Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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大切なのは『完結に向かおうとする意志』だと思っている。

完結しようとする意志さえあれば、たとえ今日100文字しか書けなかったとしても、いつかはたどり着くだろう?
書いているわけだからな………

違うかい?


#41 パワー・ゲーム その②

玄関から、引き戸が閉まる音が聞こえる。

リビングには、ぼくだけ。

そして腹が減った。

 

普段はこういう時の為に、衛宮がいるのだが、今回は頼れないので代わりの人材を用意した。

 

文句を聞き流しながらケータイを閉じ、テキトーに台所漁って発掘した紅茶(知らねーブランドだ)を沸かして飲みながら、のんびりニュースでも観る。

 

桜はまだ寝ている。

昨日はライダーが看病していたおかげか顔色は悪くない。

身体から切除された蟲の死骸は燃やして処分した。

蟲共は毎日身体の中で孵化して現れてくる。

このペースだと毎日ライダーが面倒見ないといけないかもしれない。

ぼくはまだ不思議と大丈夫だが………

いつかこうなるのかもしれない。

 

『新都で集団食中毒、原因は腸チフスか』

 

アララ、しかしこれが果たしてマジなのか。

それとも、あのクソジジイのせいなのか。

ま、どーでもいいがな………

 

「はいお待ちどう、サンジェルメン*1のローストビーフサンドイッチ、イタリアンヴォーグ*2の今月号、そしてコントレックス*3ね」

 

なんて、ボーッとしていると、衛宮の代わりが帰ってきた。

 

「ってどんだけ買わせるんだよ!?あたしはアンタのパシリか!」

 

クソうるせぇコイツはおせっかい焼きの美綴綾子。

穂群原学園弓道部部長で、面倒見の良さに定評がある女。

ルックスもベッピンだ。

 

「なぜか兄妹2人とも衛宮の家にいるし、桜は風邪ひいてるし、注文は全部コンビニに置いてないラインナップだし…」

 

「あんたがいい人だからな」

 

グチグチ文句垂れながらも、ケータイで呼び出せばなんだかんだでパシリしてくれる。

持つべきものは友人だね。

 

「ま、いいけどね……学級閉鎖になって暇だし」

 

「マジ?」

 

「なんかインフルが流行ってるとか…もしかしたら腸チフスかもとか…ごちゃごちゃしてるんだとさ」

 

ぶっちゃけ好都合だ。

どうせ聖杯戦争が終わるまで学校に行くつもりはないし、そもそも行けないだろう。

ぼくにはどうでもいいことだがね。

 

「それより桜は?」

 

「まだおネムさ……わざわざ見舞いに来てくれたのにスマンね」

 

こうして話していると自然と過去の記憶が蘇ってくる。

 

美綴は衛宮がまだ弓道部に所属していた頃はあまり関わりがなかったが、あのダボがバイト先で肩を火傷して退部してからは、何かとクラスに顔を出してきて衛宮を復帰させようとあの手この手で説得していた。

それからぼくや一成とも会話する機会が増え、ぼくの場合は桜のアニキだと言う事もあってか、それとも車椅子生活しているヤツだからか……たまに余計なおせっかいを焼いてきた。

それがクソうざい時もあったが、悪気はないようだったんで、こうしてパシリにする事もあった。

その度にゴキブリ見た時みたいな顔をされるのは勘弁だがね。

 

それにしても、学校か…………

一体、いつまで通えるのかね、ぼくは……

 

「アンタさ……なんか、悩んでんの?」

 

「?………」

 

「いやさ、学校来ないし……それにさ?随分痩せたじゃん……なんか…甲本ヒロトみたいに……」

 

痩せた?痩せたかな………

車椅子生活だから、自分じゃわかんないね。

 

「キミが太ったんじゃあないのォ?」

 

「………………」ムッ!

