Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
夢を見ている。
海に浮かぶ船。
質素な洋館。
そこに住んでいる家族。
家長である壮年の男が口を開く。
『男には地図が必要だ』
『荒野を渡り切る心の中の「地図」がな』
食卓には少しばかりの魚料理。ひと切れのパン。グラス一盃のワイン。
家族が食事を摂っている。
場面は変わる。
壮年の男と少年(彼らは親子なのだろうか?)が、馬車に乗っている。
それはとても塀の高い建物に入っていく。
中に着くと男はどこまでも穏やかに…そして荘厳にこう言った。
『人の幸福とは家族の中にこそあるのだ』
場面は変わる。
男は少年を背に歩き出して…覆面を被る。
右手には剣…左には『鉄球』…
「やめろォォッ!!オレは死にたくねェェ!!」
響く怨嗟の声。
石の台座に括り付けられる(おそらく)囚人。
その背に『回転する鉄球』が押し付けられると、囚人はたちまち静かになった。
スパァアァァン
首が落ちる。
剣が紅に染まる。
少年が血に濡れた剣を拭う。
これが…ツェペリ一族380年の任務。
◆
目が覚めた。
リビングに行くと、机の上にちっちゃめのコーヒーカップとダッチオーブン、そしてひと切れのパンが置いてあった。
ライダーが用意したのだろう………気が利く奴だ。
「今日も一日が始まるな…ところで『それ』は?」
「チリコンカーンだ」
チリコンカーンといえばたしかアメリカ…いや、メキシコ料理だったか…肉とタマネギとトマト、あと
こんな『身体』になってからは殆どメシが食えないようになってしまったが、こうしてわざわざ用意してくれたのだ…パンは食べられないにしても、具を少なめに掬えば深皿一杯分くらいはさすがにいけそうだ。
「うん……ウマイなこれ、初めて食ったけど」
「ニョホッ、隠し味にちょびっとイタリアンコーヒー入れてんのよ…わざわざ買いに行ってやったんだぜ」
へ〜〜…隠し味……そういえば西部劇の映画でやってたな。チリコンカーンとかの家庭料理は家庭ごとによって結構アレンジがあるらしい。
ぼくの分以外をあっという間に完食したライダーは、優雅にコーヒーを啜っている。
…どうやらぼくにも淹れてくれていたらしい。
「ほぉ〜〜このちっさいカップに入ってるヤツ?」
うわっドロドロだ。コールタールか?これは…
ぼくはコーヒーよりも紅茶派だから、あんまり詳しくないんだが…なんというかすごい異質な感じだ。
…でもいい香りだ、これが本場ってやつなのか?
「……おお、結構いける」
「だろ?評判イイんだこれが」
ライダーの淹れてくれたコーヒーのおかげで、目が覚めてきた。
うん、こうして飯を作ってくれるのは素直に嬉しい。
それにしてもわざわざイタリアンコーヒーを買いに行って……くれた……ということは……
「ライダー…外出たのか?」
「?……あぁ、コーヒー買いにな」
「霊体化せずに?」
「オレに万引きしろってのか?」
「
「おっとそれはだな…」
「……兄さん?おはようございます」
キッチンの方から桜がひょこっと出てきた。
こいつか…………
どうやら眠っている間に二人で仲良くお買い物に行っていたらしい。
「ライダーさん、お荷物持って頂いてありがとうございました……兄さんの朝ご飯も作っていただいて…」
「イッツ・マイ・プレジャー」
「じゃあ、お鍋とか洗っちゃいますね」
そう言いながらカップと鍋と食べ終わった皿を下げて、またキッチンにパタパタと戻っていった。
「イイ娘だな……おまえさんの妹」
…こいつハズレ
◆
新聞を読みながらのんびりと2杯目のコーヒーを飲んでいると
「それじゃあ行ってきますね、兄さん」
制服に着替えた桜が、買い物袋を持ってサッサと家を出て行った。
アホの『衛宮』の家に行くのだろう…
一年半ほど前、桜にとって唯一の友人『衛宮士郎』は、バイト先でケガをしたらしい。一丁前に気を揉んでやがったので、「飯でも作ってやりゃあいいんじゃあないか?」とアドバイスして、アイツの家にけしかけてやった。
