Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
食後はやたらと眠くなる。
飯を食った直後は、身体の中で血糖値が急上昇。
それに伴って『インスリン*1』が分泌される。
俗に言う『血糖値スパイク』というヤツだ。
ぼくの身体は脆い。
日に日に
うっかり寝ちまったら、そのままお陀仏になるかもしれない。
やたらと眠いし、とにかく疲れたが、シャキッとしなければ……
「慎二も中国茶でいいか?」
「何でもいいよ、別に」
そう……カフェインが取れればね。
でも、結構イイかもしれない。
最近はカモミールかコーヒーばっかりだったし……ぼくは舌が肥えたグルメなもんで、毎日毎日まったくおんなじモノばっか食ったり飲んだり…ってするのはイヤなんだよね。
綺麗に拭かれた食卓の上に、人数分…つまり5つ、中国茶を淹れたアツアツの湯呑みが置かれる。
霊体化しているであろうアーチャーを含めたら、本来は6つ必要なワケだが……そういえば、ぼくってアーチャーの事、全く見てないな。
まぁ、いいや。別に大した問題じゃあない。
それに、遠坂の
ソイツがどんなヤツだろーと、邪魔になるならブッ飛ばすだけだ。
それにしても、このアツアツの中国茶…なんて銘柄かは知らんが、鼻に抜ける香りが華やかで、本当にイイお茶って感じで美味しい。
それに、いつもはティーカップで飲んでるから、視覚的にもちょっと新鮮だ。
「さて、それじゃあ本題ね、状況を整理するわ」
いつのまにやら……遠坂が鞄からノートとペンを取り出して、さらにメガネもかけている。
如何にも仕事できるオンナって感じでムカつくね。
「まずは衛宮くんの『右眼』が妙だけど……それも『遺体』かしら?」
「あ、あぁ……えっと、ライダーから借りた」
「そんなモノみたいに……」
それは同感。
バカかコイツ。
「…ライダー、『遺体』の事はある程度慎二から聞いたから、
「別にシンジがいいってんならイイけどよォ〜」
不満そうなライダーがチラリと目配せしてきた。
そういえばコイツ、遠坂とは馬が合わなさそうだったっけか。
顎でしゃくって促すと、渋々と『遺体』を手に入れる事で得られる『能力』について語り出した。
まず、この『能力』……これには通称がある。
その名も『
個人的にそう呼んでいたらしい。
スタンドには以下のルールが存在する。
①スタンドは『スタンド使い』の意思で動く
②スタンドが傷つけば、その『スタンド使い』……つまり本体も体の同じ箇所に同じ
③『スタンド使い』が死ねば、その本人のスタンドも消滅する
④『スタンド』が消滅すれば、逆にスタンド使いも死ぬ
⑤スタンド使いには『うまい』『ヘタ』がある
⑥スタンドは1人につき『1能力』である
⑦スタンドは、その本人によっては、
との事だ。
ライダーは今まで戦ってきた『スタンド使い』とその『能力』について語ってくれた。
遠坂は魔術師としての血が騒いだのか、真剣な表情でライダーの奇妙な冒険譚に耳を傾けている。
衛宮や桜もライダーに興味津々だったみたいで、メモ取ってるワケじゃあなかったが、それでも真剣に聴いていた。
チラリと遠坂のノートを覗き見ると、どうやら……『
【遠坂の見解(要約)】
仮説①:スタンド能力は、魔術とはまた別の方向の『根源』に繋がる『事象の川』と思われる。
『魔術』は、既に世界に定められたルールであり、人々の信仰がカタチとなり、人の意思、集合無意識、信仰心によって『世界に刻み付けられる』もの。
対して『スタンド』は『遺体の力』や『悪魔の手のひら』といった極大な神秘を秘めた存在……即ち『世界から授けられる』もの。
何故スタンド使いたちは『魔術回路』を持たないのか?
何故魔術師と違い、『たった一つだけの力』なのか?
それは、恐らく『スタンド使い』は『魔術』よりも遥かに『根源への細く…それでいて太い流れ』だから、と考えられる。
また、ライダーからの証言によると、『スタンド能力』の殆どは(コストなどを度外視すれば)魔術的に再現可能な能力である。
しかし、かつてライダーが交戦した第23代アメリカ合衆国大統領『ファニー・バレンタイン』氏の『スタンド能力』は、最早魔術の域では再現出来ない『魔法』そのものである。
正式名称『
同じ場所に隣の世界を同時に存在させられる能力。
第二魔法と全く同じ系統。
並行世界の証明と運営。
並行世界の観察、自身の同一性を維持しての移動を可能にする力。
奇しくもそれは、かつての…遠坂の祖先に魔道の秘蹟を伝授した『とある魔法使い』と類似している。
これらの事象から、『スタンド能力』と『魔術』
には共通点がある。
「なっげェ〜〜〜…学者センセーの論文かよ」
「なに勝手に見てんのよッ」
コイツ、よく人の話聞きながらここまでツラツラ書けるな。
まるで速記だ。
それに結構字も綺麗だし。
国会に出席できんじゃあないの?