 

シャレも通じないみたいだ。

 

「パシリしてくれたんならもう『用済み』さ………桜の寝顔でも拝んで早く帰りなよ」

 

「………あたし、アンタの事…結構好きなんだ……だから妙な事は考えんなよ………」

 

…………なんだよ急に。

ヘンなヤツだな。

そんなに『死相』でてんの?ぼくの顔は………

あっ、帰りやがった。

なんなんだよマジ。

 

 

 

 

黒い巨人が雄叫びを上げる。

岩山をも砕かんとする一撃は虚しく宙を切り、地面を吹き飛ばす。

 

「▇▇▇▇▆▆▆▅▂!!」

 

舞い上がる砂埃の中から聞こえる苦悶の叫びは、巨人のもの。

黒い甲冑の剣士は、バーサーカーの剣撃を避けるだけに留まらず、視界を奪う砂埃の中で、その鋼のような横腹に一太刀叩き込んでいた。

 

「だめ、逃げるのバーサーカー……ッ!」

 

泣くようなイリヤの声。

 

「無駄よ無駄…彼奴に囚われては逃れられん………三対一の挟み撃ちではさしもの大英雄もここまでだろうて」

 

側に影法師を侍らしながら嘲笑う、老怪の嗄れ声。

 

どこまでも暴力的な衝撃の爆発と、黒い魔力の奔流が渦巻く魔境を間に挟み、二人のマスターが向かい合っている。

 

………状況は絶望的だった。

バーサーカーは強い。

『その黒い何か』に纏わりつかれながらも、あの黒い甲冑の剣士と互角に渡り合っている。

だがそれも限界。

バーサーカーは刻一刻と動きを鈍らせ、その度に漆黒の閃光が鋼の肉体に裂傷を刻み込む。

 

「ふむ、勝負あったな……後は任せたぞアサシン…これ以上ここにおっては巻き添えをくらいかねん…バーサーカーが呑まれ次第、アインツベルンの娘を捕らえ戻ってくるがよい」

 

臓硯の姿が霞む。

ヤツはアサシンを残してこの森から離れていく。

……いや、姿だけでなく、気配までも薄れていく。

こうして臓硯は消えた。

残ったものはアサシンとバーサーカー。

そして、剣を高々に掲げた、黒い剣士。

 

「だめ…そんなの、死んじゃう…だから……」

 

イリヤは呆然と、感情のない声を溢す。

 

「▇▇▇▇▆▆▆▅▂」

 

それをどう取ったのか。

黒い巨人は『影』を蹴り飛ばしながら突進する。

如何に身体を『侵食』されようとも。

自らの身体を削ぎながら、足首から下を置き去りに、剥き出しの肉を大地に突き立てながら、巨体は疾走する。

 

黒い剣士を打ち砕かんとする為に。

 

「やだ……止めて、バーサーカー…!」

 

イリヤが走る。

巨人の足元に広がる『影』が見えないかのように、一心にバーサーカーへと走り出す。

 

「イリヤ………!」

 

ここで出て行っても何にもならない。

それでも……それでも……ッ!

今は、イリヤを止めないと………ッ!!

 

木の陰から飛び出す。

バーサーカーへと駆け寄るイリヤを、真横から抱き止める。

緊張で麻痺した耳には、狂戦士の咆哮と、強い風鳴りと、脳をシェイクされたかと錯覚するほどの、爆音が流れ込んだ。

 

目の前は真っ新。どこまでも白。

 

脳裏に焼けついているのは、黒い剣士の姿。

その髪、そのヘルム、その鎧、その剣戟。

そして、疾走する魔力の奔流。

 

………視力が戻る。

 

「…………セイ、バー……」

 

黒炎を背に、剣士が立っていた。

一拍遅れて、ヘルムが砕ける。

バーサーカーの最期の一撃だろう。

 

「……………」

 

…………これは、違う。

これじゃあ別人だ。

彼女には、あの日見た『黄金の様な瞳』がない。

『気高き覚悟』もない。

素顔を現した顔は、紛れもなく同じで、でも、どこまでも変わり果ててしまっていた。

 

「シロウ」

 

イリヤの震えた声が鼓膜を叩く。

そうだ……今は呆けている場合じゃあない。

イリヤを助ける。

そして、家に帰る。

なら、ここで死を待つ訳には……ッ!

