Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
物凄く気まずい。
窓の外では雨がザーザー降りだ。
遠坂は普段…カモミール・ティーを飲まないのか、ちょっとだけ首を傾げている。
しかし、一口飲めば案外イケるって思ったのか…?特に何も言わずに音を立てずに啜っていた。
それにしても何故……ずっと無言なんだ……
これはぼくも…なんだが、喋るタイミングを完全に失ってしまったせいだ。
とりあえず、お茶請け用に机の上に置いてあった…箱に入ったチョコを食べる。
すると、めっちゃガン見された。
「…………………食うか?」スッ
「……………………どうも」
ぼくたち、何してんだろう………
『本当にお互いノリ気じゃあない時の』お見合い…みたいになっている。
さっきまでの緊張感が緩んできた。
雨の音が聞こえる。
天気予報では、夜に降る筈だったんだが。
やはり…あの番組の気象予報士はダメだな。
テキトーな仕事しやがって。
「慎二……
「…………は?」
「貴方が書いた論文、見たわ」
会話の流れが急ハンドル過ぎる。
何時まで生きられる…か。
それは、ぼくにも分からないし……
たぶん誰にも分からないだろう。
今日、間桐邸をくまなく探索した際に、所々荒らされた形跡があった。
ぼくたちが留守にしている間に、遠坂も探索していたのだろう。
その時に、論文を発見したって所かな。
「人の論文を勝手に見やがって……アンタ強盗?」
「蟲を盗む趣味はないわよ……夏休みの小学生男子じゃあるまいし……」
心底不愉快そうな顔。
それもそうだろう。
間桐の業は醜い。
ウチを見てきた、という事は…その業を余す事なく見てきたという事でもあるし、歴とした魔術師であるなら知識がある分、尚更わかってしまうだろう。
「さて……これから貴方に…幾つか『質問』をするけれど、いいかしら?」
「『NO』と言いたいんですけど?」
「なら『質問』が『拷問』になるわね」
サラッとヤバい事を言っている。
これ、録音して全校放送してやりたいね。
「質問その①…貴方は何時まで持つ?」
「
マジ正直に答えるなら…こうだ。
ちなみに遠坂はこんな事言われても、これっぽっちも悲しそうな顔はしていない。
シンプルな真顔だ。
こーいうのって、ポーズだけでも悲しそうにするもんじゃあないのかね。
女子とは思えん共感能力の低さだ。
「質問その②… 貴方の目的は?」
「間桐臓硯をブッ殺して、桜を救う」
今度は満足気に頷いている。
何がコイツの琴線なんだよ。
「正直、妹の為にここまで体張ってたなんて………結構……意外だったわ……」
「フンッ……アイツはグズだからな……」
「何を…今更ワルぶってるの?」
あぁ〜〜〜…ブッ殺してェ〜〜〜〜〜〜〜ッ
そのニヤケ面が不愉快だ。
ぼくが『紳士』じゃあなかったら、多分ブン殴ってしまっていたかもね。
「質問その③…あぁ、ちなみにコレが『本命』ね」
「何を勿体ぶって…」
「
刹那、目の前…つまり視界の中央に突きつけられた指先が見えた。
そして、ぼくの身体は切り倒された丸太のように……動かなくなってしまった。
まんまとしてやられた。
これは魔術による『金縛り』だ。
シンプルで、単純な魔術。
おそらくは
だからこそ、瞬間的に発動できる。
更にダメ押し…このクソ
ぼくは今マジで全力で抵抗している最中だけれども、全く脱出できる気がしない。
そのくらいの拘束力だ。
これが、天才魔術師………
こーやって…ちょいと本気を出すだけで……ぼくはまるでブリキの人形みたいになっちまった。
「呑気にカモミール・ティーを頂いてるとでも?」
クソォ〜〜〜ッ……割と正論だ……!
