Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#32 ヘルター・スケルター その③

視界を共有した『翅刃虫』が間桐邸の中を飛ぶ。

走るライダーと並走し屋敷中の部屋を暴いていく。

しかし、何処にも誰もいない。

一番怪しい地下室にも、隠し部屋にも。

たぶん、可能性①じゃあない。

厄介な事態になってきた。

可能性②である場合、必要になるのはとにかく街中を走り回ることだ。

なんて、メンドくせー。

もう部屋は全て見た。

ライダーが廊下で止まる。

 

その直後…黒電話が鳴った。

ぼくは『翅刃虫』を動かして、壁に文字を彫る。

この虫の顎は牛の骨すら噛み砕く程に頑丈であり…しかも鋭い。

『マテ』…と文字を彫る。

そして一旦接続を切って、黒電話を取った。

 

「もしもし衛宮です」

 

「嘘ついてんじゃあないわよ」

 

「チ!……何の用だよ、遠坂」

 

電話の主は遠坂だった。

声色は苛立ちを孕んでいる。

コイツ、いつもイラついてんのな。

万年生理かよ…このクソ(アマ)ァ…

 

「聞きたいことが多すぎるの、今から向かうわ」

 

「フーン……別に構わないけど……」

 

返事をした瞬間に切りやがった。

礼儀知らずが。

遠坂が何でこっちに来るかなんて、どうでもいい。

とりあえず、ぼくにはやるべき仕事(タスク)がある。

衛宮に持たせたケータイに電話をかける。

 

「可能性②の線が濃厚だ……おい、どうした?」

 

「俺は今!攻撃されているッ…場所は公園ッ!」

 

それだけ言って、衛宮は電話を切った。

かなり、切羽詰まった状況らしい。

すぐさま『翅刃虫』との接続を繋げ直し、壁に文字を彫っていく。

 

『イマスグ コウエン』

 

視界に映るライダーは馬を呼び出して、間桐邸の窓ガラスを豪快に突き破って外に飛んで行った。

コイツどんだけウチの窓割るんだよ。

まぁ……いいや……別にどうでも。

今出来る事は、これで終わり。

後は『祈る』しかない。

それにしても、妙だ。

一体、誰が…衛宮に攻撃しているのか。

昨日からずっと、『虫の知らせ』が止まらない。

窓の外をチラリと見ると、鈍色の雨雲が見える。

もうすぐ…雨が降るだろう。

これからザーザー降りになるかも。

それが何だという話ではあるが。

 

 

 

 

目の前の『影法師』は動かない。

俺がケータイで電話していた時も。

そして今も……

直接、俺を殴ろうとはしてこない。

正直かなり不気味だ。

目の前の存在は『殴って解決』できる奴じゃない。

それが直感的に理解できる。

 

「わたしを『追跡』しなければ『無事』で『幸せ』に過ごせます……どうして…たったそれだけの事も出来ないんですか?」

 

「誰がお前の言う事なんか……」

 

「『ヘルター・スケルター』…不幸の出目が出る」

 

雨雲が空を覆っていく。

空は俺の腕のように鈍色に染まっていく。

真冬の風が強くなっていく。

枯れ木が揺れ、枯葉を落とす。

目の前の存在は動かない。

ジリジリと時間だけが過ぎていく。

直接殴るべきか……?

 

俺の頭の中の選択肢。

①このまま様子見。

②木刀で殴りかかる。

③目の前の敵から逃げる。

 

俺の直感だが、②は物凄くマズイ気がする。

ならば①か③の二択………

コイツが言っている事が真実ならば、俺は逃げる事が出来るらしい。

だが、ここで逃げたってどうする…?

もしかしたら、コイツのせいで他の人たちが犠牲になるかもしれない。

それに、目の前のコイツと『あの夜に襲いかかってきた影』が全くの無関係とも思えない。

ここで倒さなければ。

街中で野放しになる可能性がある。

ならば、情報を集めなければ……!

 

「教えてあげます……()()()()()()()……」

 

「…………は?」

 

刹那、俺の左手に痛みが走った。

手の甲に、一点だけ。

ほんのチョッピリだけ…針で刺されたような痛み。

 

「こ、これは…!」

 

手の甲に『水ぶくれ』が…できている。

そして熱い。

頭とてっぺんと手が熱い。熱くて痛い。

 

「『ヘルター・スケルター』……雨が降ってくる」

 

「うおおおおおッ!!?」

 

すぐさま近くの木の下に飛び込む。

小雨が降ってきた。

雨粒が俺の身体に接触した。

そして接触した瞬間……俺の皮膚に『水ぶくれ』が発生した。

これは能力によるものだ。

この『影法師』の能力…!

魔術ではない…もっと別の特殊な能力だ…!

 

「貴方は『諦めるべき』です…たったそれだけ」

 

透き通るように綺麗な声。

それが何故か……()()()()()を連想させる。

コイツの言っている事……それは『ピース』だ。

頭の中で、最悪な(パズル)が埋められていく。

考える事をやめてしまいたくなる。

それは許されない。

それだけは、やめてはならない。

『影法師』は…ゆらゆらと揺れている。

 

「考えろ……考えろ……考えろ考えろ考えろッ!」

 

コイツの言っている事はデタラメじゃあない。

俺を混乱させる罠とかじゃあない。

まず、そう仮定する。

コイツは『追跡』を止めろと言った。

だが、俺は最初からコイツを追跡するつもりなんて、これっぽっちもなかった。

なんなら、今もだ。

俺はずっと攻撃を避ける為に走っていた。

なのに、俺に『厄災』が降り注いでいる。

つまり『スイッチ』はコイツの『追跡』ではない。

 

俺は……ずっと、誰を『追跡』していた…?

