Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
風呂場にブチ込まれた衛宮たちを置き去りにして、ぼくたちは居間に戻った。
そうして一息ついてみると、自分がめちゃくちゃに腹減っている事に気づいた。
一応、今日…朝飯こそ食べたワケだが、日中は昼飯抜きで桜を捜索していたんで、ただでさえ下痢したニワトリみたいにガリガリなぼくの体が、もはや、そこら辺の枯れ木の枝みたいになってきた。
更にダメ押し、疲れてヘトヘトになってもいる。
筋肉痛だし、魔術を使った影響で頭痛もする。
マジで最悪な気分だ。
誰でもいいからブン殴ってやりたいくらいに。
なんて、心の中で毒づいたってしょうがない。
目下の課題、晩飯はどうするか?
…………こういう時は『飯屋に頼る!』に限る。
ここ最近は衛宮作の和食、ぼくとライダー作のイタリアンと続いたんで、なんとなく…中華料理とか食べたくなってきた。
だから提案させてもらったのだが、遠坂がビミョーに難色を示していた。
なんでも遠坂は中華料理が得意だそうで、自炊する時の献立の殆どは中華で構成されているらしい。
……まぁ、『知るかッ!』ってのが正直な感想だ。
そもそも、ぼくは遠坂の事がフツーに嫌いだ。
スカした態度が気に食わないし、なんというか……普段は優等生ぶってる癖にちょっと親密になったら途端にイジりだしてくるのもシンプルにムカつく。
乗馬クラブにも、そーいう先輩がいた。
尤も、ぼくの乗馬の腕前を目の当たりにして、すっかり心が折れてしまって辞めちまったが……あの時はスカッと爽やかな気分だった。
思い出したら途端にムカっ腹が立ってきた。
だから『晩飯は中華!』を強行させてもらった。
遠坂も『絶対拒否する』という態度でもなかったのが大きい。
問答無用でライダーに2万円握らせて、この深山町の商店街『マウント深山』にある唯一の中華料理店『紅州宴歳館 泰山』で適当に、なんかテイクアウトさせる事にしたのだ。
外の雨は、いつの間にか止んでいる。
これでライダーをパシらせても心は全く痛まない。
◆
『冬木教会』
新都郊外の丘の上にある教会で、日本の教会にしては広大な敷地を持ち、以前は在住外国人が多かったこともあり、本格的な造りをしている。
教会の礼拝堂の奥には、もう一つ部屋があった。
そこは石の臭いがする部屋。
明かりは人工のものではなく自然のもの。
揺らぐランプの火が男の背中を照らす。
「言峰綺礼だな?」
声は気配もなく、背後からかけられた。
それに驚いた風もなく、椅子に腰をかけた男………言峰綺礼は静かに振り向いた。
「………英国の代行者が何の用だ?」
視界に映ったのは、金髪の美丈夫だった。
肩まで伸びた黄金のような長髪は絹のように滑らかで、それがランプの炎に照らされて、妖しい光沢を帯びている。
服装…紺色のスーツに赤いネクタイ。
そしてネクタイには所狭しと『Dio』と黄金の刺繍がされてあった。
彼の名前は『ディエゴ・スティール』……
英国の
「オレの『質問』に答えてもらうぜ」
ディエゴはそう言いながら、ポケットに手を突っ込みながら、壁に寄りかかった。
軽薄で無礼な態度そのもの……しかしそれは美丈夫がやると、まるでファッション雑誌の表紙のようにサマになる。
そして壁際のランプの炎が、その顔を照らす。
眉間に皺を寄せ、言峰を睨む双眸に穏やかさなど微塵も感じさせない……そんな顔が。
それでも言峰は意に介さず、鷹揚に椅子に座って、手元のあった羊皮紙を引き出しに仕舞い込んだ。
「よく聞け…オレは、はっきりと知っておきたい」
「……………」
「おまえか……或いは他の誰かが、この冬木市で、
「ほう………」
「繰り返すぞ、
問いかけに対し、暫し沈黙が続いた。
が、言峰は途端に椅子から立ち上がりその光を宿さない昏く濁った双眸を客人に向けた。
「私の知るところでは、
「そうか」
言峰の明確な否定の言葉を、アッサリと受け止め、招かれざる客人は背を向けた。
ランプの炎で照らされた黄金の後髪が光沢を孕む。
ディエゴは一歩踏み出そうと片足を上げた。
だが唐突に、ピタリと足を止めた。
石造りの部屋に、鼻を鳴らす音が微かに響く。
『クン、クン…』文字に起こすならこうだろうか?
少しばかりマヌケな音だ。
「オレね、ちょっとした『特技』があるんだ」
「……………」
「実は『匂い』に敏感でね…アパートに住んでいた時とか、隣の部屋のヤツが吸ったタバコの銘柄まで当てれたんだぜ、オレは部屋の中に居たのにだ……銘柄はマルボロゴールドだった」
「…………おまえは何が言いたい?」
「所でランプは好きか?明かりはつかないが」
ドガッ!
