Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

3 / 82
#3 ジャイロ・ツェペリ

1998年7月25日。間桐慎二と間桐桜…そして衛宮士郎の3人は、海に来ていた。

間桐桜は生まれてからずっと一度も海を見たことがなかったが、初めて故郷『冬木市』を出て「海」を見る事になった時……彼女の世界にとって唯一と言っていい……兄以外の人間と共に、外の世界に出た。

『衛宮士郎』…些細な諍いを機に、いつしか兄と腐れ縁になった彼は、とうとう間桐桜とまでその縁を結ぶこととなった。

 

それは『思い出』である。

 

あの日…兄の12歳の誕生日…彼のチャチな蛮行を咎めた『衛宮士郎』は、たまたま同じクラスの級友だったらしく、互いに互いのスタンスの違いからか、兄から突っかかってはケンカし、彼から突っかかってはケンカの繰り返し…結果、とうとう悪友と呼ばれるまでに、彼らに奇妙な友情が芽生えた。

 

初めて間桐の館に招待された彼の姿を今でも覚えている…凛としたその立ち姿…いつの間にか気安く兄と接するようになった…

初めて挨拶を交わした時、やっぱり緊張して上手く喋れないのを、温かく見守ってくれた眼差しを、今でも覚えている。

 

「いいか桜ッ!おまえが『審判』をやれッ!これからこのぼくの泳ぎでこいつを『再起不能』にしてやる!」

 

「上等だ!負けないぞ慎二!」

 

「1バ身差以上でブッちぎってやるッ!」

 

兄がはしゃいでいる。

いつもどこか冷めた目をしているのに。

キラキラとした不敵な笑みを浮かべて…

 

遠くにプカプカと浮き輪が漂っている。

あれが『ゴール』なのだろう。

 

二人仲良く並んで(こういうと兄は怒るだろうが…)合図を待っている。

 

「よーい、どん」

 

「うおおおおおおおお!」

 

「完膚なきまでにブッ潰すッ!」

 

真っ直ぐに『ゴール』に突っ走る彼の姿は、眩しかった。

口だけは物騒な兄の姿も、眩しかった。

今も意地悪なくらいギラギラとわたしたちを照らす、あの太陽のように…

 

それは『思い出』である。

『思い出』は勇気をくれる。

いつの間にか彼女の『思い出』の登場人物は兄だけではなくなった。

 

「見たか桜ッ!決着ゥーーッ!!」

 

「すごいです…兄さん……本当に…でもおんなじくらい先輩もすごかったです……」

 

「ハァ…ハァ…さんきゅ、桜……おい慎二!次は負けないからな!」

 

「何度も挑んでも何をやっても無駄だ無駄ァァッ!次もぼくが勝つッ!」

 

間桐桜は結局一度も海で泳がなかった。

そもそも水着に着替えてもいなかった。

海という広大でどこまでも深い世界が怖かったからだ。

でも、楽しかった…

 

また来たいと、思った。

意地っ張りで、見栄っ張りで、イジワルで…

でも、いつも温かい…

そんな兄と共に…

 

穏やかな陽だまりの中の、小さな幸福の記憶。

 

 

 

 

2002年1月25日。

蟲蔵。

緑色の霊廟。

緑色の墓標。

暗黒の巣窟。

佇むは妄執の怪異。

そして少年。

 

「嗚呼…慎二…愛しくも愚かな孫よ…お前が捧げた三年…お前が捨て去った向こう数十年の未来……贋作から鍛え上げた僅か10本足らずのその魔術回路は、確かにお前をマスターへ導いたぞ…」

 

「黙ってろクソジジイ……どっか行け……殺すぞ…」

 

「おお、怖い怖い…大人しく奥座敷で茶でも飲んでおこうかの……」

 

遠ざかる下駄の音を無視した少年は、地を蛞蝓が如く這いながらも、覚悟に満ちた目で、床に刻まれた紋章を睨む。

詠唱が始まる。

とっくに恐怖に打ち勝った声が決意を孕む。

詠唱が始まる。

とっくに失った筈の希望が灯る。

詠唱が始まる。

とっくに諦めた未来を想う。

詠唱が始まる。

 

彼の心に希望の火が灯る。

 

素に銀と鉄。

礎に石と契約の大公。

祖には我が大師ゾォルケン。

降り立つ風には壁を。

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。

Anfang(セット)

告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!

