Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
迷っているヒマはない。
人々の悲鳴が聴こえてくる。
視界はスローモーション。
跳ね飛ばされる人々。
車はもう、すぐそこに。
自転車のサドルを踏み台にジャンプして、車を飛び越える。
「ぐ…ぅ…ッ」
受け身は取れなかった。
リュックがクッション代わりになってくれなかったら背中を強打して危なかった。
車に轢かれた自転車はグシャグシャのスクラップになってしまった。
もし、これで一瞬でも判断が遅れていれば、俺も…諸共スクラップだった。
「うわああああああああああァァッ!!?」
劈くような悲鳴。
辺りは混沌としている。
なんとか身体を起こして、状況を整理する。
周囲の殆どの人々は車に轢かれて致命傷。
遠くにいる人々がケータイで通報している。
目と鼻の先で、子どもが血を流している。
まだ小さな男の子。
頭から血を流して、呼吸が衰弱していく。
リュックから救急セットとタオルを取り出す。
まずは消毒。
タオルで傷を拭いてから、次は包帯。
キツくし過ぎない様に巻いて、回復対位にする。
応急処置に過ぎないが、これでも大分マシな筈だ。
「仗助ェェェーーーーッ!!!!」
人混みを押し退けて、妙齢の女性が飛んできた。
おそらくこの子の母親だろう。
遠くの方から救急車の音が聞こえてくる。
これで、もう安心…という訳ではないが、助かる命もあるだろう。
ここでやるべき事は終わった。
次は桜を探さなければ。
「あ、あのォッ!」
「すいません、行かないといけないんです」
背後から聞こえる女性の声を振り切って、とにかく地図で○印をつけた場所に向かって走った。
「ありがとォーーッ!!ありがとォォーーッ!!」
涙混じりの叫び声を背に、とにかく走った。
背中が痛い。脚が痛い。
着地した際にぶつけた手が痛い。
それでも俺は走る。
ふと、手に違和感を感じた。
怪我したかも………
だから、チラリと見た。
ズブズブズブ……ッ
異様だ。異常だ。あり得ない。
手のひらにくっついたコンクリートの破片。
それが……芋虫のように蠢いて、手のひらを食い破るように中にメリ込んでいくッ!?
「うおおおおおおおッ!!?」
すぐ近くの路地裏に転がり込む。
手のひらの『破片』は蠢いている。
まるで『生き物』だ。
灰色のコンクリートは黒く変色しながら、皮膚を突き破って、益々メリ込む勢いを増していくッ!!
リュックの側面のポケット。
そこには十徳ナイフが入っている。
急いで取り出す。
この間にもドンドン一人でに食い込んでいく。
十徳ナイフの機能その①…ねじ回し。
それを手のひらに突き立てて、テコの原理で破片を抉り出す。
ブシッ…シュッ…!
「うぐあ……ッ!」
痛みで声が漏れる。
摘出された破片は元の灰色に戻り、パラパラと粉のようになって砕けた。
手から出血が止まらない。
今度は救急キットの包帯。
消毒しているヒマはない。
おそらく……俺の予想が正しければ……!
まず、走る。
話はそれからだ。
俺は『攻撃』されている。
暴走した車が突っ込んで来ただけなら、これは単に『不幸』なだけだろう。
だが、あの黒く変色した『破片』からは『魔力』のような…それでいて何か不吉で…異様な
走る。走る。とにかく走る。
一直線に地図の○印は目指さなくていい。
とにかく、この攻撃について知らなければ。
そこら辺の駐車場で、一旦座り込む。
息を整えながら、地図を開く。
ここから近い○印は『冬木中央公園』
人通りが全くないワケではないが、それなりに敷地が大きく、無視する理由はない。
そして、攻撃されている今!
かなり開けた場所である『公園』に行けば…『敵』からの攻撃も避けやすいだろう。
とりあえず『目的』は定めた。
後は、この攻撃について解析する。
「これは『ヘルター・スケルター』」
ま、『また』だッ………!
何処からか『女の人の声』が聞こえるッ!