軸足が180°回転し、畳まれていた片脚がグンッ!と伸びて振るわれる。
彼の蹴りはランプを台座ごとヘシ折り、勢いのままに再度振るわれた蹴撃が宙に浮く火屋を蹴飛ばし、言峰の顔面に目掛けて弾丸のように放たれた。
「むっ…!」
バリンッ!と硝子が割れる音。
咄嗟の防御によって、顔面に痛手こそ負う事はなかったが、破裂した火屋によって、彼の黒い修道服に飛び散った油が染み込んでいく。
「
ディエゴは革靴を背後に脱ぎ捨てネクタイを緩め、ジャケットも背後に投げ捨てて、それから…まるで礼拝の時のように体を丸めて屈んだ。
「『T.レックス』ッ!」
それはまるで、肉体の隆起だった。
何かが弾けるような、ひしゃげるような、折れるような……奇妙な音が響き渡り、ディエゴの肉体が変化していく。
ワイシャツが破れ、スラックスの膝下も破れ、ボタンとベルトが弾け飛ぶ。
尋常ならざる様子に、言峰が構えをとった時……
既にそこには
「SYYAAAAAAHHーーーーーッ!」
石造りの部屋に咆哮が響き渡る。
その恐竜の形態は、例えるなら………
2
◆
【T.レックス】
『ディエゴ・スティール』のスタンド能力。
自身を恐竜化させる事が出来、それに伴い、野生の猪や熊を素手で軽々と引き裂く程の怪力、至近距離で放たれた銃弾を視認して回避できる程の動体視力と敏捷性、人間の匂いを嗅ぎ分ける程の嗅覚といった能力を得る。なお恐竜化しなくてもある程度これらの能力は使用できる。
恐竜化した姿は『ティラノサウルス』によく似ているが、大きさは2
言ってしまえば、ただ恐竜になるだけのシンプルな能力だが、ディエゴ自身の意思や知識に影響がない為、恐竜の強靭さと人間の知能を併せ持つ、異形の生命体に変貌できると考えれば、強力な能力と言えるのかもしれない。
【ステータス】
破壊力 - A
スピード - A
射程距離 - E
持続力 - A
精密動作性 - C
成長性 - D
名前の由来はイングランド出身のロックバンド……
『T.レックス』から。
◆
30分くらいしてから、顔を真っ赤にした衛宮と桜が、風呂から上がって居間にやってきた。
と同時に、ライダーが両手にレジ袋を抱えて帰ってきた。
黙々と食卓に並べられ、香辛料のウマそうな香りが居間を包んでいく。
そういえば、メニューはライダーのお任せにしてしまっていた。
餃子とか、北京ダックとか…注文をし忘れていた。
並べられる料理はどれも見慣れないものばかり。
いよいよ嫌な予感がしてきた。
「…………えぇ」
衛宮がドン引きしている。
いや、間違えた。
遠坂とライダー以外の全員がドン引きだ。
顔を真っ赤にして『青春真っ盛りです』な雰囲気を出していた桜も正気に戻ってしまった。
一応、ここでメニューの詳細を説明しよう。
主食:皮蛋牛肉粥*1
主菜:烤田雛*2
副菜:梅子明炉鳥魚*3
副ケ菜:煮貝子*4
どんなラインナップだよ。
「ガハハニョホ!カワイイちびっこ店長に押し売りされちまってな!」
そう言って強がっているが、よく見ると額に冷や汗をかいている。
お前のせいでお通夜状態だよ。
並べられた料理にドン引きしていると、レジ袋からもう一つ『なにか』が出てきた。
それは水筒くらいデカい黒い容器で、ラベルには『一味唐辛子』と書かれている。
そして蓋の部分にはメモが貼り付けられていた。
『サービスの一味アル!〜魃〜』
どんなサービスだ。
とりあえずコレは見なかったことにして、テキトーにそこら辺に置いておいた。
この身体じゃあ台所に持っていくのも一苦労だ。
なんでこんな意味わからんシチュエーションで自分の無力さを嘆かなくっちゃあならないんだ。
「……えと、ありがとうな、ライダー」
「個性的な献立で良いと思います、はい」
「?……美味しいわよ、烤田雛」
三者三様のリアクションを皮切りに、夕餉の時間が始まった。
てか、遠坂……おまえ、カエル食えるのか。
「ライダー、貴方いいチョイスしてるじゃない」
「マジすか!?」
そんな会話を聞き流しながら、飯を食った。
味は……うん、悪くない。
というかウマい。
ただし烤田雛……テメーはダメだ。
見た目がいただけない。
あまりにもシルエットがカエルすぎる。
イタリアンもそうだが…料理は味だけでなく見栄えも含めて『料理』なのだ。
やはり遠坂とは相容れない。
ぼくは徐々に賑やかになっていく食卓を尻目に、小さく舌打ちをした。