「わたしはね、貴方が『桜の味方』であるという事に関しては…100%信じる事にした……だけど……あと…もう『1%』だけ『
「ま、全く動けん…!…クソッ…!」
「ちゃんと集中して魔力感知すればね、アンタの『左腕』が『異常』だって事くらい分かるのよ……それで…?『ソレ』…説明してくれるわよね?」
これは……もう…完全に『
どーこう出来る状態じゃあない。
衛宮もライダーも帰ってくる気配はない。
そんなワケで、大人しく白状した。
これが『聖人の遺体の左腕』である事。
それが体内に入っている事。
それによって『魔術ではない力』を手に入れた事。
多分この『遺体』は本来は何処かにあったのに……ぼくが召喚した『ライダーの性質』によって此処まで引き寄せられた…という推測。
この『遺体の正体』は軽々しく口に出せないレベルで、何も考えずにバカみたいに吹聴すれば聖堂教会から神父ガチ勢が『殺る気マンマンのムンムン』でやってくるかも……という懸念。
最初は割と興味深そうな顔をしていたが、この話の後半…つまり『聖人の正体』くらいに差し掛かってくると、顔がどんどん引き攣ってきて、乾いた笑いを漏らすようになっていた。
凄まじくレアな表情だ。
「一応……感想を聞いておこうかな?…どう?」
「気が狂いそう」
まぁ、そりゃあ……そうか。
誰だってそーなる。
ぼくもそーなる。
てか…なった。
「ちょっと情報の処理が追いつかないけど…まぁ…これでアンタの目的の…『裏』のさらなる『裏』に『だまし討ち』と『裏切り』が潜んでない事は……ちゃんと
「そりゃあ…どうも……」
金縛りが解けて、身体が自由になる。
よくよく考えたら、これって『質問』じゃあなくて、ガッツリ『脅迫』なんじゃない?
なんなの、マジで。
「そうね…
「はぁ?なんで…ぼくが?」
大体、魔術師なんて皆キチガイ連中だろ。
ぼくみたいな『紳士』には似合わないね。
てか、今さりげなく名前呼びに……?
「自分以外の為に先を目指す者。自己よりも他者を顧みる者。そして、誰よりも自分を嫌いな者………これが魔術師としての素質ってヤツよ」
何言ってんだ…コイツ…急に…?
なんか笑顔…?というか……
妙に優しそうな表情というか…
穏やかな表情というか…なんというか。
「お前……何…?……マジ不気味……」
「やっぱり今ここで殺そうかしら」
うわぁ。
やっぱり魔術師ってキチガイだ。
ぜってェ〜〜〜〜…なりたくないねェ〜〜〜……
うん……
◆
人々は皆、『
まわりの風向き次第で、行き着く先なんて……
くるくると変わっていく。
本来であれば…挫折を知らず、現実を理解出来ず、それ故にいざやってきた大きな挫折に躓いた結果、身を焦がし、狂気に駆られてしまうほど強い劣等感を抱いて、空っぽとなってしまう少年。
それが、たった一つのキッカケだけで…身を焦がすほどの『情熱』と、未来に描きたかった『夢』と、それら全てを失ってしまったという『挫折』を……『本来』よりも早い段階で経験する事になった。
尤も、その『本来の彼』といえる存在もまた、無数の可能性の一つといえるのかもしれないが。
『キッカケ』は小さな蝶の羽ばたきに過ぎない。
無限に広がる『平行世界』は……
無数の『
この世の中の『俗悪』に堕ちた者は皆…………
果たして本当に『そうなるべくして、なったのか』
少なくともこの平行世界では……
本来『空っぽだった少年』が誰かの『愛』によって苦難を乗り越え、『義憤』と『勇気』を胸に抱き、死すら恐れない『誇り高き者』となった。
人々は皆、『風船と一緒』だ。
行き着く先は、まわりの風向き次第。
だからこそ、『正しい道』にまで導いてくれる『風』と出逢える事を祈ろう。