「衛宮くんが目覚めた『スタンド能力』は、場所を『解析』する能力……これは魔術的には再現可能な領域ね」
「じゃあ、遠坂もおんなじ事が出来るのか?」
「
頼もしい発言だが、その割に苦虫を噛み潰したような顔をしてやがる。
それだけスタンドの燃費がイイのか………それとも遠坂の魔術系統がアメ車みてーに燃費が悪いのか。
「それじゃあ次、明日の方針ね」
現在残っている陣営。
ぼくとライダー。
遠坂とアーチャー。
イリヤスフィールとバーサーカー。
アサシンと誰か。
ランサー、セイバー、キャスターは脱落。
だが衛宮には『右眼』があるし、直接戦闘で貢献できなくても役には立つ。
ここからどう動くべきか。
もうこの聖杯戦争は『通常運行』とは言えない。
身の振り方を考えなければ………
「なぁ…イリヤと協力って出来ないか?」
「は?」
何言ってんだ……コイツ……?
「言ってる事が分からない…イカれてるのか?」
コイツ…クサレ脳ミソなのか?
いきなり問答無用でブッた斬られて、下半身とサヨナラさせられたんだぞ。
その癖に協力を申し出ようとしている。
「実は俺、何度かイリヤと会ってて………その時はちゃんと話し合ってくれた」
「おまえ…ど、どうかしているぞッ!」
一瞬、暗示でもかけられているのか、とさえ疑ってしまった。
だが、衛宮の目に『異常』はない。
そして『迷い』もない。
だからこそ、ぼくは少し『恐怖』すらも感じてしまった。
コイツひょっとすると、自分の命について、どうとも思っちゃあいないのか…?なんて、勘繰ってしまった。
それでも、ダンマリする訳にはいかない。
「はっきり言わせてもらう…情に流されて血迷った事をしようなんて…おまえは現実を見ちゃいない」
「慎二、それでも俺は…ッ」
「それじゃあ、どうするつもり?他に代案もないのに文句だけ垂れてんじゃあないわよ」
クソッ!遠坂…マジむかつくなァ……
人がこれから説教しようって時に口挟んできて……しかも名門大学に指定校推薦が決まったヤツみてーにスカした面までしやがって……
「……………もういっそ、逃げてしまってもいいんじゃないですか」
………バカが。
黙りこくってた癖にいきなり反論の余地しかない事言いやがって。
もう説教する気すら起きないねぇ。
だって、おまえ以外の全員が確実に『NO』と言うだろうからな。
「桜……それは……」
「ふーん?それで仮に逃げ出したとして、どうするつもり?北極の穴ぐらで衛宮くんと仲良くオーロラ見ながら、いつまでも暮らすのかしら?それとも、知り合いもいないどこかの砂漠で怯えながら慎二と毎日朝日を拝むのかしら」
「ッ……遠坂先輩………」
あぁもうッ!クソッ!
ぼくだって聖杯は欲しいッ!
おめおめと逃げ出したくもないッ!
だからおもいっきり遠坂をののしってやれないぼくも存在する………
だからってそこまで……突き放すように言うことないんじゃあないか!?
ヒドい事を言うヤツだ!ヒドすぎるぞッ!
遠坂凛ッ!!
「う………うう…………」
「
だが言ってる事は正しい………
乗るしかないのか……
桜は自らを抱いていて、今にも泣き出しそうになっている。
衛宮はそんな桜の手を握って……しかし歯を食いしばって、目を閉じていた。
「明日の朝……また、皆で話さないか……?」
「いいえ、方針は今ッ!ここで決める」
なんて言いながら、遠坂がこっちをジロリと睨んでくる。
その目に温かみはなく…氷のような冷たさで……
「慎二らしくないわ、
どうする………?
何とかして『イリヤスフィール』を相手に……
打ち勝つなり、交渉するなり……
でも、ぼくの『
やれるのか?
ぼくの『スタンド』や『魔術』では、ぜんぜん相手になる気がしない。
それに『ぼくらしくない』だって?
