

麻痺した頭が怒りによって再起動する。

ぼくは、逃げられないんじゃあない。

()()()()()()…!

 

公園の入り口に視線を向ける。

そこに……

その『影』は立っていた。

 

「ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ……うぅ…あ…」

 

なんだ、コレは。

こんな……こんなモノ……

()()()()()()()()……

悍ましい……あまりにも……

『影』そのもの……

この世の闇を凝縮したような存在。

本能的恐怖が強制的に呼び覚まされる。

 

()()()()()()()()()()()()

間桐の蟲ですら、アレに比べれば児戯に等しい。

もっと、別の……それでいて恐ろしいナニか。

 

例えるなら……

『ヨハネの黙示録』の『大淫婦バビロン』

 

湿るように淫靡な風。

闇夜で蠢く冒涜的な混沌。

意思がなく、知恵もない。

アレは白痴にして賢者。

深淵の底の異空間に棲む者。

 

恐怖で脳が凍る。

身体の芯まで真っ直ぐに氷の剣が刺さっている。

 

「呵呵…………道理で……道理でなァ…!」

 

しわがれた老人の声がする。

哄笑を噛み殺しながら、地を這っていく。

あまりに無防備で無様な背中。

そこに一発でも叩き込んでやれば、コイツの身体なんて即座に砕け散るだろう。

 

なのに……!

()()()()()()()……!

 

「………………」

 

それはぼくだけじゃあない。

誰も動けない。

戦慄が身体を地に縛りつける。

 

「あ」

 

影が伸びる。

シュルシュルと。音を立てて。

鞭のような形を作り、影が迫ってくる。

初めて見せた意思らしきモノ。

 

冷や汗が鼻先に垂れてくる。

なのに拭えない。

ただ、ぼくは伸びる影を睨むことしか出来ない。

 

そして、『影』が、コテン、と首を傾げた。

その動作………見覚えがある。

確かに見覚えがある…!

()()()()()()()()()()()ッ!!

だが、そんな筈は無いッ!絶対にッ!

 

()()()()()()()()ッ!

 

何かが身体の奥の奥から迫り上がってくる。

いや、ぼくはその正体を知っている。

 

銀甲蟲(シルヴァー・ビートルズ)ッ!」

 

『怒り』だ。

ぼくは、いつだって……どんな時だって『怒り』で身体を動かしてきた。

この世界の『理不尽』と『残酷さ』……

それに虐げられる者がいた………

だから、守ってあげたかった。

 

()()()()()()()()()()()……!?』

 

常日頃から世界に対して問いかけていた。

グツグツと煮え滾る怒りを抱きながら。

 

目の前の存在がなんなのか、わからない。

きっと、一生…理解することはない。

今、脳裏に浮かんだ予感だって………

間違っている可能性もあるだろう。

いや、間違っていて欲しい。

ただ、もし…もしも……アレによって…

()()()()()()()()()()()()……!!

 

「許さねェーッ!!ぼくの命に代えてもォォ!!」

 

「慎二ィィィィ!!!」

 

両手の指が放たれる。合計10本の指。

瞬時に、それらは高速で回転する甲蟲に生長し、『影』に向かって直進する。

 

ズブズブズブ………

 

「…………」

 

確かに着弾した。

だが吸収された。

そうとしか思えない。

仰け反ったり、怯んだりもしていない。

伸ばした影で迎撃とか、それどころか飛んでくる蟲に反応すらしなかった。

 

怒りに任せた一撃が、無情にも闇に溶けていった。

再び恐怖の波が心に襲いかかってくる。

故に、どこか冷静になれた。

 

コイツ……無敵か。

 

ぼくらが『歩兵(ポーン)」だとするなら……

この影は最強の『女王(クイーン)』。

真正面から戦えば絶対に勝てない。

詰まるところ、今のぼくらは………

チェスでいう『チェック』の状態って事か。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。