最初はぼくの介護が出来ないだなんだと抜かしていたが、ちょいと強く言ってやると、(ヘンな言い回しだが…)大人しく押しかけ女房になった。
そして習慣になった。
最近、桜は明るくなった。
ヤツの家で楽しくやっているのだろう…
ちなみにぼくはここ最近殆ど学校に行っていない。
もっとも、
「どーすんだ今日は?」
「丸一日休みにする…まだ身体の調子がよくないんでね……」
さて、改めて見ても…やはりライダーは『謎』の多い男だ。
自分の手駒の性能はよく分かっていないといけない。
どうせ今はやる事もないのだ……
「それより、昨日聞きそびれた話……お前の『目的』だ」
「受肉だ」
間髪入れずに答えやがった。
勿体ぶらないのは助かるがな。
「……それで『何を』するんだ?」
「ダチに会いに行く」
?………何言ってんだ…こいつ……
「オマエ、頭脳がマヌケか?今は2002年だぞ…とっくにお亡くなりだろ」
「ああ……だがこの本がガセじゃなかったら、あいつには『子孫』がいる」
そう言って、ライダーは懐からある本を取り出した。
『スティール・ボール・ラン・レース全記録』。
たしか…昔アメリカで開催されたとかいう、大規模な馬のレース。
詳しくは知らないが…まぁ、後でこの本を読めばいいだろう。
「たまたま本屋で見つけてな……」
そう言いながら、栞が挟んでいるページを開く。
そこには『東方家系図』と書いていた。
家系図…?意味がわからない。なぜレースの記録に家系図があるのだろう。
「この家系図に書かれている『ジョナサン(ジョニィ)・ジョースター』……こいつが俺のダチだ」
!?
『ジョースター』……?
「『ジョースター』って……ぼくが昔イギリスに留学した時の…ホストファミリーの苗字だぞ…」
「…なンだと?」
奇妙だ……
それに、見れば件のそいつとその兄貴ニコラスの親父の名前も、『ジョージ・ジョースター』…苗字どころか名前まで
偶然なのか…?
いや、なんだかわからんが何か…陳腐な言い方になるが…『
触媒を用いない場合、
なんでコイツが?と昨日まで思っていたが、これを見る限り…そうでもないのかもしれない。
「年代が合わないし…ジョージという名前はポピュラーだ……もしかするとジョースターという苗字も結構多いのかも……それに、その『ジョナサン』ってやつはアメリカ人なんだろ?」
「ああ、だが気になるね……受肉したらイギリスに行ってもいいかもな」
本をパタンと閉じると、ライダーは改めてぼくの方に向き直った。
「ちなみにもう一つ、祖国に行くというのもあったが…どうやら滅びているようだったんでな……だからオレの『目的』は、
「会ってなにすんだ?」
「新聞記者みてぇに質問ばっかしやがって……オレの話はこれで終わりだ」
ライダーは、これ以上は何も語るつもりはないようだ。
結局謎は深まるばかりだったが、少しだけこの男について分かったのかもしれない………
◆
唐突だが、ここで『聖杯』について解説しよう。
帝政ローマ時代……
イエス・キリストがゴルゴダの丘で磔刑に処せられた際に、足元から滴る血を受けたといわれる杯。この杯は「最後の晩餐」の際に、イエスの食器として使われたものとされている。
ちなみにこの時に杯を持って血を受けた人物は…
『アリマタヤのヨセフ』という。
彼は磔刑に処されたイエスの遺体を十字架からおろし、そして埋葬前に遺体をふき清めた聖人とされている。
アリマタヤのヨセフはその後伝道師となり旅を続け、北の果てブリテン島(イギリス)の地にキリスト教最古の聖堂、グラストンベリー修道院を建造し、そこで死亡した。
ここで一つ、考えてもみてほしい……
たかが聖人の血を受けただけの……言うなれば『食器』が、この世界で最高位の聖遺物であり、あらゆる魔術の根底にあるとされる魔法の釜であって、あらゆる願いを叶えるという。
では、その
たかが血を受けただけの『食器』があらゆる願いを叶えられる力を持つのであれば…
『遺体』は一体どれだけの『力』を持つのだろう…?