 

刹那、暴風の様な魔力が吹き荒れる。

それは大地を揺るがし、髪を揺らし、穴倉に潜む蟲を揺るがす。

キイキイと金切り声、どこか怯えを含んでいる。

たちまち煙が立ちこめる。

刻まれた紋章の中央に、男の影が浮かび上がる。

 

成功した。

今ここに、大儀式……

『聖杯戦争』への参加資格を持った者が、また一人現れたのだ。

 

 

 

 

煙が晴れ、まず目に飛び込んだのは、独特な形をしたカウボーイハットとマントだった。

西部開拓時代…19世紀の英霊だろうか…?

名のあるガンマンかも……しかしよく観ると、腰のガンベルトにはリボルバーではなく、緑色の『()()』がぶら下がっていた。

奇妙だった……なにか得体の知れないものを感じる。

 

英霊(サーヴァント)、『騎兵(ライダー)』…召喚に応じ参上した…」

 

男の双眸がこちらを捉える。

 

「問おう、おまえさんが…オレのマスターか?」

 

金色の長髪。

彫りの深い顔。

そして…

()()()()()

 

謎の多い英霊(サーヴァント)だ…

真名を聞いてもピンと来ないかもしれない。

だが初対面でいきなり『アンタ、マイナーな英霊?』なんて言うのはいくらなんでも無礼すぎる。

 

「ぼくの名は間桐慎二……ライダー…あんたと共に戦うマスターだ」

 

とりあえず当たり障りない返答をしてみた…

しかし、この男はどうも顔を強張らせている。

チラリとぼくの()()()()()を見た後…

 

「『()()』は?」

 

「……え?」

 

「おたくが『聖杯』を手に入れたい『目的』は…?と聞いてるんだ」

 

唐突な問い……

英霊としてマスターの願いが気になるのだろうか…?

それにしてはあまりにも剣呑な雰囲気だ…

 

ウソ言ったってしょうがないだろう…

別に後ろめたい動機じゃあない。

 

だが、この男の雰囲気……かなりヤバい……なにか強い『意志』を感じる……

 

「簡単に話すぜ、いいか?」

 

「オレは()()がしたいだけだ…はやく話せ」

 

()()()()()()……

そんなものは決まっている……

 

4年前のことだ…1998年……

当時13歳…ぼくは落馬事故で下半身不随となり、人生に絶望していた。

家族仲は冷え切っていたし、親友(一応、悪友と呼べるようなヤツはいるが…)や恋人だっていなかった。

ぼくをあれほど褒め称えてきた連中は、ぼくが不注意で痛い目を見たマヌケ野郎だと掌を返して…すぐに無関心になった。

ただ…一つ下の義妹…桜がいた。

 

そいつは鈍臭いヤツで、グズでノロマだったが、こんなぼくを励ましてくれた。

最初はウザったくて、ほうっておいて欲しかった……

だが、いくら怒鳴ったってめげずに何度も何度もぼくの車椅子を押してくれる度に、ぼくはすごく温かい……コイツのためになにかをしてあげたいという気持ちになった。

それが始まりだ。

 

しばらくしてからある日…ぼくは偶然地下室を見つけた。それがここだ。

 

そこで妹は、大量の蟲の海に沈んでいた。

 

ぼくのクソジジイ曰く…

間桐の家は『魔術師』の家系で、本来ならぼくがこの家の魔術を継承するんだそうだが、いかんせん『素質』がなかった。『この家の魔術』を継承できない身体だったらしい。

 

だから、この家の秘伝を遺すために、外部から養子を招き入れた。

 