 

瞬間……横合いから掃射された三連の矢が剣に弾かれていた。

そして間髪入れず飛び込んでくる回転する『鉄球』が、刹那の隙を見計らい、彼女の鎧に吸い込まれていく。

 

「ッ!?」

 

「止まるな!イリヤを連れてさっさと逃げろ!」

 

ぶつかり合う剣と剣。

ライダーの鉄球によってほんの僅かに生まれた隙をアーチャーは見逃さず、神速の踏み込みで剣撃を放つ。

しかし、それはいとも容易くセイバーに弾かれた。

交じり合う剣戟が魔力の竜巻を生み出し、倒木と枯れ枝が()()()()()()()

 

「逃げるぞ、イリヤ……!」

 

イリヤの手を取って走り出す。

バカでも理解る。

アーチャーではセイバーは倒せない。

ライダーではセイバーは倒せない。

ライダーの鉄球とアーチャーの剣では倒せない。

 

ならば、二人が作り出した、この宝石よりも貴重な僅かな『隙』を、少しでも……ッ!

 

イリヤの手を取り、走り出す。

 

走る。

 

走る。走る。走る。走る。走る。走る。

森を走る。

それだけでいい。

それだけしか考えるな。

いや、もっとだ……考えるな。

先行する遠坂の背中も、木々をすり抜けて追ってくる『何か』の気配も、考えるな。

 

考えるな……ッ!

 

「衛宮くん、後ろ………!」

 

まさか、敵か。

マズイッ…!

 

「フン……敵と味方の判別もできんのか小僧」

 

男の声。嘲りが混じる声色。

振り返る。

そこには、疾走するアーチャー。

遠坂の『英霊』が……身体に傷を負いながら、『影』を纏いながらも、未だ絶えず闘志を燃やしながら、俺たちを追い抜き、木々の隙間を縫う様に駆け抜けながら、顔だけをこちら向けた。

 

「殿はライダーが担っている……このままイリヤを連れて逃げろ」

 

「アーチャー………!?」

 

「詮議は後だ…走れ小僧、手を取ったからには最後まで守り通せ」

 

そう静かに告げながら、アーチャーは僅かに速度を緩め、俺たちの後ろにつく。

恐らく、アーチャーは『次の殿』を……

つまり、『保険』になるつもりだ。

『殿』を担い、俺たちを逃がしてくれたライダーの為に。

後方に気配は感じない。

ライダーはどうなったのか。

考えている余裕はない。

今はイリヤを連れて走ることだけしか考えられない。

それ以外にリソースを割く余裕がない。

脚の悲鳴は無視する。

冬の空気を蓄え、氷と化した肺もだ。

 

「彼は他の連中とは『()()()()』ようだ……相手が(いびつ)であればあるほど、彼の『聖なる力』が効く」

 

半分くらい意味がわからないが、どうやらライダーはあの『影』相手に戦える英霊らしい。

ならば……このまま、()()()()()()ように……

 

「上出来!…………後はもうちょっと走ってから、わたしの魔術で『信号弾』でも上げれば……」

 

安心しきった顔で遠坂は言う。

その、背後で。

 

「……、とお」

 

木々の影から生まれるように、『アレ』が、浮かび上がっていた。

 

「え?」

 

間に合わない。

イリヤを抱えていては。

この疲労が溜まった脚では。

俺は、サイアクな景色を目の当たりにしようとし……

 

「グ…………」

 

遠坂を突き飛ばして貫かれた、アーチャーの姿を見た。

*1
マウント深山に最近できた小さなパン屋、かなり美味いと評判。店主の名前はマッシモ・ヴォルペ。日本に移住してきたばかりのイタリア人で、普段はクールだが実は料理人の兄に対抗心を燃やしているらしい

*2
ハイファッションの最先端を行く雑誌のひとつとして知られ、掲載商品の貸し出し元にも欧州の名門ファッションブランドが軒並み名を連ねる。本当は『VOGUE NIPPON(ヴォーグ・ニッポン)』という名前だが、慎二が頑なにイタリアンヴォーグと呼ぶのでなんとなく彼の周囲の人間もそう言っている。

*3
フランスのヴォージュ県コントレクセヴィルで採れるミネラルウォーター。硬度が1リットル当たり1,468mg と極めて高いことが特徴の硬水。慎二はこれ以外のミネラルウォーターは死んでも飲まないと豪語している。

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