遠坂……おまえはさっき、そう言った。
いいや……
これが間桐慎二の進んでいる『道』なんだ。
おまえなんかには、わかるまい………
◆
ここで少し、ぼく……間桐慎二の話をしよう。
ぼくが生まれた時、間桐の血は既に役目を終えていた。
貴い血族である彼らは力を失い、間桐はただの『人間』になり下がった。
特別なものは蓄えられた知識だけ。
かつての魔道の名門は、この極東の地で人知れず滅びる定めとあったのだ。
その事実を、幼い時から聞かされていた。
間桐は秘跡を伝える一族で、特別な存在だったと。
既に過去形。
間桐には魔術を扱える者はおらず、今後はまっとうな人として社会に関わっていくのだと。
『あっそ』って思った。
ただそれだけだった。
使えもしない魔術の秘跡。
読めもしないルーン文字。
なにかもわからない素材。
過去……間桐の魔術師は何ができたのか?
どういった魔術を扱っていたのか?
根源をどうやって目指したのか?
『どうでもよかった』
それは、ぼくにとって『特別』じゃあなかった。
魔力を失い、魔術師でなくなった。
ならば、ここで魔道は
もう終わったモノだ。
それを無理やりに存続させようだなんてのは、きっとそれは間違っている事なのだろう。
ただ、それだけの話。
そう思えたのは何故だろうか?
今思えば、既にぼくは『特別』だった。
『馬』に乗って、一体となる。
風を切り裂き、加速する世界の中で、自分を信じてくれる
正に、『
だから、ぼくは『魔道』に興味なんてなかった。
それに、ひょっとすると、ぼくのホストファミリーだった『ジョージさん』の影響もあったのかもしれない。
あの人は、常々『誇り』の大切さを説いてきた。
誇りとはなんだ?と聞けば、決まってこう言う。
………ある日、1人の少女がやって来た。
父は身寄りのない少女を引き取り、養女にしたという。
もう十年以上前の話だ。
その少女は無口で、凡庸で、愚鈍だった。
ただその癖、何もかも諦めているような『絶望』に染まった昏い瞳に引っかかっていた。
端的に言うと、ムカついたのだ。
この『特別』なぼくの妹になれたのに、明日にでもこの世が終わって欲しいと願っているような瞳に。
だから、コイツも自分が『特別』だと思えるくらいに『幸福』にしてやって、毎日ぼくに感謝するようにしてやる……なんて、今思えば子どもじみた……それでいて奇妙な意地を張りたくなった。
そんな事をキッカケに、いつの間にかぼくたちは『家族』になっていた。
だから、自然と一緒にいる時間も増えた。
馬術大会で優勝した時も。
互いの誕生日の時も。
学校の行事の時も。
外に遊びに行った時も。
そして………ぼくが脚を失った時も。
初めて妹に会った時の、子どもじみた意地は、いつの間にか回り回って、ぼくに返ってきた。
『絶望』から救ってくれた。
だからこそ、ある日………
偶然知り得た『真実』を目の当たりにした時。
蟲の海の中で、肌を這われ、肉を貪られ、汗も血も涙も啜られ、尊厳さえも踏み躙られた妹を見た時。
ぼくは初めて間桐の『宿命』を思い知った。
『借りは返せ』と。
◆
時計の音が聞こえる。
カチ、カチ、カチ、と規則的な音が。
慎二が腕を組んで、眉間に皺を寄せている。
沈痛な雰囲気が居間を包む。
その間……俺もまた、同じように思考の海の中で藻搔いていた。
『ヘルター・スケルター』
交戦した黒い影。
アレは『魔術』ではない。
俺みたいなまだ半人前の『魔術師見習い』ですら、そう直感した。
おそらくは、『スタンド能力』
そうなると、『本体』がいる。
『ヘルター・スケルター』の言動……
俺の『追跡』を諦めるように促していた。
直接『攻撃』したりせず、『厄災』という間接的で湾曲した能力を行使してくる性質。
そして、見つけた時の桜の様子。
こんなのバカでもわかる………
あのスタンドの『本体』は桜だ。
どうすればいい?
桜に直接問い詰めるべきか?
慎二に打ち明けるべきか?
遠坂に共有すべきか?
ひょっとすると、桜のスタンドが無意識に『暴走』している可能性だってある。
そうなると、直接問い詰めるのは藪蛇なのは目に見えている。
チラリ、と見ると慎二は渋々俺の提案……
つまり、『イリヤと話し合う』方針に賛同した。
だが、それでも尚、俺の頭の中で………
誰かに話すべきか、あるいは黙っているべきか……
葛藤が頭の中で次第に膨らんできた。
俺は、一体……