妹は『跡継ぎ』だった……

しかし、この家で跡継ぎになるということは、あのクソジジイの言いなりになって、毎日毎日大量の蟲で口からケツの穴までヤられまくるということなんだ…

それだけじゃあない。

ヤツはいずれ桜をブチ殺して、その身体を乗っ取るつもりでいる。

それは、その気になれば明日どころか1分後にだって出来ることだ。

 

桜は諦めている……

このまま都合の良い食い物にされ、人としても女としても終わりになって、蟲のエサになることを受け入れてしまっている。

あの時、落馬して脚を……いや、希望を失っていたぼくのように。

この家に引き取られた6歳の時からずっと……

まだ誰かに恋だってしていないだろうに…

 

だから、ぼくの『目的』は……

()()()()()()()()()()

それだけだ………

 

その為にぼくは、自分の()()()()全てを犠牲にして、寿()()の殆どを消費して、本当にギリギリの『魔術師』になった。

 

きっと、長くは生きられないだろう。

こんな『自己改造』…自殺志願者くらいしかしない。

それでもマスターになったのは、ほんの僅かな可能性に賭けてみたかったからだ。

 

「……………」

 

ライダーは真剣な表情で…黙ってぼくの話を聞いてくれた。

なんと返答されるのだろう?

少し長くなってしまったが、正直に全てを話したつもりだ。

 

「以前…『蟲使い』に襲われた事があってな…もしオタクがなにか良からぬ事をしようとしているのなら…オレはマスターとの契約に『納得』ができなかった」

 

「…それで?納得とやらはしたのか?」

 

「ああ、気に入ったぜシンジ……それにおまえさんは、どこか『あいつ』に似ているしな……」

 

…あいつ?

誰だろう…生前の友人だろうか。

気になったのだが、途端に目眩がしてきた。

 

頭がクラクラする。

身体中が痛い。

膨大な魔力にあてられたからだろうか。

それになんだか眠い。

 

「このままティータイムでもしたいのはやまやまだが、ぼくは疲れたんでな……霊体化してくれ、明日また話そう」

 

「オレの『目的』は聞かねぇのか?」

 

「明日朝飯の時にでも聞く……」

 

なぜなら。

 

「これから長い『旅』になるだろうからな」

 

一拍置いた後、この不気味で奇妙な騎兵が、初めて不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

【CLASS】ライダー

【マスター】間桐慎二

【真名】ユリウス・カエサル・ツェペリ

      (ジャイロ・ツェペリ)

【性別】男

【属性】秩序・中庸

【ステータス】筋力C

       耐久B

       敏捷C

       魔力E

       幸運B−

       宝具B(EX)

 

【クラス別スキル】

対魔力:E

魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

 

騎乗:C

騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。

ただし召喚されてから一度でも女性と同乗すると、幸運が1ランクダウンする。

 

【固有スキル】

鉄球の回転:C

肉体を動かさずに掌にある物体に「回転」を加える特殊技術。鉄球を回転させてその振動であらゆる事象を引き起こす。

 

医療:C

回転の技術を用いたツェペリ家独自の家伝医術。治療行為の判定にボーナスを得る。

 

心眼(真):B

修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”

逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

 

【宝具】

『黄金長方形の回転』

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1人

自然界に存在する黄金長方形を見ることで、鉄球の回転の真の力を引き出す。レンジ内に完全な自然界の黄金長方形(葉や生物、雪の結晶など)が存在する間、「鉄球の回転」スキルのランクを2ランク上昇させる。

 

『???』

ランク:EX 種別:? レンジ:? 最大捕捉:?

この宝具は現在使用できない。

 

『聖人の右眼(スキャン)』

ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

とある聖人の遺体の右眼によって発現した純正の『奇跡』。遺体は互いに引き合う『引力』を持つ。

 

【Weapon】

『無銘・鉄球』

鉄球の回転を発生させるのに必要不可欠な武器。普通の金属からでも作成可能。

 

『ヴァルキリー』

ライダーの愛馬。4歳のストックホース。呼べば何処からともなく現れる。8呼吸ごと一度、体を左にぶらしながら走るクセがある。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。