コイツが攻撃しているのかッ……!?
コイツの『正体』を暴かなければ…ッ!
「貴方が『厄災』から逃れる術は……」
駐車場の中でカンヅメったって仕方がない。
まず、『冬木中央公園』の方向へ走る。
「早く『諦める』しかない…たったそれだけ」
五月蝿い。
訳の分からない事を言ってきた。
そんな声に惑わされない。
考えを止めるな。
俺に『出来ること』と『やるべき事』
それだけ考えろ。
考えるんだ…!
『走る』事は誰でも出来る。
だからこそ、
そして勝算を考えろ……
直接、攻撃してくる相手を叩くのは出来ない。
そう……『俺では出来ない』……
『居場所』も『正体』も分からないままでは、だ。
ならば……
そうして、攻撃を避けて、隙を見て慎二に連絡し、ライダーに来てもらって、二人で共闘する。
今、やるべき事は…
『生き残る事』と……
『情報を集める事』だ。
それが俺の『役割』なんだ…!
「貴方は禍いを『
街中を走る。
すれ違う人々の合間を縫って。
なるべく車道から離れる。
時には路地裏も意識して。
そろそろ『公園』が近い。
「それが『ヘルター・スケルター』の能力」
遠くから何かが聞こえる。
これは…何かが崩れる音。
ガラガラ、ガシャーンという音がした。
目の前に見えるコンビニの隣…更に1つ隣。
工事現場。
足場が組まれていて、大勢の作業員が居る。
クレーンが『鉄骨』を釣っている。
何かが崩れる音がする。
足場とか…色んな所に置かれた資材。
地面を掘るドラグショベル。
目の前には、親子。
父親であろう男と手を繋いでいる少女。
もっと、早く走らなければ…!
俺の予感が正しいのなら…!
「危なァァァァァッッッ!オアァァァァッ!!」
野太い男の叫び声と同時に、耳を劈く轟音。
工事現場の足場が崩れ落ち土とかレンガといった…資材があっちこっちに飛んでいく。
崩れた足場が雪崩のように現場に降り注ぐ。
それがクレーン車にブチ当たり………
身体をチョッピリだけ前に倒す。
前傾姿勢は、
肺が焼けるように痛い。
脇腹もだ。まるで何かを刺されたような痛み。
脚の筋肉が悲鳴をあげている。
このままではブチブチと千切れてしまいそうだ。
だが、このままでは…!
取り返しのつかない事になるッ!!
「どけェェェーーーーーッッッ!!!」
「え?」
勢いのままに両手を伸ばしてタックル。
男と少女の背に向かって。
二人は突然、背後から押されたせいで、グンッと…前方にブッ飛んでいく。
ドグォオオォォンッ………!!
俺の真後ろから聞こえる轟音。
大地を揺るがす程の轟音。
その振動によって脳ミソがシェイクされた。
最低最悪な気分だ。
しかも、耳鳴りがする。
『ピーーーー』という音が頭の中に響き続ける。
目の前の親子は困惑して混乱している。
だが、怪我はなさそうだ。
本当に良かった。
このまま放っておけば、まず間違いなく落ちてきた『鉄骨』の下敷きになっていた。
全身が重い。起き上がれない。
俺は一瞬だけ、自分の限界を超えた。
限界の限界を超えて走った。
その代償として、今の俺はまるで丸太になった……みたいに動けない。
肺が痛い。脚が痛い。頭が痛い。耳が痛い。
荒くなった呼吸が容赦なく冬の寒風を吸い込む。
全身の血管に氷水をブチ込まれたみたいだ。
そして煙で前が見えない。
舞い上がった砂と、砕けたコンクリートの地面と、『鉄骨』の破片とか色々な物が空気中を漂って……
「あ」
ズブズブズブ……ッ
落ちてきた『鉄骨』は赤色だった。
なのに、今…俺の腕にメリ込んでいく鉄骨の破片の色は『黒色』…!