それは当然…『桜』だ。

答えが浮かび上がってくる。

 

「桜なのか?…それか桜に関する何かなのか…?」

 

「………………」

 

目の前の存在は無言を貫いている。

答えは返ってこない。

これが……こんな悍ましい能力……

桜とは思えない。思いたくない。

俺の中の『怒り』が消えていく。

鎮火したそれが形を変え、次第に『恐怖』になる。

()()()()()()()

()()()()()()()()()()()

冷や汗が止まらない。

右腕が重い。

枯葉を通り抜けた雨粒が、皮膚を襲う。

身体の外も中もボロボロになっていく。

それでも……少なくとも…俺だけは……

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

正体を暴いて…真実を明らかにするまでは…!

 

「大したもんだ…気に入ったぜ…エミヤ・シロウ」

 

「ライダー…!…来てくれたのか……!」

 

雨が強くなってきた。

土砂降りの雨の中。

ライダーが佇んでいて…『影』を睨んでいる。

 

「だから……()()()()()()()()()()

 

彼は…その手に持っていた『何か』を俺にポイッと投げ渡してきた。

結構な距離があったのに、その『何か』は正確に俺の左手に収まった。

 

その『何か』は……

ミイラの『目玉』だった。

 

「は?……はァァァァッ!!?」

 

「オレはコイツの相手をする…お前は追跡係だ」

 

「おいッ…事情を説明してくれェッ!!」

 

「時間がねーんだッ!…とにかく行けッ!!」

 

ッ!

確かに……そうだ…ッ!

ライダーが俺に『目玉』を渡したのには……

必ず何か()()がある。

今それを呑気に聞いている場合じゃあないッ!

 

「ここに来る途中で大体は見て回ったッ!………確認(チェック)してないのは『冬木大橋』の周辺だけだッ!」

 

俺は知らなければ。

桜を縛る『間桐の呪縛』だけじゃあない。

この…『呪い』としか言い表せない『力』…

その謎を。

その真実を。

雨粒が俺の全身を貫いていく。

顔中は水ぶくれ塗れになった。

瞼が圧迫されて、視界が悪い。

左手に握り込んだ『目玉』を落とさないように……右腕の重みに振り回されないように走る。

記憶と勘を頼りに、近道を探す。

目前に迫る横断歩道。

信号は赤。

あの『厄災』が続いてるのなら、信号無視は………まさに『危険信号』だが、もうこの際なりふり構っていられない。

ガードレールを飛び越えて、斜めに突っ切ろう。

だから『目玉』をポケットに入れようとした。

 

「え!……あ、あれ……?」

 

握り込んでいた筈の『目玉』がない。

まさか……落としてしまったのか。

背筋が凍る。

あの状況で渡してきたということは、何か大事な…重要な『モノ』だった筈。

すると、違和感を感じた。

まず、左腕が痒くなった。

最初は水ぶくれのせいかとも思った。

だが、そうじゃあない。

それどころか、頭のてっぺん、顔、左手の水ぶくれがドンドン治っていく。

視界が良くなっていく。

今やもう……雨は脅威ではない。

 

グニグニグニ…ィ……

 

俺の左腕の中で、小さな球体が這い回っている。

もう……パンクしそうだ。

今日一日だけで()()()()()()()()

だけど、事実は変わらない。

『目玉』が体内に入った事で、水ぶくれは治った。

そして、それはライダーが俺にくれたモノ。

つまり左腕に入ってきているのは、この『目玉』に攻撃されているワケじゃあない。

そう思いたいし、そうでなきゃあ困る。

 

「クソッ!…一体、なんなんだァーッ!!」

 

困惑している間に、信号は『青』になっていた。

 

 

 

 

鉄の味がした。

お次は吐き気。

気合いで台所に行って、喉に指をツッコむ。

吐き出したのは、夥しい量の血。

ぼくに『終わり』が近づいている。

あと何日…持つのだろうか……

あと何回…桜の顔を見れるのだろう……

死神の足音が、遠くから聞こえてくる。

そんな気がする。

血を水で流して、口を濯いだ後、キッチンペーパーで拭き取った。

完璧に後処理をした直後、なんか無駄にタイミング良くインターホンが鳴った。

玄関を開けると、傘を持った遠坂がいた。

生理前みてーにイライラしている。

 

「………上がってもいいかしら?」

 

「………それって…ぼくの許可いる?」

 

「……確かに」

 

なんだ今のやり取り。

傘立てに…その無駄に高級そうな傘をツッコんで、ズカズカとウチに入り込んでくる。

居間には、ぼく1人。

つまりオモテナシする側は、ぼくだけ。

これもまた高級そうな赤いコートを脱いで、几帳面に畳んでいる遠坂を尻目に、台所でお湯を沸かす。

なんでこんなこと…やらないといかんのだ。

なんだかコッチまでイライラしてきたぜ。

 

カモミール・ティーを二つ淹れる。

砂糖とミルクは…いいや、めんどくせー。

そうして淹れた後で気づいたのだが、これで両手が塞がったら、ぼくは行動不可能になる。

 

端的に言って……詰んだ。

 

もうオモテナシとか、どうでもいいや。

顎をしゃくって遠坂を召喚する。

呆れた顔をしている。

別にどうでもいいんですけどね。

 

「テーブルまで持ってってくんない?」

 

「はぁ……なんか毒気を抜かれるわね」

 

「どうも」

 

うん。

因みに言うと、今の状況って、かなりヤバイ。

もし目の前のコイツが突然キレたらお終いだ。

いや……キレなくても、『ブッ殺すべき』だと判断したなら、その瞬間にソッコーでヤられるだろう。

どうせアーチャーも側に居るだろうし。

なんで……こう……タフな状況ばっかになるかね。

ぼくの前世は極悪人なのかもしれない。

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