この破片はさっきよりも大きい。
俺の手どころか腕くらいの大きさ。
こうして大きくなった事で分かったのは……
ただ『黒い』ワケじゃあない。
表面には所々『血管』みたいな…赤い線がある。
これは『魔術』なのか……!?
それとも、
「うおおおおおおおおおッ!?」
ダメだ。
コンクリートの破片と違って摘出は無理だ。
鉄骨の断片が、俺の右腕を覆っていく。
そして…右腕の感覚が
何も感じなくなっていく。侵食されていく。
どんどん…鉄が内に入り込んでいく。
そうして……俺の右腕の表面は……!
「お、重い……そして動かない……!」
感覚は完全に死んだ。
これでは身体のバランスが崩れる。
全身の骨と筋肉が軋む。そんな音がする。
だが……それでも走らなければ。
耳鳴りは、まだ止まらない。
目の前の親子が何かを言っている。
俺はそれを無視して、右腕を抱えながら走る。
『公園』はもうすぐだ。
あそこなら、車も鉄骨もない。
枯れ木と枯れ草くらい。
人気もなく、開けている。
右腕が重い。
たまに脚がもつれそうになる。
俺の身体は最悪だ。
俺の気分も最低だ。
そしてこの『攻撃』はそれよりもっと最低最悪だ。
「さぁ…気をつけて…『厄災』がやってくる」
何が『厄災』だ。
ふざけやがって……!
俺は『この攻撃』をする奴を憎み始めている。
コイツの目的はたぶん『俺を始末』すること。
つまり、車に轢かれた人たちも。
鉄骨に潰されかけた親子も。
全員、無関係。
ただ、俺のせいで巻き込まれただけだ。
「これが『ヘルター・スケルター』」
声だけしか聞こえない。
いくら首を振って視線を動かしても。
何処にも怪しい人がいない。
ようやく『公園』の入り口が見えてきた。
並木道を走り抜けて、中心の広場まで向かう。
人気はない。街中なんかよりも遥かにない。
立ち止まると、腕の重みで身体が勝手に倒れる。
右腕は未だに『鈍色』のままだ。
重みも見た目通り。
腕が丸々一本の金属になっている。
辺りに誰もいない。
「てめェーーーーッ!!何も知らない人たちをッ!ましてや子どもまでッ!利用しやがってッ!!」
俺の中の『怒り』が爆発しそうだ。
コイツだけは……コイツだけは……!
「だってそれが…『ヘルター・スケルター』…」
「ハァーッ………ハァーッ………やっぱり…それがてめーの姿かよ…!…全身真っ黒野郎……!」
とうとう、ソイツは姿を現した。
遠くから、ソイツが歩いてくる。
黒いドレス。
夜の闇なんかよりも、よっぽど深い黒。
それ着る者もまた、黒い影。
まるで『影法師』だ。
それが目の前に、クッキリと存在している。
これが、この『攻撃』をしてきた本体。
そして、絶対に許してはならない敵だ。
◆
【ヘルター・スケルター】
遠隔自動操縦型スタンド。
このスタンドは、このスタンドの本体を追跡しようとする行為などを実行した者に、ありとあらゆる『厄災』を振りまくという能力を持っている。
この追跡というのはただ追いかけるだけでなく…
攻撃する。
倒そうとする。
心配で近づく。
等も追跡判定となる。
このスタンドのターゲットになってしまった人間は様々な『厄災』に襲われるだけでなく、襲ってきた『厄災』の物質を『吸収』してしまうという性質を付与されてしまう。
例えば、拳くらいの大きさのコンクリートの破片が飛んでくるという『厄災』に襲われ、手にブッ刺さった場合、手が丸々コンクリートとなってしまう。
見た目は真っ黒なドレスを着た、真っ黒な女性。
その見た目はまるで『影絵』そのもの。
透き通るような…綺麗な声をしている。
【ステータス】
破壊力 - なし
スピード - なし
射程距離 - なし
持続力 - なし
精密動作性 - なし
成長性 - なし
スタンド名の由来は『ザ・ビートルズ』の楽曲。
『ヘルター・スケルター』